巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#13 第三章 - ヤシオリとハチワリ -

楠木が打倒し損ねた巨大不明生物を打倒すれば楠木のお株を奪い世界的な英雄になれる、そうなれば楠木も自分に対しふざけた真似など出来はしない、この矢口の考えには希望的観測の臭いがプンプン漂う。

 

「今回のヤシオリ作戦遂行に際し、熱線の直撃や急性被曝の危険性があります。ここにいる者の生命の保証は出来ません。だがどうか実行してほしい! 我が国の最大の力はこの現場にあり、誇り高き自衛隊の系譜、地球防 衛軍はこの国を守る力が与えられている最後の砦です。日本の未来を、君達に託します。 以上です。」

 

かくして矢口主導の巨大不明生物凍結作戦、ヤシオリ作戦が開始された。この作戦の根底には泉殺害の件を楠木に勘付かれたから何とか逃げ切りたいという矢口個人の不純過ぎる願望が横たわる。

 

「無人新幹線爆弾、効果あり! 目標転倒!」

 

「作戦最終段階!特殊建機小隊、行動開始!」

 

巨大不明生物に爆弾を搭載した新幹線の車 両をぶつけて転倒させ、コンクリート作業車により血液凝固剤を投与するのがヤシオリ作戦の骨子。

巨大不明生物が新大阪駅構内に棒立ちし続ける愚鈍な存在であって欲しい、巨大不明生物に破壊された大阪の街の線路と電力系統が無事であって欲しい、

転倒した巨大不明生物が口を開けたままコンクリート作業車による血液凝固剤投与に応じて欲しいといった具合に何処までも希望的観測頼み、

このお粗末極まりない作戦は希望的観測頼みの矢口らしさが全開と言えよう。

 

あれだけあちこちに撃ちながら新大阪駅に繋がるどの線路も電気系統もほぼ無傷という紫色熱線の破壊力の乏しさ、標的が線路から少し離れるだけで頓挫というヤシオリ作戦の初歩的な欠陥さえ見抜けない間抜けさ等、人智を超えた完全生物には程遠い巨大不明生物の愚劣さに助けられ、本来なら机上の空論のまま終わっていたヤシオリ作戦は矢口の希望的観測通りに進む。

 

一方的に痛めつけられ転倒した巨大不明生物は紫色熱線を撃とうともしない。つい最近紫色熱線をあちこちに撃った際に体力を使い果たしたという矢口らの読み通り、今の巨大不明生物は紫色熱線を撃ちたくても撃てないのだ。

体力を使い果たすまで撃ちまくった割に、コンクリート作業車そして血液凝固剤を搭載するタンクローリーが普通に走れる道が都合良く残ったのは一体どうしたことか。

 

「凝固剤、注入開始!」

 

「よし!回転上げろ! 出力最大! 出来るだけ奴の中に流し込め!」

 

無様に転倒した上意味も無く口を開き続け、コンクリート作業車がブーム先端から己の生命を脅かす血液凝固剤を放出すると馬鹿正直に飲み続ける、この巨大不明生物の絶え間なき醜態はまさしく愚劣の極み。

 

「特殊建機第1小隊、全滅!」

 

矢口により「アメノハバキリ」と命名されたコンクリート作業車部隊を中心とする特殊建機第1小隊は巨大不明生物が身体を起こした際に悉く押し潰され、運転していた民間人は全員帰らぬ人となった。

楠木の死体遺棄を黙認しつつ白骨死体を脅迫材料に利用と普段から民間人の命を軽んじる矢口だけに、ヤシオリ作戦に徴用した民間人を何人犠牲にしても心の痛みなど感じない。

 

「この機を逃すな! 無人在来線爆弾、全車投 入!」

 

先程無人新幹線爆弾とやらが大爆発した筈 なのに線路にも架線にもこれといって損傷が見当たらないのをいいことに、今度は爆弾を搭載した在来線の車両が巨大不明生物を襲う。先程起き上がった際線路の上に戻らなけ れば回避出来たにも拘らず、特に意味も無く線路の上に戻り無人在来線爆弾とやらを全身に浴び再び無様に転倒、ここまで茶番劇丸出しの展開が続くと矢口らに都合良く仕組まれたヤラセ番組に見えてくる。

 

「ゴジラ、再度転倒!全車、一斉に投与を開 始!」

 

「目標、表皮に凍結が認められます!」

 

「胸部中心部の温度、マイナス196℃に低下。ゴジラ、完全に沈黙しました。」

 

再び血液凝固剤を馬鹿正直に飲み続け全身凍結と相成った巨大不明生物、あらゆる環境に対する適応進化を行い必要に応じ自己退化能力も有し自由に進化退化が可能な完全生物などと称されたとはいえ、結局その自由な進化退化を見せることなく終わった。

 

 

「ありがとう。ご苦労でした。」

 

 

そう言ってヤシオリ作戦に従事した地球防衛軍人達を労う矢口を巨大な爆炎が飲み込んだ。突如大阪に核ミサイルが撃ち込まれたのである。

この核実験を兼ねた核攻撃により楠木肝煎りの新型戦略核ミサイル、ハチワリの威力は80メガトンどころか40キロトン止まと判明したとはいえ、巨大不明生物も矢口もまとめて消し去るという楠木の目的を果たすには十分過ぎる破壊力だ。

 

「ざまぁみろ、青瓢箪!この楠木を出し抜いてゴジラを討伐し名声を独り占めしようという腹積もりだろうがそうはいかんぞ! グハハ ハハ!」

 

大画面一杯に映し出された巨大なキノコ雲を眺めながら下品な声を上げ大笑い、これぞまさしく悪魔の哄笑。

ヤシオリ作戦が失敗したことにして大阪にハチワリを撃ち込み矢口も巨大不明生物もまとめて消し去る、こんなおぞましい計画を何の躊躇もせず実行した楠木の邪悪さは矢口のそれを遥かに凌ぐ。

 

「く、楠木閣下、やっ、矢口閣下はこの後芸人デビューが控えていたのでは?」

 

敢えて矢口を芸人デビューさせる話を持ち出したあたり、マンデラはその矢口を核攻擊により消滅させた楠木の暴挙を遠回しに非難したいのだろうか。

 

「馬田、貴様黒人に生まれたのが勿体無いぐらい律義だな。だがあの矢口蘭堂には貴様と 違い律義さの欠片も無い。さっきこの楠木が 電話した時も偉そうに口答えしてきたからな。そんな不届き者が律義に芸人デビューす ると思うか? 大体あいつは目的のためなら手段は選ばんし、感情的になると何をするかわからん危険人物だぞ。」

 

己の危険人物ぶりは棚に上げつつまたもや黒人差別発言をした楠木は左手に持つスマホを操作し、矢口が泉を殺害する瞬間の映像をマンデラに見せた。八尾基地内の防犯カメラに映っていた泉殺害の証拠映像は矢口の命令により消去されたものの、楠木の息のかかった地陸軍兵士が楠木のスマホにコピー映像を送信していたのである。その兵士も楠木にとっては捨て駒だったらしく、結局矢口共々核攻撃の餌食となった。

 

「後はこの映像をネット上に拡散するだけ。これであの青瓢箪の名声も地に落ちる。この楠木にとって代わろうとする不届き者がどうなるのかを草葉の陰の矢口に見せてやろう。」

 

亡き矢口が何としてでも隠し通したかった映像をネット上にばら撒く楠木の笑顔は実に嫌らしく、マンデラも一瞬ながら矢口に同情した模様。

ただマンデラも泉殺害を隠蔽、コンクリート作業車並びにタンクローリーを操縦する民間人に巨大不明生物への事実上の特攻を強要し大勢犠牲にする等悪行三昧な矢口がお咎め無しで良いなどとは一切考えていな い。

 

核爆発の直撃により全身が消し飛んだ矢口の魂は冥府に行き、瞬く間に火車に捕食された。楠木の意に反し草葉の陰から己の名声が地に落ちるのを見ずに済んだのは不幸中の幸いか。

 

「この者の魂には楠木武とはまた違った汚れがあり、それがまた美味だ。偽善者の味といったところか。閻魔サン、あの世界の楠木武はまだまだくたばりそうになくて正直待ちくたびれていたが、今頂いた矢口蘭堂は丁度良い前菜だよ。」

 

矢口も楠木同様様々な世界から地獄に送られ、楠木だらけの地獄の再発を防ぐ観点から閻魔は火車に矢口の魂の捕食を許可している。

 

「そういえば、以前別世界の矢口蘭堂を頂いたのではなかったのか?」

 

「あの矢口蘭堂も美味かった。確か今頂いた矢口同様巨大不明生物を打倒するためヤシオリ作戦とやらを決行し、作戦終了後程なくしてCIAの諜報員に消されたんだったな。協力してくれた大統領特使を裏切りホワイトハウスの機密情報を世界中に漏洩させた上悪びれもせず『約束は破ったが後悔は無い』と特使本人に言うようではそりゃホワイトハウスが生かしてはおかないだろうよ。それはそうと物凄い数の亡者だな。あの世界の楠木武はどれだけ殺せば気が済むんだ?」

 

現在冥府には楠木の核攻撃により亡くなった大勢の人々が押し寄せ、略奪に明け暮れ丸腰の民間人を遊び半分で射殺した地陸軍兵士をはじめ汚れた魂を持つ悪人も相当数いるとはいえ火車は一切手を出さない。

平然と他人との約束を破った上居直る矢口とは異なり、 火車は閻魔との約束を絶対に破らないのだ。

 

司令官並びに筆頭参謀が観ている大画面は矢口による泉殺害、ヤシオリ作戦、そして大阪への核攻撃の一部始終を映す。

 

「あの口髭男、やたらとやかましいだけの小心者と思いきややることがえげつなさこの上 ないです。このまま生かしておいてよろしいでしょうか?」

 

「あの男は殺しても死なない身体だと聞いている。下手な手出しは避けた方が良い。それに君が言った通りあの男は小心者。我々に歯向かうことはまず無いだろう。」

 

現在一ノ瀬と藤崎は和歌山にある地球防衛軍の地下施設にいる。地球防衛軍内部には藤崎の協力者がいて、藤崎は一ノ瀬と再会する前からこの地下施設が活動拠点の一つだ。

 

「由衣、しっかりして! 由衣!」

 

タブレット端末の映像により大阪の街が巨大なキノコ雲に飲み込まれる瞬間を観た一ノ瀬は思わず卒倒するも、藤崎の懸命な呼びかけが功を奏し程なくして目を覚ました。

 

「ごめん、また志保先輩に心配かけちゃった。」

 

「由衣が謝ることなんかないよ。繊細で純真な由衣がいきなり大阪に核兵器撃ち込まれるのを目の当たりにすれば精神的に耐えられないのは当たり前。それにしても楠木武、あいつここまでやるか!」

 

藤崎の瞳に大阪への核攻撃という暴挙に出た楠木への強い怒りが宿る。

 

「楠木武を許せない志保先輩の気持ち、私も痛いほどわかる。楠木武は前々から非核三原則を敵視していたみたいだけど、いざ実際にやるのを見ちゃうともう色々きつくて。何年か前に思い出すのも憚られるぐらい卑猥なアバター作って近隣諸国への敵意煽るネット講座を開催していたのに、結局日本列島にミサイル撃ち込んだのは高麗国じゃなくて楠木武でしたとか笑い話にもならないよ。」

 

数年前、楠木は元老の肩書にものを言わせ 複数の企業を動員し「教えて楠木元帥閣 下!」なるネット講座を開講した。この講座は楠木自身がモデルのアバターが講師を務め、「あの国が日本にミサイル撃って来た ら?」を謳い文句に近隣諸国、特に高麗人民共和国への憎悪扇動を主眼とする。

 

デフォルメされた全裸の楠木が股間から鮫の意匠のある緑色のミサイルをニョキッと生やす、大手ゲーム企業に作らせた楠木のアバターは卑猥の一言に尽き、一時期は卑猥な画像も近隣諸国憎悪もお断りな一ノ瀬が辟易する程ネット上にこの講座の広告が溢れていたのだから笑えない。

 

ここまでして悪者扱いした高麗国は現在に 至るまで日本列島にミサイルを撃ち込むことは一度も無く、前述の通り当の楠木が大阪即ち日本列島の近畿地方にミサイル、それも核ミサイルを撃ち込んだのを踏まえると、近隣諸国への憎悪を扇動する者程いざとなれば自 国に対し何処までも残忍かつ冷酷になれるのは最早自明か。

 

「本当は久しぶりに志保先輩としたかったけど、今晩はちょっと無理かも、ごめん。ついさっき大勢の人が生きたまま核の炎で焼かれたのに、私だけ今晩憧れの先輩と楽しい大人の時間を過ごすなんて出来ない。」

 

そう言いながら一ノ瀬は涙ぐみ、藤崎はそんな愛しの後輩の頭を優しく撫でながら微笑む。

 

「由衣は優しいね。実を言うと相当ショック受けてる由衣を元気づけられたら良いなと思って今晩しようと思っていたけど、私は由衣のその純粋な気持ち尊重する。だから今晩は楽しい大人の時間無し。お風呂はどうする?」

 

かつて性暴力被害に遭いかけた藤崎だけに、合意の無い性行為は絶対駄目だという思いが人一倍強い。

 

「志保先輩の服脱ぐところとか入浴姿見たら、私絶対変な気持ちになって今夜はしないという決意揺らいじゃうよ。だから今晩のお風呂は別々で。」

 

その夜2人は別々に風呂に入り、それぞれ 着慣れた部屋着を着て眠りについた。合意の無い性行為は絶対しない一ノ瀬並びに藤崎の姿勢は大阪への核攻撃に興奮したまま地球防衛軍の男子寮に赴き10代の少年達を次々襲った楠木の対極にある。屋敷内の大掃除を命じその隙に1人男子寮に行ったあたり、楠木は何が何でもマンデラに自分の性加害を隠したいのだろう。

 

 

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