巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#15 第四章-それぞれの潜入-

「総理、楠木閣下がおいでになられました。」

 

秘書官からの報告を受け、広池の顔中から 血の気が引いていく。

 

「すっ、すぐに通しなさい!けっ、決して粗相の無いように!」

 

程なくして楠木が全裸姿かつサングラスをかけたまま首相執務室に足を踏み入れた。

 

「くっ、楠木閣下、本日もご機嫌麗しく恐悦 至極に存じます。」

 

「広池君!君も随分元気そうだねぇ!総理としての職務に日々邁進する君にはこの楠木の 裸体を見る権利がある!思う存分見てくれたまえ!何なら欲情しても構わん! 男は他人の 裸を見て欲情する生き物だ! 下らん女の裸見て欲情するぐらいならこの楠木の裸体に欲情 しろ!」

 

この楠木の物言いに気分が悪くなった方は遠慮せずエチケット袋を使おう。

 

「ありがたいお言葉ですが私は妻子ある身、楠木閣下の裸体に欲情などとてもとても。」

 

途端に楠木は眉間に皺を寄せ、広池の顔面に鉄拳を叩き込んだ。例によって広池の眼鏡が歪む。

 

「フン、この楠木の好意を受け取れんか。やはり貴様の忠誠心などこの程度。」

 

「申し訳ございません、楠木閣下!申し訳ございません!」

 

楠木にぶん殴られた広池がその楠木に土下座して詫びる、この光景を何度も見ている秘 書官達は最早何の反応も示さない。

 

「広池貴様いつもそうやってこの楠木に土下座しているが、日本国を、そしてこの楠木を 見限りヤマト皇国に走ったのを忘れてはいないからな。まあいい、貴様は表立って俺様に 口答えしない分あの矢口蘭堂よりは可愛げがある。これからもこの俺様のサンドバッグと して大いに励め。」

 

土下座する広池の後頭部をグリグリ踏ん付ける楠木、この光景も官邸の恒例行事として 定着した様子。

 

「くっ、楠木閣下、貴方様の菊門を是非。」

 

「ん?何だ、広池? 声が小さ過ぎてよく聞こえんぞ。この楠木を見習い腹の底から大きな 声を出して言え!」

 

「楠木閣下!貴方様の菊門を是非とも舐めさせて下さい! お願い致します!」

 

広池がこう言うのは楠木に後頭部を踏ん付ける足をどけて欲しい一心に尽きる。

 

「よしわかった! 貴様がそこまで言うなら舐めさせてやる! さあ遠慮無く舐めろ!ペロペ ロ舐めろ!菊門を舐める機会を貴様に与えたこの楠木に深く感謝しながらな!」

 

楠木は広池の顔面に菊門を近付けながらほくそ笑み、両目を覆う真っ黒なサングラスが ギラリと輝く。

 

また始まったよと言いたげな表情でそそくさと執務室を退出した秘書官達に倣い、この 場面は一旦終わりにしておこう。

 

地球防衛軍本部前に野党議員並びに市民運動家達が押しかけ、大阪への核攻撃を強く非 難している。今回の核攻撃を支持する声が日本を、世界中を覆う中、その核攻撃を公然と 非難する姿勢を貫くのは実に見事だ。楠木が 日本の選挙を事実上牛耳るため議席の確保もままならない上楠木の信奉者共から常に嘲笑 そして罵倒され続ける身とはいえ、その逆風故信念を確固たるものとし市井の人達との結束を強めたとも言える。王政復古の会や君民協同党のように与党の衛星政党に甘んじる 野党ばかりではないのだ。

 

地球防衛軍本部内では窓の外の抗議デモを憎悪し、悪態をつく者が少なくない。

 

「あのゴミ共目障りだ! ぶっ殺してやりてえ!」

 

「気持ちはわかるが落ち着け。あの件が明るみに出た今あのデモ隊を武力鎮圧したらどう なると思う? 下手すると地球防衛軍の存亡の危機だぞ。」

 

「そうだったな。クソッ!あの件さえ明るみに出ていなければ!」

 

ここで言う「あの件」は巨大不明生物打倒のため大阪に集結した戦車隊が逃げ遅れた民 間人を大勢踏み潰した件を指す。地球防衛軍上層部が血眼になって隠匿しようとしたこの 殺戮はジョナ達の暗躍により表沙汰となり、現在地球防衛軍本部前にズラリと並ぶプラカ ードには「核攻撃は人道に対する罪」という表記と共に「戦車で民間人を轢くな!」とい う表記も目立つ。

 

今回の虐殺の犠牲者を自己責任だと切り捨てる声が世の趨勢を占め、虐殺を命じた張本人楠木に至っては大阪への核攻撃により世論を味方につけ逃げ切りに成功、このように記述するとジョナ達の暗躍には何の意味も無かったように見える。とはいえ前述の地球防衛軍本部内の会話を見ればジョナ達の暗躍が地球防衛軍全体を委縮させ、地球防衛軍本部前のデモ隊が虐殺されるのを未然に防ぐ効果を発揮しているのは火を見るよりも明らかだが。

 

ムートー迎撃のため出動した地陸軍の部隊が足利市内にて繰り広げた略奪行為もジョナ 達の暗躍により明るみに出た。略奪を映した現場の防犯カメラ自体はムートーが放つ電磁パルスにより壊れたものの映像自体は地球防 衛軍本部内でも共有され、ジョナの内通者がネット上に公開したからだ。

 

大阪への核攻撃により世間から英雄扱いされ舞い上がる楠木からすれば、本当に自分が

関与していない足利市内の略奪が明るみに出ても痛くも痒くもない。そんな楠木の意向を忖度したのか、ネット上には既に全員亡くなった足利市内の略奪の実行犯への罵詈雑言がズラリと並ぶ。実行犯を在日外国人と決めつける書き込みも目立ち、良いことは全部日本人の手柄、悪いことは全部在日外国人のせいにしたいクズ日本人共の卑劣さは底知れない。

 

「足利の部隊全員糞。今すぐ全員墓から出てきて天皇陛下と楠木閣下に土下座しろ。そもそもあいつら本当に日本人? 日本人のフリしている在日じゃないの? 知らんけど。by GAIMAX0522 23:13/2025/2/21」

 

「楠木閣下が断腸の思いで大阪への核攻撃を決意されたのに足利の部隊は略奪に夢中かよ。楠木閣下は人格者だから足利の部隊の連中を怒鳴りつけたりはしないだろうが、俺は喉潰れるまで罵声浴びせてやりたい。byマイナス零百組 23:57/2025/2/21」

 

「足利の部隊あいつら全員在日とクルド人だろ。光文の代に生きる侍である俺の目は誤魔化せない。by有川銘 0:09/2025/2/22」

 

陸自出身の楠木が足利市内にて略奪を繰り広げた地陸軍の部隊への罵詈雑言を見て見ぬふり、この件により地球防衛軍内部に自分達もいざとなったら楠木に切り捨てられるとの不安が広がり、ジョナに内通する者を幾人か増やす結果となった。地球は文明人のものという文明人の思い上がりに基づき成立した地球防衛軍にもその思い上がりを疑問視する者、軍上層部の腐敗に辟易している構成員が少なからずいる。藤崎は内通者を通じてそうした者達に声をかけ、地球防衛軍を内部から少しずつ切り崩す。

 

清仁らしき者がX星人との共存を呼び掛け、その清仁らしき者を礼賛する大勢の人がそれに靡く、ここ数日の世界を覆う熱狂の構造は結局のところこれに尽きる。

 

「時は来た!X星人と共に立ち上がり巨神共を滅ぼせぇ! 天皇陛下万歳!」

 

「We love X! We love X! We love X!」

 

「地球人ってすんげぇ科学力持つX星人に一目置かれるぐらいすげぇんだな。その中でも巨神でさえ倒せない天皇陛下や楠木閣下がいるこの日本は別格だな。」

 

食堂に入りふとTV画面に目をやると丁度この映像が映っていたため、一ノ瀬は嫌な顔をした。今の彼女はジョナ達が用意した偽身分証を使い노지민(ノ・ジミン )(盧志旼)と名乗り、地球防衛軍付属研究所に潜入中の身。一ノ瀬は藤崎の猛反対を押し切りこの潜入を自ら買って出た。

 

「由衣、胸糞悪い番組やってるみたいだけど、気分悪くなってないかな? あとその研究所の連中からのセクハラも凄く心配。」

 

現在一ノ瀬がかけている変装用眼鏡はセル(※眼鏡をかけた際耳の後ろに直接触れる箇所)に超小型通信機が仕込まれ、元々両目とも1.0以上な彼女に合わせ左右のレンズに度は入っていない。

 

「あの清仁みたいな人に言われるがままX星人万歳を叫ぶ連中をTVに映すのは本当に目の毒。清仁みたいな人や楠木武を持ち上げながら安っぽい国粋主義に酔っているのも醜悪。だから今志保先輩の声聞けて嬉しい。私は志保先輩の声聞くと色々浄化される体質だから。他の研究員とは距離置いているし、今のところセクハラは心配無し。あ、今からお昼ご飯食べるね。」

 

そう言いながら微笑んだ一ノ瀬は両頬に仄かな紅が差す。見たくもないX星人信奉者共の狂態を見せられて気分を害した直後だけに 愛しの先輩の声を聞けた喜びもひとしおか。

 

食堂から出た一ノ瀬を出迎えたのは彼女の警護を担う尾崎だ。

 

「なぁ、ここの飯どうだった?結構美味かっただろ。」

 

馴れ馴れしく話す尾崎に一ノ瀬の冷たい視線が突き刺さる。つい先程尾崎がM機関の上官から上、即ち一ノ瀬の警護を命じられた際、

 

「韓国人の学者先生の警護なんて俺達M機関の仕事じゃないでしょ。どうせ国連から派遣された学者なんて老い耄れで、理屈っぽくて頭ガッチガチの。」

 

などと放言するのを真後ろにいて全部聞いて いただけに、一ノ瀬がこのミュータント兵士とは口もききたくないのは当然だろう。ちなみに国連内部にはジョナに内通する者が複数人いて、内通者達は「巨大ミイラの調査のため分子生物学者노지민(ノ・ジミン )を派遣する。」と地球防衛軍側に通達し一ノ瀬の潜入を下支えする。

 

一ノ瀬が嫌々尾崎と歩いていると、廊下の 向こう側からもっと嫌な者、即ち楠木が現れ た。先日官邸に乗り込んだ時と違い迷彩服を 着ているのは楠木の裸体など見たくもない一 ノ瀬にとって不幸中の幸いか。

 

「ほぉ、貴様が足利で唯一生き残ったミュー タント兵士か。この楠木も20年前ゴジラを倒すため南極に出向いた際唯一生き残った身だけに親近感を感じるよ。もっともムートー撃退がX星人頼みだった貴様と違い、この楠木は己のイチモツに宿る聖なる力を使いゴジ ラをビビらせた上氷の下に封じ込めた身。そして知っての通りつい最近氷の中から出てき たゴジラも完全に消し去った。」

 

一ノ瀬即ち女性が目の前にいるのに己の股 間にぶら下がるモノの自慢話、やはり楠木は 筋金入りのセクハラ野郎だ。

 

すると楠木の右隣にいるマンデラがこう言った。

 

「楠木閣下、お食事を急がれた方が宜しいかと。午後から天皇陛下がおいでになられ、閣下がお出迎えされるのでは?」

 

この時一ノ瀬が小さく頷いたのはこのセクハラ野郎を自分から遠ざけてくれるマンデラの配慮を感じ取ったからである。マンデラも楠木に気付かれないよう一ノ瀬の方を見て小さく頷く。

 

「そうだった、馬田貴様本当によく気が付くな。それでこそ名誉日本人。それでは尾崎とやら、このあたりで失礼させてもらう。これからもこの楠木を応援してくれたまえ、グハハハハ!」

 

楠木は目の前の女性学者を本当に韓国人だと信じ込み、嫌がらせのため無視し続けた。もっとも尾崎以上に楠木とは口もききたくない一ノ瀬からすれば無視されたのはかえってありがたいぐらいだが。

 

地球防衛軍付属研究所の地下に収容されている謎のミイラは身長約120m、尾を含む全長に至っては200m近く、つい最近シベリアの凍土の中から発掘されたという。そしてこのミイラの調査こそ一ノ瀬が潜入任務を買って出た目的に他ならない。

 

一ノ瀬を出迎えた初老の主任研究員、神宮寺友幸が、

 

「あ、アンニョンハセヨ。」

 

とたどたどしく話すと一ノ瀬は、

 

「初めまして。私は日本語普通に話せますので日本語で大丈夫ですよ。」

 

と言い後ろに立つ尾崎には決して見せない笑顔を見せた。

 

「ではお言葉に甘えて日本語で話そう。この分野の研究に長年携わってきたが正直お手上げだ。機械と生物の融合体、サイボーグ巨獣とでも呼べばいいのか。付着物を分析した結果12000年前のものだとわかった。知っての 通り今現在この地球上に機械と生物を融合させる技術など無い。12000年前なら猶更だ。」

 

「要するにこの巨大ミイラは地球外から来た存在である可能性が極めて高いわけですか。 少し前なら地球外生命体など一笑に付されていたでしょうけど、X星人という地球外生命体の実在が確定した今なら十分信憑性があると考えられます。」

 

先程「老い耄れで、理屈っぽくて頭ガッチガチ」などと見下していた一ノ瀬の理路整然とした話し方に圧倒され、尾崎は一言も発することが出来ない。

 

「ところでこのM塩基というのは?」

 

神宮寺にそう訊ねながら一ノ瀬は手元の資料を指差した。

 

「地球上の生物のDNAが基本的にアデニン、グアニン、シトシン、チミンと4つの塩基から構成されるのに対し、今貴方の後ろにいる尾崎君のようなミュータントのDNAにはその4つの塩基以外にもう1つ、未知の塩 基がある。そいつをM塩基と呼んでいるわけだが、それがどういうわけかこの巨大なミイラからも検出されたんだよ。」

 

「ミュータントは人間の突然変異ではなく、12000年前のこの巨獣と生物的な関わりがあるわけですか。」

 

ここで尾崎が2人の会話に口を挟む。

 

 

「おいおい、この得体の知れない巨大ミイラが俺達ミュータントの祖先だとでも言いたいのか? そんな馬鹿な。」

 

間髪入れずに一ノ瀬は尾崎を睨んだ。

 

「私って老い耄れで、理屈っぽくて頭ガッチガチなんでしょ? そんな私の言うことにいちいち目くじら立てるってどうなの? そもそも 今仕事の話しているのに口を挟むとか、ついさっき私が『仕事の邪魔しないで』と言ったのをすっかり忘れてるよ。日頃から『優しさが無くて一体何を守れる』とか言ってるみたいだけど、私の陰口叩いたり私がついさっき言ったこと全部忘れたりと私に対する優しさの欠片も無い癖にどの口が言う?」

 

自分より年下の一ノ瀬にガツンと言われたのが堪えたらしく、尾崎は二枚貝の如く口を閉ざした。一ノ瀬は今回の潜入に際しジョナの内通者から送られてきた内部資料に目を通し、尾崎の日頃の発言も熟知している。

 

()さん、その辺にしておきなさい。それと尾崎君、見ての通り私は老い耄れ、そして貴方も生きていればいつか必ず老い耄れになる日が来る。若い者程自分が遅かれ早かれ老い耄れになる身なのを忘れがちだから気を付けるように。」

 

一ノ瀬への注意は程々にして尾崎への説教に重点を置くあたり、神宮寺も科学者を小馬鹿にする尾崎を内心快く思っていないのだろう。

 

先程マンデラが言っていた通り、午後になると清仁らしき者が地球防衛軍付属研究所にやって来た。停車した御料車の車体右側面から研究所正面玄関に向かって赤絨毯が敷かれ、その上を歩く清仁らしき者の両側には 楠木ら地球防衛軍関係者がズラリと並ぶ。

 

「天皇陛下、本日はご多忙にも拘らず当研究所の御視察にお時間を割いて下さりこの楠木感無量であります!」

 

「楠木さん、貴方最近太り気味ですね。缶コーヒーを飲むのを少しばかり控えなさい。それと少し運動する機会を増やした方が良いのではないですか。」

 

確かに楠木の肥満は缶コーヒーの飲み過ぎと運動不足に依るところが大きい。とはいえ大勢の人が見ている中他人の体型をとやかく言う清仁らしき者の振る舞いは決して褒められたものでは無いが。

 

「へ、へへっ、陛下、これは筋肉であります!高負荷の運動を行った後筋肉内に溜まった乳酸等の疲労物質を除去するため血流が増え、結果として筋肉の水分量が増え膨れ上がる現象が起きている最中なのです!」

 

楠木が所謂パンプアップについてここまで事細かに語れるのは、つい最近マンデラが同じことを言っていたのを聞きそっくりそのまま盗用しているからだ。

 

「そうですか。それならこれからも運動に励んで下さい。ただし余りご無理をなさらない ように。」

 

「御意!では陛下、そろそろ中に。」

 

尾崎、神宮寺ら研究所の中にいる人達が正面玄関から入ってきた清仁らしき者に拍手を送る中、一ノ瀬だけは皆から拍手を送られた男を遠巻きに睨む。

 

「神宮寺友幸さんですね。父は生前貴方のお名前を何度も語っていました。これからも未知の生物の研究に励んで下さい。」

 

目の前に立つ清仁らしき者にそう言われ、神宮寺は感極まって言葉が出て来ない。

 

 

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