巨神聖戦記2024 108と108 作:Genbu108
突然銃声が鳴り響き、清仁らしき者がその 場に倒れ込んだ。この研究所は正面玄関を入ったところに3階まで吹き抜けのフロアが広 がり、SR-25軍用狙撃銃を構える狙撃犯は1 階を見下ろせる3階の廊下から清仁らしき者 を撃ったのである。
「撃たれた!陛下が撃たれたぁ!」
「狙撃犯はあっちにいるぞ! 捕まえろぉ!」
ここで尾崎が3階の高さをものともせず飛 び上がり、狙撃犯を瞬く間に捕まえた。
「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」
一ノ瀬はそう言いながら清仁らしき者の右肩の傷口にハンカチを当てている。
「お嬢さん、私は大丈夫です。心配をかけて済まないですね。」
清仁本人は以前一ノ瀬と画面越しに話した 際彼女の剣幕に怯え話す気力を失った筈なのに、今一ノ瀬の目の前にいる清仁と同じ顔の 男は銃撃され負傷した直後にも拘らず彼女に 対し怯えることなく普通に話す。念のため眼鏡を外し清仁らしき者の顔を見ても向こうは 何の反応も示さず一ノ瀬の顔自体に見覚えが 無い様子。一ノ瀬は確信した、やはりこの初老の男は清仁ではない、偽者だと。
「そこの朝鮮人眼鏡女!陛下に馴れ馴れしく話しかけるな! 薄汚い手で陛下に触れるな! そもそも地球上で最も卑しい朝鮮人風情が天皇陛下に近寄ること自体がけしからん!下が れ!この楠木の手を煩わせるな!」
この卑劣な民族差別主義者は一ノ瀬が清仁の実子と知ればどんな顔をすることやら。
「陛下、この楠木が来たのでもう心配はありません。厚かましい朝鮮人眼鏡女は追い払いました。念のため傷口をしっかり消毒しておきましょう。朝鮮人に触れられたなら猶更です。」
「楠木さん、私はピンピンしていますよ。 とはいえ少し疲れました。」
「ご視察は中止だ! 今から天皇陛下がお帰りになられる! さあ陛下、この楠木が皇居まで案内を。」
清仁らしき者が楠木らと共に退出したのを見計らい、一ノ瀬は研究所内の一室に行きハンカチに付着した血液を調べ始めた。この血液は先程清仁らしき者の右肩の傷口に当てた時付着したものだ。
「巨大ミイラの遺伝子サンプルばかりか偽清仁の血液成分解析情報まで持ってくるとは。 一ノ瀬さん、実を言うと貴方が地球防衛軍付属研究所への潜入を買って出た時本当に大丈夫なのかと不安だったが、どうやら貴方を 見くびっていたようだ。」
研究所から戻ってきた一ノ瀬から「土産」 を受け取り、ジョナは驚きを隠せない。
「やっぱりあの男は清仁じゃなくてX星人が用意した偽者だったんだね。あいつのDNA、人間はおろか地球上のどの生物とも構造が違う。でもこういう潜入はもう今回だけにして欲しい。由衣に何かあったら私は死んでも死にきれないよ。」
戻ってきた一ノ瀬を抱きしめて歓迎した藤崎だけに、二度と彼女を危険な目に遭わせたくない思いが言葉の端々に滲む。
その夜、一ノ瀬と藤崎は一緒に入浴して互 いに身体を入念に洗い、浴室から出て身体を 拭くや否や一糸まとわぬ姿のままベッドに入り身体を寄せ合う。
「由衣は変わらないね。さっき一緒にお風呂入った時も私の身体を瞳輝かせながら見てくれていたし。ミュータントの私の身体を。」
一ノ瀬が持ち帰った遺伝子サンプルにより藤崎もDNAにM塩基を持つミュータントと判明した。激しく動揺した藤崎を一ノ瀬が強 く抱きしめ、今晩の蜜事を約束したのだ。今の藤崎には何を言っても気休めにしかならない、今まで通り愛しく思っているのを態度で 示すのが肝要、こうした一ノ瀬の思いは憧れ の先輩にしっかり届き、藤崎は感涙しながら約2週間ぶりの蜜事に合意していた。
(https://syosetu.org/novel/354649/2.html)
さてここで物語の舞台を赤坂御苑に移し、 一ノ瀬と藤崎が激しく愛し合っていたのと丁 度同じ頃義仁邸では何が起きていたのかを見ていこう。
「こっ、これは一体?」
怯える義仁の目線の先には先程まで妃の理子だった射殺死体が転がり、みるみるうち に人間の心臓を彷彿とさせる形状の頭部をはじめ全身から奇怪さの漂う銀色の怪人へと変化していく。理子に擬態していたこの怪人は寝室に入った義仁を襲おうとするも皇宮護衛官に射殺され、義仁が見ている中その正体を現したのだ。
「殿下、お怪我はありませんか?」
「ちゃんと見ろ! 俺は怪我なんかしてない! それよりこいつは一体何なんだ!?本物の理子は何処に行ったんだ!?」
怪人を射殺した皇宮護衛官に向かって怒鳴るこの皇嗣は明らかに度を失っている。
「殿下、誠に申し上げにくいのですがおそらく本物の理子さまはもう。」
皇宮護衛官の発言に義仁は青ざめ、そして逆上した。
「なっ、何てことだ、何てことだ。理子とは長年連れ添った仲なのに、こんな、こんなことが。こっ、この役立たず!貴様らがもっときちんと警護していれば理子がこんな化け物と入れ替わることも無かったんだぞ! 貴様クビだ!皇宮護衛官全員クビだ! 今すぐここから出ていけぇ!」
当然ながらいくら義仁が皇宮護衛官を罵倒しても本物の理子は決して戻らない。
「勿論私は辞表を書かせて頂きます。ですが 殿下、今皇宮護衛官全員を解雇したら誰が殿下を、皇室の警護を行うのですか? それとこの件は表沙汰にしない方が宜しいかと。皇室の体面に関わりますので。理子さまはご病気 で急逝されたことにしてこの遺体は私が処分させて頂きます。」
皇宮護衛官に諭され幾分か納得したのか、 義仁は怒鳴るのを止めた。
「よし、理子は新型インフルエンザに感染し急逝ということにしよう。化け物の遺体は貴様に処分を任せる。いいか、皇宮護衛官を辞めても今晩の出来事は口外厳禁だぞ。誰かに言ったりしたら命は無いと思え。俺は地球防衛軍の研究所内にスナイパー送り込むぐら い朝飯前だからな。貴様が何処に逃げようと必ず見つけ出し仕留めるぞ。肝に銘じてお け。」
たった今本人が言った通り今回の偽清仁暗殺未遂事件の黒幕は義仁。この皇嗣なら裏人脈を使い警備の厳重な地球防衛軍付属研究所に狙撃犯を送り込むのも然程難しいことではない。ちなみに偽清仁暗殺に失敗した狙撃犯は義仁の怒りを買った以上最早逃げも隠れも出来ないと悟り、隠し持っていた青酸カリ入りカプセルを護送中に服用し自ら命を絶っていたりする。
皇宮護衛官が怪人の遺体を袋詰めにして寝室から退出したのを見計らいベッドに入った義仁ではあるものの、目を閉じる度自分を襲おうとした理子の姿、理子とばかり思っていた怪人の姿が交互に浮かび上がり、結局一睡も出来なかった。
「只今戻りました。先程お伝えした遺体はこちらになります。」
実のところこの皇宮護衛官は前々からジョナに内通しており、先程皇宮警察本部に辞表を提出し今丁度怪人の遺体をジョナ達に見せ ている。
「何とも奇妙な姿だ。明らかに地球人ではない。」
「この怪人のDNA情報、私が調べてもいいですか?」
「ありがたい。ではDNA情報を調べるのは一ノ瀬さんにお任せしよう。必要な器具は全て揃えてある。」
一ノ瀬が怪人のDNAを調べた結果、ミュ ータント並びに地球防衛軍付属研究所地下の巨大ミイラ同様M塩基が検出された。
「偽清仁の血液からもM塩基が検出されているため、巨大ミイラ、この怪人と何かしらの 関係があるでしょう。偽清仁は明らかにX星人の回し者ですし、この怪人が理子、即ち皇嗣義仁の妃と入れ替わっていたなら、偽清仁 の正体もこの怪人、もっと言えばこの怪人こそX星人の正体かもしれません。」
「なるほど地球人と同じ外見で友好を装いつつ裏で皇族を1人ずつ片付け成り代わるわけか。皇族なら潜入者が入れ替わっても一ノ瀬さんのように菊タブーを恐れない者以外は畏れ多くて調べようともしないだろう。X星人 もなかなか悪賢いな。皇族共がどうなろうと知ったことではないが、X星人共がそれで侵略を進めこの地球の母なる大自然を滅茶苦茶にする気なら話は別だ。」
「隊長、X星人の言う友好が全くの欺瞞であ ることを示す証拠があります。」
そう言いながら藤崎は左手に持つタブレッ ト端末を操作し、画面は妖星ゴラスの画像を複数枚映し出す。
「これらの画像は全て時間も地域も全く違う場所から観測された筈なのに、このように重ねると僅かな誤差も無く一致します。」
「要するに背景だけを変え、さも妖星ゴラスが地球に迫っているかのように見せかけているだけか。とんだ偽映像だな。」
「この偽映像を真に受けた地球人達がX星人に言われるがまま地球上の軍事力全てを一ヶ所に集約すれば、他の地域全てが無防備となり侵略を進めるにはこの上ない好条件が揃う。志保先輩、よくこれに気付いたね。」
愛しの後輩に褒められ、藤崎の両頬に仄かな紅が差す。
「ミュータントの私にもM塩基がある。ひょ っとしたら私達ミュータント自体がX星人の邪悪な意図に基づく存在かもしれない。でも 私はその邪悪な意図に断固抗う。地陸軍兵士として為政者共に巨神退治の駒扱いされてい た頃の自分と決別したように。」
一ノ瀬もジョナも藤崎の話に真摯に耳を傾け、静かに頷く。
「藤崎志保さん、貴方のその決意に私も胸を打たれる思いです。」
「もしかしてこれが例の石香炉の声か。何と透き通った声なんだ。」
初めて石香炉の声を聞き、ジョナは珍しく両目を丸くしている。
「はい。貴方の配慮のお蔭で私は地球防衛軍兵士に再び盗まれる心配もせず霊力回復に専念出来ました。先程その霊力を使い過去に、 12000年前に私自身の意識を遡らせ、当時何があったのかを見てきたところです。」
この時藤崎がハッとした。
「以前1954年3月1日のマーシャル諸島にタ イムスリップしアメリカ軍がゴジラに熱核攻撃する夢を見たんですが、夢にしては余りにも生々しくて臨場感がありました。あれもしかして。」
「藤崎さん、貴方だったんですね。今回私が過去に意識を遡らせることが出来たのは、 私のすぐ近くに同じ能力を持つ者の波長を感じたからなんですよ。三種の神器の邪念が私を蝕み霊力を弱らせたのとは逆に、貴方から出る波長がかつての力を取り戻す助けになりました。それでは過去に遡り見てきたことを話します。」
異星人が地球に襲来しサイボーグ巨獣を操り破壊の限りを尽くす、その異星人は理子に擬態していた怪人と同じ姿、巨神達が侵略者共相手に圧勝、操り主を失ったサイボーグ巨獣が機能停止し地中に埋没、異星人数人が地球人に擬態しつつ当時の地球人と交配し子を成す、その子達は身体能力が異様に高い、石香炉が語る12000年前の出来事を聞き一ノ瀬達は思わず息を呑んだ。
「一ノ瀬さん、貴方が言った通りあの銀色の怪人がX星人の正体なのはほぼ確定だな。 そして貴方が遺伝子サンプルを持ってきてくれた例の巨大ミイラがそのサイボーグ巨獣だろう。」
「そして私達ミュータントは12000年前地球人とX星人が交配して生まれた子の末裔。やっぱりM塩基はX星人と関わりがあった。」
「12000年前の侵略を謝罪するどころか今回初めて地球に来たかのように振る舞う、偽清仁や妖星ゴラスの偽映像を用意し私達地球人 を騙す気満々、となるとX星人が友好を装いつつ地球侵略を企てているのは自明。となる と問題は何故今地球に来たのか、前回の侵略 から12000年も経った後に。もしかして前回自分達を撃退した巨神達を意のままに操る技術を完成させたから?」
一ノ瀬の発言を受けその場が凍りつく。
「由衣の言った通りなら、ここ数年間行方不明だった巨神達が一斉に出現し破壊活動を再開したのも、X星人の宇宙船が光線当てた途端に巨神達が逃げ出したのも全部X星人が操 っていたからで説明出来る。となると前回は 地球をX星人の侵略から守ってくれた巨神達が今度はX星人の手先に、いやいや、もうそれ地球お終いだよ。」
「そう、お終いだよ。本当に巨神達が完全にX星人に操られていたならの話だけど。」
今度は一ノ瀬の発言に藤崎そしてジョナが微笑んだ。
「一ノ瀬さん、貴方は巨神達がX星人の操り人形に甘んじる筈が無いと信じているようだね。実は私もなんだ。」
「脅かすなよ、由衣。そもそも巨神達を完全に操れるならそのまま巨神達を暴れさせ続けるだけで私達は詰むし、一旦暴れさせたのに わざわざ退散させるのは余りにも効率が悪いとX星人側も判っている筈。にも拘らずわざわざ一旦暴れさせた巨神達を退散させ友好を装う策に出たのは前回の失敗を踏まえ慎重になっているか、騙されている地球人を見てほ くそ笑みたいか、かな?」
「藤崎さん、一ノ瀬さん、いくらX星人共の 本心を見抜いても我々の力では到底駆逐出来 る相手ではない。かといってこのまま何もしなければ結局向こうの思う壺。そこで賭けに出たい。X星人共を挑発し再び巨神達を暴れ させるよう仕向けるんだ。そうすれば本当に X星人共が巨神達を完全に支配下に置けているかどうかはっきりする。」
「X星人が前回の失敗を踏まえ慎重になっているにせよ、騙されている地球人を見てほくそ笑みたいにせよ、地球人側から挑発されれば本性を現すのはまず間違いないですね。私は隊長の賭けに乗るけど由衣はどうする?」
一ノ瀬も今はジョナの賭けに乗るしかないと考え、藤崎の問いに対し黙ったまま頷 く。
「決まりだな。では早速準備に取り掛かろう。」