巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#17 第五章-それぞれの覚醒-

2025年3月1日、冷たい雨が降る中霊柩車を中心とした全長約1.5kmの葬列が皇居正門を出て新宿御苑へと向かう。大喪の礼即ち先月横死した政仁の国葬だ。1989年の大喪の礼の時同様多数参列した諸外国及び国際機関の代表者にはローマ教皇グレゴリウス17世も含まれ、結局中止となった2025年度大阪万博に代わる国威発揚の場を欲する楠木の得意気な顔が目に浮かぶ。

 

昨日楠木が法令も広池内閣も無視して地球防衛軍の各部隊を動かし大喪の礼の妨げになりかねない人達、具体的には先日大阪への核攻撃に抗議した野党議員や市民運動家達を全員首都圏から追放した。

この楠木の暴挙も相まって、現在沿道を移動中の葬列に抗議する者は誰もいない。

 

政教分離の原則を定める日本国憲法20条3項との兼ね合いから国の儀式として行われる大喪の礼は無宗教葬とされ、1989年に実施された際は葬場殿に当時即位したばかりの政仁ら皇族の拝礼時のみ鳥居を設置し、鳥居等を取り外した後内閣官房長官が開式を宣言したとのこと。

皇室の私的な儀式である大喪儀は大喪の礼とは別だからその時だけ鳥居等を設置しても構わない、当時の日本政府のこの見解は屁理屈そのものだが。

 

では今回の大喪の礼はどうだろうか。前回同樣新宿御苑内に建てられた白木造りの葬場殿には最初から鳥居が設置され皇族連中の拝礼が済んでもそのまんま、日本国憲法自体を強く敵視する楠木の意向に基づき最早無宗教葬の建前さえ捨て去ったのだ。

 

各国の代表が次々拝礼する中グレゴリウス17世も鳥居が建つ葬場殿に黙礼、敬虔なクリスチャンの方がこのくだりを読まれたら背筋が凍るだろう。第二の獣が第一の獣即ち偽救世主への崇拝を強いる『ヨハネの黙示録』 の一節宜しく勤皇家楠木は己と共に偽清仁を崇拝するよう宣伝し続け、今やキリスト教圏でも偽清仁並びに楠木を神聖視する風潮が幅を利かせている。

 

実のところ今現在グレゴリウス17世が黙礼している葬場殿に収められた棺には何も入っていない、空っぽだ。巨大シン・金精神像倒壊に巻き込まれオスプレイの機体共々粉々になった政仁の遺体の回収など誰が出来ようか。喪主である清仁は偽者、大仰な葬列を組み葬場殿に収められた棺は中身が空、この空虚な茶番にどれだけの税金が費やされたのやら。

 

突如として新宿御苑内に鳴り響く銃声、何者かが拝礼中のグレゴリウス17世を狙撃したのである。そして銃弾は見事命中した、グレゴリウス17世にではなく教皇を庇うかの如くいきなり飛び出した偽清仁の背中に。

 

「撃たれたぁ! 陛下が撃たれたぁ!」

 

誰かの叫びを端緒に新宿御苑内を悲鳴が覆う。グレゴリウス17世に覆い被さったままぐったりしている偽清仁の周囲の床は赤黒く染まり、会場内の誰もが今上天皇の突然過ぎる非業の死を想像し絶望した。

ただしやっと 目の上の瘤が消えてくれた、これで漸く即位出来る、などと内心浮かれている義仁を除く。

 

突然新宿御苑内が歓声に包まれ、義仁は愕然とした。凶弾に倒れた筈の偽清仁が立ち上がり、微笑みながら観衆に向け右手を振り始めたからだ。その右手のひらにこびりつく赤黒い液体は「奇跡的に蘇った今上天皇」という雰囲気を醸し出す。

会場内に設営された大画面はX星人の司令官並びに筆頭参謀の姿を映し、2人共会場内の人々同様微笑みながら偽清仁に万雷の拍手を送る。

 

「あっ、貴方様こそ真の救世主!シン・キリスト!」

 

グレゴリウス17世がそう叫びひれ伏す中、観衆に向け右手を振る偽清仁、ローマ教皇が信徒達に授ける祝福を今上天皇が丸ごと簒奪したこの瞬間は音声付き映像として世界中を駆け巡り、TV画面の前では画面に映る偽清仁にひれ伏す者が後を絶たない。このまま偽清仁を神の如く崇める風潮が世界中を覆い、 偽清仁を操るX星人の計画通り地球は征服されてしまうのだろうか。

 

「下らん。そろそろこの茶番劇に幕を引こう。」

 

儀仗兵の1人がそう呟くと、その場にいた儀仗兵全員が弔銃の銃口を偽清仁そしてグレゴリウス17世に向け引き金を引いた。偽清仁もグレゴリウス17世も瞬く間に全身蜂の巣となり、またもや新宿御苑内を悲鳴が覆う。

 

「貴様ら!何てことをしてくれた!って、貴様はアラン・ジョナ!」

 

変装を解いた儀仗兵の正体が国際手配中のジョナと知り、楠木は青ざめた。勿論他の儀仗兵達も全員藤崎をはじめジョナの部下達が入れ替わっている。

 

「名乗る手間が省けてありがたい。それより楠木武、これを見ろ。」

 

ジョナが指差した偽清仁並びにグレゴリウス17世の遺体はどちらも頭部が縦にパカッと割れ、中から飛び出した銀色の頭部の形状は理子に擬態していた怪人とほぼ同じ、そうX星人の正体だ。

 

「ご覧下さい! これがX星人の正体です!これがX星人のやり方です!」

 

撮影スタッフに変装し潜入していた一ノ瀬がそう叫ぶや否や、観衆は絶叫しながら我先にと新宿御苑から逃げ出した。広池はいつも通り真っ先に逃げ、義仁に至っては「薄汚い愚民共!未来の陛下である俺に道を開け ろ!」と怒鳴り他の人達を突き飛ばしながら逃走と実にあさましい。

 

何故か全裸になりジョナをぶん殴ろうとした楠木ではあるものの、ひらりと躱された上、背後から両肩を掴まれそのまま床に転がされる始末。

大喪の礼の会場は土足故床には微量の砂、毛髪等が散らばり、床に転がる楠木の裸体にも早速付着していたりする。

 

「馬鹿な!この楠木の全裸にはゴジラを怯えさせる力がある筈!何故貴様ら極悪テロリスト共はこの聖なる全裸を恐れない!?」

 

などと叫びながら楠木は両手両足をばたつかせ、ジョナ達の失笑を誘う。素早く一ノ瀬に 駆け寄った藤崎が彼女を抱きしめたのは愛しの後輩に楠木の全裸を見せないためだ。

なお大画面に映る筆頭参謀は自分達の悪事が露呈したにも拘らず全裸男楠木の醜態を目にして笑いを堪えきれない模様。

 

「X星人共に問う。本物の教皇は何処だ?本物の清仁が巨神ティアマトの怒りに触れ新轟天号の艦体共々消し飛んだのは知っているからそっちは言わなくて良い。ちなみに我々は入れ替わった際本物の儀仗兵共を気絶させ通気性の良い場所に閉じ込めた。」

 

画面に映るX星人2人を睨むジョナは勿論本物のグレゴリウス17世が既にこの世にいないと確信している。

 

「あ、貴方達は誤解している。こ、これは全て地球の未来のため!」

 

間髪入れずに筆頭参謀に射殺されたため、これがX星人司令官の最期の台詞となった。筆頭参謀が隠し持っていた銀色の光線銃は地球人の拳銃同様片手で持てる大きさだ。

 

「茶番はもう沢山だ。今からこの俺が司令官、いや統制官だ。宜しく、地球人の諸君。」

 

画面の向こうのジョナ達に向かって得意げに微笑む筆頭参謀改め統制官の周囲には他の参謀達がズラリと並び、前々から司令官に反逆を企て側近全員を寝返らせていた統制官の用意周到ぶりが伺える。

 

「早速だが地球人の諸君に頼みがある。君達の後ろにいて駄々をこねているあのやかましい全裸男をつまみ出して欲しい。」

 

「貴様の命令を聞く気など毛頭無いが楠木武をこの会場からつまみ出したい思いは同じ。おい誰か。」

 

するとマンデラがジョナに向かってこう言った。

 

「隊長、私が楠木武をつまみ出します。」

 

楠木はこの20年間駄々をこね無理を通すのにすっかり慣れ、今回も駄々をこねればマンデラが何とかしてくれると信じていただけに、そのマンデラの豹変を目の当たりにして全身から血の気が引いていく。

 

「う、馬田!貴様あのテロリストの一味だったのか!」

 

「私は馬田ではない。マルコム・マンデラだ。」

 

マンデラは楠木の裸体を両手で掴み頭上にひょいと持ち上げ、そのまま会場の外めがけてぶん投げた。楠木の裸体が文字通り音速でぶっ飛び壁を突き破る、ホームランボールが東京ドームの天井を突き破る野球漫画の一場面と見比べるのも一興か。

 

「隊長、これで彼の無念の思いを晴らせました。」

 

マンデラの言う「彼」は20年前楠木の自作自演に無理矢理付き合わされ結局切り捨てられた軽部を指す。

 

あの後自衛隊を追い出され日本国内に居場所が無くなった軽部はアフリカに渡り、NGO団体の一員として井戸掘り、農業指導等に明け暮れ、少年時代のマンデラをはじめ彼に飢餓の危機を救われた人は数多い。過労が祟り倒れた軽部は少年マンデラに自分がアフリカに来ることになった経緯を全て話しそのまま他界した。ここまで書けば成長したマンデラが楠木を監視という一歩間違えればその楠木に殺されかねない危険な潜入を買って出た理由は最早自明だろう。

ちなみに 藤崎は椿山荘内の収蔵庫にてマンデラと遭遇した際、彼は自分と同じジョナの部下だと一ノ瀬に紹介していたりする。

 

「ほぉ、貴様ミュータントか。」

 

今の人間離れした俊敏さと怪力ぶりを見て統制官が気付いた通り、マンデラは尾崎並びに藤崎同様ミュータントだ。

 

「さて諸君は気付いているだろうが、今俺が撃ち殺したこのクソ司令は偽天皇と偽教皇を使い自作自演の銃撃事件を起こし奇跡の復活とやらを地球人に見せようとしていた。ちなみに本物の教皇は射殺され、遺体は完全に溶かされたと聞いているよ。君達地球人には作れない特殊な液体を使ってだ。」

 

一ノ瀬が本物のグレゴリウス17世の無残な末路を想像し青ざめる中、統制官は話を続 ける。

 

「その奇跡の復活とやらを見せ全地球人を偽天皇に屈服させれば征服が円滑に進むとこのクソ司令は言っていたが、俺はそういう茶番は好かん。だからその茶番をぶち壊してくれた諸君には感謝しているし、あの全裸男をつまみ出してくれた件も礼を言いたい。」

 

この時統制官に蹴飛ばされた司令官の遺体は頭部が縦に割れ、中から飛び出している正体の頭部が鈍い銀色の輝きを放つ。

 

「口先だけの感謝の言葉は相手の感情を逆撫でるだけって覚えておいた方がいいよ。司令官の回りくどいやり方が気に入らなくて撃ち殺したなら、回りくどいこと言うのはさっさと止めて本題に入ったら?」

 

藤崎の歯に衣着せぬ発言に統制官は眉をひそめた。

 

「人の発言にケチをつけるとは無礼な女だが確かに言っていることは一理ある。では言おう、貴様ら地球人は下僕だ。我々に支配されるためだけに存在している。抵抗しても無駄だ。科学力も軍事力も我々の方が遥かに上、地球人の軍事力では打倒など到底望めない巨神共も今では我々に従順。つまりお前達に勝ち目など無い、フッフフフフ。」

 

性別違和に苦しみ続けた藤崎を「女」呼ばわりする統制官こそ無礼極まりなく、この物語の地の文に藤崎を指し「彼女」と表記する箇所が一切無いことに既に気付いている読者の方もいるだろう。

 

「今馬鹿な連中が我々の家の玄関前に来ているから相手をしてくる。画面を切り替えるからお前達もよく見ておくがいい。」

 

統制官が言った通り一ノ瀬らの目の前の大画面の映像が切り替わり、皇居の宮殿東庭に集い母艦にメーサーライフル等を向ける尾崎をはじめミュータント兵士達を映す。間髪入れずに母艦の下部から照射された一筋の光が尾崎らの目の前の地面を照らし、統制官並びに側近達が降りてきた。

 

「ミュータントを集めて作った部隊か。先日ムートー1匹にボロ負けした貴様らに勝ち目があるとでも?」

 

「数は俺達の方が圧倒的に多い。貴様らX星人の好きにはさせんぞ。」

 

ニヤニヤ笑いながら高圧的に振る舞う統制官に対し尾崎は強気な態度を崩さない。こんなにも早くミュータント兵士達を母艦の真下に集結させ臨戦態勢をとったあたり、尾崎もX星人の本性に薄々気付いていた模様。

 

ここで格闘戦を始めようとした側近達を「待て」と言って引き止め、統制官が不気味に微笑む。

 

「フフフ、愚かな下僕共、誰が支配者かを思い知れ。」

 

「う、うわぁああ!」

 

統制官が右腕を前方に真っ直ぐ伸ばし薬指だけを下に曲げ他の指をピンと伸ばすと、ミュータント兵士達が頭を抱え呻き始めた。

 

「貴様ぁ!」

 

ミュータント特有の俊敏な動きを見せ統制官に直接飛びかかる尾崎は他のミュータント兵士達とは違い呻いてはいない。しかし向こうも格闘戦には自信があるらしく軽くあしらわれ逆に突き飛ばされる体たらくだ。

 

「なるほどお前はカイザーのようだな。だがまだ力が覚醒していない。」

 

「カイザー?」

 

「ミュータント、即ちX星人と地球人の混血個体の中にはごく稀に地球人は勿論、純血のX星人をも遥かに凌ぐ能力を持つ最強個体がいる。それがカイザー、お前がそれだ。だから他のミュータント達のようには操れない。 そして俺もまたカイザー、地球にて生まれX星にて育った。あのクソ司令に育てられたんだよ。」

 

すると画面の向こうの統制官に向かって一ノ瀬はこう言った。

 

「もしかして、M塩基には精神感応に強く作用する性質があって、カイザーは精神感応によりM塩基を持つ者を操れる...まさかあの巨大ミイラも!」

 

 

「小娘、キサマ、地球人にしては賢いな。その通りだ。そして、今からその操るところを見せてやろう。ガイガン起動ぉおおお!」

 

統制官が大声を上げ号令を発するやいなや、地球防衛軍付属研究所地下の巨大ミイラは目と思しき箇所を赤く発光させ、四肢を縛る鎖を容易く引きちぎる。サイボーグ巨獣ガイガン再起動の瞬間だ。

天井を破壊し地上に出る際ガイガンは全身を覆う12000年分の付着物を全て取り払い、当然ながら研究所の建物は既に跡形も無い。

 

青い皮膚が全身を覆うガイガンは赤いゴーグル状の単眼、後頭部に縦一列に並ぶ棘に連なる頭頂部の突起、カジキのそれを彷彿させる三列の背びれ、左右それぞれの手を換装した金属光沢を放つ巨大鎌、同じ金属光沢を 放ち嘴状の口の開閉と共に左右に開閉する一対の牙、金色の鱗に覆われた腹部等が目を引く。

両手の巨大鎌に加え両足並びに尾の先端にも金属の刃が、腹部には巨大丸鋸の刃が、そして額には破壊光線発射装置が埋め込まれ、このサイボーグ巨獣は最早全身が武器と言えよう。

 

「馬鹿な!あのサイボーグ巨獣は複数体いたのか!」

 

大画面の映像が再度切り替わり二十五分割された画面に世界各地の都市に複数体のガイガンが襲来する様子が映し出され、普段は冷静なジョナも思わず叫んだ。12000年前X星人が襲来した際使役したガイガンは何と30体を超え、その全てがX星人壊滅に伴い機能停止しそのまま世界各地の地中、海底に埋没し今こうして統制官が発した号令により再起動したのである。

 

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