巨神聖戦記2024 108と108 作:Genbu108
黄色い声を浴び続けご満悦の楠木に水を差すかのように急報が入った。
地球防衛海軍中佐の海江田浩一が部下達を率いて反乱を起こし、「新轟天号」を強奪し姿をくらませたという。
最近完成したばかりのこの万能戦艦は読んで字の如く轟天号の後継艦、予定では武道館の式典の後皇居外苑にて完成記念式典が開催される筈であった。
「この楠木が華麗なる演舞を披露している最中というのに!」
「くっ、楠木元帥閣下、いかが致しましょう?」
「式典は中止だ! 広池貴様は早く情報を集めろ!俺は本部に向かう!」
広池にそう怒鳴りつけた楠木は素っ裸のまま外に出てそのまま勢いよく転んだ。南極の極寒の中全裸のままいられる超人でも真冬の都心なら降り積もる雪により足を滑らせ転ぶことぐらいある。超人であるが故に自惚れ素っ裸のまま雪上を疾走したなら猶更だ。
「何をしている!? 早くこの楠木を起こさんかぁ!」
などと周囲に怒鳴り散らし全身雪まみれのまま手足をばたつかせるこの全裸男は何処まで恥をかけば気が済むことやら。ここまで読まれて楠木の横暴ぶりに腹を立てている読者の皆様も遠慮せず笑おう。
取り巻き達に身体を起こしてもらった楠木は全裸のまま高機動車に搭乗し臨海地区の地球防衛軍本部を目指す。司令室に入った楠木を大画面に映る海江田の顔が出迎えた。
「海江田貴様! 自分が何をしたのかわかっているのか!?よりにもよって建国記念の日に 新轟天号を強奪しこの楠木の顔に、そして天皇陛下のお顔に泥を塗ったのだぞ!」
突然楠木の顔色が変わったのは目の前の大画面が海江田の隣に立つ清仁即ち今上天皇の姿を映したからだ。
「へっ、陛下!なっ、何故そのような汚らわしい逆賊などと行動を共に!?」
青ざめた楠木の表情を画面越しに眺める清仁は薄笑いを浮かべている。
「口を慎め、楠木。この海江田は逆賊などではない。朕の心中を慮り共に立ち上がってくれた忠臣ぞ。大体汚らわしいのは楠木そなたのその弛みきった裸体ではないか。」
目の前の画面に映る楠木の裸体が余りにもブヨブヨしていたため、清仁は己の右膝をつねり、大爆笑したい衝動を懸命に堪えている最中だとか。
画面越しとはいえ全裸のまま今上天皇と対面、ご先祖の楠木正成が決して真似出来ないことをこの楠木は成し遂げたと言えるかもしれない。
「成し遂げた?しでかしたの間違いだろ。」と突っ込みたいならどうぞご自由に。
「陛下、お忘れですか? この楠木の全裸は忌々しきゴジラを南極の奥底へと封じ込め全人類を救った聖なる全裸ですぞ! 現に陛下の御父上であらせられる上皇陛下もこの楠木の 偉業と真摯さに心打たれたが故に元帥の階級を、そして元老の地位を下賜されたのです!」
途端に清仁が気色ばんだ。
「この痴れ者が! その父が譲位してからも朕を差し置き治天の君ぶっていたのを知らぬのか!?朕が即位して以来ずっと父の機嫌を取るのに必死だったのを知らぬのか!? やはり貴様はその程度の者。忠臣の誉れ高き楠木正成の末裔でありながら父が憲法に定められた国事行為の規定を無視し授けた肩書に浮かれ騒ぎ朕の心中を慮ろうともしない楠木貴様が 前々から目障りであった。その点海江田は、そして門長はそれぞれ地海軍人と総理として多忙な中朕を気遣うことを忘れなかった。門長に至っては父の『崩御』を早めるための計画まで立てていたというのに。」
清仁の言う地海軍は地球防衛海軍を指し、地球防衛陸軍は地陸軍、地球防衛空軍は地空軍と略す。
現役の地海軍人の反乱に同行した今上天皇と画面越しの対面という緊迫した場面にも拘らず、全裸のまま大画面の前に佇む楠木の醜態には清仁ならずとも爆笑したくな る。
「へ、陛下、もしや門長元総理が暗殺されたのは!?」
護国寺駅1番出口付近にて選挙演説中の門長が背後から心臓を撃ち抜かれ死亡してからもうすぐ3年、手製の銃を所持する元地海軍人の男が現行犯逮捕されたとはいえ事件の背景は殆ど解明されていない。
「左様。父が門長の『計画』に気付き先手を打ったのだ。そもそも父が憲法を無視し楠木 貴様に肩書を授けたのは今上天皇なら憲法無視も許されるという前例を作り、憲法も皇室 典範も無視した自身の譲位を与野党の議員共 に認めさせる地ならしのため。あの頃の朕は 即位が早まりありがたいとしか思わなんだが迂闊であった。」
楠木の開いた口が塞がらない中、清仁は一方的に話を続ける。
「譲位してからも譲位前同様に振る舞い朕を蔑ろにし続け、門長が自らの『崩御』を早めようとした途端に裏の人脈を使い亡き者にする、それが父の、あの物の怪の実態ぞ!そのような物の怪を軽々しく上皇だの陛下だのと呼ぶ楠木貴様が腹立たしい!」
楠木は尊皇家を自負しているだけに、清仁即ち今上天皇に罵られるのは身を引き裂かれる思いであろう。楠木がポカンとした表情を浮かべ口をパクパクさせていると、画面の中の清仁が隣に立つ海江田の左肩をポンと叩いた。よく見ると肩で息をしているこの今上天皇は怒鳴り疲れたので後は海江田に任せたのだろう。
「楠木元帥閣下、貴方様の海軍を軽んじる姿勢にこの海江田内心憤っておりました。そもそも轟天号は元々日本海軍が建造しようとしていたにも拘らず陸自時代の貴方様の上官、麻生一佐が奪い、この新轟天号の建造も貴方様が主体となり進めたものです。周囲を海に囲まれた島国にも拘らず海軍が陸軍の下風に立つ歪んだ現状を是正するため私は立ち上がりました。そして陛下もまた退位した御父上が皇位にあった頃同様に振る舞う歪んだ現状を是正するためこの海江田と行動を共にすると決意されたのです。」
清仁が感情の赴くまま怒鳴り散らすのに対し、海江田は抑揚のない淡々とした話し方である。海江田が話し始めた途端にフンと鼻を鳴らす楠木はこれで清仁に罵られた憂さ晴らしが出来ると内心ニヤついている模様。
「下らんな。御託を並べたところで結局海江田貴様はこの楠木の才能と名声を妬み、恨み言を宣いたいだけではないか。さあ反乱ごっこは終わりだ。さっさと陛下を解放し新轟天号をこの楠木に返還しろ。この楠木の説得を拒むのであれば反逆者として処刑され末代 まで国賊と罵られ続ける未来が待っているぞ。」
「陛下を解放とはこれまた世迷言を。この海江田と行動を共にすると陛下御自ら決意された、つい先程そのようにお伝えしたではありませんか。そしてこの艦は最早新轟天号では ありません。このお方即ち天皇陛下を元首に戴く『ヤマト皇国』です!無論三種の神器も既 にこの艦内に運び込み厳重に保管しております。」
不気味に微笑む海江田は右手に握る無線に向かって今の発言を行い、文字通り世界に向けての『建国』宣言だ。余りにも衝撃的な宣言を聞かされた楠木は言葉が出てこない。
現 在楠木は全裸姿故全身の血の気が失せていく様子が手に取るようにわかる。
「そういうことだ、楠木よ。そなたがかねてより毛嫌いしている日本国憲法において朕は日本国の象徴。その朕は今日本国を見限りヤマト皇国の元首と相成った。皇室の祖たる神日本磐余彦尊が橿原の地で即位したこの日こそヤマト皇国の建国日に相応しい。臣民共が象徴無き日本国に居続けるのか、それとも日本国を見限り朕が君臨するこの皇国の国民 になるのか見ものよ。広池をはじめ閣僚共がこちらに来るなら勿論大歓迎しよう。楠木そ なたもヤマト国防軍に迎えてやってよいぞ。もしこちらに来るなら楠木そなたに授ける階級は二等兵だ。」
そう言いながら清仁は嫌らしく微笑み、明らかに今上天皇に対し反論一つ出来ない勤皇家楠木をいびるのを楽しんでいる。父政仁を憎悪する清仁だけにその政仁に依怙贔屓され続けた楠木も憎らしいのだろう。
「楠木元帥閣下、地球防衛軍が発足後20年間一度たりとも巨神討伐に成功していないのは貴方様もよくご存知でしょう。そしてこれから我々は巨神を討伐します。その様子は全 世界に生配信しますので貴方様もとくとご覧あれ。巨神を討ち果たすヤマト皇国を目の当たりにすればこの地球の盟主に相応しいのはどの国かを世界が理解します。それではごきげんよう。」
新轟天号撃墜も視野に入れていた楠木ではあるものの、その新轟天号に清仁が搭乗している以上下手に攻撃すればそれこそ世間から 逆賊扱いされかねない。新轟天号を出撃させ 巨神討伐という役回りを海江田及び清仁に横取りされる格好となり、画面越しの会話が終 了した途端に楠木はその場にへたり込んだ。
徳川家からの権力横取りを正当化するため 薩長並びに朝廷は天皇神格化に奔走し、2月11日を神日本磐余彦尊が初代天皇として即位した日に定め紀元節と称し祝日としたのも その神格化政策の一環。1945年の敗戦後一旦廃止された紀元節は懲りずに天皇神格化を企てる日本国上層部の意向により建国記念の 日と呼称を変え事実上復活した。
その2月11日を狙いヤマト皇国の「建国」宣言をした清仁の目論見通り早くもヤマト皇国民を称する日本国民が後を絶たない。ちなみに当初海江田は建国記念の日に決起するのは流石に畏れ多いと尻込みしていたものの、2月11日の決起に拘る清仁に押し切られ決起に踏み切っていたりする。
その日の晩、赤坂御苑内の仙洞御所に参内した楠木。既に広池をはじめ閣僚のほぼ全員がヤマト皇国への鞍替えを公言し今の楠木には上皇政仁に泣きつくしか選択肢が無く、頭 髪も口髭も入念に手入れし高級スーツを着用しての参内だ。
「いっそ巨神が新轟天号を撃墜しあの馬鹿息子も海江田なる謀反人もまとめて葬ってくれれば全て丸く収まるのに。」
政仁のとんでもない発言を受け、かねてより意気消沈中の楠木の顔から血の気が引いて いく。
「じょ、上皇陛下、幾らなんでも実の子をそのように仰せられるのは。」
途端に楠木が口をつぐんだのは政仁の眼光が亡き麻生のそれと重なって見えたからだ。 麻生他界後の20年という歳月も生前麻生に何度も暴行された楠木の心的外傷を癒すには至らない。
「余から皇位を、日本国の象徴の地位を受け継いでおきながらあの者はその日本国を裏切った。そのような謀反人は最早息子でも何で もない。」
南極の猛吹雪の中全裸でいても平気な楠木の全身を震えさせるあたり、政仁のこのクズ発言の冷酷さは相当なものだろう。
新轟天号の艦体のみを「国土」とし発足したヤマト皇国ではあるものの、当然ながら鞍替えを公言した大多数の日本国民並びに広池ら閣僚全員を「入国」させるには狭過ぎる。
しかし「建国」宣言から時を置かずに奈良県をはじめ43ある県の約半数がヤマト皇国に所属すると宣言し、無理に全員を新轟天号艦内に迎える必要は無くなった。多くの県知事並びに県議会が今上天皇である己に次々靡く、この展開は清仁の読み通り。
「見たか海江田よ、これぞ朕の人徳のなせる業。折角建国したのだ。より広い地域を領せねば。大勢の臣民共は勿論閣僚全員に見限られた上多数の県を失いあの物の怪も楠木もさぞかし悔しい思いをしているであろう。」
「これで巨神を討ち果たせばヤマト皇国に帰属する日本国民がより一層増えそれに伴い領土も広がるのは必定です。」
奈良県橿原市に広池ら閣僚達を乗せた要人輸送ヘリコプターEC-225LPが飛来した。ヤマト皇国は奈良県を「首都」に定め、橿原神宮の敷地内には仮首相官邸が設置され広池がヤマト皇国初代首相として政務を執る。
「へっ、陛下、いくら何でも御自ら巨神討伐に向かわれるのは危険では?」
広池の表情がどんどん青ざめる中、清仁はヤマト皇国首相の怯える様子を画面越しに眺め楽しんでいる様子。
「朕が直々に我が皇国の初代総理に任じ組閣を命じたというのに、広池そなたは臆病風に吹かれ過ぎだ。楠木が自らゴジラと対峙し南極の地に封印したと豪語し世界的な支持を得た以上、朕もまた最前線に立ち巨神を討ち果たさねば楠木の後塵を拝し続けることになる。 心配は無用ぞ。この新轟天号の性能は海江田も認める折り紙付き。その艦内に現人神である朕が在し三種の神器もあるから鬼に金棒。 巨神など鎧袖一触にしてくれるわ。」
ヤマト皇国の実権は清仁が握り、広池をはじめ閣僚達が有する権限は微々たるもの。楠木にこき使われる毎日が嫌になりヤマト皇国に鞍替えしたら今度は清仁のわがままに振り回される毎日が始まった広池の心中は如何ばかりか。