巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#4 第一章 - 建国宣言 -

大多数の日本国民がヤマト皇国に鞍替えするか否かで混乱する中、一ノ瀬由衣は生物学に基づく巨神の研究を続けている。

この若き生物学者は様々な研究を経て紫外線を見ることが出来る蜂をはじめ様々な生物が人間を凌ぐ能力を有することを学び、人間こそ万物の霊長という発想など単なる文明人の自惚れに過ぎないと看破した。

巨神の破壊活動が自 然の支配者ぶり自然破壊を繰り返す文明人へ の制裁であることも理解しているだけに、国威発揚のため武力による巨神打倒にのぼせ上がる日本国にもヤマト皇国にも肩入れ出来ないのだ。

 

「一ノ瀬お前もっと女らしい言葉使ったらどうなんだ。折角の美貌が台無しだぞ。」

 

「一ノ瀬由衣ちゃん、君ミニスカート似合いそうだね。あともっと胸元強調した服の方が絶対良いよ。良い身体しているんだから。」

 

「一ノ瀬由衣さん、この俺と結婚を前提に交際して欲しい。女が生物学を学んで何になる? こんな美人と交際し一緒に暮らせるなら仕事に打ち込むモチベーションも上がるし、君だって俺みたいな高身長高学歴高収入の男と結婚するのは願っても無い話の筈だ。」

 

といった具合に日頃から数々のセクハラ発言に晒された一ノ瀬は男性への不信感が強く、その男性である楠木が威張り腐る日本国並びに清仁がふんぞり返るヤマト皇国を一ノ瀬がどのように捉えているかは想像に難くない。そんな一ノ瀬を訪ねて大阪大学にやってきたのは何と広池である。

 

「総理大臣って暇なんだね。私みたいな研究 員見習いにわざわざ会いに来るなんて。予め 言っとくけど私、消費税増税で庶民を苦しめ自分は裏金作りに励み私腹肥やすあんたみたいなクズの下で働く気なんてこれっぽっちも無いから。武道館の愚かしいイベントに抗議したばかりの私に声かけるなんてお門違いも良いところ。御用学者をご所望なら他を当たった方が良いよ。」

 

楠木が武道館にて、ぎこちない踊りと最早騒音にも等しい壊滅的な歌声を披露していた丁度その頃、この若き女性学者は武道館前に足を運び建国記念の日に反対するデモに参加していたりする。そのデモは右翼の集団に襲撃され会場周辺の警官共は見て見ぬフリしていたものの海江田による新轟天号強奪の速報が入った途端に暴漢共は蜘蛛の子散らすように立ち去り、一ノ瀬自身他のデモ参加者達の奮闘並びに万一を考え隠し持っていた痴漢除けスプレーにより何とか負傷せずに済んだ。

 

「私は陛下から直々に一ノ瀬由衣さん、貴方をヤマト皇国にお迎えしろと命を受け今ここにいる。貴方が陛下のお求めに応じるまで私は帰れない。」

 

広池がそう言うと秘書の1人がタブレット 端末を操作し清仁の顔が映る画面を一ノ瀬に見せた。

 

「そなたは前置きを嫌う性分と聞いておるから早速本題に入ろう。娘よ、父である朕に、我が皇国に力を貸して欲しい。」

 

思わず「はぁ!?」と言った一ノ瀬に対し広池並びに秘書が解説するところによると、 DNA鑑定により一ノ瀬と清仁が実の親子と判明したという。

 

一方的に話を続けるこの今上天皇は今の発言が一ノ瀬の心を深く傷つけたとは夢にも思っていない。

 

「私を妊娠した母さんが宮内庁を追われるのを止めもしなかった癖に今更父親ぶるな!女手一つで私を育ててくれた母さんは亡くなるまで父のことは話さなかった!だから私に父親なんか、父親なんかいない! 庶民から巻き上げた税金で贅沢に暮らす皇族になんかなりたいとも思わない! 巨神を討伐するのに私の知識が役に立つ? 目の上のたん瘤な巨神達を排除し自分が現人神ぶりたいだけじゃないか。そんな私利私欲のために私の知識を利用するな!大体この20年間地球防衛軍が1体も討伐出来なかった巨神を建国ごっこにのぼせ上がるお前達がどうやって討伐する?」

 

約40歳年下の一ノ瀬の剣幕に圧倒され、温室育ちの清仁の全身が小刻みに震えている。広池に至っては画面越しとはいえ今上天皇を怒鳴りつける若き生物学者の姿を目の当たりにして震え上がり、秘書共々這うように退散する体たらくだ。

 

一ノ瀬の剣幕に怯える清仁には最早話す気力など無く、代わりに海江田が話す。一ノ瀬は広池らが放置したタブレット端末を手に取り海江田との対話に臨む。

 

「ここからは陛下に代わり私、海江田がお話しします。一ノ瀬由衣さん、貴女はこのヤマト皇国が保有する新轟天号の力をご存知無いようだ。そしていきなり陛下の実子と知らされ気が動転しているのも無理からぬことです。これからこの新轟天号が巨神を討ち果たすのをご覧になれば考えも変わるでしょう。」

 

突然一ノ瀬が笑い出した。

 

「ごめんね、海江田サン、お前のその突き抜けた自惚れ度合いが余りにも可笑しくて笑っちゃった。お前こそ巨神の力を、いやヒト以外の生物が持つ力を甘く見過ぎ。そこまで言うならさっさと巨神討伐に出向いたら? 結局討伐されたのは巨神じゃなくて新轟天号でしたというオチを期待しているから。そうそう、今あんたが立っているその場所でついさっき偉そうに喋っていた清仁とかいう胡散臭いオッサンに言っておいて、私に怯えて言葉が出なくなるようじゃ巨神には永遠に勝てないってね。」

 

途端に不機嫌な表情になった海江田は一方的に通話を打ち切り、一ノ瀬はトイレに行き1人すすり泣く。かねてより庶民から巻き上げた税金により贅沢に暮らす皇室に強い嫌悪感を持つ一ノ瀬だけに、その皇室の現代表清仁が自分の父親である上母を捨てたと知り身体を引き裂かれるような思いであろう。

 

トイレに籠りすすり泣く程深く傷ついたにも拘らず、広池らが退散する際放置したタブレット端末をトイレに駆け込む前にきちんと電源を切り、引き出しの中にしまうあたり、一ノ瀬の律義さ、生真面目さが見て取れる。

 

そしてこれが新品スーツの破損に激怒しドアノブをバンバン撃つ楠木だった場合、怒りに任せてタブレット端末を叩き壊す様子が目に浮かぶ。その楠木は現在ヤマト皇国に鞍替えした牧野と画面越しに会話中である。

 

「それで、ヤマト皇国にはいつ来るんだ、楠木二等兵?来るなら早い方が良いぞ。同じ階級でもヤマト皇国に来るのが早ければ早いほど昇進しやすくなるからな。」

 

そう言いながら葉巻を吹かせる牧野はニヤ ついた表情が何とも嫌らしく、かつては一心不乱に楠木の菊門を舐めていた男には見えない。どうやら清仁は楠木がヤマト皇国に鞍替えするなら二等兵の階級を付与する旨を取り巻き共に言いふらしている模様。

 

「にっ、二等兵だと!?まっ、牧野貴様誰に向かってそれを言っている!? この楠木は!」

 

早くも頭の中が噴火寸前な楠木が怒りに任せて喋り始めると、間髪入れずに牧野が口を挟む。

 

「楠木正成公の末裔で地陸海空軍の元帥かつ元老、だよな。それがどうした? 陛下が楠木、貴様に二等兵の階級を付与すると決められた以上貴様はもう二等兵だ。それを拒むなら貴様は朝敵、国賊だぞ。大体楠木正成公の末裔ぐらいで偉ぶるな。維新の元勲の血を引き皇室との血縁的繋がりもある俺様からすれば貴様の血統なんざ屁ぇみてぇなもんよ。」

 

画面の中の牧野のニヤけ顔を睨む楠木は両目を血走らせこう叫んだ。

 

「黙れ!牧野! この楠木を愚弄してタダで済むと思うな! 不平士族に襲撃され顔面をズタズタに斬られた貴様の高祖父同様悲惨な最期が待っているぞ!」

 

牧野の高祖父、大久保利通は1878年5月14日に惨殺され、遺体は頭蓋骨の損傷が著しく部分的に脳が露出していたという。

 

「おお、怖い、怖い。だが楠木二等兵、天皇 陛下と血縁が近い俺の命を狙うのは陛下に弓引くも同然と知れ。貴様に逆賊となる覚悟などあるまい。そんなに二等兵が嫌ならもっと上の階級を授けるよう陛下に掛け合っても良いぞ。この俺の靴底を満遍なく舐めることが出来たならの話だがなぁ。ガハハハハ!」

 

牧野の下品なドラ声は生前の麻生を彷彿とさせ、過去のトラウマが蘇った楠木は絶叫しながら画面の中の牧野めがけて何発も銃弾を撃ち込んだ。

 

廊下に響くドラ声を上げ馬鹿笑いする牧野を物陰から広池が恨めしそうに睨む。今までこき使われた仕返しに楠木をいびりたくて仕方ないだけに、牧野に先を越されたのが悔しいのだろう。

 

「さて楠木が泣きべそかきながら天皇陛下とこの俺様に土下座するのも時間の問題、あ、あちちちっ!」

 

馬鹿笑いに夢中の牧野は火のついた葉巻を持っていたのをすっかり忘れ、右手の中指と人差し指を火傷した。牧野の醜態を物陰から見ていた広池は大爆笑したい衝動を懸命に堪えている。そんな広池も眼鏡に蜘蛛が1匹ついていたことに気付き絶叫するが。

 

「何だ、広池君、そんなところにいたのか。あの楠木武が何かわめきながら画面の向こうの俺に向けて撃つ間抜けな姿を君にも見せたかったよ。ところでその眼鏡についてる可愛らしい蜘蛛ちゃんは君のペットかな?」

 

「まっ、牧野さんこそその右手の人差し指どうしたんですか? 少し腫れてますよ。まさか火をつけたまま葉巻持っていて火傷したとか無いですよね? 保守第一党の副総裁ともあろうお方が。」

 

そう言いながら互いに睨み合う牧野と広池、「建国」からまだ日が浅いヤマト皇国も上層部がいがみ合うようでは先が思いやられる。

 

 

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