巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#6 第二章 - シン・元老と愚鈍な巨獣 -

ノルマンディー沖深度6700m付近の深海を潜航中の新轟天号は巨神ティアマトに挑み苦戦を強いられ、当初は楽勝だと思っていた清仁は今猛烈に機嫌が悪い。

 

「海江田、話が違うぞ!この新轟天号ならあのような大海蛇など鎧袖一触ではなかったのか!」

 

普段は冷静な海江田が清仁に怒鳴られ縮こまっていると、その清仁がいきなり服を脱ぎ始めた。

 

「へ、陛下、何てことをなさるのですか!早くお召し物をご着用下さい!」

 

「あのゴジラが楠木の全裸を恐れ退散したのだから、朕が全裸になれば必ずや大海蛇は退散する!退散するに決まっておる! 楠木に出来て現人神である朕に出来ぬことなど無い!」

 

ティアマトの長い身体に締め上げられ艦全体が軋む新轟天号の艦内にて今上天皇が全裸になる、そこいらのパニック映画並びに特撮映画ではまずお目にかかれない展開である。つい最近楠木武の裸体をこき下ろしておきながら、ティアマトに追い詰められるとその楠木を真似て全裸になるのは無節操の極みだ が。

 

どこからともなく一ノ瀬が姿を現し、全裸姿の清仁を眺めながら嫌らしく微笑む。無論 深海を潜航する新轟天号の艦内に一ノ瀬本人がいる筈も無くこれは清仁だけに見える幻影だが。

 

「こ、小娘貴様、どうやってここに入った!?な、何だ、その表情は?あ、現人神である朕に対して無礼であろう!」

 

「オホホ、貴方全部脱いだのね。面白くない芸人が苦し紛れに尻を出すのは割とよくある話だけど、こんな場所で素っ裸になる今上天皇とか前代未聞だし貴方恥をかくことに関しては超一流だわ。ひょっとして恥晒しとして歴史に名を残せちゃったかしら?」

 

「黙れ!小娘が! 黙れ! 黙れ!黙れ!黙れぇ!現人神である朕を愚弄など断じて許さん!何をしている、海江田!?早くこの小娘を射殺しろ!朕を愚弄したのだ! 直ちに射殺しろ! 射殺しろ! 射殺しろぉ!」

 

何かに怯えながら壁を指差し怒鳴る自称現人神の醜態を目にした海江田らは開いた口が塞がらない。先日一ノ瀬に一喝され精神的に参った清仁は彼女を心底恐れるようになり、ティアマトに追い詰められているこの状況が彼女への恐怖心をより一層増幅させ幻影を見るまでになったのだろう。

 

なお自身の裸体を見て嫌らしく微笑む一ノ瀬の幻影はあくまで 清仁の被害妄想の産物であり、そもそも小学生時代に遭遇した露出魔へのトラウマを抱える本物の一ノ瀬に清仁の裸体を嘲る精神的余裕など無く、所謂ジェンダー規範を強く拒む気質故「~のね」、「~だわ」、「~かしら」といった所謂「女性語」はまず使わない。

 

この時何故かティアマトが締め付け攻撃を取り止めたため、艦内の人々の表情に安堵の色が戻った。清仁に至っては一ノ瀬の幻影が消えたのもあり早速調子に乗り始め、新轟天号の艦体から離れたティアマトを画面越しに眺めながらもう勝った気でいる。

 

「見よ!朕が全裸になった途端にあの大海蛇は恐れをなし逃げ出した! あとは海江田そなたの仕事ぞ!」

 

清仁が全裸姿のまま檄を飛ばすと、海江田は自ら照準器を操作しティアマトに狙いを定める。

 

「目標速度約40ノット、プラズマ原子炉出力 上昇、新絶対零度砲発射。」

 

海江田が下した指令通り新轟天号は艦首のドリルから先代の轟天号の絶対零度砲を凌ぐ強烈な冷気を帯びる白色の光線砲を放つ。かねてより海江田はモーツァルトの楽曲を好み、現在新轟天号の艦内に鳴り響く『レクイエム ニ短調』は新絶対零度砲が命中し全身氷漬けとなったティアマトに捧げる葬送曲、らしい。

 

後は全身氷結状態のティアマトを艦首のドリルで粉砕するだけ、新轟天号艦内の誰もがそう思っていた、ティアマトが全身から高圧電流を放射し体表面を覆う氷全てを砕くまでは。実のところティアマトは締め付け攻撃の 最中に新轟天号の艦内から濃厚な邪念を感じ取り、このまま捻り潰すより一旦やられたふりをして邪念の主を油断させてから奈落の底に叩き落とす方が良いと判断していた。そしてその濃厚な邪念は己を現人神と信じてやまない清仁の慢心に起因する。

 

「海江田ぁ!もう1発だ!もう1発撃てぇ! 今度こそあの大海蛇を仕留めろ! 現人神である朕の敵は皆滅ぼせぇ!」

 

「しょ、承知致しました!」

 

再び新轟天号が艦首のドリルから主砲を撃つのを見計らい紅梅色に輝く稲妻状の光線を吐くティアマト、どうやらこの巨神は強い毒を吐く能力を大幅に強大化させ体内の毒素を猛毒光線化し口から吐けるようになった模様。

 

ティアマトが吐いた猛毒光線は新絶対零度砲を容易く四散させ、新轟天号の艦体をみるみるうちに蝕む。この猛毒はティアマトの体外に出てから1分後には無毒化するため有機水銀、カドミウム等とは異なり自然界に残留 などしない。

 

「朕は現人神ぞ! 小娘も大海蛇も朕の菊門を伏して拝グワーッ!」

 

などと喚き散らす全裸姿の清仁をはじめ海江 田ら新轟天号の搭乗者全員が猛毒光線に飲み込まれた。新轟天号に命中した猛毒光線がその艦体全体を消滅させるのに費やした時間は約20秒。海江田の意に反し『レクイエム ニ短調』は新轟天号に、そして自分達に捧げる葬送曲になってしまった。この時清仁は猛毒光線が迫る中またもや一ノ瀬の幻影を見たとか見なかったとか。

 

先日海江田が楠木らに告げた通り新轟天号が巨神討伐のため戦う様子が生配信され、JR鶴橋駅に程近い珈琲館ロックヴィラの店内では一ノ瀬、藤崎をはじめ客達が店の名物キムチサンドを味わいながらスマホ、タブレット端末の画面を観ると、丁度ティアマトが新轟天号を殲滅した瞬間が映っている。この生配信により世界に向けヤマト皇国の力を喧伝する筈がティアマトに挑み返り討ちに遭う 新轟天号の醜態を世界に晒す格好となり、ヤマト皇国の威信とやらが巨神ティアマトに打ち砕かれたのは最早自明。

 

新轟天号を殲滅した直後のティアマトが深海ドローンも破壊したため、この生配信は強制終了と相成った。

 

「由衣の言った通り結局討伐されたのは巨神じゃなくて新轟天号だったね。地球防衛軍にいた頃の私ならあり得ない、新轟天号の圧勝の筈だと絶叫してただろうけど。」

 

そう言った藤崎はコーヒーを飲み、一ノ瀬は紅茶を口にする。ちなみに2人とも砂糖もミルクも入れない主義だ。

 

「一回志保先輩と喧嘩別れした後たまたま鶴橋に来てこの喫茶店見つけてキムチサンドが余りにも美味しかったから、いつか先輩と仲直りしてこの店一緒に行きたいとずっと思ってた。やっと先輩と一緒に来れて今凄く嬉しい。」

 

と言った一ノ瀬ではあるものの、直後に深いため息をつく。

 

「巨神ティアマトに挑んだ新轟天号が返り討ちに遭ったけど、海江田ざまぁみろ、清仁ざまぁみろと喜ぶ気にはなれない。この4日間で命落とした人達のことを思うとね。」

 

「確かに。直接手にかけたヤマト皇国の連中が最低なのは勿論だけど、ヤマト皇国の連中を野放しにした日本の警察も本当に最低。」

 

4日前のヤマト皇国の「建国」宣言を皮切りに、ヤマト皇国に鞍替えした地球防衛軍人共が各地で乱暴狼藉を繰り広げた。一ノ瀬を拉致しようとして藤崎に射殺された荒川らがその典型。おまけに楠木そして政仁の意向を忖度し警察も在日外国人を狙う分は黙認したため大勢の在日外国人がヤマト皇国のならず者共に虐殺された。在日外国人を同じ人間と見做さない楠木そして政仁の最低過ぎる認識がこの虐殺を助長したと言っていい。

 

父政仁を憎悪する清仁もその父同様在日外国人を同じ人間と見做しておらず、式典の度に発する「おことば」に多用される「国民の皆さん」なる物言いからも在日外国人など眼中にない冷淡さが見て取れる。

 

現在一ノ瀬らがいる鶴橋は在日コリアンが多数在住し、昨日はヤマト皇国のならず者共に襲撃されそうになった。そのならず者共が鶴橋襲撃を取り止め一斉に逃走したのは親玉を仕留めた藤崎の狙撃に依るところが大きく、巨神との戦闘を想定し常日頃から特殊訓練を重ねた筈なのに人間1人の狙撃に怯え逃げ出すようではその訓練は全部無駄だったと言わざるを得ない。

 

以前実施された大阪市解体の是非を問う住民投票では在日コリアンは勿論大阪市在住の在日外国人全員が除け者にされ、当時大学生だった一ノ瀬は鶴橋に赴き在日コリアン達と共に大阪市解体を訴えるビラ配りに勤しんだ。このビラ配りをはじめ反対派の地道な運動が功を奏し大阪市解体は否決、一ノ瀬はその後も自発的にデモ等に参加するようになり現在に至る。

 

皇族といい、住民投票といい、在日外国人を蔑ろにするのが公然と罷り通る日本ではTVドラマやアニメ、特撮といった創作も在日外国人の存在自体を無視した内容のものが目立つ。また巨神討伐を渇望する世論への迎合なのか架空戦記めいた内容の映像作品が増え、ヤマト皇国のならず者共も架空戦記の設定に準え在日外国人襲撃を正当化するのだから始末に負えない。

 

「志保先輩がいなかったらこの店だってどうなっていたことか。そういえば最近日本各地で在日外国人襲撃を企てたクズ共の親玉が射殺されたって速報を目にするけど、これもしかして。」

 

「そう、私の仲間達。今日本に来ているんだ。隊長に由衣のこと話したら、今すぐは無理だけど近いうちに会いたいって。私がここ大阪に来たのも由衣の身辺警護を隊長に願い出て許可貰ったからだよ。」

 

かつては巨神殲滅に拘り一ノ瀬と絶交までした藤崎の考えがここまで変わったあたり、 この元地球防衛軍人が「隊長」と呼ぶ人物から受けた影響は如何ばかりか。

 

ティアマトが新轟天号を殲滅する様子を画面越しに眺め、自分に反旗を翻した息子の末路を想像しながらほくそ笑む政仁ではあるものの、あることを思い出し顔全体から血の気が失せていく。

 

「あの艦には三種の神器が載せられていたにも拘らず何の力も発揮せず文字通り水の泡と化した。これは不味い、不味いぞ。」

 

そんな政仁に謁見したのは唯1人ヤマト皇国に鞍替えしなかった閣僚、矢口蘭堂内閣官房副長官である。

 

「上皇陛下、こちらをご覧下さい。」

 

平然と約束を破る独善的な矢口を内心毛嫌いしている政仁ではあるものの、その矢口が恭しく指し示す物を目にした途端に顔色が変わった。

 

「さっ、三種の神器ではないか! 何故これがここにある!?」

 

「密かにすり替えておきました、天皇陛下が向こうに、ヤマト皇国に行かれる直前に。」

 

「矢口、そなたでかした、でかしたぞ! それ にひきかえ楠木ときたらあの馬鹿息子が三種の神器を持ち去るのを止めもせず武道館で踊り狂い、ああ、嘆かわしい。」

 

矢口の発言を受け政仁の両目から涙がこぼれ出る。この老翁は少年時代にポツダム宣言受諾を決めたのは三種の神器を守るためだったと父即ち当時の今上天皇から聞かされ、 三種の神器の護持こそ皇室の、己の使命だと信じてやまない。楠木に陸海空軍元帥の階級ばかりか元老の地位を与えたのもこの者なら巨神の脅威から三種の神器を守ってくれると信じたのが大きい。それだけに清仁が三種の神器を持ち去りヤマト皇国に走るのを看過した楠木に大きく失望したのもある意味当然 か。

 

「早速ですが上皇陛下、一つお願いしたいことが。現在私を除く全ての閣僚がヤマト皇国に鞍替えしこの国の行政の中枢が停止しております。そこでこの私を元老に任じて頂きたいのです。」

 

「良かろう。三種の神器をあの馬鹿息子が持ち去るのを阻止したそなたにこそ元老の肩書は相応しい。この国の立て直しをそなたに託す。大いに励め、矢口蘭堂。」

 

実のところ矢口は清仁の了承を得て三種の神器を入れている箱を回収しただけである。 そして中身は別の箱に入れられヤマト皇国側に渡り新轟天号共々猛毒光線の餌食となり消し飛んだ。日本国を見限った清仁に色目を使ったばかりなのに新轟天号惨敗によりヤマト皇国が詰んだら今度は嘘をつき政仁の歓心を買う、手段を選ばない矢口の面目躍如と言えよう。

 

知っての通り三種の神器は厳重に秘匿され今上天皇を含む皇族も実物を見ることなど許されない。従って政仁は実物を見たことが無く、矢口が恭しく指し示す3つの箱の中身を確認も出来ないのである。たとえ箱の中身が全て偽物と気付いていたとしても、本物の神器が新轟天号共々消し飛んだ事実を認めれば 皇室の体面が大きく傷つくため政仁は口を噤まざるを得ない。

 

かくして元老に任じられた矢口は早速自身を総理に指名した。国会の議決により内閣総理大臣が指名され内閣は国会に対し責任を負う議院内閣制を徹底的に軽んじる、この点に関しては矢口も政仁も楠木も皆同じ。

 

「さてこれからやって来る面倒なのをどうあやすかだな。」

 

矢口の言う「面倒なの」、即ち楠木は早速その矢口の目の前に現れ、服も下着も全て脱ぎ捨てて以下の通り叫んだ。

 

「矢口君!この非常時に自ら総理を引き受けるその姿勢は実に素晴らしい! 同じ元老として君を誇りに思う! そんな君にはこの楠木の肉体美を鑑賞する権利がある! さあ思う存分鑑賞してくれたまえ!ところで総理を引き受けたということは、分かっているな!?」

 

政仁に取り入り自分と同じ元老の地位を手にした矢口のやり方は気に食わない一方、その矢口に己の菊門を舐めさせる好機と捉え舞い上がる楠木はある意味前向き思考、かもしれない。

「そんな前向き思考があってたまるか!」と突っ込みたいならどうぞご自由に。

そもそも普段は個人の権利を軽視している癖に自分の弛みきった全裸姿を無理矢理見せつける時に限り権利と言い張る楠木は実に狡く、余りにも恩着せがましい。

 

「何のことですか、楠木元帥閣下?」

 

真顔のままそう言った背広姿の矢口に対し 全裸姿の楠木がいきり立つ。

 

「貴様惚ける気か! この青瓢箪め!さっさとこの楠木の菊門を入念に舐めるんだ!貴様の前任の広池も間抜け面しながら一心不乱にペロペロ舐めていたぞ! さあ早く舐めろ!ペロペロ舐めろ! これは20年続くこの国の慣例だ!貴様も慣例に従え!」

 

前述の通り楠木が日本を離れていた2009年から2012年の3年間この「慣例」は途絶え ていたため、「20年続くこの国の慣例」という楠木の物言いは正しくない。

 

「20年といえば最近秩父山中で発見された死後20年は経過していると思しき白骨死体、歯型が貴方様のご夫人、久代氏と一致した次第です。」

 

矢口の唐突な発言に楠木は腹を抱え大爆笑した。

 

「グハハハハ! 矢口よ、貴様嘘をつくとボロが出るな!俺が久代を埋めたのは高尾山中だ!秩父山中で久代の白骨死体が見つかる筈がなぁい!」

 

一転して青ざめ両目を泳がせ始めたあたり、楠木はたった今他ならぬ自分がボロを出したことに気付いた模様。

 

「失礼、言い間違えました、高尾山中で発見された白骨死体の歯型が久代氏と一致した次第です。そして今の発言はこちらに録音しました。」

 

楠木の裸体の至る箇所を冷や汗が伝う。

 

「ま、待て!話を聞こう! 矢口貴様の望みは 何だ!?言ってみろ!」

 

「20年続く慣例とやらを私には適用せず、組閣人事への口出しは無用、今のところはこれだけです。高尾山中の白骨と貴方様の発言は当分内密にしておきます。それではこれにて失礼。」

 

わざわざ「今のところは」と言うあたり、矢口はこれからも何かにつけて楠木に要求を突き付けるのは目に見えている。楠木の殺人並びに死体遺棄を表沙汰にせず脅迫材料として利用、矢口は人命を軽んじ平然と他人を駒扱いする気質なのだろう。

 

矢口が立ち去るや否や楠木は目の前の壁に 拳骨を叩き込んだ。苛立つ全裸男が壁に八つ当たり、この珍妙かつ滑稽な光景を想像し爆笑したくなったなら気の済むまで爆笑してもらって一向に構わない。

 

「あの青瓢箪め! 絶対このままでは済まさんからな!」

 

権力を手にしてからの楠木はその粗暴さ故度々人を殺めてきた。口髭の半分を剃ってしまった理髪師に逆上し理容鋏を何度も両目に突き刺したのも一度や二度ではない。理髮師が楠木の髭の半分を剃る事故が頻発するのは手の震えによるところが大きく、当然その手の震えは粗暴な楠木への恐怖に起因する。衝動的に人を殺める度権力を使い隠蔽、楠木はこれを20年も続けてきた。

 

一方配偶者久代を手にかけたのはまだ二等陸尉だった頃、即ち権力を手にする前だ。前述の通り当時の武は事あるごとに麻生に折檻され、結婚したばかりの久代に暴力を振るい鬱憤を晴らしていた。そしてとうとう久代を絶命させてしまい、まだ殺人を隠蔽出来る権力も無かったため慌てて遺体を高尾山中に埋めたのだ。

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