巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#7 第二章 - シン・元老と愚鈍な巨獣 -

かくして楠木の干渉を排することに成功した矢口は暫定内閣の成立を急いだものの、自分と同じ保守第一党に属する議員の大半がヤマト皇国に鞍替えしたため閣僚選びは難航した。保守第一党の衛星政党として名高い王政復古の会及び君民協同党に属する国会議員達に声をかけても、

 

「上皇陛下に元老の地位をおねだりし、今度は我が復古の会に閣僚をおねだりか。あっちに尻尾を振り、こっちに尻尾を振る、可愛いワンちゃんだねぇ、君は。ワンちゃんには官邸より犬小屋の方がお似合いだよ。」

 

「我々君民協同党は貴方が属する保守第一党とは是々非々の関係を保ってきました。ここで閣僚を出せばその関係が崩れてしまいます。他を当たって下さい。」

 

といった具合に色良い返事は返ってこない。属する議員の大半がヤマト皇国に走り今や巨大与党では無くなった保守第一党に協力しても見返りは何も無い、王政復古の会も君民協同党もそういう認識なのだろう。

 

組閣に苦慮する矢口に追い打ちをかけるかのように広池をはじめヤマト皇国に鞍替えした面々が全員戻ってきた。元首清仁が新轟天号共々消し飛びヤマト皇国そのものが立ち行かなくなったのだ。一旦はヤマト皇国への帰属を宣言した県も悉く日本国への帰順を表明し結局ヤマト皇国は「建国」から1週間経たずして消滅した。

 

日本国に戻ってきた面々には清仁と共にヤマト皇国に鞍替えした露子も含まれる。実のところ露子は清仁の生還が絶望視されたのを受け自らヤマト皇国の元首になると宣言したとはいえ、広池らの支持を得られず日本国への帰順を余儀なくされた。広池らが露子に求めるのは「内助の功」を発揮し元首清仁を支えるその一点に尽き、清仁に代わり元首になるのは望んでいなかったのである。

 

広池が再び総理に返り咲くと聞き、矢口は仙洞御所に駆け込んだ。

 

「矢口よ、事前に用を伝えずいきなりここに土足で足を踏み入れるなど無礼ではないか。 折角元老に任じてやったのに、そなたは余への感謝の思いが足らんようだ。」

 

「上皇陛下!私が今組閣の最中なのをお忘れですか!?」

 

政仁はいきり立つ矢口を忌々しげに睨み、右手に持つリモコンを大画面に向けた。

 

「三種の神器をすり替えたなどと嘘をつき余を騙す、お主なかなか奸物よのぉ。この映像を観よ、そなたは三種の神器を持ち去るあの馬鹿息子に媚びへつらい箱を回収しただけではないか。三種の神器の件は公に出来ぬ故このことは伏せておくし、元老の地位も剝奪はせぬ。余の寛大さに心から感謝し今後は元老の先輩格である楠木の指示に従うように。」

 

この時の矢口の全身の震えは言い逃れ出来ない決定的瞬間を隠し撮りし政仁に密告した者への激しい憎悪の念に基づき、政仁を騙した件に関しては全く後悔していない。そして政仁は矢口に貸しを作りこれ以上勝手なことをするなと釘を刺すため元老のままでいてもらうことにした。元老の地位を授けたばかりの矢口からその地位を剥奪すれば己の体面に傷がつくと考えたのも大きい。

 

屈辱感に打ちのめされた矢口は仙洞御所を飛び出しある場所へと向かう。

 

「無い!無い! 何処にも無い!」

 

厳重に保管してあった筈の人骨並びにボイスレコーダーがきれいさっぱり無くなっていたため、矢口の焦りそして苛立ちはとどまるところを知らない。周囲に散らばる破り捨てられた書類から不測の事態に陥るとすぐ周囲に当たり散らすこの世襲政治屋の性質が伺える。こういう時「まずは君が落ち着け」と矢口をたしなめるのが泉修一保守第一党政調副会長である。

 

その泉が矢口の背後から話しかけた。

 

「どうした矢口?何か探し物か?」

 

ヤマト皇国に鞍替えした広池らに靡かず当選同期の盟友矢口と行動を共にする泉ではあるものの、政仁に取り入り元老の地位を手にした彼のやり方を内心快く思っていない。そもそも「出世は男の本懐」と公言して憚らない泉にとって盟友矢口は己の出世の手段に過ぎないが。

 

そして「男の本懐」なる物言いから根強い男尊女卑思考がダダ洩れな泉は「来る女性は拒まない」と囁き、金にものを言わせ秘書をはじめ身近な女性のほぼ全てと性的関係を持ったとか。

 

「何でもない。ところで泉、君こそ何か用か?」

 

楠木の弱みを握るため配偶者の白骨死体を隠していてそれが無くなった、などとは口が裂けても言えないため、矢口は平静を装いつつ質問に質問を返しお茶を濁した。

 

「俺と一緒に上野公園に来て欲しい、今すぐに。」

 

矢口は泉に先導され上野公園内に足を運 び、上野大仏を祀る大仏山を登る。「山」といっても実際は小高い丘だが。

 

「いっ、泉、これは一体?」

 

矢口が指差した樹木には2つの生首が打ち付けられ、その首は両方とも顔面をズタズタにされ蠅数匹が翅をブンブン鳴らし周囲を飛ぶ。眉間に釘を深々と突き刺すやり方は 安倍貞任並びに藤原泰衡の生首が丸太に打ち付けられた故事に倣ったのだろうか。

 

「矢口、上の首は牧野副総裁、そして下の首は蓑田元総理、いや前総理のものだ。」

 

蓑田喜徳は楠木の菊門を舐め過ぎて健康を害した門長の後を受け総理となるも、1年足らずで政権を投げ出し広池が組閣してからは閑職に追いやられていた。何を隠そうヤマト皇国「建国」を受け真っ先に日本国を見限ったのはこの蓑田である。しかしながら鞍替え後も広池らに主導権を奪われまたもや冷や飯を食う羽目になった蓑田は早くもヤマト皇国に嫌気が差し、ティアマトが新轟天号を返り討ちにしたことにより元首清仁の生還が絶望視された途端に日本国への帰順を表明した。

 

「何故あの2人がこんなことになったんだ!?」

 

「矢口、いきなりこんなものを見せられ気が動転しているのはわかるが、まずは君が落ち着け。君が落ち着き次第説明するから心して聞いてくれ。」

 

それでは少しだけ時間を遡ろう。日本国への帰順を表明し東京に戻った牧野そして蓑田を地球防衛軍兵士共が取り囲んだ。

 

「貴様らこの俺を誰と心得る!元勲大久保利通を高祖父に持つ元総理にして保守第一党副総裁の牧野正助だぞ!」

 

「おいそこのカメラマン、俺ではなくこの無礼者共の顔をしっかりと映せ!俺の言うことが聞けないなら貴様らの会社の代表取締役に左遷するよう厳しく言っておくからな!蓑田善徳を舐めるなよ!」

 

などと怒鳴る牧野そして蓑田に対し人垣の向こう側に立つ政仁はこう言った。

 

「静まれ逆賊共、そなた達が我が息子を無理矢理連れて行きヤマト皇国とやらの元首に祀り上げたことも、息子の人の好さにつけ込み危ないところに行かせ帰らぬ人にしたことも全て分かっておる。」

 

政仁から直々に逆賊呼ばわりされ相当こたえたのか、牧野も蓑田も一気に青ざめ黙り込んだ。総理だった頃ハローワークを視察し求職者に対し上から目線な物言いをした牧野にせよ、門長内閣の官房長官だった頃報道記者達に対し無礼かつ不誠実な発言を連発した蓑田にせよ、相手が上皇ならここまで卑屈になるのか。

 

勿論政仁は清仁が自発的にヤマト皇国に鞍替えしたのも、自発的に新轟天号に搭乗しティアマトに挑んだ結果返り討ちに遭ったのも十分わかっている。しかしながら息子との確執が世間の目に触れれば皇室の体面が大きく傷付くため、牧野と蓑田が強引に清仁を連れ出し犠牲にしたことにしたいのである。

 

「上皇陛下、これ以上汚らわしい逆賊共を目にするとお身体に障ります。後はこの楠木にお任せを。」

 

「頼んだぞ、楠木。我が子清仁の無念の思いを晴らすためにも厳罰に処してやってくれ。牧野に至ってはナチスの手口を見習ったらどうかとまで言ったのだから、そのナチスの手口を見習い処罰して構わぬ。」

 

そう言いながら政仁はニヤリと笑い、楠木もまた嫌らしく微笑む。

 

牧野並びに蓑田は上野公園に連行され、楠木から短刀を手渡された。

 

「牧野!蓑田! 畏れ多くも天皇陛下を無理矢 理連れ出し弑逆奉ったも同然な貴様ら2人は本来八つ裂きにされても文句など言えぬ身!だがしかし、この楠木は貴様ら2人に切腹という武士の名誉を重んじた散り際を用意することにした!これぞ武士の情け!この楠木の寛大さに心から感謝しこの場で腹を切るんだな!グハハハハ!」

 

先日己を二等兵呼ばわりした牧野への仕返しが出来るまたとない機会を得たためか、楠木の下品な笑い声はいつもにも増してやかましい。

 

「ちょ、調子に乗るな! 楠木二等兵!本来なら上皇陛下に取り入り専横の限りを尽くした貴様こそ切腹、いや打ち首ものだぞ!」

 

牧野は政仁に対してはあんなに卑屈だった癖に、楠木に対してなら今まで通り罵声を浴びせることが出来るようだ。とはいえ短気かつ粗暴な楠木が再度己を二等兵呼ばわりした牧野を許す筈も無く、顔面を蹴飛ばし仰向けに転倒させた上馬乗りになりサバイバルナイフの刃を顔面目掛けて振り下ろした。

 

何度も、何度も。

 

牧野の高祖父、大久保利通もこんな風に惨殺されたのだろうか。

 

楠木が牧野の顔面をザクザク切り刻むのに夢中になっている隙に逃げ出したい蓑田ではあるものの、地球防衛軍兵士共が周囲をぐるりと取り囲んでいるため蟻の這い出る隙も無い。その兵士共に混じり牧野が惨殺される様子を写生しながらほくそ笑む広池は楠木をいびろうとして先を越された件をまだ根に持っている模様。

 

突然銃声が鳴り響き蓑田が倒れ込んだ。広池らと共に上野公園に来ていた門長通江は地べたに仰向け状態の蓑田を冷ややかに眺めながら不気味に微笑み、右手に握るスタームルガーLC9自動拳銃は銃口から煙が出ている。

 

「仇!仇!仇ぃ!主人の仇いいいいい!」

 

といった具合に銃を投げ捨てた通江は金切り声を上げ始め、余りにも唐突過ぎる展開に楠木は勿論地球防衛軍兵士共も皆開いた口が塞がらない。自分は撃たれても平気な身体故に楠木は通江に対し身体検査を行っていなかった。通江の凶行そして奇行を目の当たりにした広池は心底怯え、最早上野公園内にその姿は無い。

 

「討った!討った!主人の仇討った!キャハハハハ!靖国の英霊の御告げ最高!最高!最 高ぉ!万歳!万歳!万歳いいい!」

 

見たところ通江は靖国の英霊の御告げなるものを真に受け、蓑田を四郎殺害事件の黒幕と信じているようだ。そんなに四郎の仇を討ちたいなら仙洞御所に押し入り政仁の眉間に銃弾を撃ち込めば良いものを。

 

「なっ、なっ、なっ、何をしている!そっ、そのイカレ女を、はっ、早くしょっ引け!」

 

楠木が怯えながら檄を飛ばすと、兵士共が通江の身柄を拘束し公園外に連れ出した。

 

相続税を支払うことなく亡き配偶者の多額の遺産をせしめた身とはいえ、こんなことをしては優雅な暮らしは最早望めないだろう。そしてその遺産の大半を占めるのは生前の四郎が色々汚い手法を駆使し、くすねた多額の税金に他ならない。

 

この後取調室に連行された通江の供述は以下の通り。

 

「昨晩就寝中に主人を射殺した事件の黒幕が明日判明するから備えておくようにと靖国の英霊の御告げがあり、裏ルートで購入した拳銃を隠し持っていた。」

 

「上野公園にて再び靖国の英霊の御告げがあり蓑田善徳がその黒幕と判明し、仇を討つためその場で銃撃した。背後から撃ったのは主人と同じ苦しみを味わわせるため。」

 

「仇を討てたのでもう拳銃は要らないからその場に投げ捨てた。早く主人のところに行きたいから死刑にして欲しい。蓑田を撃った後、拳銃で自分の頭を撃って逝こうと思った。でも痛そうだから止めた。」

余りにも支離滅裂な供述を聞かされた取調官の唖然とした表情が目に浮かぶ。

 

楠木が仰向け状態の蓑田をよく見るとまだ息がある。

 

「おお、まだ生きていたか!よし、それなら早く腹を切れ! 武士の一分を立ててやったこの楠木に深く感謝しながら潔く散れ!」

 

この楠木の暴言は瀕死状態の蓑田を奮起させた。

 

「撃たれて死にそうになっている俺に向かって腹を切れだと!? 貴様何処まで腐っている!?楠木貴様こそ早くくたばれ!地獄に落ちろ!このタワシヒゲがぁ!」

 

そう叫んだ途端に両目の瞳孔が開きピクリとも動かなくなったあたり、蓑田は最期の力を振り絞ったのだろう。

 

「たっ、タワシッ、タワシヒゲ、だと?このスダレハゲがぁ! よくも言いやがったなあ!」

 

またしても脳内が噴火した楠木は再びサバイバルナイフを振り上げ蓑田の顔面をザクザク切り刻む。先程の牧野と違い蓑田は既に絶命しているとはいえ、この残忍な腐れ外道は自慢の口髭を侮辱されたのが相当頭に来たようだ。

 

自分に対し暴言を吐いた総理経験者2人の顔面を力任せに切り刻んだ楠木ではあるものの、まだ腹の虫が収まらない。そこで楠木は刃が血と脂に塗れ最早使い物にならない凶器をその場に投げ捨て、園内の管理事務所から樹木伐採用のチェーンソーを半ば強引に借り、牧野そして蓑田の首を刎ねた。

 

「貴様らその首を2つともあそこに打ち付けろ!用具が必要なら管理事務所に言え!」

 

全身に返り血を浴びた姿のまま怒鳴り散らす楠木に兵士共は皆震え上がり、言われるがまま2つの生首を上野大仏近くの樹木に打ち付ける。

 

「後は首だけの大仏様に生首になった牧野と蓑田の冥福を祈るだけだ! ナンマイダホーレ ンソー! アーメンソーメン俺イケメン!」

 

確かに現在の上野大仏は頭部のみの姿とはいえ、そのすぐ近くに生首を2つ晒されるのは迷惑この上ないだろう。ところでこの滅茶苦茶な呪文はどうにかならないのだろうか。

 

「というわけだ、矢口。」

 

事のあらましを矢口に話し終え、眼鏡を外した泉はレンズ部分を丁寧に拭く。

 

「し、信じられん、ここでそんなことが。」

 

「無理もない。俺は現場にいて一部始終を見たからこうやって解説出来るが、もし逆に君が現場にいて俺にそのことを話しても俺は今の君と同じことを言うだろう。それと念のため言っておくがこの件を刑事告発しても無駄だ。上皇陛下から元老に任じられた楠木さんを殺人や死体損壊で逮捕出来ると思うか?そんなことをすれば楠木さんを元老に任じた上皇陛下の体面にも傷が付く。」

 

「わかった。もうこの件は忘れよう。」

 

泉が楠木を「さん」付けで呼ぶのが少しばかり気になった矢口ではあるものの、余りにも凄惨な光景を目にした上そうなった経緯を知った今となっては取るに足らないことと退けた。

 

 

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