巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#8 第二章 - シン・元老と愚鈍な巨獣 -

その楠木は返り血を落とすため全裸姿になりシャワーを浴び、当然ながら牧野並びに蓑田の顔面をザクザク切り刻んだ上晒し首にしたことへの罪悪感など微塵も無い。

 

「ようやく汚らわしい血を落とせた。この楠木の美しき小麦色の肌に血糊など似合わんからな。」

 

楠木が多量の返り血を浴びたのは勝手に激昂し生身の人間の顔面をザクザク切り刻むという己の短気、そして残忍さが原因なのにこの言い草である。

 

「うむ、この肉体美、何度見ても見飽きない。」

 

ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスは水面に映る自分の姿に見惚れ衰弱死するまで池のほとりに居続け、ナルシシズム即ち自己愛の語源となったという。そして浴室の壁の鏡に映る己の裸体に夢中の楠木がナルキッソスも真っ青な自己愛に溺れているのは間 違いない。

 

「この楠木がシン・ダビデ像としての己に目覚めはや20年、毎日太陽を浴び続けた小麦色故大理石の像には無い温かみがあるこの楠木の肢体の美しさは本家ダビデ像を遥かに凌ぐ。おっと蠅1匹追い払えない本家ダビデ像と違いこの楠木の全裸には南極にてゴジラを退散という確固たる実績があったか!やはり本家ダビデ像などこの楠木の全裸の足元にも及ばんな!グハハハハ!」

 

浴室内の鏡に映る己の弛みきった裸体を眺めつつ下品な声を上げ大笑い、この勘違い野郎は何処まで思い上がれば気が済むのやら。 不死身の身体並びに分不相応な社会的地位を得て以来怠惰な生活を続け、ブクブク太った己の身体の方がダビデ像より美しいと宣うなど恥知らずにも程がある。こんなのに己の自 信作を見下され、草葉の陰のミケランジェロの悔し泣きする姿が目に浮かぶ。

 

「よし、あれをかけるか。」

 

そう言った楠木は一旦シャワー室を出て真っ黒なサングラスをかけ戻ってきた。このくだりを読まれた読者の皆様は全裸姿のままサングラスをかける楠木の美的感覚を理解出来ずとも恥じる必要など無い。

このくだりを書いた私自身全く理解出来ないしそもそも理解するつもりも無いのだから。

 

再びシャワー室に足を踏み入れた楠木は足元の石鹸を誤って踏み足を滑らせ、目の前の鏡に頭から突っ込んだ。全裸かつサングラス 姿の自分を鏡に映し格好つけようとしていたものの、ずっこけた際に鏡もサングラスも割 れてしまった。並の人間なら鏡の破片により 頸動脈をかき切られ失血死もあり得る事態とはいえ、今の楠木は超人故特に負傷はしていない。

 

「クソ!折角のサングラスと鏡が! 畜生!畜生!畜生!畜生!此畜生ぉおおおおお!」

 

この楠木の怒鳴り声は屋敷中に響き、使用人達が思わず両耳を塞ぐ。間髪入れずに使用人数人がシャワー室に駆け付け床に散らばる破片を綺麗に片付けた。短気かつ粗暴な楠木の怒りを最小限にとどめるため何をするべきかを即理解し即実行、実に優秀な使用人と言えよう。先述の理髪師同様楠木の勘気を蒙り惨殺された使用人も相当な数なのは想像に難くないが。

 

現在楠木が暮らす屋敷はホテル椿山荘東京を丸ごと買い取ったものである。買い取ったといっても楠木自身は1銭たりとも出さず富嶽重工が全額負担したが。この一件により富嶽重工は楠木の庇護を得、それまで防衛庁改め国防省に装備品を優先的に納入していた三丸重工の地位を奪うことに成功した。楠木と富嶽重工、絵に描いたような官民癒着である。

 

「楠木閣下、お怪我はありませんか?」

 

 

「この楠木は不死身だ。心配無用。それにしても貴様仕事が早いな。気に入ったぞ。」

 

楠木にそう言われた使用人の1人、マルコム・マンデラはモザンビークにて生まれ育ち、日本に来てまだ日が浅いにも拘らず流暢な日本語を話す。日本が中心となり地球防衛軍が発足した後の世界は英語に代わり日本語が主流となり、日本に働き口を求め日本語を取得する外国人も少なくないが。

 

「マルゲリータ・マリオ、だったか、貴様はこの楠木の下で働くことが出来て運が良い。 何しろこの楠木は楠木正成公の末裔でありダビデ王の生まれ変わり、更に皇国の守護者でありゴジラの魔の手から全人類を救った英雄と史上最高の偉人だからな。他のどの偉人もこの楠木に比べれば鼻糞同然。そうだ、折角だから帰化しないか? この楠木の口利きで面倒な手続きも全部パパっと終わる。」

 

一瞬眉をひそめたマンデラは思いっきり名前を間違えた楠木に対し「私はマルコム・マンデラだ!」と抗議したいのだろうか。

 

「勿体ないお言葉です。」

 

「ほお、黒人ながらに謙遜か、立派、立派、ますます気に入ったぞ。それはそうと帰化しこの国で暮らすなら日本人としての名前が必要になるな。よし、今日から貴様は馬田鹿人だ!馬は古来より日本人の生活を支えた 重要な生き物、鹿は春日大社の神の使いとされる神聖な生き物、その2つを併せ持つ名を即思い付くこの俺様はやはり天才だな!グ ハハハハ!」

 

などと宣い全裸姿のままふんぞり返り大笑いする楠木は背中につっかえ棒が必要だろう。 そもそも「黒人ながらに謙遜」なる物言い自体「黒人は傲慢」なる差別丸出しの偏見に起因する。文字通り相手を馬鹿にした命名も悪い意味で楠木らしい。

 

冥府では火車が楠木の醜態に呆れ果て、ため息をついた。

 

「あの楠木武は悪い意味で今までのとは格が違うとわかってはいたが最早突き抜けたものがあるな。人間あそこまでクズになれるなら最早表彰ものだぞ。ところで閻魔サンよ、あの楠木武のいる世界には日本生まれ日本育ちの馬田鹿人などいない。そして今まで吾輩が頂いてきた数多の楠木武の中には日本生まれ日本育ちの馬田鹿人に暴力を頻繁に振るう者も複数いた。まさかあの楠木武は別の世界線の楠木武の記憶まで備えているのか?」

 

「それは私にも判らぬ。あの楠木武は並の人間ならまず助からない事態に何度も遭遇したにも拘らず今もああして生きている超人もとい怪物故、別の世界線の楠木武の記憶を備えていても最早驚かないが。」

 

「閻魔サンの理解をも超えた怪物、それがあの楠木武か。ああ、早く魂を頂きたいのになかなかくたばらないのがもどかしい!」

 

このくだりを読まれた読者の方々も火車同様に叫びたくなったのではないだろうか。

 

「見よ、火車よ。あの世界では巨神達が一挙に活動を再開した。これであの楠木武が今まで通りやりたい放題は出来なくなったのは自明。我々は楠木武が慌てふためく様子を眺めようではないか。結局神頼み、もとい巨神頼み だがな。」

 

閻魔が言った通りここ数年姿をくらませていた巨神達が突如世界各地に出現した。メキシコに出現したラドンをはじめ、ブラジルにはマンモス似ながら鼻は短く四足歩行時は握り拳を地面につけ二足歩行も可能なベヒモス、ドイツにはリクガメ似の姿かつワニガメ状の頭部に牛のような曲がった2本の角を生やすメトシェラ、中国には三角形の頭部並びに鍵爪状の長い前肢を持ち蜘蛛や昆虫を思わせる姿のムートー、そしてアメリカにはオウムガイを彷彿とさせる胴体から蜘蛛状の脚を6本生やすスキュラが出現し大規模な破壊活動を繰り広げる。

 

「スコルツェニー総統閣下! 我々を見捨てて逃げるのですか!?我々は極東の島国の劣等民族共を制圧し偉大なるアーリア民族の第4帝国を築こうと誓った仲ではありませんか!」

 

逃げ支度中のハインリッヒ・スコルツェニーをオットー・メンゲレが激しく詰る。極右結社「アーリア民族戦線」を率いベルリンを制圧したばかりのスコルツェニーではあるものの、そのベルリンに攻め込んできたメトシェラの猛攻に晒され仲間全員を見捨てて1人逃げる決意をするまでに追い込まれたのだ。

 

「黙れ!メンゲレ! 貴様らが余りにも頼りないからあんな化け物をベルリンに呼び寄せる羽目になったんだろうが! 大体ホームレス共を生きたまま解剖するのを楽しんでいた貴様が殺人罪に問われないよう取り計らったのは誰だと思っている!?」

 

などと怒鳴るスコルツェニーはH&K USP自動拳銃を撃ちメンゲレを亡き者にした。そもそも他ならぬスコルツェニーが己の生まれ故郷ミュンヘンに出現したメトシェラに憤慨し部下達に討伐を命じベルリン襲来をお膳立てした以上、メンゲレ射殺は単なる逆上あるいは八つ当たりだが。

 

「貴様ら選べ、引き続きあの怪物と戦うか、このメンゲレ同様額に風穴が開くかを。」

 

既にスコルツェニー率いるネオナチ共は八割以上の兵力を失い、残る兵力を結集してもメトシェラ相手に勝ち目など無い。

 

「まだ他にも選択肢がある。それはスコルツェニー、貴様をブッ殺すことだ。」

 

そう言ったヘルマン・レームはH&K MP5短機関銃を撃ちスコルツェニーの全身を蜂の巣にした。他のスコルツェニーの部下達も全員レームに倣う。程なくしてネオナチ共が籠るベルリン大聖堂はメトシェラにより破壊され、結局レームらは皆自分達が射殺したスコルツェニーの後を追う格好に。

 

メトシェラは甲羅の表面を覆う分厚い土の層に夥しい木々を生やし、休眠中山岳に擬態し戦いを避ける等極めて穏やかな性質の持ち主。そのメトシェラが怒りに燃えベルリン全域を壊滅させたのだから、ネオナチ共がこの穏やかな巨神に何をしてどれ程怒りを買ったのか想像するのも恐ろしい。

 

2025年度大阪万博の会場となる人工島、夢洲は大阪湾に浮かぶ。楠木は日本の技術力、ひいては軍事力を世界にひけらかすためこの万博の誘致に心血を注いだ。

元々会場に新轟天号を着地させ万博開催中展示する予定ではあったものの、その新轟天号は海江田らに強奪されティアマトの猛毒光線により消し飛んだのは前述の通り。

 

万博の開催日が迫る中まだ会場完成の目途が立たない夢洲にオスプレイが着地し、政仁そして楠木が降りてきた。

マンデラは政仁に同乗を拒まれ、市内のオスプレイ発着拠点に残り2人の帰りを待つ。

実のところ政仁はアフリカの国々の国賓と握手する度密かに手を念入りに拭いていたりする。

オスプレイ着地時に発生した凄まじい突風は砂塵を伴い、過酷な工事を強いられる現場作業員達を容赦無く襲った。

 

政仁は楠木と共に建設中の万博会場を眺め、虫の居所が悪そうな表情をしている。

マンデラの代わりとして楠木の付き人を担う、湊川護 地海軍伍長が2人のすぐ隣で大の字になり伸びているのは、夢洲に到着して早々に楠木の機嫌を損ね顔面をぶん殴られたからだ。

 

「楠木、余はそなたの威光を高く買っておったが、些か買い被り過ぎたかもしれぬな。」

 

「上皇陛下!この楠木が身命を賭しゴジラを退散させたからこそ今の人類の、そしてこの国の繁栄があるのをお忘れですか! 今や世界の多くの人々が尊敬、いえ崇拝するこの楠木がお支えするから皇室はより一層輝きを増すのです!」

 

楠木が額に冷や汗を流しながら恩着せがましく自らの「功績」を喧伝すると、政仁は一層険しい表情になった。

 

「くどいぞ、楠木。光文(こうぶん)になってからもう7年も経つのに万保(ばんぼう)の頃と同じことを何度も言うでない。」

 

政仁が言及した「光文」は清仁即位時に定められた今現在の元号(令和)

「万保」は政仁即位時に定められた、一つ前の元号を指す(平成)

 

即位や退位などという天皇個人の都合により時代を区切る元号は「時間をも支配する天皇」な る虚構を日本国民に信じ込ませるための欺瞞に過ぎず、この物語の地の文では極力使わない。

 

日本史に詳しい方なら南北朝時代に南朝と北朝がそれぞれ違う元号を用いていたのはご存知だろう。北朝に属する足利尊氏が弟直義との権力争いを制するため南朝に降った際北朝の天皇並びに皇太子が地位を奪われ、元号も南朝側のものに統一された。そして南朝との抗争を再開した尊氏は真っ先に北朝側の元号の復活を宣言と、天皇と元号の結びつきの強さが伺える。

 

一方ヤマト皇国に鞍替えした清仁は新轟天号共々消し飛ぶ瞬間まで「光文」の元号に固執し続け、海江田らがヤマト皇国としての新たな元号を定めるよう進言しても取り合わなかった。

清仁にしてみれば「光文」の元号は自分のものであり、三種の神器同様死ぬまで手放したくなかったのである。

これを元号の私物化、時間の私物化と言わずして何と言おうか。

 

「そもそもそなたが世界の人々から崇拝されているなら、そなたを崇拝している筈の多くの日本国民があの馬鹿息子の戯言に惑わされ、ヤマト皇国とやらに鞍替えしたのは一体どういうことだ? 所詮そなたの人望などその程度。以前朕が言った通りあの馬鹿息子を新轟天号もろとも葬ってくれた巨神のお陰でヤマト皇国は消えてなくなり元の鞘に収まったから良かったものの、もし新轟天号が巨神を討伐しあの馬鹿息子が世界の英雄扱いされたならいよいよそなたの立つ瀬が無いぞ。」

 

政仁に痛いところを突かれ、楠木の額に は脂汗が幾筋も伝う。

 

「どうした楠木? 最早申し開きする気力も無いか。余はそろそろ帰る。あれが視界に入ってきて気分が悪くなったからな。」

 

政仁が指差した万博会場に文字通りそそり 立つ巨大モニュメントは楠木の股間のものを精巧に模して造られ、モニュメント全体を覆う金メッキが異様な輝きを放つ。

無論この悪趣味どころではないモニュメントの建造は楠木の強い意向に基づき、1970年に開催された大阪万博の象徴、太陽の塔の向こうを張るのが楠木の目的だとか。

 

「なっ、何てことを仰せられます!? この楠木のイチモツには南極においてゴジラを退散させた確固たる実績があり、既に世界各地で『シン・金精神』として祀られ人々の崇敬を集めております! 高さ120mとゴジラの身長108mをも凌駕する大きさのシン・金精神 像、今度の大阪万博の象徴としてあれ程相応しいものが他にありましょうか!」

 

陰茎に似た形状の自然石等を御神体とする金精神信仰は日本各地に点在し、己の股間のものがゴジラを退散させたと信じ込む楠木は2005年以来世界各地に黄金のシン・金精神 像(※高さ:約2m)を建てさせた。

太平洋戦争時に占領したシンガポールに昭南神社を建て地元の人達に参拝を強要した日本軍とやっていることは変わらない。

日本軍の敗戦に伴い即取り壊された昭南神社とは異なり、未だに楠木がゴジラから世界を救ったと信じる人は多いため世界各地のシン・金精神像は健在だが。

 

「わかった、わかった、そんなに凄いならそなたはしばらくここに留まりあれを眺めておればよい。余は帰る、帰るぞ。」

 

政仁が搭乗した途端にオスプレイは離陸し、再び発生した砂塵を纏う強烈な突風が現場作業員は勿論楠木並びに伸びている湊川を襲う。

 

「おい馬田! 今すぐオスプレイを手配しこの楠木を迎えに来い! ヘリでも構わん! 今俺は夢洲にいるから早く来い!」

と怒鳴る楠木の右手からマンデラと通話中のスマホが滑り落ちた。楠木の目の前で巨大シン・金精神像が倒壊し政仁が搭乗中のオスプレイを押し潰したからだ。高さ120mの像倒壊に伴い物凄い轟音が鳴り響き、濃い砂埃が夢洲を覆った。

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