ダカダカと電卓を叩く音が室内に響いている。カリカリと紙にペンを走らせ、もらってきた資料を見比べ、また電卓を叩く。計算が合っていることを確認できた後、パソコンに資料として詳細に書き記し、別途具体的かつ端的にまとめ、誤字脱字がないことを確認した後にその2つを印刷してようやく終わりが見えた。
「できました。ここの出費ここの企業を利用すればもうちょっと詰められそうですよ」
ヒンヒンと頭を抱えて鳴いている梔子先輩に印刷した資料を提出する。パソコン見て鳴いているのを見て、この人何してるんだろと思ってチラリと梔子先輩が触っていたパソコンを覗き見ると、『誰でも簡単借金返済術!』と大きく表示されたサイトが開かれていた。ここから離れていないところを見るに、このサイトを見て自分にこれができるかを考えて頭を悩ませていたようだ。
なんで?(なんちゅうサイト見てんの?)(どこからそんな怪しいサイト見つけてきた?)(どこに悩ませる要素ある?)(ひっかかってるんじゃないよな?)
「ありがとうメットウくん。これで返済も進みそうだよ~」
今悩ませていることから別の話題ができたことが嬉しかったのか、俺の作った資料を受け取ってうれし泣きをしているような声色を出す梔子先輩。俺から渡された簡易資料(13P)を受け取って読み始める。詳細資料(48P)の方を頑なに受け取ろうとしないのは信頼されていると思ってもいいのか、それともわからないから受け取りたくないのか。どっちもありそうだな。
さて。今の時代、しかも技術が進んでいる場所なのになんで紙を使っているんだ、なんて言われそうだが、残念ながら電子管理だのAIだのといった最先端技術が存在している
この学校にいるのは天然ドジの梔子先輩に、戦闘全振りバーサクゴリラのおチビ、そしてオカルトオタクの俺しかいない。パソコン関係に詳しい人物がおらず、ましてや設備にかかる費用すらケチる必要のあるほどの貧乏さ加減。ウイルスバスターだのハッキング対策だのをする余裕はないのだ。どちらも頻度の高い更新が必要になるし、更新料金もシャレにならないのだ。
だからこそ、今の時代でもそれなりの紙代がかかるとしても紙に一定の需要があるのだ。パソコンで保存するのはもちろんだが、パソコンが壊れたときに備えて紙として残しておく必要がある。ローカルネットワークだとしてもウイルスは感染するのだから連鎖的に破壊されたら目も当てられないからだ。ペーパーレスと呼ばれる時代でも、いや、ペーパーレスと呼ばれている時代だからこそ警戒をするに越したことはない。
「あの阿呆共が襲って来るのをやめれば弾代とか浮くんですけどね。いっぺん滅ぼしておいた方がいいかな」
心の底からめんどくさい、とため息を吐き出しながら校舎の外を見る。今は静かなものだか、カタカタヘルメット団と名乗っている不良共が校舎の占領のために時折襲撃してくるのだ。ここで剣だの魔法だのがあるのならロマンあるなぁで済むのだが、残念ながらここは無駄に技術の発達している銃の所持と発砲が普通の世界。団と名乗っている通りそれなりに人が多く銃や手榴弾、どこから調達してきたのか戦車すら持ってきて襲い掛かってくるのだ。そんなところに剣や素手で返り討ち、なんてできるわけもなく、こちらも銃で応戦するしかない。そこでかかる弾代も真面目にバカにならないのだ。
まぁ、戦闘になったところで俺や梔子先輩が前に出ることは少ない。大体はおチビが沈めていくから銃弾購入契約も散弾に対する出費だけに限定することで多少の割引をしてもらうことができたのが不幸中の幸いだ。いやマジですげぇなおチビ。ガチもんの【聖人】じゃねぇの?
「えっと、過激なことはしちゃだめだよ?」
俺の後半の呟きが聞こえたのか心配そうな表情でこちらを見る梔子先輩。普段の俺を見ていると犯罪をかましそうだと思われているのだろうか。普段からそういうことしそうな行動取り続けてるからあながち否定できないな。する気は今のところないけど。
「しないですって。せいぜいピーーーーーとかピーーーーーとかするだけですから」
しゃべっちゃいけない言葉をしゃべったからそれを隠すかのように甲高い音が鳴り響く。突然の規制音に驚いた表情をして辺りを見回す梔子先輩に、予想通り過ぎる反応に噴き出しながらポケットからボタンのついた直方体を取り出して見せびらかすようにつまんでひらひらと振る。
「いやぁ、思った以上に予想通りのピーーーーーで我慢できずに噴きピーーーーーないですか」
これは散策している時に見つけた大き目の規制音を出すおもちゃだ。結構大きい音が出るのを気に入った俺はかけ無しのお小遣いで購入したのだ。言葉を区切り区切りで止めて甲高い規制音の鳴るおもちゃを鳴らして遊んでいると、梔子先輩は感心したようにおもちゃを眺めていた。
「器用にしゃべるね。そのピーって音が鳴る機械どこで買ってきたの?」
「ブラックマーケットで面白そうだと思ったので買ってきました。これでおチビをからかおうかと」
「もう。また危ないところに行って。ヘイローがないんだから危ないじゃない」
「おチビに殴られまくってるので耐性ついてるかなって」
「つくわけないよ」
つかない?つかないかぁ。まぁつくわけないわな。銃弾とおチビの拳を比べるのはよくない。銃弾がかわいそうだ。
「とりあえず、今できる節約を考えておきましょう。梔子先輩もそんな詐欺サイト見てないで出費の見直ししてください」
机に厚い方の資料を置いて他に節約できる箇所あったかなぁ、と校舎や消耗品を調べるための資料を探す。消耗が激しい物を調べて大量に買いだめ、大量購入による割引の交渉について考えてパソコンや電卓を打ち込んでいると、そういや梔子先輩から返事なかったなと思い梔子先輩の方を見ると、なんかほほをこれ見よがしに膨らませて俺の方を見ている梔子先輩がいた。
「梔子先輩?」
なんか変なこと言ったか?とさっきまでの発言を鑑みるが、特におかしなことを言った覚えはない。
「もう。いつになったら名前で呼んでくれるの?」
なんか少女マンガとかラブコメマンガでしか聞いたことないような台詞言ってきたんだがこのド天然。一瞬何を言ったのか理解できなかったけどすぐに親しい間柄(友人的な意味で)になりたいからそう呼んでほしいと言ってるだけだろうと理解できた。
「嫌ですよ恥ずかしい」
もちろん梔子先輩にそんな意味で言ったわけじゃ無いとはわかっているんだが、自分がどういうことを発言したのか理解できているのだろうか。できてないだろうなこのド天然男誑かしむっちりドスケベは。童貞になんて劇物をぶっかけるんだ。
「もう!私は年上だけど、同じ学校の生徒で同じ生徒役員じゃない。名前で呼んでくれてもいいんじゃないの?」
呼ばれ方にこだわりがあるのかなんかヒートアップしてきてる梔子先輩。しょうがないなぁ、と机からいつもなめている飴を取り出して梔子先輩の方へ手を伸ばす。
「先輩、飴いります?ハッカ味ですけど」
「それで誤魔化されるって思われてるってことで怒ってもいいんだよね?」
プンスコと怒りながらもハッカ飴を受け取って口に入れる。思ったよりスースーしたのかヒンヒン言いながらコロコロと飴を転がす様子に、誤魔化せたなと逆に心配になるちょろさに感謝して教室の扉の方に足を向ける。
「あ、それとそのサイトは今すぐに閉じて二度と開かないでください。似たようなサイトを開くのも禁止です。破ったらおチビに報告するだけじゃなくおチビにも梔子先輩呼びするよう呼びかけますので」
「そんなっ!」
それはそれとしてこのままだと詐欺に遭いそうだから念のため釘をさしておく。ヒンヒン鳴いている梔子先輩、さすがに飴とくぎ差しだけですぐに忘れるのチョロすぎて逆に心配になるからおチビに矯正するように頼んでおくか。最近また賞金稼ぎでかなり無茶してるみたいだし、休日の意味を含めてぶん投げておくか。精神的に休めるかは知らんけど。
位置エネルギーってすごいですよね。高ければ高いほど落ちたときの衝撃の強さはとんでもないことになるんですから。