しっかりしたホラーを楽しみに来ていただいた人は気分転換にさっと読んでくれたら嬉しいです。
深夜一時半くらい。その時間を強調するかのように、時計の針の音がやたらと大きく聞こえる。最近寝つきが悪いからか、このところこの時間に起きることが増えてきた。
そう言う時は決まって外に出る。まだまだ季節的に残暑が厳しい日々だが、これだけ夜も更けばとても過ごしやすい時間になる。眠気が戻ってくるまで散歩して、家に帰って寝る。それが最近習慣づいていた。
今日もいつものように薄着でスマホだけ持って玄関を開ける。一人暮らしの女子高生がこんな時間に出歩いている、なんて普通じゃありえないのかもしれないが、これが私にとっての日常だった。
いつもみたいにコンビニで飲み物を買った後、いつものルートを通る。この時間だと誰ともすれ違わないし、田舎ということもあっていつもよりも暗く、星が綺麗に映る。
──ただ、その日同じ星を見たのは一人だけじゃなかった。
「こんばんは」
上へ上へと向けていた視線を前に戻すと、いつの間にか一人の女の子が立っている。私と同い年くらいか、それよりも少し年下か。長くて真っ白な髪の毛に、大きくて真っ黒な瞳の女の子。ボーイッシュな服装をしていて、お腹が出ている。寒くないのだろうか。
「お姉さん、いつもこの道を散歩してるよね」
「……あれ、私、この辺の散歩をしてる時は誰ともすれ違ってないはずだけれど」
「またまた〜」
他のものに集中していたから気が付かなかった……? いや、散歩してる時にスマホはあんまり触ってないし流石にそれは……
「まぁ、そんな細かいことよりもさ、私と一緒に散歩しない?」
「別にいいけど……」
「やった! おすすめの散歩スポットがあるんだ、一緒に来てよ!」
その女の子は、私の手を引いてくる。ぐいぐいと引っ張って、何をそんなに急ぐ必要があるのか小走りで散歩スポットへ連れて行く。いつものルートを外れて、小川の橋を渡り、田んぼだらけの場所へと出る。
「ところでお姉さん」
その少女は私の方へ振り返ってきた。年相応と言えるような可愛らしい笑顔だ。同性の私でも抱きしめたくなるような可愛らしさがある。
「どうしたの」
「いやぁ、お姉さんって、幽霊とか信じるのかなって」
急になんだろうか。確かに、暗いし田んぼしかないから幽霊の一人や二人出てきそうなところではあるが……
「まぁ、そうだね。信じるよ。私は死んだら幽霊になりたいと思って生きてきたからね。老後を満喫するおじいさんやおばあさんのように、私も幽霊になって山へ芝刈りに川へ洗濯にいこうと思ってるよ」
「見てみたいって、思う?」
「…………どうだろう。どこぞの鬼太郎だったりウォッチだったり、コミカルで愉快な幽霊なら会ってみたいかも」
その言葉に反応するように、眼の前の女の子は大きく手を鳴らした。
「じゃあ、会わせてあげる。流石にアニメみたいにコミカルじゃないけど、話せばいい人たちだから」
バララララ、と音を立てながら彼女の体から札が溢れ出す。一体華奢で露出の多い服のどこにそんな量の札を持っていたのか。ひとしきりすべての札が放出されたところで、彼女は軽快な音とともに指を鳴らした。音に感応するように札が妖しい青い炎に包まれる。
眩しい。不思議と熱は感じられなかったが、思わず目を瞑る。恐る恐る目を開ければ、彼女の周りには先程まではいなかった人や動物たちがいた。首に縄がかかっている人、尻尾が二股に分かれている猫、体が燃えている人とも動物とも区別がつかないような影。
幽霊だ。コミカルとは言えないが、怖くもない。どちらかというと、彼らと、それらに囲まれているように立っている女の子の迫力に感動していた。百鬼夜行とでも言うような、日本古風の、あるいは現代的な装いの少女がその妖怪たちを操っているように見えるのが美しいとさえ思えた。
彼女は、妖艶に笑う。年下とは思えないような色気を含んだ笑み。
「どう? お姉さん」
「いや…………どうって…………」
現実に戻されてみれば、今私は女の子の不思議な力で幽霊が見えるようになってる。「きみは何者?」とか「本当に幽霊がいるとは思わなかった」とか「思っていたよりも幽霊は怖くなかった」とか、色々思うことはあるけれど……
「純粋にすごいなと思ったよ。世界には私の知らないものや人で溢れてる。ありがとうね。いつもの散歩道だったら、こんな体験はできてなかった」
「それはよかった。まぁ、お姉さんも仲良くしてあげてよ。これからもよく会うだろうし」
「……? じゃあ、気が向いたらまたここに来てみるよ」
そんなことを話していると、少しだけ眠気がきた。そろそろ眠れるだろうか。
「悪いけど、そろそろ私は帰るよ。時間も時間だしね」
「……そうですか? それじゃあ、お気をつけて。──夜道は怖いですからね」
それだけ言って私は自宅へと戻る。いつもと同じ散歩道を帰り、いつもと同じように鍵を捻りドアを開け──
……あれ、いつもそうしていただろうか。
いつもは、散歩に出たきりだ。そういえば、”帰りの記憶”はない。夢みたいに、散歩に出て途中で意識が途切れたかと思えば家にいる。
……あれ、じゃあいつもの散歩って、何だったんだろうか。
変な汗が垂れる。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。さっき幽霊を目の当たりにしたときには何も感じなかったのに、何故か今は変に怖い。
大事なことを忘れている。だが思い出せない。
得体のしれない恐怖をどうにか払いたくて、無理矢理にでも自分を奮い立たせ家に入る。変わらない玄関と廊下だ。大丈夫だ、この先のリビングルームでいつも私は寝ていて、今日もそこで眠りにつくのだから。
「は」
短く、息を強く吐いた。瞠目する。内臓を落っことしたような錯覚を覚える。
だって、いつも寝ている布団の上、そこにいるのは紛れもない私自身だったから。
「幽体離脱ですよ」
その声に圧されるように、私は飛び退いた。さっきまで聞いていた声。あの少女の声だ。
「最近、よくあなたを見かけてました。正確には幽体離脱によって幽体になっていたあなたを、ですけどね」
わからない。わからない。じゃあ、今まで夜中に起きていたのは、実際の私じゃなく意識だけの方だったということか。散歩して、その後の記憶がないのもそういうことか。
……でも、なんで急に?
「お姉さん本人が霊になりたい願望を持っていたようですしね~」
そうじゃなくて、どうして急に体に戻れなくなったの?
「さぁ? それは私にもわからないかなぁ」
──あの炎だ。あの、青い炎。幽霊が視えるようになったあの瞬間、それ以外にありえない。布団に横たわる私の身体に触れても何も起こらない。戻れない。入れない。幽体のままだ。
いつから、どうして、なんでこんなことに。
「どうして? って、お姉さん、ダメでしょ?」
その少女は、青い炎に包まれながら、姿をくらます。たった一言、私に向かって言い残す。その”いたずら”がうまく行った子どものような笑みで、残酷に。
「──こんな夜中に、知らない人にはついて行っちゃダメだよね?」
これからも、いつものよふかしは続いていく。
いつも通りの、肉体を置き去りにした
夏も終わるしホラーテイストな短編を書きました。
サボりつつで一日で書けたので楽しかったです。
出来栄え的にはあんまりギミックやオチを凝らなかったのでまずまずでしょうか。
人をおどかせるような表現が身につけられるようにしていきたいですね。
短編は高評価多くいただければシリーズ化も検討しています。良ければ評価よろしくお願いします。