「つ、ついに出来た」
工房からニケの素体が上がってくる。
美しく長いサラサラの金髪、一見して男性のような美形の顔であるが良く見れば女性だと良く分かる。
自動工房を見渡せる部屋にはナカモト、ミシリスの社長、ナユタと政府上層部たちが一同に会していた。
「どうだ?」
「素体は完成しました。装備もまもなく」
「なにこれ、滅茶苦茶な装備ね。接近戦しか考えてない片寄った装備なんてね」
(これは…Wの…)
ミシリスの社長が毒づく中、装備を見てナユタは密かに勘づくが黙っている。
「出来上がるまでにかなりの時間がかかったな」
「要求素材の供給までに時間がかかりまして...」
「なによ、私が悪いって言うの?」
「いえ、そんなことは」
ナカモトの言葉にミシリスの社長は不機嫌を隠さない。
「とにかく地上奪還の旗印は出来上がった。後は脳の適合試験だがミシリスがやってくれるのか?」
「当然よ。既にかなりの数の検体を用意してるわ」
(わざわざ作らずとも、ゴッデスを追い出さなければ済んだ話だと言うのに...)
楽観的なことばかり話す上層部たちの声を聞きながらナユタは静かに椅子に座るのだった。
ーー
後日、エリシオンCEO室。
「来たか、イングリッド」
「はい、社長」
アーク三大企業の1つ、エリシオンは今回の地上奪還作戦を主導し、責任者的な立ち位置に立たされている状況であった。
「状況は?」
「この上なくタクティカルです。各部隊の武装も滞りなく」
後のCEOであるこの頃のイングリッドは会社のNo.2であるCOO(最高執行責任者)として職務を遂行しており、各部隊の教官として自ら訓練に参加しているほどであった。
「貴方の活躍はニケたちからも良く聞いている。これなら私が居なくても任せられそうね」
「母上…」
現エリシオンCEOはイングリッドの母であったが母から聞く弱気な言葉に彼女は思わず会社内で言葉を漏らす。
「知っての通り、現在のエリシオン立場は最悪」
エリシオン主導で進めていた第二世代フェアリーテイルモデル開発計画は存在事態が抹消され莫大な時間と資金が徒労に終わってしまった。
「シンデレラはかつてないほどタクティカルだった。他の子達も実にタクティカルな出来なのが悔やまれる」
「社長、その話は」
「分かっている」
その計画のお陰で会社は大損害、他の三大企業であるミシリスとテトラと比べ会社の評価は大きく落ちている。
その上、未来が見えない地上奪還作戦の主導会社にされてしまっては実に立場が危うい。
「地上奪還作戦が失敗したら、私は引退しお前にCEO職を譲る。お前は私の子だ、そのタクティカルさは比類ない」
「母上から受け継いだタクティカルは私が護ります」
「そうだな…それでミシリスが昨今開発した新型ニケの視察はどうだった?」
「…」
ミシリスが我が物顔で大々的に広報した新型ニケの発表会にイングリッドも参加していたのだがそれを思い出した彼女は言葉に詰まる。
「どうした?」
「いえ、一言で特異としか」
「タクティカルではなかったのか?」
「いえ、実にタクティカルでした」
イングリッドは所感を述べる。
現状、ニケは銃器による射撃戦が基本だ。昔に実験部隊として配備された近接部隊の思考転換率と損耗率が異常に高かったからだ。
だがそんな流れを絶ち切るような大胆な設計、圧倒的な機動力はまるで…。
「ミシリスのものではない系譜の技術です」
「心当たりは?」
「昔、戦場で見たことがあります。《レインメーカー》ニケの空の女王…外で奮戦するゴッデス部隊の援護に向かう途中で行方不明と公式記録ではありましたが…」
「イングリッド…分かっているな?」
「…はい。分かっております。」
ーー
「作戦概要を説明する」
中央政府軍作戦会議室、そこには地上奪還作戦参加予定の責任者たちが一同に会していた。
作戦の最終目標は地上の全ての奪還だが当初からそこまで行けると流石に思っていない。
ひとまずの目標は資源地帯と大規模工場地域の確保が掲げられた。
海にはラプチャーがほぼいないことは今までの戦闘でデータが取れている。
まずは海を背にした背水の陣の要領で後方の安全を確保した橋頭堡を設立するのが第一段階。
大型エレベーターからもっとも近い港町をまず確保し、直近の工場地域の確保に移る。
「作戦の概要は分かった。だがこれほどの範囲を制圧だけならともかく、維持するのはかなりのコストがかかる。どれだけの期間それらを維持し、最終的な制圧を継続する範囲を示してもらいたい」
イングリッドを伴ったエリシオンの社長の言葉に中央政府の参謀長が立ち上がる。
「これはこれは、武人としても誉れ高いエリシオンの社長がその様なことを申すとは。なぜ1度奪還した地を相手に返さねばならないのか?それともエリシオンはラプチャーこそか地上の覇者だと認めるラプチャー教にでも傾倒されているのですかな?」
横に座っていたイングリッドが眉をひそめるが社長は何事もなかったかのように話を続ける。
「軍事物資の生産を任されている以上、それなりの備えはしてあるがこれが長期戦となると話が別だ」
いくら直近のエレベーターから運ぶと行っても限度がある。ラプチャーのエレベーター侵入を防ぐために大型エレベーターは全て破壊されている現状、補給の遅延は免れない。
「兵站の問題は理解しています。全てに置いて大規模な部隊が編成されているのはお分かりでしょう。我々は広大な大地を護るために多くの部隊が散らばって戦っていたのが敗戦の原因です。しかし今度は違う、大規模部隊を集中運用すれば必ずラプチャーどもには遅れをとりません」
悦に入っている参謀長を片目にエリシオンの社長はため息をつくしかなかった。
「あんなのが作戦とはな…笑わせる」
「申し訳ありません」
最近、参謀本部に入った副参謀の男性は申し訳なさそうに頭を下げる。
「その後の防衛計画を聞いたか?」
高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処せよ
「だと、笑わせる。行き当たりばっかりではないか。前線のニケや指揮官が可愛そうだ」
「はい、その点私も指摘させていただいたのですが」
「指揮官上がりの新米参謀の話はアイツらの耳には届かないだろうな」
「そうだな」
イングリッドの言葉に男性は頷く。
「しかし何故この時期に…内政が安定したとはいえこれほどの大規模進攻を行えば市民の生活が破綻すると言うのに」
「市民の間にも地上帰還を熱望する声がほとんどだ。これ以上沈黙を続けていれば弱腰と罵られ現政権は解散を余儀なくされるだろう」
「所詮は政治か…タクティカルではないな」
「イングリッド…お前はもう少し政治を学べ。これからエリシオンを率いる立場なのだからな」
「分かりました、社長」
「アンダーソン副参謀、君も頼むよ」
「はい」
ーー
「地上奪還作戦のお陰で沸き立っているな」
「はい」
アークではかなり珍しい車の中、保安長官は満足そうにタバコを吸いながら祭りのように沸き立つ民衆を見て笑う。
この作戦のお陰で様々な企業が大きく発展を遂げている、そのマージンだけでしばらくは遊んで暮らせるだろうと笑う長官の笑みは止まらない。
「…本当に順調そうでなによりです」
その車の運転手であるLは静かに笑うのだった。