「どのようにここへ」
「新しく作ったんだよ。ボディをな」
地上奪還作戦によって各会社の製造施設は限界まで可動し、大量生産を続けていた。そんな施設で少しずつ必要な部品を生産させ、集めて人知れず組み上げたのがこのボディだ。
まぁ、ほとんどは無人工房で生産したのだが管理してる連中はその部品がヘクトール用のものなのか関係ないのか分からないから予想より早く製造できた。
「脳の移植が大変だったよ。流石にそれはカプセルから出さなきゃならんからな」
そこはウルの身体で頑張った。
ぶっちゃけ茨の園関係のシステムは本体の方からハッキング済みで後は人とニケを何とかすれば良いだけだったのでウルで難なく制圧。
後は脳を持ち出し、吹き飛ばせば済むのだがなんとなく
「アプサラスは私だけのものだ!」
と叫んだのは内緒である。
まぁ、こっちも急ぎで出てきたから装備とかは作れなかったが仕方ない。
「まぁ、ナユタを助けられたから良しとするか」
偽ナユタは起き上がると同時に加速、刀を振るうとソーンは左腕で受け止める。
「…っ!?」
「俺の左腕はどうだい?」
消費エネルギーが高いから左腕だけだがVPS装甲を採用したのは正解だった。
「せっかく0から造ったんだ。暴れるぞ!」
「え、ソーン。なにをぉぉ!」
抱き上げていたナユタを上空に飛ばすと彼女からは想像できない声で飛んでいく。
Lが倒した近接特化の量産型ニケの刀を受け取るとそのまま高速で移動する。
「この速さは…」
EXAMを使っていない筈なのにそれ以上の動きを見せるソーンを見てLは戦慄する。
「流石は紅蓮のデータなだけある…よっと」
「なぜ投げましたか!」
「動けないだろ、俺の腕の中の方が安全だ」
落ちてきたナユタを受け止めると偽ナユタは刀を鞘に納め、居合の構えを取る。
「マズイ、あれは」
紅蓮の得意技《花無十日紅・満開》だがそんなもの見慣れたソーンには悪手だ。
Lの声と共に放たれた居合はソーンの刀を吹き飛ばすが自由になった右の掌をコアのある位置に添えると掌からビームが放たれコアを破壊する。
「パルマ・フィオキーナの調子も順調だな」
回し蹴りで頭部を粉砕するとそのまま後ろを向き、量産機たちと交戦するLに向けて叫ぶ。
「伏せろ!」
ナユタを持ち変え、今度は左腕を横に振るうと衝撃波が発生し立ち尽くすリブラ部隊たちを真っ二つに切り裂いた。
「これは…リリーバイスの」
斬撃上にいた複数のD.E.E.Pも巻き込まれ両断され、そのまま衝撃波は壁に激突し大爆発が起きる。
爆煙が収まる頃にはソーンたちの姿は完全に消えていた。
ーー
その頃、地上。
アンバット港湾基地では体調不良のニケを含む補給部隊や前線指揮のための指揮官、所属のニケたちがアイリス工場地帯への増援のために集結していた。
「聞いたか、ミシリスの新型ニケ?」
「あぁ、なんでもゴッデスを思い出させるような無双してるそうじゃないか。すごいな」
「俺もそのニケの指揮官になりたかったなぁ。今はアイリス工場地帯で暴れてるんだろう?」
ゴゴゴゴゴゴ
パーフェクトを食べながら作戦の準備をしていた指揮官たちだったが何か違和感を感じる。
「なぁ、なんか揺れてないか?」
「地震か?」
指揮官たちが話した瞬間、港湾基地内に警報が鳴り響く。大きな音はラプチャーを誘引する原因となるために本当の非常時にしか使わないと厳命されていた警報が鳴り響いたのだ。
「なんだなんだ!?」
「津波だ!デカイぞぉ!」
海側から山岳部へと必死に走り出すニケや指揮官たちの叫び声に海を見ると港からは水が大きく減り、遠くから大きな壁が迫ってくるのが見える。
「ラプチャーが音を聞き付けてやってくるぞ!武器を、武器を運べ!」
「負傷者が先だ!急げ!」
「建物は危険だ。倒壊するぞ!」
「山を登れ!」
ニケたちは武器を仲間を、指揮官を背負いながら山へと必死に逃げる。
だが避難も虚しく、集積された物資と多くのニケや指揮官たちが巻き込まれるのだった。
この津波の原因がヘレティック《リバーレリオ》の仕業だと判明したのは数十年後先のことになるのだった。
「残存部隊は?」
「現在確認中ですが2割ほどかと」
「これでは指揮系統が成り立たんぞ」
「ラプチャーが急速接近、ここに進撃してきます。山岳守備隊が応戦中」
「工場地帯攻略部隊を呼び戻せ!」
ーー
「なに、港湾基地が壊滅?」
「はい、ラプチャーも殺到しているようで戻るようにと」
カスペンからの報告にヘクトールは悩む。
このような状況であれば港湾基地部隊へ援護に向かいたいのは山々だがこちらも大量に殺到するラプチャーの群れを相手に戦闘中だ。
このまま素直に撤退すれば港湾基地のラプチャーと工場地帯のラプチャーが合流して本当に手がつけられなくなる。
「アークから増援は出せないのか?」
「ここからではエブラ濃度が高く長距離通信は…港湾基地部隊から増援要請は受けていますがどう動いているかまでは」
「待機中の2個中隊を港湾基地に派遣しろ。我々もゆっくりと後退しつつアークへ撤退する」
「了解しました」
(ソーン、なにがあった…)
エブラ粒子に干渉を受けない通信装置を着けた筈のソーンからしばらく連絡がない。アークで何かあったのか分からないが動けないもどかしさにヘクトールもソワソワしているのだった。
ーー
「しかし、そんな状態でよく出てきたものだ」
「躊躇って後悔したくないんでね。それにアイツらは約束を破った。」
リリスの一撃を放った左腕はだらんと力なく揺れている。オーバーヒートによる一時的な機能停止状態に陥っていたのだった。
「しかしどこに向かわれるのですか?」
「地上かな、とりあえず」
ヘクトールには悪いがこのまま地上に離脱しようと考えていたソーン。
「簡単には抜けれないと思いますが」
「大丈夫だ、上層部はLのせいでそれどころじゃないからな…それに」
だが彼女は現在の地上の状況を知らずに行動していた。
現状では仕方のないことであるが、地上に派遣された部隊たちにとっては最悪のタイミングであっただろう。
ーー
ナイチンゲールの格納庫の隔壁の前では2人のニケが暇そうにしていた。
「暇だなぁ…」
「地上では派手にやってるのに私たちは立番なんて…」
そんな会話をしているその背後でナイチンゲールのモノアイが光り、ゆっくりと動き始める。身体が動き、周辺の機器が音を立てて倒れる。
「なぁ?」
「聞こえた」
誰もいないはずの格納庫から音が響き渡り、2人は目を合わせると恐る恐る武器を構えながら隔壁を開ける。
「ひっ!」
「早く閉めて!連絡を!」
ナイチンゲールと目が合うと急いで隔壁を閉じるボタンを連打する。
ゆっくりと隔壁が閉じる中、ナイチンゲールは歩みを止めずに外へ向かうが幅が大きすぎて扉で詰まってしまう。
「ナイチンゲールが動き出しました!もしもし!」
受話器に怒鳴り付ける見張りは壁を貫通してきたビームを見て受話器を放り投げて逃げ出す。周辺は吹き飛ばされ、炎の中を悠然とナイチンゲールは姿を表し、見張りが逃げていった階段を見つめる。
ーー
「一体何が起きているんだ!」
アーク上層部は混乱の極みに達していた。
地上部隊の壊滅、ナイチンゲールの暴走、保安長官が拷問の末に殺害、茨の園の関連施設から謎の爆発。
「私の!私の栄光が!」
「ナカモト博士、落ち着いてください!」
「やっと超えられると思ったのに!」
煙と炎が充満する茨の園に駆け込もうとするナカモトを羽交い締めにしながら止めるニケ。
ーー
「アンダーソン副参謀だ」
「お待ちしておりました。こちらです」
A.C.P.Uが豪邸を包囲し物々しい雰囲気の中、派遣されたアンダーソンは彼らの案内の元、邸宅の中に入る。
「状況は?」
「タグがなければ誰か判別するのは不可能でした。物凄い恨みを持った人間の犯行かと」
「…人間。そうだな人間の犯行だが…」
「えぇ、相手を殺すために拷問するなんてことはニケには出来ません。防犯カメラなどを調べていますが周辺の防犯カメラのデータが全て吹き飛んでいて…共犯者も居るでしょう」
部屋の扉を開けるとむせ返るような血の匂いが部屋に充満していた。普通の人間なら正気を保てないだろう。
「ここまでの現場は初めてですよ」
熟年のA.C.P.U隊員はそう呟くのだった。
ーー
「現在ナイチンゲールはメインシャフトを上昇中」
メインシャフトの最上部で待ち受けるニケたち。
「来たぞ!」
「撃て!シャフトの隔壁閉鎖まで持たせろ!」
ありったけの重火器をナイチンゲールに撃ち込むがヤツはビクともせずに上昇を続ける。メインシャフトの分厚い隔壁が閉まるのを見ながらニケたちはありったけの射撃を加え。
「撃ち方やめ!」
隔壁が閉じた。
「…ふぅ」
ニケたちが安堵した瞬間、急に気温が上昇するのを感じる。隔壁が熱を帯び、赤く膨れ上がってくるのを呆然と見つめた。
「総員待避!総員待避!」
自らの武器すら放り投げて必死に逃げるニケたちは隔壁が熱で溶けていくのを背中で感じながら叫ぶ。
「勝てるわけないだろ!」
ーー
地上、港湾基地付近。
「状況は?」
「直近のエレベーターは津波によって全て機能停止。復旧の見込みはありません。現在指揮官を優先して輸送中、我々も撤退準備をしています!」
港湾基地隊と合流したヘクトールは現場で指揮を取っていたソルジャーE.Gは厳しい表情を崩さない。
「キリー、なんとか稼働してるエレベーターを発見して指揮官たちはアークへ逃れたらしいわ」
「よし、なら全面のラプチャーに打撃を与えて、一気に後退する。ヘクトールさん、先陣をお願いできますか?」
「任せろ、カスペン行くぞ!」
「左翼より敵襲、敵は1機!」
飛び立とうとカスペンの手を握った瞬間、他のニケからの言葉にヘクトールは固まる。
ーー
「なんなんだ!?」
「ニケじゃない、何者!?」
両腕に巨大な斧を持ったニケ、だがその姿は異形であり、膝から先、肘から先がラプチャーと思われる機械の手足になっており、胴体に比して手足がやや長く感じる。
顔はガスマスクが縫い付けられたように皮膚が歪み、恐怖を感じさせる。
「まさか、ヘレティック!」
「フォメーションO、全方位から集中砲火を仕掛ける!」
「「「了解!」」」
エリシオンのニケのみで編成された部隊は一糸乱れずにフォメーションを完成させ素早く動き回りながら攻撃を仕掛ける。
「当たらない!?」
「メイ、後ろ!」
目を離してはいなかった。だがヘレティックは背後に一瞬で周ると手にした大斧でメイの脳天をかち割った。
「なんだ、この気持ち悪い動きは!」
「ミレナ、逃げろ!」
「ぎぁっ…たすけ!」
ヘレティックの左手で顔を鷲掴みされたミレナは左手に備えられたパイルバンカーで胴を吹き飛ばされ、残った頭部を握り潰される。
《姉さん…姉さん!》
謎に立ち止まり、震え出すヘレティックを見て恐怖を覚えるがその上空から高速で突撃してくる赤い影。
激突した鈍い音をたて、ヘレティックは吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、立ち上がる。
「こいつは…まさか。パリス…なのか?」
《素晴らしい恩寵を理解しようとしない愚物がぁぁ!》
ビームサーベルを構えるヘクトールは狂ったように頭を掻きむしるヘレティックを見て言葉を失うが相手は待ってくれない。
ヘレティックは一気に加速し、ヘクトールに迫るのだった。