ガノタがニケになっちゃった   作:砂岩改(やや復活)

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退路なき撤退戦

 

「エレベーターを全部停止させろ!」

 

「なんですって!?」

 

 アークエレベーター管理室に響き渡った怒号に職員は思わず立ち上がり遺憾の意を示す。

 

「地上に派遣された部隊がどれ程の数かお分かりでしょう。それを全て見捨てろと言うのですか?」

 

「指揮官とその護衛は戻っているのだろう。エレベーターにニケが殺到すれば位置が露見する!」

 

 鬼気迫る勢いで発言する上層部の者は職員に拳銃を向ける。先ほど言ったような事は当然、理由の1つだが最大の目的はソーンの脱走を阻止するためだ。

 その為には地上に残る数万のニケの命など惜しくはないという姿勢だった。

 

「承服しかねます!地上奪還のために今も命を懸けている彼女たちを見捨てる行為には」

 

《失礼します》

 

「え、エニック!」

 

 2人の問答の間に入るように仲裁に入ったのはアークの管理を任された高性能AI《エニック》であった。

 

《現在、津波による部隊壊滅、指揮官の早期離脱が原因により指揮系統は機能せず。地上奪還作戦の要であるニケ、ヘクトールは現在ヘレティックと推測される者と交戦中。他の部隊は殿を勤めている部隊を除き、無秩序な後退を続けています。地上部隊による自主的な立て直しは期待出来ません。》

 

 地上の絶望的な状況にその場にいた全員が凍りつくがエニックはなにもなかったかのように淡々と話を進める。

 

《港湾基地には奪還作戦用に数ヶ月分の物資が集積され、その全てを喪失しました。この損失だけでもアークの経済はしばらく低迷するでしょう。それに加え、アーク内部でも著しい損失の発生、帰還したニケの修復、維持コストが加われば経済崩壊の可能性が高くなります。》

 

「口減らしをしろと言うのですか!」

 

 数万規模のニケたちが全てアークに帰還すると仮定すると現在のアークの状況では全てを修復することは不可能だ。まともな修理を受けられず放置されたニケたちがアークに反旗を翻す可能性も0ではない。

 ならば最低限度の戦力だけ、アークで無理なく運用できるだけのニケたちを確保して後は地上に置き去りにする。

 もちろん、これは最終手段だ。それほどまでにアークは追い詰められているというのが現実だった。 

 

《はい。しばらくのニケの運用は守備と小規模部隊による物資の収集作業によってアークを立て直します。既に必要な最低限度の人員は揃っています。その点だけ見ても、ただちにエレベーターを停止させてください。》

 

「……分かりました」

 

 地上奪還のために後の運用を度外視して生産されたニケたちの末路がこれであった。

 

ーー

 

 高速の斬撃が交わり、激しい戦闘を繰り返すヘレティック・パリスとヘクトール。

 それをカスペンは唖然とした様子で見守るしか出来なくった、レベルが違いすぎたのだ。

 

「パリス、パリスなのか!」

 

《全ては姉さんのために!全てはクイーンのために!》

 

「話を聞け!」

 

 ヒートロッドを放ち左手の大斧を弾くとそのままビームソードで左腕を斬り飛ばす。

 

《堕落した女神の粛清こそ我らが使命!》

 

 だがすぐに左腕は再生し攻撃を再開してくる。

 

「厄介だな…仕方ないエピオンシステムを」

 

「ヘクトール!」

 

「っ!」

 

 足先がドリルのように回転し迫る。

 それを避けきれずに吹き飛ばされたヘクトールは岩壁に叩きつけられる。

 

《ヘクトール…ヘクトール!ヘクトール姉さん!姉さんんんんんん!》

 

 発狂するパリスは頭部に銃撃を受けて姿勢を崩すが奇怪な体勢で踏みとどまり、撃ってきたカスペンに視線を向ける。

 

「ヘクトールはやらせない!」

 

《姉さんは私のものだぁぁ!》

 

「逃げろ、カスペン!」

 

 サブマシンガンを撃ちまくるカスペンは高速で接近してくるパリスに臆することなく撃ち続ける。

 

「かかってこい化物!」

 

 捨て身の攻撃だと誰もが思う瞬間、振るわれた大斧はカスペンを掠め、地面に突き刺さる。それと同時に身を翻したカスペンは持っていたスイッチを押す。

 

 いつの間にか設置されていた爆薬が起爆しパリスを巻き込み、彼女は悲鳴を上げて苦しむ。

 腕が無くなれば生えてくる再生能力だが痛覚が無いわけではない。傷つけば痛いし、苦しい。なら、再生時に苦しませれば良いと考えたカスペンの判断は正しかった。

 起爆によって四散した破片がパリスの全身に突き刺さる。再生するためには破片を体外に排出しなければならないが、その行程でさえ痛みを感じる彼女にとっては地獄の苦しみだろう。

 

「はぁ!」

 

《あぁぁぁぁ!》

 

 カスペンはすかさずパリスの背中からコアを破壊しようとナイフを突き立てる。深々と突き刺さったナイフを支えにして暴れるパリスにしがみつく。

 振り払おうともがくが背中に手が届かずに悶える。

 

「カスペン!」

 

 ヘクトールの声と共に離れるとビームソードがパリスを真っ二つにする。

 

「行くぞ!」

 

 力なく倒れるパリスを置いてヘクトールはカスペンを掴んで一気に加速する。本当は名残惜しいが今は味方の撤退が優先だと判断した彼女たちは残存部隊の集結予定ポイントに急ぐのだった。 

 

《光は消えることはない…この世に消せぬものばかりなのだから...…》

 

 真っ二つになったパリスから無数のコードが伸び、近くにいたラプチャーたちをひたすら食べ続ける彼女の姿はまさに化物であった。

  

ーー

 

「第32小隊、通信途絶」

 

「第8中隊は壊滅したと見るしかありません」

 

 殿部隊の指揮をしていたソルジャーE.Gことキリーは部下に見られないように冷や汗をかく。

 

「残存部隊を密集させろ。マーキングしたラプチャー部隊に攻撃を集中させろ!」

 

 先陣を切って突撃してきたラプチャーたちが集中砲火によって出鼻を挫かれ、その隙に残存の殿部隊は集結を果たす。

 

「敵が大きく広がり始めました。このままでは半包囲されます!」

 

「持ちこたえろ。後少しで先に撤退した部隊が逃げきれる!」

 

 中央に攻撃が集中し嫌がったラプチャーたちが本能的に左右に広がったがその動きは集結した部隊を半包囲する形になってしまった。

 だが無秩序に広がったせいでムラのある包囲陣形になってしまったのをキリーは見逃さなかった。

 

「よし、突撃用意!」

 

 時計を見て頃合いだと察したキリーは声を挙げる。

 

「マーキングしたポイントに攻撃を集めろ。そのまま一点突破を図る!フォメーションAA!」

 

 最後の力を振り絞るようにして部隊は一気に全身、ラプチャーの群れに飛び込みながら脇目も振らずひたすら銃を撃ち続け、無数の犠牲を出しながらも突破に成功しそのまま速度を落とさずに撤退する。

 

 当然、ラプチャーも追いかけてくるが各所に設置した地雷原を使いながら撹乱しエレベーターへと走り続けるのだった。

 

ーー

 

「なんだ…これは……」

 

 必死の思いで逃げてきたキリーたちとヘクトールとカスペンは目の前に広がる光景に絶句する。

 撤退していた筈の部隊がまだ残り、帰ろうとする気配すらなかったからだ。

 

「どういう状況だこれは!?」

 

「隊長…」

 

 胸ぐらを掴んで問いただすキリーだが部下は虚ろな目で彼女を見つめ返すだけだった。

 

「エレベーターがアーク側から閉鎖されました」

 

「え……」

 

 万を超えていた部隊は既に数千まで減り、弾薬や食料も底を尽きかけている。現在はラプチャーと交戦していないがそれも時間の問題だ。

 地上をさ迷えばジリ貧で消耗していくだけなのは目に見えている。

 

「ある程度は搬送できていたんです。でも突然動かなくなって、エレベーターのシステムがロックされていました」

 

「これがアークの答えか…」

 

「キリー、どうする?」

 

「これだけの数を」

 

 誰も口にしない…だが広がる絶望に震える。

 ヘクトールもその状況に歯噛みする、アークにとって自分は必要な駒だと思っていた。だからこそ最後の最後まで撤退しないと決めていたがアークがこのような思いきった手に出るとは。

 

(これほどまでアークが追い詰められている...と言うことなのか)

 

「北北西よりラプチャーの大群が接近しています」

 

「逃げるか?」

 

「戦うしかないだろう!」

 

 明らかな混乱が見られ、このままでは収集がつかなくなる。それが分かっているがヘクトールとカスペンも指揮を取っていたキリーもどうやって見捨てられた彼女たちを宥めるか方法を見つけられずにいた。

 

「すまん、遅くなった」

 

「ソーン!?」

 

 今まで沈黙を貫いていたヘクトールの無線機に待っていた声が響き渡るとどこからかビームが飛来し、地面を覆い尽くしてきたラプチャーたちを根こそぎ薙ぎ払い、ファンネルが残存のラプチャーを掃討していく。

 

「このやり方は…」

 

「まさか…このタイミングで…」

 

 軌道エレベーターで見た記憶を呼び覚ますカスペンと唖然とするキリー。

 驚いていたのは彼女たちだけではなく、地上に取り残されたほとんどのニケたちが上空からゆっくりと降りてくる赤い機体を見つめる。

 

「で、伝説の」

 

「ナイチンゲール…」

 

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