敗残兵
「予定よりかなり遅れているな」
「仕方ない。負傷者ばかりですから」
「だが負担がかかりすぎている。これ以上は厳しいぞ」
後に言われる第一次地上奪還作戦が失敗に終わってから1ヶ月以上が経ちながらも彼女たちは生存し、ソーンが示した地点へと歩みを止めない。
地上でバラバラになったニケたちを救助しながら歩を進めるが部品の磨耗で動けなくなる者、ストレスが限界に達し思考転換する者、様々なアクシデントにあいながらも進み続ける。
その間にも1000を超えるラプチャーとの戦闘で人数は磨耗し、数を減らしていた。ソーンを中心に迎撃を行っていたがやはり犠牲者を0にすることは叶わなかった。
「後3日だ、3日進めばソーンの言ってた場所にたどり着ける」
そして、つい数時間前に一人だけ先行したソーンを思いながらもヘクトールは仲間を鼓舞して前へと進む。
「でもまさか英雄と会った初っ端から謝られるとは思わなかったよ」
「あれは驚きましたな」
キリーとカスペンはエレベーターが封鎖された直後の事を思い出す。
ソーンは地上の状況を確認してLとナユタを連れてすぐに飛び出してきたらしい。ラプチャーを殲滅した後でソーンはこちらに謝罪してきた。
《君たちがこんな状況になったのは俺にも責がある》
確かに原因の一端がソーンにあったとしても見捨てる判断をしたのはアークであるのは間違いない。むしろこうして助けてもらっている身で彼女を罵倒するものなど一人もいなかった。
現時点でかなりの人数が減ったがソーンが居なければそれ以上の犠牲者が出ていたのは間違いない。まして、避難先を示してくれただけでも精神的にはとても感謝しきれないほどだった。
中にはソーンを崇拝する者まで現れるほどであった。
「後3日だ、3日で辿り着く。みんな頑張れ!」
全員がお互いを鼓舞しながら進み、1日ふと気付くことがあった。
「なぁ、今日はラプチャーとあんまり会わないな」
「確かに…いままでは1日に20以上は交戦してたのに」
明らかなラプチャーとの遭遇頻度の低下に不思議に感じる。目的地周辺は安全確保のためにソーンがロード級を倒し意図的にコーリングシグナルを発生させていたのだ。
ようやく目的地にたどり着くとソーンがナイチンゲールから降りて待っていた。
「来たか…脱落者は?」
「何人かいたが今までより遥かに軽微だ」
「そうか…こっちだ」
ソーンが案内したのは岩盤がやや不安定な大きな洞窟、明かりもなくそれぞれが照らしながら進む。
「大丈夫なんですか?」
「急いで掘ったから早く行こう。通ったらここ爆破して塞ぐつもりだ」
暗い中をもくもくと進むと行く先に光が見える。
一人、また一人と歩む足を早め、進み始める。
「これは!」
たどり着いた先には先が見えないほどの巨大な地下空間が広がり、簡易的に照らされた場所にはやや濁った湖が広がる。だがその湖からは湯気が出ており、その正体に全員が気付く。
「温泉だ!」
「こんな地下に温泉が!」
「ラプチャーはここにはいないし騒いでも問題ないぞ」
「一番だぁ!」
「おい待てよ!」
通ってきた長い長い洞窟を爆破して塞ぐと今まで鬱蒼としていたニケたちが装備を脱ぎ、投げ捨て、歓喜の声を挙げながら温泉に飛び込んでいく。
「ソーン、ここは?」
「アーク建設予定地の1つさ、もっともここは地下を掘ったきりでそれまでで止まってた。茨の園にいる時に調べてた、アークから離れててなおかつ安全が確保できそうな場所をな」
ソーンもブーツを脱ぎ、足だけ温泉に浸かるとオッサンみたいな声を挙げる。
「温泉が湧き出てるのは知らなかったが。おかげでみんなの気分転換にはなったな」
「いやはや、こんなところで湯に出逢えるとは…」
隣でナユタも足をつけ、ゆったりする。ひとまず、それぞれが満足するまで温泉を楽しむのだった。
ーー
「ソーン、お前はどうするつもりだったんだ?」
「確かに、こんな場所を探してたし…」
Lの言葉にソーンは静かに笑うと一服して落ち着いてきた皆の視線が彼女に集まる。
「簡単さ…国を作る」
「く、国?」
「そう、アークとは違う。ニケの為の国を作ろうと考えていたんだ」
ニケの為の国と言っても人間を排斥するわけではない。ニケが一個人として自由に選択し、生きていける空間を作りたかったのだ。
「もし地上を奪還したらニケはどうなる。ラプチャーと言う驚異を失った人類がニケをどう扱うかなんて分からない。だからこそ、ニケだけで生きていく術を手に入れなきゃならない。アークと言う唯一の選択肢ではなく、自身の自由のために多くの選択肢をニケに与えたい。それが俺の目指す第二のアーク」
「選択肢を増やす…」
「まだまだ先の話だが下地を作るのに早すぎることはないからな…それと目的は他にもある」
ソーンの言葉に周囲がざわつくが彼女の言葉は終わらない。
「国を作り、そして軍隊を作る。地上を奪還するための真の軍隊。強い個はもちろん必要だ、だが群として集団としての力も必要不可欠」
「ふふっ…戦いは数だと言うことですか」
アークはもうすでに利権やくだらない縄張り争いで常に最高の戦力が投入できる訳ではない。
なら自分が作る、地上奪還のための決戦軍隊を、もしクイーンを見つけたらそれを確実に殺すための軍隊を作って見せる。
「ニケの為の国を…」
「地上奪還のための真の軍隊…」
あまりにとてつもない言葉に全員が呆気に取られていたが沈黙が続くと共に彼女たちの中で感情が揺れ動き始める。色々な感情が沸き上がり、一人、一人と声を挙げていく。
「そうだ...自分達で生きるんだ」
「私たちだけの国を!」
「私たちの軍隊を!」
「真の人生を!」
つい先ほどまで絶望していた瞳には光が灯り、歓声が沸き立つ。
「我々は負けた。それは事実だ、だから受け止めよう。だがこの怒りも悲しみも忘れてはならない!」
「おおぉ!」
「ニケに自由を!地上の奪還を!だからこそ頼む、俺に力を貸して欲しい!」
「わぁぁぁぁぁ!」
こうして地上奪還を目的とするニケだけの軍隊デザトゥーア(敗残兵)が誕生したのだった。
来るべき最終決戦のためにソーンが産み出した軍隊。
そして同時に建国されたニケたちの国がどのような結末をもたらすのかは誰も知らない。