アークの星と謳われたプリティーことフリージアは失意の中にいた。心から尊敬し愛していた父、オスワルドは彼女の憧れであり、星であったゴッデス部隊を追い出した張本人だと知った。
ニケの希望であるべき自分は酒に溺れ町で暴れた挙げ句、その記者会見で襲撃され多数のニケたちの犠牲を生むことになった。
長期休暇に入ったフリージアは公園で彼女のファン《アニス》と出会い、ダンスを見てあげた。
荒んだ心が少し軽くなったと感じ、アニスと別れを告げた時、公園の端でニケに土埃をはらってあげている人物が視界に入る。
「え?」
端から見れば親切な人がいたと傍目で見るだけだろう。だがニケとなり、感覚が鋭くなった彼女はサングラス越しに見つけてしまった。
憧れの1人、目の前でストームブリンガーを真っ二つに切り裂いた空の覇者《ソーン》を。
「待って!」
かなりの距離であったはずだがすぐに駆け寄り、去ろうとする2人が手に届きそうなほどのまで近づく。
「あ、あの!」
その声はかなりうわずっていたと思う。だが2人は振り向き、ソーンと目が合う。
間違いない、灰色の髪、サングラス越しの紅い瞳に隠しきれていない隈、昔ずっと見ていた画像と同じ顔。
「大空の女神さまですよね」
ーー
大空の女神なんて恥ずかしい名前を思い出す。
確か、ゴッデス部隊に入ってからの初陣の時にストームブリンガーを真っ二つにしたから言われたんだったか。
「……」
どう返事をすれば良いか悩む。
現地局員もどう対応すれば良いか迷っているようだ。まだ悪意を持って声をかけられた方が楽だっただろう。だが、彼女は明らかに純粋な好意を持って近づいてきた。
「あ、あの!私、貴方の初陣を見てて!それと、アークガーディアンの時にレッドフードにも助けられて!」
「レッドフード…」
言いたいことが渋滞してる彼女の言葉を聞いてソーンは少しだけ目を見開く。ゴッデスを去った後のレッドフードを知る少女。それだけでも彼女の興味は沸き上がる。
「周辺警戒を頼む」
「しかし…」
「頼む、戦友を知る者だ」
「…分かりました」
「えっと…」
「落ち着け」
しどろもどろな彼女を落ち着け、近くの椅子に腰かけさせる。
「ソーンさんでよろしいんですよね」
「そうだな」
返事をするなり、抱きつかれる。
「生きてたんですね…良かった」
「………」
挙げ句の果てに泣き出してしまった彼女に困惑しながら落ち着くまで待つ羽目になった。
ーー
「その時にサインを貰ったんです。まだ家にあるんですよ」
その後、落ち着いたフリージアからレッドフードの事について聞いた。侵食末期のしんどい時期だっただろうに相変わらず困っている人がいれば助けずにはいられない。
「相変わらずだな。アイツは…」
「その、レッドフードは生きているんですか?」
「……分からない。俺もアークガーディアン初期にレッドフードと別れてから会っていない。その後を知ったのは君の話を聞いたこの瞬間さ」
状況的に死んだと言う見解が正しいだろうがレッドフードが死ぬなんて信じられないと言い続ける自分が居るのもある。
まぁ、リリスも死ぬなんて信じられなかったが…案外そんなものかもしれない。
「ソーンは、参加してましたか。アークガーディアン作戦に」
「俺はその頃、アーク内で作業していたからほとんど参加してないな」
「でも追い出されたんですよね。アークに…その……オスワルドって人に」
「オスワルドか…懐かしい名前だな」
確かパリスがいたリブラ部隊と戦った後に助け船を出してくれた中央政府の高官だったはずだ。
「アイツには助けられたな…元気かな」
「え?」
「ん?」
フリージアの意味不明と言った感じの表情に思わず聞き返すソーン。
「でもおじさんに追い出されたんですよね?」
「おじ?まぁ、そうだな」
「助けられたってなんですか?」
「そのままの意味だよ。ゴッデスはアークに居ては悲惨な結末を迎えていただろう。助けるために追い出してくれたんだ、俺の頼みを最後まで全うしてくれた恩人さ」
「え…うそ……」
情報がフリージアの処理を越えて混乱する。
「あの~」
しばらくブツブツと呟きはじめて戸惑うソーンに対してフリージアはカッと目を見開き、ソーンの両手をしっかりと握りしめて向き合う。
「おじ…オスワルドと会ってみませんか!?」
「知り合い?」
「私のお父さんです!」
そう叫んだフリージアは住所を殴り書いた紙を渡す。
「良ければ来てください。私は先に行ってますから!」
「わぁ…」
あまりの勢いに呆気に取られるソーンは凄まじい速度で駆ける彼女を見届けて。
「若いっていいなぁ…」
ーー
他の者たちには難色を示されたがソーンは結局、渡された住所に赴くことにした。
アークにおいてかなり危険な行為をしていることは重々承知しているがこれを行かずにいればなにか取り返しの着かないことになるのではないかと思ったからだ。
インターホンを押すとフリージアがはにかみながら出てくる。
「すいません、改めて考えたらとんでもないことしてましたね。本当にありがとうございます」
「気にするな。時間はあるからな」
「でも、来て貰って本当にありがたいです。お父さんもずっと後悔してると思うから。かなり散らかってますけど…どうぞ」
「あぁ」
言われるままに酒の匂いが充満する部屋に足を踏み入れるのだった。
ーー
マスタングの策略でフリージアとの関係は実質破綻し酒浸りの生活を送っていたオスワルドは帰ってきた彼女の姿を見てボロボロの体に鞭をうち動こうとする。
「お父さん…」
必死に体と口を動かしていた彼はその言葉に止まり、改めて対話を始める。本当にひさしぶりの会話であり、2人は部屋を片付けながら溝を埋めるように会話を続けていた。
ピンポーン
そんな時、来訪者を告げるインターホンが鳴り響く。
「こんな時間に誰でしょうか」
「私が呼んでたの、お父さんは座ってて」
綺麗にした椅子に座らされ、嬉しそうに家を駆けるフリージアを見て嬉しくなっていると来訪者が中に入ってきたようでフリージアとの会話が近づいてくるのが分かる。
「フリージア、やはりこのような部屋ではいけません。どこか外で...…」
ある程度片付けたとは言えこのような惨状の部屋に誰かを招くのはよろしくないと椅子から立ち上がった瞬間、フリージアの後ろから灰色の髪の人物が入ってくる。
「まさか…」
ありえないと、内心断じながらもゆっくりとサングラスを外したその姿は間違いなくゴッデス部隊のソーンであった。
「悪いな。お取り込み中に」
自分が冷たい棺に閉じ込めたソーンが今、自分の部屋で立っている。
つてからソーンが第一次地上奪還作戦時にアークから脱出したと知っていたがまさか再会することになるとは。
「せっかく会えたんだ。恩人殿に礼の一つでもと思ってな」
その瞬間、オスワルドは崩れ落ちた。