「ゴッデス…またしても!」
「邪魔です」
ドロシーはプライドを吹き飛ばした後、ハシュマルを飛び越すように宙返りをしながら彼女のライフル《アングレイトフル・オズ》から光弾が放たれる。
反撃のためにビームを放つがドロシーはソーンのファンネルを足場にして優雅に空中で軌道を変えるとさらに光弾の雨を降らせる。
「ちっ…」
流石に不利を感じてきたパリスは撤退するために尻尾を振り回す。
「ソーン!」
「ヘクトール!」
そこへ駆けつけたヘクトールが尻尾を切断しビームソードでハシュマルの首を落とされる。
「ヘクトール…姉さん?」
パリスはソーンとヘクトールを交互に見て混乱する様子を見せるが今度は蹴られたプライドが起き上がってくるが再び地面に伏す。
上空から大口径砲による砲撃がプライドに降り注いだからだ。
プライドはエネルギー兵器に対して高い耐性を持ち実弾に対してもそうであったが全盛期の半分以下のプライドにとって大口径砲の直撃は生命の危機を感じるレベルのダメージであった。
「どこから?」
「キリーめ、心配性だな」
「攻撃を絶やすな。敵大型ラプチャーに集中砲火!」
「あれは…勝利の翼号」
ドロシーの視線の先、上空に浮かんでいたのはかつてゴッデス部隊の拠点として活躍した空中戦艦《勝利の翼号》に酷似した艦艇。
勝利の翼級二番艦《勝利の光号》サイド3で建造された敗残兵空軍の旗艦である。
「艦長、ソーン様を発見。無事を確認しました」
「良かった…敵を牽制しつつ地上部隊を回収する。部隊を降下させなさい!」
勝利の光号の艦長マリルはソーンの姿を確認すると安堵しつつも支持を続ける。
「ちっ」
部下であるラプチャーたちが吹き飛ばされるのを見てパリスは歯噛みする。
「まさか、今までの姉さんは姉さんではなかった?」
人体構造を越えた首の動きをするパリスはヘクトールを見つめる。
「私がヘクトールだ。だからソーンに絡むのはもうやめろ」
「………」
パリスは首を戻すと無言で飛び上がり、地平線の彼方へと消えると同時にプライドや黒い小型ラプチャーたちも撤退していくのだった。
「ひとまず状況終了だな…」
「ソーン…」
「ドロシー、疲れただろう。俺たちの国に来い」
「国ですか?」
ーー
勝利の光号に乗り、サイド3へと向かう一行、ドロシーも興味深そうに艦内を探索していたが勝利の光号は外観こそ似せているものの設計段階から完全に別物なので姉妹艦ではない。
当然内部構造も違い少し落胆していたが艦内で活気に溢れている様子を見て少し楽しそうではあった。
「これは」
「マリーゴールドだ。好きだろう?」
「えぇ」
帰ってきたドロシーを向かえたのはマリーゴールドの花茶とソーン。茶菓子も立派なもので今の御時世では考えられない物ばかりだった。
「遅かったな」
「握手やサインを求められまして」
「すまないな。みな、ゴッデスのドロシーと聞いて居ても立ってもいられなくなったんだろう」
ドロシーも律儀なもので求められれば全員にやってしまうもので帰ってくるまでにかなりの時間が経ってしまった。
「ニケの国、噂は耳にしていましたが貴方が建国したとは驚きですね。他人に興味がなかったと思っていましたが」
「間違いないな…時間はある。昔話でもしようか」
ーー
勝利の光号艦橋
「落ち着きませんか?」
「おや、不思議なことを言う。いつも通りですよ」
艦橋の端で瞑想し浮遊ていたナユタをどういう原理なのか興味を持ちながらマリルが話しかける。
「ソーン様がゴッデスに居られたのはどれ程なのですか?」
「1年と少しと聞いています。アークガーディアン作戦のおりにソーンはアークへと移ったそうですから」
「我々は10年以上ソーン様と居りますがゴッデスと話す時のあの方は全然違います。やはり特別なのですね」
「………」
ほんの少しだが眉をひそめているナユタを見てマリルは艦長席へと戻っていくのだった。
ーー
「非常に愉快ですね」
「ちょっとやりすぎたかなって思ったけどな」
一番盛り上がったのは第一次地上奪還時の脱出劇だ。
サイド3建国まで話した頃にドロシーは呟く。
「アークが憎いですか?」
「…嫌悪はしているな。井の中でも神様ごっこをしている連中だ。一生治らんだろうさ」
「スノーホワイト達には会いましたか?」
「あぁ」
「なら聞いているでしょう。私たちがアークに見捨てられたことを…あの扉が開かれることはなかった事を…」
「……そうだな」
「オスワルド。私たちを追い出したあの男だけは」
「オスワルドね…」
リブラ部隊を倒した後に現れた中央政府の高官であり
ある意味恩人でもある人物を思い出す。。
「それって…」
ソーンが口にした瞬間、勝利の光号が着艦し大きな衝撃が伝わり、勝利の光号用に建造された巨大なエレベーターで地下の格納庫へと向かう。
「短い期間でこれ程の物を?」
「このエレベーター含め、ほとんどはあらかじめ作ってあったんだ。ラプチャーの襲撃で損傷していたりしていたがほとんど無事でな。内部構造はハーモニーキューブで1週間程で完成してる」
「考えれば貴方ならこれぐらい訳もないでしょうね」
「友人達の手助けがあったからさ」
「あの僧侶ですか?」
「含めてな。そう言えば事後報告になったがお前にも了承を得たい事があった」
「?」
戦況は落ち着きを取り戻した前線をキリーに任せサイド3に戻ってきたソーンとドロシーは当然ながら盛大に迎えられた。ゴッデス時代を知るニケ達にとっては二代目リーダーであるドロシーのファンも多く歓喜の祝福を惜しみ無く送られる。
「俺もゴッデスなのに隣でドロシー様が一番の推しでしたって…遠慮しろよなぁ」
「ここで誰よりも尊敬を集めているのは貴方でしょう」
「俺が勝手にやって皆が着いてきてくれた。それだけだ」
「…貴方は変わりましたね。良い方に」
サイド3、第3層の最下層。
ここはソーンの研究所であり、サイド3でもごくごく一部しか入れないエリアだ。
「スノーホワイトたちと会ったのは言ったな」
「はい」
サイド3の真の最下層に繋がる唯一のエレベーターの扉が開くとそこには地上かと錯覚するレベルの夜空が広がっていた。
月夜に照らされ揺れるのはリリーバイスの花畑。
「これは…ただの花畑ではありませんね」
「当然、景観にかなりこだわったがこれも防衛システムの一つだ。アークガーディアンの際にスノーホワイトの案内で行った花畑をラプンツェルの証言を元に再現したんだ」
「先ほどから気になっていましたが白ちゃんと呼ばないのですね。」「記憶もなくしているし立派になったからな。少し寂しいが」
花畑の先にある壁、リリーバイスのフラワーウォールを抜けると通路の先にはゴッデス部隊の紋章が刻まれた隔壁がゆっくりと開く。
隔壁の先に広がる広間、そこには紋章が刻まれた7つの隔壁が存在する。
リリーバイスの花、翼、十字架、リンゴ、狼、茨、剣の紋章が刻まれそれがゴッデス部隊それぞれをモチーフにした物だとすぐに察しがついた。
「レッドフードは絶望的ですが生死不明なので分かります。でもなぜリリスの紋章まで…まさか」
「そう、ここにはリリスのボディが一切の遜色が無いよう完璧な状態で保管されている。お前に言わなかったのは悪かった」
スノーホワイトたちと再開した後、ソーンはラプンツェルと二人だけでリリスの体が隠されている凍土へ赴き。そのボディを回収した。
ボディだけの彼女を見たソーンは感情の暴風雨に晒されたが必死に平静を装い回収したのだ。
「この事はゴッデスのメンバーしか知らない。我々にとって何よりも神聖なのもあるがこのボディは火種になりうる」
「…挨拶をしても?」
「あぁ、待ってる」
ドロシーの認証を登録し、ゆっくりとリリーバイスの隔壁が開かれる。
部屋にこれでもかと敷き詰められたリリーバイスの花、棺の上には丁寧に保管されたゴッデス指揮官の認識票が置かれていた。
「……」
ドロシーが部屋に入っている間、ソーンは静かに架空の夜空を見上げるのだった。