(こんなことをしてて良いのでしょうか…)
サイド3に招待されてからかなりの期間が経ち、様々なニケたちと交流していたドロシーはソーンの邸宅の温泉に浸かりながら考える。
30年近く、地上を放浪し辿り着いた楽園ではあったがドロシー自身はなにもすることがなく怠惰な時間を過ごしている気がしてならなかった。
(第二次地上奪還のせいで皆さん忙しそうですし。下手に動いて迷惑をかけるのは…)
当初はサイド3でアークに対する復讐計画でも立てようと思っていたがサイド3全体があまりアークに対して強い憎悪を持つ風潮ではなかった。
元首であるソーンの考えも関係あるだろうが、そんなものより地上奪還への強い熱意が影響しているのだろう。
豊かな生活
強い目標
この二つを得たサイド3民はアークへの復讐を二の次に出来るほどの心の余裕が生まれていた。
そんな中にいると自身の復讐心も薄れてしまいそうでドロシーとしても困惑していた。
「ドロシー!」
「きゃああああ!」
「ギャン・クリーガー!」
そんな中、突如視界に現れたソーンを思わず投げ飛ばし、彼女は立派な竹林の中に落ちていった。
「久しぶりに会えたと思えば、少しは配慮をしてください!」
「なんか憂いを帯びたドロシーはなんか…被虐心がくすぐられるというか。俺も風呂はいろ」
泥だらけになった服を脱いでドロシーの横に入るソーン。
「それで、なに用ですか?」
「暇だろうと思ってな。ちょっとお使いに手伝ってくれない?」
「お使いですか?国家元首なのでしょう、他の者に行かせれば良いではないですか」
「二次奪還絡みでみんな忙しくてな。大昔に造られた人工島にサイド3に必要なものがありそうなんだ」
端末を操作して地図を見せられるが距離としてはかなり遠い距離だ。
「ここからギャルセゾンで1週間ぐらいかな」
「かなりの距離ですね」
「少数かつ迅速に動くとなるとドロシーと俺が最高戦力だからさ」
サイド3は本格介入していないが今は戦時下に等しい状況だ。ただでさえ人数が少ないサイド3ではやや荷が重いし、ソーン自身もじっとしてられる性格ではなかった。
「分かりましたからくっつかないでください」
「明日の朝、出発な」
「もっと事前に言ってください」
ーー
「快適すぎますね」
「辛いより良いだろう?」
「そうですが…」
新型SFSギャルセゾンの光学迷彩おかげでラプチャーと交戦することなく悠々と移動をしていた。
「まさか地上で焚き火が出来るなんて」
ギャルセゾンはその広さから移動式のテントとしても快適に作られており、一定範囲をジャマーでラプチャーの目から完全に隠せるため焚き火をしても襲われる心配はない。
「焚き火は旅の醍醐味だからな」
底が煤で真っ黒になった金属ケトルを耐熱手袋で掴み、コーヒーと紅茶を淹れる。
深く焙煎されたコーヒーの香りと紅茶の柔らかな香りが交わりながら、火に炙られる木の音が静かに響き渡る。
香りを楽しみながら紅茶を嗜むとふと空を見上げれば満天の星空が視界を埋める。
「美しい夜空ですね」
「こうしていると人類が滅びかけてるなんて嘘に思えてくるよな。人が地上から消えて約30年、長年課題にされていた地球環境は改善しつつある。砂漠の拡大も収まり、大都市は植物に覆われつつある」
ソーンも自然と夜空を見上げる。前世でもこれ程見事な夜空はお目にかかっていないだろう。
「人間が汚染し続けた地球が浄化されつつあるという事ですね」
「人が自然から産まれたものなら、人が出すゴミや毒も自然の産物ってことになるだろう。ある意味、ラプチャーも限界を向かえつつあった地球を護るために現れた物なのかもな」
「ラプチャーが…ですか?」
「ラプチャーが人間から産み出されたものであれば、根元を辿れば自然がバランスを取った結果なんだろうよ」
川魚と野菜を煮込んだシチューが出来上がり、2人は景色を楽しみがら食べる。
「ドロシー」
「はい?」
「アークが憎いか?」
「当然です」
アークが憎い、それは間違いないが奥底でそれを否定しようとする自分がいるのもまた事実である。
「なら滅ぼすか?」
「っ!?」
そんな迷いを試すように放たれた言葉、ソーンの瞳をまっすぐ見る。間違いない、ソーンは本気の目をしている。
自身が滅せと言うならば彼女は間違いなく滅ぼすだろう、そんな瞳をしていた。
(ドロシー…)
対してソーンもドロシーの瞳を見つめる。
明らかに動揺している。それは自身の発した言葉が重いという事を理解しているからでもあるだろう。
もちろん、今後の事を考えればアークと協調関係を保ち今後の憂いを少なくするのが得策だろうし、そのつもりでいる。
だが家族が許せないと言うのならば滅ぼしてしまおうと言うのも彼女の本音であった。
実際にアーク制圧用に編成された部隊も存在する。
「いえ、これは私の戦いです。私の手でやります」
「…そうか。分かった」
一瞬の緊迫感が解け、空気が戻るとドロシーはソーンに気付かれないように息を整える。
「お前の絶望を俺は理解できない。俺はあの場に居なかったからな。だけどお前は俺の悔しさを理解できない、どれだけ苦しくても俺は残るべきだったという悔しさをな」
「そうですね。その通りです」
「だから対話が必要なんだ。俺はお前のためならアークを滅ぼすことも躊躇いなくしよう。だけどそんな単純なもんじゃないだろ。お前は賢い、俺なんかより遥かに。国を率いるべきはお前のようなヤツだ」
励ますための言葉ではない、ソーンの偽らざる気持ちにドロシーも声を震わせる。
「買い被りすぎです、私にそんな資格はありません。私がもっとうまくやれていれば…あのようなことには。ピナを殺さずに済んだかもしれないのに!」
「でもスノーホワイトもラプンツェルも紅蓮もお前以外にあり得ないと言っていたぞ」
「それは…」
「お前は間違いなく。ゴッデス二代目…いや、現リーダーじゃないか」
思わず立ち上がってしまったソーンは意味もなく周囲を見渡して座り直す。こんなこと自分のキャラでないと思いながらも紅茶の水面を見つめるドロシーを見つめ直す。
「貴方もアークに実験台として送られたのでしょう。なぜ貴方は平気なのです?」
「俺はお前と違ってアークに対して期待も希望も持っていなかったからだよ」
そもそもソーンはアーク封鎖後には地上を放浪しようと考えていた程だったので追い出されるのは別に良かった。
アークを求めたゴッデスが弾き出され、求めていなかったソーンがアークに捕らえられるなんてなんて皮肉だろうか。
「アークと人類を愛していたお前たちは辛かっただろうな」
愛を超越すればそれは憎しみになる。人類の希望、ゴッデスとしての矜持を強く持っていたドロシーは特にそうだろう。
「アークどうこうを今すぐする気がないなら他の事をすれば良い例えば…第二のゴッデス部隊を育成してみるとか」
「部隊ですか?」
「他人と触れあうのは大切だ。それになにか発見があるかもしれないからな」
「…そうですね。考えておきます」
「協力は惜しまないよ」
ーー
それから数日、ソーンとドロシーはサイド3内の近況を言い合うばかりで深入りはしなかった。
そうしているうちに目的地に辿り着いた。
「人工島に建てられた廃城。いかにもですね」
「今のサイド3にとっては宝だ…な……」
城の敷地中に入り見渡すと2人は静かに目を合わせる。
何者かがいる形跡がある、しかも最近。
「こんな廃城で生活跡があるとは。驚きですね」
「もっと面白いのがある。この城壁、かなり高いレベルの信号遮断能力を備えてるな。アークの外周部に使われてるヤツと同じレベルのやつだな」
軽く中を確認したが誰も居ない。出掛けているのだろうか。
「どうしますか?」
「地下を探そう。こう言うのはだいたい地下にあるんだ」
地下を中心に探しているとそれらしい鋼鉄の扉が見つかる。廃城に似つかわしくない厳重なセキュリティの扉だ。
「セキュリティはまだ生きてる。ここにハイパーフードが」
「待ってください」
パスワードを解析しているとドロシーが肩に手を添えてくる。
「キサマら!いったいなんの用なのだ!」
ドロシーの視線の先には小柄なニケが憤慨していた。