「では緊急幹部会を開催します」
「各々、聞きたいことは一つだろうがまずは全ての情報を整理した後に聞こう。頭が一杯になっては話が進まないからな」
親衛隊隊長 ヘクトール
親衛隊情報局長兼軍警総監 カスペン
参謀本部総長 キリー
敗残兵陸軍大臣兼黒の槍先部隊長 ランス
敗残兵空・海・宙軍大臣 マリル
都市開発局長兼外務大臣 ミレイナ
先進技術局二代目局長 レイチェル
技術顧問 ナユタ
空席のソーンの席
文字通り幹部全員が一堂に介しキリーの進行で話が進められる。まずカスペンが立ち上がる。
「アークは正式に第二次地上奪還の失敗を宣言し全ての戦闘活動を停止。失敗の原因をニケの性能不足及び新星ヨハンの作戦失敗等を挙げ火消しに奔走しているようです。また、アーク管轄区域広域にミシリスが安定通信区域を確保し地上活動による通信が可能になったようです」
「例の科学者は?」
「既にアークで確保し空軍の輸送機でラサ基地に搬送中です」
「ラサに?」
マリルの言葉にキリーが疑問の声をあげるとランスが発言する。
「陸軍絡みで依頼した。興味深い人間を確保したが瀕死でな人物が人物なだけあってラサ基地で治療を行ってる。目を覚ますのは少し先だろう」
「なぜラサだ。設備的にもサイド3の方が良いのでないか?」
「サイド3建国以来、人間が入国した例がないから判断に困ってとりあえずラサに運んだ」
サイド3に人間が入国してはならない法律などはないが人間の辛い扱いに対して形成された集団と言うのもあって忌避される傾向があった。
「ソーンは気にしない」
キリーの発言で決まり、話題は次の話へと向かいミレイナが立ち上がる。
「皆さん忙しくて食事がまだだと聞きましたので食事を用意しました」
サイド3の名店うどん屋《徳間亭》のうどんが各自に配られ全員が迷わず食べ始める。
「このうどんは徳間亭と協力して製作したもので原材料は初期生産のハイパーフード小麦種を使っています」
「ハイパーフードを輸入してからまだ1ヶ月ぐらいしか経っていないのにもう出来たのか」
「味も徳間亭そのものだ。遜色ない」
「現在、様々な品種にハイパーフードの因子を組み込んでいる最中ですが小麦、米、トウモロコシは既に生産を開始。順調です。次、このような大規模な人口増加が発生しても食料問題は問題ありません」
ミレイナは鴨うどんを食べながら機器を操作しグラフを出す。
「現在サイド3本国に入国予定者は既に既存の人口を越えております。アーク帰還希望者は我々の事関して記憶消去処理を行った後に帰還させる予定です」
「入国予定者と言うことはまだ増える予定か?」
海老天うどんを食べているキリーの質問に頷く。
「聴取可能な状態で回収、亡命してきたニケは少ないです。脳が無事な状態で放置された者が多く、聞き取りが出来ていません」
「先進開発局で簡易的な仮ボディを製造してるけど数が多くてまだ時間がかかるかな」
レイチェルはきつねうどんを食べながら端末を確認する。
「本国に着いた者たちは仮居住区で軍警の監視中。現在問題なし」
軍警ギラ・ドーガ部隊が念のため仮居住区域の警戒に当たっているが特に動きはない。動きがあればカスペンの元へと速報が来る。
「部隊の損耗状況は?」
「陸軍損失なし、危ない場面も多かったがなんとか踏ん張ってくれたよ」
「海軍、空軍共に異常ありません。海軍は一番艦がオーバーホール、二番艦がエンジンの不調で緊急メンテナンス、現在稼働できるのが3番艦のみですのでご承知おきください」
ーー
アーク内、V.T.C総会会場。
「第3小隊応答しろ!」
「リブラ部隊との連絡がつかない!」
会場を警備していたリブラ部隊は突如の襲撃者に襲われ壊滅の機器に瀕していた。
「割に合わない仕事だったか。大人数とは思えないけどねぇ」
隊長であるスカルクはため息を付きながら精鋭と共に現場に向かう。
リブラ部隊は対人、対ニケの特殊部隊だ。それが手も足も出ずにやられるなんて。
「右!」
銃を構える前に部下が頭を撃たれやられる。
「こりゃ駄目だ…」
スカルクは応戦しながらもそう呟くのだった。
総会の会議室では多少のざわめきはありながらも予定通り行事が進められる。
参加していたクラウディアスは少し落ち着かなそうに出口を流し見ると大きな音を立てて扉が蹴り開けられる。
「スカルク?」
見慣れた姿に若干の安堵があったもののそのままスカルクは力なく倒れ、襲撃者が姿を表した。
「V.T.Cは虎の尾を踏んでいたと言うことか」
ーー
第二次地上奪還絡みのそれぞれの部署による情報共有が行われ一段落着いた頃。沈黙を続けていたナユタが口を開いた。
「そろそろ私の出番ですかね?」
「すまない、ナユタ。頼む」
いよいよ今回の本題であるソーン絡みの話題へと入っていく。
「レイチェルと共にありとあらゆる検査を行いましたがボディに異常無し。肝心の脳についてですが劣化等は見当たりません。でしたが脳波の乱れを観測しました」
脳波の乱れと言う言葉に全員が背筋を寒くする。
「我々は専門家ではない。分かりやすく教えてくれ」
「端的に申せばソーンの脳と言う大図書館に小さな小石が入り込んだ。小石が原因で本棚が倒れ、他の本棚も連鎖的に将棋倒し、本棚と本を再整理するために全ての活動を停止していると言うことです」
ソーンの頭の中は既に情報でギチギチ、そこに僅かでも異物があればそれだけで崩壊してしまう脆いものなのだ。
「不幸中の幸い、致命的なものではありません。時間が解決してくれます、どれ程の時間を要するかは不明ですが」
「原因は?」
ヘクトールの言葉にナユタは黙る。
時間にしては1秒もないだろうが会議室にいるメンバーにとってはとてつもなく長く感じた。
「アークの茨の園による影響かと」
「アイツらぶっ殺してやる。カスペン、特戦隊でアークを滅茶苦茶に!」
「やめろヘクトール」
「ランス!」
感情が爆発したヘクトールの喉元に槍先が突きつけられる。
「首謀者ならもう殺してる。アイツが殺してくれと懇願する姿でも教えてやろうか?」
「…すまない。遠慮しておく」
ランスの不敵な笑みを見て席に座り直すヘクトール。
だが全員の気持ちは同じであり、改めてアークに対する憎悪を確認することになった。
冷静沈着をモットーにしているキリーはいつもより深く椅子にもたれ掛かる。
「サイド3はニケによる独立主権国家を謳っているが纏まっているのはソーンの人望によるものだ。彼女が居なくなればサイド3は空中分解する。ナユタ…情けない話だがどうにかならないか?」
「既にソーンの脳波の働きを補助する装置の開発に取りかかっています。そのためには専用の超度演算処理装置が必要です」
「ミレイナ、何機つかえる?」
「サイド3運営に使っているのが3機、予備の2機はすぐに使えます」
「足りません、増産をお願いします」
「いくつ欲しい?」
「10」
「10!?」
予想外の数にミレイナを含む全員が驚くがナユタもレイチェルもいたって真面目であった。
「それでどれだけ縮められる?」
「分かりません。彼女の頭の中は誰にも分からないのですから」
ーー
サイド3、仮居住区域の一角では亡命してきた15名ほどのニケたちが集まり話し合いを開いていた。
だが穏やかな話し合いではなく、状況は一触即発と言っても過言ではなかった。
「この裏切り者が!」
「ここは石を投げれることも意見を言って殺されることはない!ゴッデスフォールを知ってるだろ!」
スパイとして派遣されていたニケたちの意見が真っ二つに別れていたのだ。
「裏切り者はここで処分しなければならない」
「私はこの話に乗る!」
隠し持っていた拳銃で嫌がるメンバーを処分しようとした所、黙っていた一人がリーダーに拳銃を向ける。
「貴様!」
「もうパサパサのパーフェクトバーなんて食べたくない!」
「アークを裏切ると言う事は人類を裏切ることになるんだぞ!」
「もういい!処分しろ!」
狭い室内での激しい銃撃戦が始まり決着は一瞬だった。
軍警が部屋に突入した頃には立った一人の生存者を残しメンバーは全滅していたのだった。
この事件は本来であればアークの野望が潰えただけの事件であったがこの事件を契機にサイド3は予期せぬ方向へと混乱が拡大する結果となるのだった。