「ここは…」
おそらくはソーンの精神世界、心象空間であると思われるがアークに捕らえられている時と違い視界一杯に広がる本棚とびっしりと敷き詰められた本。
「以前と違う。意識階層が違うと言うことも…」
やや狭い通路を抜けた先には広い空間が広がっており、受付に1人の少年が座っていた。
「君は…」
「ナユタか」
「ソーン?」
話し方がソーンそっくりな少年は新聞を閉じるとナユタ見据える。
「ここに来れるとは君はよほどソーンに信頼されているんだろう。技術的にも信頼度的にもここに来られるのはラプンツェルぐらいだと思っていた」
「ここはどこかとお聞きしても?」
「心の最深部。本人ですら関知できないであろう空間だ。そして俺はそこの管理人みたいなもの。流れでなっただけだがね」
少年は珈琲を飲むと左手をフイと横に振る。
どこからともなく椅子と小机が現れ卓上には同じ珈琲の入ったカップが置かれている。
「貴方について興味が尽きませんねぇ...」
出された椅子に腰掛けながら着物を正すナユタ。
「俺はソーンの源流、前世とも言うべきか。その名残、残りカスのようなものさ」
「不思議には思っていました。ソーンの体も脳も元はヘクトールのものならばソーンは何かと疑似人格の類いなのかと思案もしましたが輪廻転生に近しい現象とは」
「話が早くて助かるよ。ゴッデスすら知らない事を君に教えたのはここまで辿り着いた報酬とでも思ってくれ」
「ソーンはやはり只人ではなかった」
ナユタは納得する。それらしい要素さえ得られればそれで良かったが確信的なものを得た。
「貴方の存在は?」
「知らない。彼女は俺の名前さえな、それに全ての行動原理はソーン自身の判断だ。20年も生きていない俺と30年以上生きているソーン。どっちが主であるかなんて明白だ。朧気な赤子のような過去でしかない」
しゃべり方、カップの持ち方、目付き。全てがソーンに似ていて錯覚してしまう。だからこそ分かる、彼と彼女が同一の存在なのだと。
「そうですか。本題に入ります、ソーンが目覚めないのは別の理由がありますね」
「…」
少年は満足そうに頷くとカップを置く。
「何かが阻害している。ソーンのなにかが」
「…」
サイド3の仲間もゴッデスでさえもソーンの精神性を高く評価している。精神的に強い存在だと、だが違う無敵の存在なんてあるわけがない。
「後悔の累積。だからこそ彼女と話した夜に」
「ドロシーも可哀想に。不幸な運命に好かれているらしい」
「解決策はありませんか?」
「簡単だ。証明しろ」
少年はそう言うと立ち上がり、歩を進め始めるのだった。
ーーー
「どこよここ」
「図書館みたいなところ。ニケのプロトタイプの設計図だけじゃなく、参考は多い方が良いでしょ?」
アーク、ミシリス・インダストリーの機密区画。
そこに足を踏み入れたCEOの娘シュエンとその補佐を始めたマクスウェル。
「なによこれ…」
ミシリスの一部の人間しか知らない部屋に電気を着けると手術台の上に乗せられた人の形をした残骸が照らされた。
「図書館にあったのはプロトタイプだけどこれはシンギュラリティってとこかな残骸だけど」
様々な最新鋭の機器が置かれているのを見てかなり力をいれていたのは分かるがそれは意味をなさなかったようだ。
「ゴッデスのソーンって知ってる?」
「バカにしてるの。人類の技術力を1年で10年進化させた天才でしょ。こんなの赤子でも知ってるわよ」
「その後は?」
「確か実験中に爆発事故を起して死んだって…まさか」
「正確には爆発事故じゃなくて自爆なんだけど」
ソーン周りの事件は直接関わっていないがマクスウェルは把握している出来事であった。
「まぁ、そんな彼女のボディの残骸がこれ」
マクスウェルは慣れた手付きで保管されていた端末を操作すると謎のデータの羅列が画面に映し出される。
「隠語で《デルポイの神託》って呼ばれてる物だよ」
「本人だけが正しい意味を知る、理解不能な知識って事ね。ネーミングセンスだけはあるようね」
「当時の最高頭脳が集まってて解析できなかったからね。私も試しにやってみたけど流石に諦めた。ソーンの脳内データをスキャンして得られたデータは膨大だったけど誰も手にできなかった」
シュエンはそのデータ群を興味深そうに見つめる。
「アークが負けたわけね」
「金の卵を産む鶏の腹を裂いてしまっただけだよ」
「これ、見ても良い?」
「だから連れてきたからね。あくまで参考だけど」
こうしてソーンの思考データを手に入れた幼きシュエンはそれにのめり込んでいくのだった。
ーー
サイド3 参謀本部
そこには部屋の主であるキリーとドロシーが対峙していた。
「なるほど、意図は理解致しました。我々としても思想を統制するつもりはありません。ソーンに対して反するものでもないと理解しているつもりです」
「状況が状況なので早急に行うべきかと。火事場泥棒と思われたくないので手のうちを明かしました」
ソーン不在の間、代行の座に着いていたキリーはドロシーの言葉に思案を重ねていた。
アークに対する強い憎悪を抱いている少数のメンバーを引き抜き、別組織として別拠点で運用する。
クラウン王国と同じような同盟国的な立ち位置に置き、繋がりつつ、独自の思想のもと独立する。
「主要メンバーは貴方と。保護した新星と亡命してきたセシル技師ですか《エデン》とは随分と皮肉ですな」
「楽園とは与えられるものではありません。自ら掴み取るものです」
「停滞ではなく、前進を選ぶのですね」
「まだ決めかねています」
アークへの憎悪は本物であると思っているがハッキリとしないところもあるのも間違いない。
《協力は惜しまないよ》
ソーンが言っていた最後の言葉がドロシーの心をいくらか軽くしていたのは間違いなかっただろう。
「候補地を送ります。参考になさってください」
「ありがとうございます」
ーー
ソーンの精神世界深層
少年の案内で開られた大きな扉、この先にはなにもなく真っ暗な空間が広がっていた。
「ここから先は行けない。君1人で頑張ってくれ」
「何をすれば…」
「最後まで立っていろ。それが君の証明になる」
扉の先に立つナユタは少年を静かに見つめ深々とお辞儀をする。
「ありがとうございます。またお会いしたら、特製のお茶でも用意します」
「あぁ」
自然と扉が閉まり、完全に扉が閉まると少年は静かにため息を着く。
「ソーン、罪な女め…」
ーー
暗闇に閉ざされたナユタだったが非常に落ち着いていた。
暗闇に目が慣れれば問題なく周囲を把握できる。むしろ、ゆっくりと明るくなっていくような気もする。
「なるほど...明るくなるまで耐えろと言うことですか」
ナユタはゆっくりと上体を傾けると自身の頭部があったところを銃弾が通過する。遠距離からの狙撃、プロダクト08が狙撃銃を構えてこちらへ照準してくる。
「不利ですね。しかも」
刀を持ったソルジャーO.WとI-DOLL・サンが強襲し、中距離からプロダクト12が援護してくる。
4人のニケの装備にグレイル小隊の記章が刻まれていた。
「多勢に無勢ですね」
ナユタはゆっくりと錫杖に隠された仕込み刀を抜き構える。
「30年、ただ放浪していただけではないと教えて差し上げましょう。ナユタ殺法、お披露目です」
活動報告の方でアンケートを実施しています。
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