「起きたか。寝てないとは聞いていたが寝溜めは良くないぞ」
「え?」
最初に視界に映ったのはスノーホワイトがアップルパイを頬張っている場面。
「やっと起きたかい。随分とお寝坊さんだ、ほれ、駆けつけ三杯」
「お二人とも。まだソーンは起きたばかりなのですから」
盃を差し出してくる紅蓮を諌め、横に座っていたラプンツェルが黄金の粒子を発生させた手を自身の頭に乗せる。
「大丈夫のようですが。ナユタを呼んできますね」
「ソーンさぁぁぁん!!」
焼きたてのブルーベリーパイを素早くスノーホワイトに渡して泣きながら、寝ていた身体に抱きついてきたフリージア。
「こんなによい子を泣かせるなんて罪な女だねぇ」
何の事かサッパリなソーンはフリージアを宥めながら周囲を見渡す。
ソーン自身の家の寝室で目覚め、周囲を見渡すも変わった光景はない。
ただ地上にいたはずのスノーホワイトたちと泣きじゃくるフリージアは想定外だが。
「騒がしいと思えば。目が覚めたのねソーン」
騒ぎを聞きつけ、姿を表したのはヘンゼルとグレーテル。彼女たちは姿形が同じの仮ボディを手に入れサイド3の住人となっていた。
「治療していたナユタも一年近く意識不明になってヘンゼルとグレーテルも心配したわ」
「ソーン」
「ナユタ」
ラプンツェルに呼ばれたナユタは安心した様子で部屋に入ると抱きついていたフリージアごとソーンを抱き締めた。
「本当に良かった」
「あぁ、なんと大胆なのでしょう。こ、こんな公衆の面前で…しかもフリージアちゃんごとなんて…はぁ…はぁ!」
「ラプンツェル、このブルーベリーパイは絶品だぞ」
突然興奮しだすラプンツェルの口にパイを突っ込む。
「そうだ、ドロシーに連絡しなければ。スノーホワイト、頼めるかい?」
「自分でやれ、私はパイで忙しい」
「ヘンゼルもグレーテルも美味しいと思うわ」
「まったく…ドロシーもタイミングが悪い。見舞いを済ませてエデンに戻ったばかりだと言うのに」
「検査をしながら説明することが山ほどあります。とりあえず検査を行いましょう」
「あ、あぁ」
全員に見送られながらとりあえず検査のため移動するソーンであった。
ーー
サイド3の町並みを見ながら状況を整理する。ドロシーとクラウン王国から帰ってその道中で寝た辺りから記憶がない。
夢の中でナユタが現れた気がしたがそれも関係あるのだろうか。
「なにかしてくれたんだな。夢の中で見たよ」
「えぇ、苦労しました。たった1人でリブラ部隊に引き続きゴッデスと戦わされたのは二度と忘れないでしょうねぇ」
「良くわからんが悪かったよ。どれぐらい寝てた?」
「2年ほど脳波の安定を確認してから半年も眠り続けるとは思いませんでしたが…問題ないようでなによりです」
「俺に関するデータをまとめて俺に見せてくれ…待ってくれ」
ソーンは馬車を止めさせると降り、酒樽を運んでいたニケに駆け寄る。
「クレナ!」
「え、ソーン様!?」
涙を流しながらソーンの手を握ったのは量産型ニケのクレナ。
「しばらく留守にしてた。例のワインはの出来たのか?」
「はい!ソーン様のために貯蔵しております!」
「また俺の家に運んでくれ」
「ソーン様って言った?」
「ターシャ、君のカレースープがまた食べたいよ」
「鍋ごと持っていきますよ!」
「そんなに食えるか」
「うそ、ソーン様だ!」
「カーナ、書いてた小説はどうなった?」
「いやぁ、もうすぐ出来ますよ」
「2年前も同じこと言ってたぞ」
ソーンが降りた瞬間、瞬く間に人だかりが出来、久しぶりの彼女を見ようと人が殺到する。
そのやってきたニケ、1人1人を名指しして2年前の会話の続きをする。
「ナユタさん、どうしますか?」
「到着が大幅に遅れると伝えてください。これも必要な事ですから」
その後、一通りの会話を終えたソーンは検査のために離れたが住民たちの興奮は冷めることはない。
「「「祭りだぁ!」」」
ソーンが降りた一角が、家や店にあった酒を持ち出し。
店の自慢の料理がタダで振る舞われ、その騒ぎを聞きつけた者たちが、他の者たちを呼び、祭りが拡大していく。
のちに復活祭と呼ばれるこの日はサイド3初の公的な祝日として認可されることとなった。
ーー
「状況は理解した、俺のせいでサイド3で暴動なんて…。ドロシーには世話をかけたな」
「むしろ貴方の民を引き抜く形となりましたが」
知らせを聞いて秒で戻ってきたドロシーはあらかじめセシルが用意していたデータをソーンに渡す。
計20名にも満たない小さな集団でエデンの根幹部分もほぼ完成しているようだ。
「その通りです。まずは謝罪を、特殊な状況であったとはいえ貴方の民を引き抜いた事には変わりありません」
ドロシーと同行してきたのはエデンの中核メンバーとなったセシルとその隣で頭を下げないヨハンであった。
「なぜ謝る必要がある。こちらには仲間が欲しかった、ソイツらがここでは邪魔になった。互いにメリットのある対等の行為だ。それに言い出したのはドロシーだ」
「結果的にお互いにメリットがあったとはいえ家主に断りもなく持ち去ったも同然です。代行であったキリー参謀総長の承認もあったとはいえです」
「セシル、彼の言う通りだ。キリーに話を通してると言うなら筋は通してる。俺に謝る必要はないよ。ただ気になるのはエデンの方針だ。サイド3の支部としてではなく独立した別組織と言う形にするんだな?」
キリーとドロシーがかつて交わした書類を見る。
「お前の部下になるつもりはない。誰かの下に就くなどまっぴらごめんだ」
「ヨハン」
ヨハンの挑戦的な言葉にソーンはドロシーに視線を少し移しただけだった。
「分かった。任せる、だが我々は敵じゃない。それだけは覚えておいてほしい」
ーー
「ソーン」
「ドロシー」
別れ際、二人はしっかりとハグをする。
「いつでも遊びにこい」
「はい、貴方もお元気で」
ソーンが眠っている間にテトラのCEOが入れ替わり、シェイドを通じてのアークとの外交可能性を消失、それに類する裏家業も全てが喪失しサイド3はアークへのルートを失ったも同然であった。
エリシオンとは縁はない、ミシリスはソーン絡みの事で関わっていたため敵対関係にあると言っても過言ではなかった。
ソーンが考えていたアークとサイド3の裏同盟計画が破綻。
再び、サイド3はアークを静観すると言う形で付き合っていくととなる。
そして本格的なクイーンの捜索、地上の把握、ラプチャー、侵食の研究などに力を入れることとなるのだった。
また、不安定化したサイド3の建て直しのため、ソーンはかなり長い間、サイド3内に留まらなければならず苦心することになる。
こうしてなにも動かすことが出来ずに時間だけが進んでいく。
停滞が日常になりつつあった世界を動かす《指揮官》が現れるまでは
20??年 鋼鉄の化物 ラプチャー襲来により人類は地上から姿を消した。
そして約100年後、地上の勢力図は変わらぬままであった。
地上を覆い尽くした鋼鉄の支配者《ラプチャー》
その精鋭であり残忍な異端者《ヘレティック》
全ての元凶、ラプチャーの王たる《クイーン》
それらに屈辱的な敗北を与えられ、地上奪還を誓った者たちがいた。
人類唯一の生存圏にして最大の勢力《アーク》
鋼の心臓たちの国《サイド3》
強者のみが許される楽園《エデン》
手を取り合うべき人類とニケはいまだに足を揃えられずにいた。
《アーク》
官僚主義と諦めた大衆に飲み込まれ、腐敗した大国は物資と資本主義の限界を迎え徐々に経済崩壊へと向かいつつある。
《サイド3》
比類なき技術力と精強な軍隊によって構成された国家は黄金期を迎えていたがニケの脳の寿命限界と継続的に増えぬ人工は国家を蝕みつつあった。
《エデン》
少数精鋭の集団は孤立を深め、過去に囚われた執念が暴走し自ら首を絞める結果となりつつある。
もし人とニケが分かりあえなければ人類に破滅的な結果が訪れるであろう。
今、人類は新の意味で破滅を迎えようとしているのだ。
今こそ、全てが手を取り合い地上を奪還し、かつての栄光を取り戻すのだ。
全ての者よ、理性と努力をもって地上を奪還せよ
人類とニケに栄光あれ