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俺はまたリュックにミジュマルを入れて、潤一と共に近くの公園にやってきた。
公園といっても遊具はなく、だだっぴろい芝生と等間隔に植えられた木が立ち並ぶだけの場所だ。
夏休みシーズンということもあり、人はそれなりにいるが、それよりも公園が広いこともあって人目につかない場所くらいはありそうだ。
「ミジュ~」
リュックの中でミジュマルが不満の声を漏らす。
「モンスターボールでもあればいいんだけどな」
「モンボプラスでも買ってこようか?」
「なんだよそれ」
「あー、お前に分かるように言うとポケウォーカーみたいなやつ」
「10回は洗濯したな」
そんな話をしつつ、茂みに囲まれたあまり人気のない場所までやってきた。
「出てきていいぞ。ミジュマル」
「ミジュッ!」
リュックを開けると、勢いよく飛び出した。
「さっきも言ったけど、なるべく人に見られないようにな」
「分かってるって」
ミジュマルと戯れる潤一を見張りつつ、俺は近くの木陰に腰を落とした。
「……」
元気に走り回るミジュマルの姿を見て、あらためてこいつの正体について考えてみる。
食べ物を食べる以上、ロボットでないはない。
だが、現実的にゲームの中の存在が実際に現れるような方法はそれしか思いつかない。
「そういえば、俺達以外に、ミジュマルのことを知ってるやつっているのかな」
こいつは河川敷で倒れていた。
おそらく川を流されてきたのだろうが、どこからか川に落ちたか、あるいはラッコポケモンだから自分で水の中に入ったか。ならその前の道中で誰かに目撃されていないだろうか。
俺はスマホを取り出して、SNSで『#ミジュマル』と検索してみる。
「駄目か……」
しかし、結果は外れ。
出てくるのはゲームのスクショやイラスト、後は公式のコラボグッズの写真ばかり。現実世界にポケモンが目撃されたなんていう突拍子もない話は出てこない。
「にしても、ミジュマルってこんなに人気のポケモンだったんだな」
投稿されたイラストの数を見て、改めてポケモンというコンテンツの偉大さを思い知った。
何の気なしに某イラスト投稿サイトを開いてみると、やはりというか5000を超えるイラストが投稿されている。画力は玉石混交だが、どれもそのポケモンが好きだということが伝わってくる。
「……」
俺はSNSに戻り、検索ワードを変えて調べてみる。
「ん? これって……」
その時、俺の足元にサッカーボールが転がってきた。
「すみませーん」
直後に数名の子供が俺の元へ駆け寄ってくる。
「やべ、ちょっと待ってろ!」
俺は慌ててサッカーボールを拾って、少年たちの方へ投げる。
「潤一、ミジュマル。そろそろ移動するぞ」
「えー、早いって」
「駄目だ。人が集まってきた」
不満を垂れる一人と一匹を無視して、ミジュマルをさっさとリュックに入れる。
「ほら、行くぞ」
「へーい」
潤一はまだ不満そうだったが、俺は構わず公園を出た。
◆
その後、潤一は自宅へ戻り、俺もミジュマルを連れて帰路に着いた。
「ミジュ……」
「我慢しろ」
ミジュマルを嗜めて、玄関の戸を開くと、
「あら、お帰り」
いつの間にか母さんが仕事から帰っていたらしく、リビングから顔を出した。
「ただいま」
「珍しいわね。遊びに行ってたの?」
「まあそんなとこ」
俺はミジュマルの存在がバレないように、さっさと自室に戻る。
「さて、これからどうするかな……」
俺はリュックから出てきたミジュマルを見る。
この謎の生き物をいつまでもうちに置いておくわけにはいかない。そもそも俺に、こいつの面倒を見る義理なんてないのだ。
「明日にでも警察に届けるか」
「ミジュ?」
「何でもない」
俺はスマホを開くと、先程まで開いていたSNSの画面が目に入る。
『え!?これやばくね? なんかピカチュウみたいなのがいたんだけど……』
投稿には動画がついており、ツインテールの少女がオレンジ色の丸い生き物を連れて走っていた。
『ぬいぐるみだろ?』
『でも動いてるくね?』
『ピカチュウじゃなくてデデンネな まあ良くできたぬいぐるみだな カメラがブレて動いているように見えるだけ』
「デデンネ……」
俺はその名前を検索してみると、どうやらミジュマルより一つ後の世代で登場したポケモンらしい。
「お気の毒に」
誰だか知らないが、俺もこの子のように大騒ぎになる前にミジュマルを手放すべきだろう。
「ミージュー」
「あーこら」
ミジュマルはまたも俺の机によじ登っていたので、慌てて机から引き離す。
ミジュマルが触ろうとしていた場所には、無造作にペンタブが置かれていた。
「ったく……そんなにこれが気になるのか?」
「ミッジュマル!」
ミジュマルは二回頷く。
なんとなくのニュアンスを読み取っているのか、こいつは多少人間の言葉を理解できるらしい。
「これは絵を書くための道具だ」
仕方なく、俺はミジュマルに見せてやることにした。
ミジュマルを机の上に下ろして、俺はパソコンの電源をつける。
「ミジュ?」
「少し動くなよ」
俺は試しにミジュマルの絵を描くことににした。
現実にいようが、外見はキャラクター的だったので、特徴を捉えるのは案外簡単だった。
十数分程度で描き上げた絵をミジュマルに見せた。
「ミジュー!!」
ミジュマルはパッと目を輝かせて、絵に写る自分の姿を見た。
「大袈裟なんだよ……」
相手がポケモンでも喜んでもらえるのに悪い気はしなかった。
「やってみるか?」
「ミジュ!」
ペンを渡すと、ミジュマルは器用に持って乱暴に線を走らせる。
「そんな強く擦るな。優しくだ」
「ミジュ」
ミジュマルは思い思いに、自分の絵に描き足していき、俺はその様子を見守った。
もう少しだけこいつと一緒にいてもいいかもしれない。
ミジュマルの姿を見て、俺はそんな風に思った。