ポケットモンスター デイドリーム   作:師走F

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7月31日:二人の逃避行

 

 どうにか逃げ切り、俺達は小さな公園にやってきた。

 

「はぁはぁ、お前、もうちょっと気をつけろよ」

「ごめんなさい。でもほら」

 

 芽衣はカンカンの中身を俺に見せた。

 小銭がほとんどだが、パッと見で数十枚の10円玉と100円玉、千円札も2枚だけだが入っている。

 

「これでしばらくはご飯に困らないね」

「……ありがとな」

 

 俺はSNSを開く。

 案の定、俺達の姿は投稿されていた。

 

 幸い顔は光の加減でよく見えないが、ポケモン達の姿はバッチリ写っていた。

 

「研究所の連中が来る前に移動しないと……」

 

 その時、画面上に通知マークが飛び出した。

 

「潤一からメッセージか」

 

 見ると、10件以上の未読メッセージが溜まっており、随分心配をかけてしまった。

 俺はメッセージを返して、自分の無事を連絡すると、直後に電話がかかってきた。

 

『冬也!お前今どこにいるんだよ!』

「えーっと、綴木(つづらぎ)町の公園……」

『どこまで行ってんだよ。それより、ニュース見たぞ。お前、今あの子と一緒にいるんだろ?』

「ああ」

 

 俺はこれまでの経緯を潤一に説明した。

 

『すげーな。聞いても全然信じられねぇ』

「そういうわけだ。研究所に追われてるからしばらく帰れない」

『大丈夫なのかよそれ』

「心配するな。ミジュマルや、芽衣や芽衣のポケモン達もいる。必ず逃げ切るよ」

『ならいいけど……』

「じゃあそろそろ切る。心配してくれてありがとう」

 

 俺は電話を切り、芽衣の方を向き直る。

 

「じゃあ何か買いにいくか」

「うん」

 

 ◆

 

 コンビニで簡単な食事を済ませた後、俺達は徒歩での移動を開始した。

 線路沿いに歩き続けて二、三時間が経過した頃、

 

「そろそろ暗くなってきたな」

 

 スマホで時刻を確認すると、七時半を過ぎていた。

 気付くと、スマホのバッテリーもそろそろ20%を下回るところだ。

 

「現代人には厳しいな……」

 

 俺は無駄遣いしないためにポケットにしまい、前を歩く芽衣の方を見る。

 疲れているかと思ったが、芽衣は案外平気そうで初めの方からペースを一切落とさずに歩みを進めている。

 

「ほんと、小さいのに根性あるな」

 

 芽衣はこれまでも一人で研究所から逃げ続けてきたのだろう。

 

 研究所は芽衣の能力を使って何をするつもりなのか、そもそも捕まればどうなるのか。

 

「……俺、あいつのこと何にも知らないな」

 

 芽衣があまり話したがらないのもあり、俺は研究所について詳しく聞くことはなかった。

 

「冬也、もしかして疲れた?」

 

 考え事をしていると、俺のペースが落ちてきたのを気にしてか、芽衣は立ち止まって振り向いてきた。

 

「ん? ああまあ。お前こそ、ずっとそのペースで歩きっぱなしだけど大丈夫なのか?」

「私は平気。でも冬也が疲れたらなら、今日はもうお休みにしようよ」

「生意気な。でもそうしてくれると助かる」

 

 とはいえ、都会の町中では休めるような場所などあるのか。

 そう思っていたが、芽衣はすぐに大きな半球形の遊具がある公園を見つけてきた。

 

 その遊具には入り口となる大きな穴が空いており、中は人二人が寝転がれるくらいのスペースがあった。

 

「よく見つけたな」

「私はプロだから」

「野宿のか?」

 

 えへんとでも言いたげに芽衣は胸を張った。

 

 俺達は早速遊具の中に入り、持ってきていたキャンプシートを敷く。

 

「気が利くじゃん」

「生意気言うな。あ!」

 

 俺はリュックの中をひっくり返すが、充電ケーブルだけあって、肝心のモバイルバッテリーがなかった。

 

「これ、明日から地図も使えないぞ」

 

 安易に飛べるポケモンで移動しなくて結果的によかったかもしれない。

 地図アプリが使えない状態では、下手をすれば遭難しかねないだろう。

 

「うーん。充電ケーブルはあるんだよね?」

「そうだけど、電源がなきゃ意味ないだろ」

 

 すると、芽衣は充電ケーブルを手の中でくるくる回して、何かを探すように指でなぞる。

 

「あった!出てきて、デデンネ」

 

 モンスターボールからデデンネを出した。

 

「おい、待て。何をしたいのか分かったがやめろ。俺のスマホを再起不能にするな」

「もう。それくらい分かってるよ。デデンネ。ここに、100ボルト!」

「デデ?」

 

 普段の1000分の1の電圧を指示されて、デデンネは首を傾げた。

 

「駄目か……」

 

 俺はケーブルを芽衣から回収してリュックにしまう。

 

「ミジュ!」

「あ、ミジュマル」

 

 すると入れ替わるように、ミジュマルが勝手にボールから出てきてしまった。

 俺が逃げないようにミジュマルを抱き抱えると、ふと、こいつが何かを握っているのを見つけた。

 

「これ……ペンタブ用のタッチペンじゃねぇか」

 

 ミジュマルはペンタブを気に入っていたが、いつの間にか鞄に紛れ込ませていたらしい。

 リュックの中を確認するが、さすがにペンタブの方は持ってきていないようだ。

 

「冬也、それなに?」

「ペンタブっていう絵を描くためのツールの付属品」

「ふーん。冬也絵を描くの?」

「まあ、昔少しな」

「ミジュ!」

「いや、これだけあっても無理だって」

 

 俺はミジュマルを宥めると、芽衣は少し考えるような顔をしてから、手を地面にかざした。

 

 その掌の先を見ると、そこには画用紙と色鉛筆があった。

 

「これって……」

「作ってみた。私も絵を描くのは好きだったし」

 

 俺はそれらを手に取り、試しにデデンネを描いてみた。

 

「おー、冬也うまい」

「ミジュ!」

「大したことない……?」

 

 いつの間にか画用紙は消えていた。

 初めからそこには何もなかったかのように、色鉛筆ごと綺麗に消えていた。

 

「やっぱり維持できないな」

「何なんだよ。デイドリームって」

「言ったでしょ? ただの夢、それ以上は私にも分かりません」

 

 そう言って、芽衣は寝転がった。

 

「お休みなさい。明日は早めに起きて出発しよう」

「……ああ。そうだな」

 

 俺も彼女に倣って、キャンプシートの上で仰向けになる。

 

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