貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
第1話:部活見学 ヤベー奴ら
俺はどうやら貞操観念逆転世界に転生したらしい。
転生して新たに得た名前は
趣味はプロ野球観戦。
しかし、男女の需要が逆転したこの世界でプロ野球は発展していない。
プロ野球80年の歴史はこの世界では白紙なのだ。
男がモテて、女が寄ってくる世界。
転生前は理想郷に思えたが、男女逆転はすなわち趣味・趣向の需要逆転でもある。今は逆転世界の欠陥に気づいた。それが発覚した時から俺は貞操観念逆転世界反対派。男女逆転世界なんて嫌いだ。
いまや元の世界が恋しい……。
だが、嘆いて戻れる訳でもない。
生き甲斐のない世界を受け入れざるを得ない状況になってから、もう15年。
今週から15歳の高校1年生だ。
俺が選んだ学校は―――
選んだ理由は野球部があって家から近いから。それだけ。
この世界では『女子野球』が『野球』と呼ばれている。
つまりウチの学校の野球部もおそらく女子野球部だ。どーせレベルの低い野球をやってるに違いない。
だが、寧ろ俺はそれを求めている。
なぜなら。
「よっしゃ!女子野球部の学生監督になって、女子野球のレベルをちょっとでもプロ野球に近づけるぞ!」
と、いう野望を抱いているからだ。
これから野球部へと向かうという中、廊下で俺は気合いを入れ直した。
つまり、俺は考えた訳よ。無いなら作ってしまえばいい!レベルの高い野球界をな!
やはり俺は天才だったようだ。ま、そんな気はしてましたけどね!
部室棟に野球部の更衣室があるのは確認した。この学校には事前に調べた通り、確実に野球部がある!
あとはグラウンドで練習してるであろう彼女たちに会いに行くだけだ。
ちなみに前世なら女子更衣室の周辺をうろつこうものならそれだけで人権を剥奪されるが、この世界では寧ろ女が男の更衣室を避ける。
おかげで扉を開けた拍子にうっかり女子の下着姿が見えるなんてこともあるが、全く騒がれない。故に女子の下着なんて見放題だ。
が、今はどうでもいい!!
俺がお前たち女子に求めるのはお前たちの中にある『野球魂』だぁ!!
「うおおおお!野球の時間だぁぁぁ!!」
俺は野球部を見に行くとなるとテンションが上がってきてグラウンドまで走った。
この世界で初めて野球に飢えた時、テレビで『プロ野球(女子)』を観たがその時はあまりのつまらない内容に即刻観るのをやめた。
だが、今回は違う。今回は明確な目的がある。それと久々に生で野球が観れる興奮が勝る。
早く見たい。その気持ちに駆られる俺はグラウンドにすぐさま辿り着いた。
そして、もはや懐かしさすら感じるダイヤモンドが俺の前に現れた。
「う、うおおぉぉ……。ベースだ!バットだ!グローブだ!野球ボールだ!!」
俺が目を輝かやせる対象。野球場が目の前に広がっている。
その中でバットとグローブを手に練習する女子が3人。1人がバットを振り、2人がノックを受けている。それを俺は観察した。
うおっ。どっちも上手いけどセカンドの子めちゃくちゃ上手いな。
なんて、思っていたその時。俺の背後に人の気配。
俺はちょんちょんと肩を指でつつかれて振り返る。するとほっぺたに人差し指が突き刺さった。俺は目を見開き、そんな俺の反応を見て笑顔で顔を覗かせたのは、あざと女子系の美女。
「君、新入生~?」
「えっ。あっ、はい!!」
やけに抑揚のある喋り方をする、あざと美女。
その先輩は俺の返事にニコッと笑みを作ると、両手を腰の後ろに回して俺をなじるようにジロジロと見回して俺の周りを一周した。
「ふーん。君、カッコイイね~!野球部のマネ志望~?」
「は、はい。そんなとこです。先輩は……野球部ですか?」
尋ねると、先輩はまたニコッと微笑んだ。
「そうだよ~。
「俺は津川和哉です。1年です!よろしくお願いします!」
ピースしながら名乗る美山先輩に俺も名乗り返す。
良い人そうだけど、ちょっと遊んでそうな派手さがある。制服も着崩していて、ギャルみたいな装飾が施されている。
この人は……前の世界でいうヤリチンの逆転バージョンなのかもしれない。
「うんうん。津川くん!初々しくていいね~!ていうかめっちゃ
「まあ、父がどちらかと言えば……そ、それより!美山先輩は練習しないんですか?」
「……えっ?」
この世界では親ガチャ顔面当たりを引いた、なんて話は今はどうでもいい。
それよりも野球部のことが知りたい俺は、彼女に尋ねると美山先輩はキョトンとした顔で首を傾げた。
そして、突然、さっきまでの柔らかい雰囲気が消える。
「―――しないよ?だって、練習しなくても優希が世界で1番野球上手いもん」
「……っ!」
ゾッと背中に走る悪寒を感じる。
目の前にいたさっきまでの明るい美山先輩が一瞬で変容した。未だ、笑ってはいる。だが、その笑顔はどこか冷たさを帯びていた。
そして、彼女の瞳の奥には、自信という名の怪物が棲んでいた。
「優希、そこで何をしているの」
「あっ。
俺が美山先輩の気迫に気圧されていたところに、さっきノックを打っていた先輩が歩み寄ってきた。その先輩が声を掛けた時にはもう元の美山先輩に戻っている。
そんな美山先輩を一瞥した、成城と呼ばれたもう1人の先輩は、練習中に被っていた野球のヘルメットを脱ぐ。
「うおっ」
「……?」
思わず声が出た。成城と呼ばれた先輩はヘルメットから開放された黒髪を整えようと頭を振った。
なびいた髪はとても艶があって、なめらかだった。そして、最終的に重力に従ってストンと彼女の肩に落ち着いた。
黒髪ボブの先輩。
彼女はまるでモデルのようにとても美形だった。
前の世界で言うところの超絶イケメンだ。
そんな彼女の隣に美山先輩が立つ。
「この人は
「新入生……?入部希望?」
「は、はい!」
もはや瞬きすら美しい成城先輩。
俺はドギマギしながら彼女と対峙する。
前の世界でのイケメンに対する女子たちもこんな気持ちだったんだろうか。
成城先輩は思いのほか髪をかきあげるワイルドな仕草を挟むと、暫く空を見上げ、美山先輩を疑惑の目で見た。
「ウチにマネージャーが?本当に?遂に?男子?マジ?嘘でしょう?」
「あは~っ、ホントだよぉ~。冬華ちゃん動揺しすぎでウケる~!」
超絶美女の成城先輩が突如ガクガクと震え出した。えっ、何。怖いんだけど。
さらに、彼女は俺の肩をガッシリと掴む。ちょっめっちゃ力強い!嘘だろ、動けねえ!!
「フ、フフフ……勿論入部大歓迎よ。これでむさくるしい女子の巣窟も晴れてリフレッシュ。ようやく私達の部にも春の澄んだ空気が流れ込んできたわね……!」
「いっ……!?」
「成城ちゃーん。津川くん引いてる引いてる」
「ハッ!!」
美山先輩に指摘されて成城先輩が手を離す。まあ俺は引いてたんじゃなくて痛がってたんだけど。
成城先輩はコホンと咳払いを挟んで気を取り直す。
「……ごめんなさい。取り乱したわ。今日のところは見学も兼ねているのかしら?何か質問があったら答えるけれど、どう?」
「じゃ、じゃあえっと……部員ってこんだけなんですか?4人だけ?」
俺の質問に成城先輩は一拍置いて、一瞬目を逸らしてから答える。
「5人よ。でもいずれ2人になるわ。そう、貴方と私だけ。2人きりの世界よ。待っていて?残りの4人はすぐに排除するから」
「いや、困る困る困る。てか人数足りてねえのかよ。せめて9人集めてもろて」
ヤリチンの次はナンパメルヘンイケメンかよ。
この部活マトモな奴いねーのか?
成城先輩のホスト風暴走に美山先輩ですら苦笑いした。