貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第100話:原田(はらだ) (りん)

 

「じゃあ(りん)の元へ向おうか。彼女は王皇(おうきみ)にいるよ」

「待ちなさい。電話で良いでしょう。なぜ直接会う必要があるのよ」

 

 合流した成城(なりしろ)先輩が指摘する。

 確かにその通りだ。

 どうなんだ?

 

「ハッハッハ。(りん)が電話に出るはずがないよ。直接話すのだって口を聞いてくれないのだから」

「えぇ……」

 

 仲悪いのか?

 王皇のベンチ、そんな空気悪いようには感じなかったけどな……。

 まあ映像だからわかるところとわからないところがあるけど。

 

「いいからかけてみなさい。かかる時間が全然違うでしょう」

「ふむ。一理あるね。じゃあ1度コールしてみるよ」

 

 案外柔軟だ。

 納得できることなら受け入れて実行してくれる。

 ただ……通話はありえない速度で断念された。

 

「すまない。着信拒否されていた」

「えぇ……」

 

 仲悪いのか?

 いや、江山(えやま)さんから林《りん》さんへの態度はそんな感じないから一方的に嫌われている感じなのかな。

 

「……なら王皇に行くしかないわね」

「申し訳ない。では、行こうか。ここからなら1時間もかからないよ」

「あ、車あるんでそれに乗って道案内してくれませんか?」

「おや。そうなのかい?いいよ、私が言い出したことだからね」

 

 改札に向かおうとしていた江山(えやま)さんを止めて、俺たちは和美(かずみ)さんの車に戻った。

 

「申し訳ありません、私まで搭乗させて頂くことになって。お手数おかけします」

「いいのよ。えらい律儀ね。王皇ってお嬢様高校なの?」

「ははっ。まさか。普通の公立高校ですよ」

 

 礼儀正しいのは江山(えやま)さんの個性のようだ。

 車に乗せてもらうということで和美(かずみ)さんに対して丁寧に言葉を交わしていた。

 車に揺られること約1時間。

 少し山奥へ入ったところに王皇百十(おうきみももと)学院高校はあった。

 

「ようこそ、王皇へ。ここが校門だよ。でも、練習場は離れにあるんだ」

「……津川くん。王皇の野球施設は凄まじいわよ。力の入れ具合が他とは違うからついでにしっかり見ておきなさい」

「は、はい!」

 

 成城(なりしろ)先輩がこっそり俺に告げる。

 だが、俺たちを率いて先頭を歩く江山(えやま)さんは少し顔を横に動かして横顔を見せてきた。

 多分聞こえてたんだろう。

 少し口角も上がっている。

 

「ここが室内練習場さ。さぁ、入って」

「……すっご。えぐ」

「言った通りだったでしょう?」

 

 室内練習場と言っていたが、ほぼ施設だった。

 客席と商業店さえ設けたら球場と言われても違和感ないかもしれない。

 しかも至る所から機械音が聞こえてくる。

 マシンも充実してそうだ。

 中に入ると多くの選手が練習していた。

 

「……王皇って今日の午前中に試合ありましたよね?その後に全員練習してるんですか?」

「そうだね。でもまあ、本来はもっと軽くやらせるつもりだったよ。ただ……主力が練習の虫だからね。試合に出られない者達もそれ以上に練習しないと試合に出られないと思いがちなんだよ」

 

 ……主力が練習の虫、か。

 獅ノ宮も試合後に練習したけどここまでガッツリとはやらない。

 ある程度は休みも入れる。

 まあ王皇も明日は休みらしいが、主力は自主的に勝手に練習し始めて、レギュラーでない選手は練習量ですら負けていたら試合に出られないと思い込んで追い込んでしまうらしい。

 まさに実力のある者たちが努力もしてしまうから振り回されているといった感じだ。

 

「ま、努力ではあるけどそれだけじゃないんだ、彼女達は。レギュラーじゃない()達はそれを理解していない」

「どういうことですか?それ」

「別に大した話じゃないさ。主力は皆、野球のことで頭がいっぱいというだけ。彼女達は休みを与えても野球以外にやりたいことが特に思いつかないとよく言ってるね。だから、努力よりも呼吸に近いんじゃないかな?彼女達にとって練習は」

「……っ!」

 

 マジかよ……。

 なんつー野球マシン達だ。

 野球以外興味ねえってか。

 常に野球のことを考え、パフォーマンスの向上を目指し、練習の虫。

 そんな野球狂い達で構成された強くあるべくして強い。

 それが王皇百十……!

 

「さてと、じゃあ無愛想なショートストップとさっそく邂逅といこうかな」

「は?」

「……!」

 

 練習場を練り歩いていると、突如バッティングエリアのカーテンをあけてそこに原田先輩とそっくりの淡白な塩顔女性がいた。

 彼女は突然練習に邪魔が入って驚愕した様子で振り返る。

 その奥に彼女の練習を手伝っていたもう1人の王皇野球部女子。

 おそらくライトフィールダーのレギュラー、関内(せきうち) (さき)さんだ。

 彼女は、江山さんと俺のさらに奥にいる成城先輩が目に映った瞬間、二度見する。

 

「えっ!?成城(なりしろ)!?なんでここにいんの……!?」

「……栗深(くみ)

 

 江山(えやま)さんの差し金なのは一目瞭然。

 故に、彼女を睨む(りん)さん。

 

「チッ」

「私の顔を見て舌打ちはさすがに傷つくねぇ……」

 

 江山(えやま)さんは苦笑いする。

 間違いない、この感じ。

 原田先輩と同じだ……!

 

「で?【完璧】の成城(なりしろ)が一体何しにここに来たワケ?……あぁ、今は稼働不可なんだっけ。完璧も過去の話か」

「……相変わらず煽り癖があるわね。貴女、江山さんが電話したのに着信拒否していたでしょう。だから、直接来たのよ」

「電話……?着否?……何の話か知らないけど、練習の邪魔。帰れ」

「まったく……。貴女は冬の代表合宿を辞退した。だから、こうして顔を合わせたのは去年の夏ぶりかしら。久々に会ったっていうのに随分な態度ね」

「ハッ。アリス以外の高校BIG5が参加してない寄せ集めの選出くらいでマウントとられてもね。ていうかこっちは先輩、な?敬語使えよ。相変わらずタメ口聞きやがって2年アマが」

「……」

「……」

「……っ」

 

 険悪な雰囲気になってしまった。

 互いに無言で睨みあっている。

 この空気の中、原田先輩のことを聞くことはできないぞ。

 江山(えやま)さんに目配せする。

 

「……フッ。了解。有難いご指名だ。私が仲裁させてもらおうかな。成城、君はメンチを切りに来たんじゃないだろう?」

「貴女が半ば無理やり連れてきた癖によく言うわね。まあでも、その通りではあるわ。原田……(りん)さん。貴女に聞きたいことがあるの」

「は?」

 

 顔を顰める原田(はらだ) (りん)さん。

 そんな彼女に尋ねる。

 

「今日の昼から原田先輩が姿を消したんです!どこか、原田先輩が行きそうな場所とか知りませんか……?」

「……あぁ、そういう」

 

 質問すると、(りん)さんはだるそうに後頭部をかいた。

 そして。

 

「知らない。あの()とはもう7年交流ないし。ていうか別に探す必要ないでしょ。毎年逃げ出すような腰抜け、試合に出るだけ無駄。コンディションも悪いだろうし。やる気のない奴を探す為に、なんでこっちがこんな迷惑被らなきゃいけないワケ?試合前の神経質な時に足を運ぶって常識なさすぎ」

 

 ……っ。

 なんて言い草だ。

 原田先輩が失踪したのは間接的には貴女に原因があるのに。

 それを故意的にやって、自覚もしてるくせに。

 本当に罪の意識とかないのか?

 

「私が涼香(すずか)を探すのは別にあの()が優秀な選手だからじゃないわ。彼女が大切な友達で、仲間だからよ。心配だから探すの。貴女みたいに全部が全部損得勘定じゃない」

成城(なりしろ)先輩……」

 

 (りん)さんの態度と言葉に嫌な気持ちになったが、成城先輩の返しにちょっと救われた。

 だが、(りん)さんはまたしてもマイナスな言葉を重ねる。

 

「だったら私達との試合が終わった後に待てばいいでしょ。どうせ私と顔合わせずに済んだら戻ってくるんだから」

「去年そうだったからといって今年もそうとは限らないわよ。心境はいつだって変わるし、人間の情緒ってもっと不安定よ。取り返しのつかないことになったら貴女責任取れるの?いいから知ってることをできる限り教えなさい」

「……人に聞く態度?それ」

 

 イラッときて目を細める(りん)さん。

 元々原田先輩が失踪した原因はこの人だし、(りん)さんの方にも思うところはあるけど、成城(なりしろ)先輩が頼む側の姿勢として上からだったのは一理ある。

 ここでこの人から何も情報を得られずトンボ帰りするのは避けたい。

 俺が下手に出るか。

 

「あの!試合前のタイミングで非常識に来たことも、こっちの態度がでかい事も謝ります。本当にごめんなさい!ただどうか、何か知ってること……原田先輩が行きそうなところ心当たりありませんか!?お願いします!教えてください!原田先輩が心配なんです……!」

「津川くん、貴方……」

 

 俺が声を張って頭を下げると、成城(なりしろ)先輩は隣の俺を見て俯いた。

 そして、成城(なりしろ)先輩も一度(りん)さんと向き合ってから頭を下げた。

 俺達の後頭部を見て(りん)さんは溜息をつく。

 

「そんなこと言われても、何も知らな―――」

「……?」

 

 言いかけて途中で止まった。

 俺と成城(なりしろ)先輩は顔を見合わせて、頭を上げる。

 彼女の言葉を待った。

 数秒後、(りん)さんはそっぽを向いて口だけ開く。

 彼女の表情は関内さんだけが目にしていた。

 

「……川にかかってる橋」

「えっ」

 

 ボソッと呟く(りん)さん。

 そこにまたポツリと続ける。

 

「そういうとこの高架の下に、いるかもね」

「……っ」

 

 それだけ言って彼女は道具を回収してから足早に俺達の前から去った。

 俺達はその背中が見えなくなるまで目で追うしかない。

 

「すまないね。彼女、口が悪くて」

「あぁ……いえ!」

 

 (りん)さんの態度には江山(えやま)さんも思うところがあるらしく申し訳なさそうに困り顔を見せた。

 だが、キャプテンである彼女の監督責任を成城先輩は見逃さない。

 

「随分と身内には甘いのね。注意しないなんて、貴女の責任放棄じゃないかしら」

「……君達が原田涼香(はらだすずか)に神経質なように、私達も(りん)に同様のものを抱いているんだよ。難しいのは知ってるだろう?家庭に問題を抱える仲間との向き合い方は」

 

 江山(えやま)さんが哀愁を漂わせる表情で困ったように不器用な笑みを作る。

 そんな彼女を前に成城先輩は目を見開いて、険しい顔をした。

 

「彼女は加害者よ?」

「……そうだね。……そうだね」

 

 江山(えやま)さんは言い返さなかった。

 目を逸らして噛み締めるように肯定を重ねた。

 彼女の表情は物悲しげだった。

 

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