貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第104話:150km/hが打たれた!!

 

獅ノ宮(しのみや)が後攻で守備につきます!先発投手は―――衝撃!!最速159km/hの超新星!!メジャー越えと名高い新時代の投手!アリアーーーーーーーーーーーっ!オイゲンだぁぁぁぁーーーっ!!』

 

 耳がはち切れそうなくらいの叫びと共にアリアがマウンドで投球練習を開始する。

 アリアが投げる度に、スタンドがどよめいていた。

 先行の王皇は、1番バッターの盛秋さんがバッターボックスに入った。

 さぁ、これで―――

 

『プレイボール!』

 

 ドームにて、埼玉地区大会決勝戦の火蓋が切られる。

 1番の盛秋さんは左打席に入った。

 廣目はド真ん中より少し低めのストライク要求。

 アリアは頷いて構えに入った。

 そして。

 

「……っ!!」

 

 アリアの投球。

 151km/hのストレート!!

 いつも通りの豪速球。

 今大会打たれたことなし!

 制球も良く、廣目の要求通り。

 球のキレも良いし間違いなく調子はいい。

 まずはワンストライク、貰っただろこれは……!

 

「ストライク!来た……!」

 

『1番盛秋、初球打ちーーーーーーーーーッ!!』

 

「何!?」

 

 打たれた!当てられた!

 アリアが!?

 

『打球は……右中間へ!』

 

「ちょっ……!嘘でしょ!」

「……あはっ」

 

 アリアが打たれた瞬間慌てて振り返り打球を目で追いかけ、センターの中宮先輩が打たれたことに驚きつつ打球を追う。

 しかし、打球はライト寄りの右中間に。

 標準的なライトでも守備範囲だが、美山先輩は後ろで手を組んで動く気配なし。

 打球が落ちていくのをただ目で追って眺めていた。

 中宮先輩は間に合わない!

 

『落ちた!落ちたぁ!!右中間を抜けるヒット!オイゲン投手、今大会初被安打だーーーっ!!しかもこれは長打になるぞ……!』

 

「馬鹿な……!私が……私だぞ!!」

 

 アリアは動揺して思わずマウンドから外野を見て叫ぶ。

 盛秋さんはその間に一塁ベースを蹴って2塁へ。

 彼女が塁間を走っている時にようやく中宮先輩がフェンスまで転がったボールを拾ったが、彼女が振り返った時には盛秋さんは2塁を蹴る。

 

「翼、回れー!」

「……っ!舐めるな!!」

 

 中宮先輩は3塁コーチャーが腕を回したのを確認して、二塁を蹴った盛秋さんを見て火がついた。

 センターがライトオーバーを拾いに行ってる時点でどう考えても三塁に行かれるし、間に合わない。

 だが、ウチのセンターは普通のセンターじゃない!!

 

 ────【才能開花(ギフトパージ)】────

 

「……っ!?は?」

 

 盛秋さんは二三塁間を3分の1まで行ったところで急遽ブレーキをかけた。

 自分が放った打球の行方から考えて、有り得ないのに。

 彼女がその時点まで行った時に、視界の端に見えるはずのない白球が映ったからだ。

 慌てて二塁へ戻って無事ツーベースとなったが、彼女は落ち着いてから外野を二度見した。

 

「秋奈ナイス……!」

「ガチナイスだぜ!マジで助かった!」

「……どうも」

 

 ソユン先輩と霧島先輩に褒められて照れたのか、キャップの先を触れて下を向く中宮先輩。

 しかし、全員もっと衝撃的なことを無視できない。

 

「私が……二塁打だと!?」

「タイムです!」

「……!」

 

 野手陣も皆、アリアが簡単に打たれたという衝撃の事実に戻ってくる。

 内野陣と廣目がマウンドに集まった。

 

「おいおい。紅白戦以外でアリアが打たれたの初めてじゃねえか……?」

「どうなってるのよ。全く。151km/hよ?メジャーでも上澄みなのに、高校野球で打たれるなんて普通じゃないわよ」

「驚愕。規格外の天才を除いて初の事態」

「クソ。私もわからん。なんで打たれた?相手はクレア(欧州人)でもミクでもないんだぞ」

「……1つ思い当たることはありますが、まだ確信を持てません。ただ打たれるならまだしもそれが長打になってしまった理由はハッキリしています。相手が"フルスイング"だったからです」

『……っ!』

 

 全員が廣目を見る。

 そして、誰もがその違和感に気づいた。

 

「フルスイングって……迷いがなかったってことじゃない。配球が読まれてたってワケ?」

「いえ。おそらくそういう訳ではないと思います。いくら我々が規格外でもサイン盗みなんてしないでしょうし。特に実力のある高校はプライドも高いので」

「じゃあ……なんで打たれて、フルスイングもしてきたの?」

「……分かりません」

 

 ソユン先輩に聞かれた内容はともかく、原田先輩に聞かれた方は廣目も答えを見つけていなかった。

 なぜアリアが打たれたのか。

 常識外れの150km/h超え。

 この世界ならメジャーでも上澄みで、高校球児は普通打てない。

 だが、打った。

 事実としてそれはある。

 

「もう時間だ。答えが見つかりじまいってのは良い気分じゃないが……仕方ない。ユイ、私の球を受けながら分析し続けろ。悪いが、お前の頭で答えを見つけ出すのを私達は待つしかねえ」

「はい。もちろんです。とはいえ、1番バッターが特殊だった可能性もあります。とりあえずは答えを探りつつ、いつも通りいきましょう」

 

 時間内に結論は出ず、各々ポジションに散った。

 続く2番バッターは……早速来た。

 

 ―――2番ショート "原田(はらだ) (りん)"。

 

 彼女は左打席に入る。

 

「……逃げ出したと思ったら当てつけのように私と同じ打順にポジション。それに話を聞いてれば、トラウマを乗り越えるだの私を倒すだの……くだらない」

「……っ!」

 

 ショートポジションにつく原田先輩を見て表情を険しくする原田林。

 打席に入って口を開き始めた彼女に、耳に入る廣目が彼女を見る。

 原田林も廣目の視線に気づいて彼女を一瞥したが、すぐに目線を前に向けた。

 

「私に勝つ?乗り換える?ショートストップと向き合ってこなかった半端者に……私が負ける訳がない」

「……っ!」

『プレイ!』

 

 原田林に睨まれてビクッと肩をならす原田先輩。

 少し萎縮した。

 中々構えず、打席に入ってから口数が多い原田林に、暗に注意する意味で審判が敢えて声を出す。

 それを聞いて原田林はルーティンを行った後、バッティングフォームに入った。

 廣目は盛秋さんの時は初球打ちで早すぎた為できなかった、【カンニングリード】を行う。

 原田林の筋肉を透視して、何を待っているのかどこの筋肉が引き締まって動こうとしているのか、それらから彼女がするスイング軌道と対応範囲を予測した。

 しかし。

 

「えっ……?」

 

 廣目は呟いた。

 何かに気づいた。

 一体何を視たのか、それは誰にもわからない。

 彼女は動揺したのか流れでミットを構えてしまった。

 インコース高め。

 アリアは頷き、構えに入って廣目から目を離してしまう。

 これは、アリアが相手だから起きてしまったミス。

 なぜなら彼女は持ち球がストレートしかないから、球種のサインがない。

 それにより一般的な投手よりキャッチャーと目を合わせる回数が1回少なく、それが裏目に出てしまった。

 

「しまっ……!待って……!」

「……っ!?」

 

 廣目がミットを構え直そうとしたが、アリアは既に投球モーションに入っていた。

 アリアは投げる直前になって目を見開く。

 直前では変えられない。

 アリアは今からストライクゾーンを外すこともできるが、廣目が焦って元の位置に構え直したからアリアもそこを目掛けて投げた。

 しかし、それは全て最悪な形で噛み合ってしまった。

 

「―――貰った」

 

 原田林もフルスイング!!

 金属音が鳴る。

 まさか……!?

 

『またしても初球!引っ張り方向……!!』

 

「なっ……!?」

「……っ!?」

 

 アリアがまたしても振り返る。

 廣目もマスクを捨てて立ち上がった。

 表情は驚愕してる。

 打球はファーストを超えてライト前へ!

 ふわふわっと上がった打球だが、これは落ちそうだ……!

 いや、ライトによってはギリギリだ!

 

『優希ちゃーーーーーーーん!!』

「はーーい!皆やっほ~!」

「ちょ……バカ!!」

 

 マズイ、美山先輩が完全によそ見をしてる!

 ライトスタンドに向かってファンサする美山先輩。

 打球が飛んできても完全無視な彼女に対して、中宮先輩が叱責を入れる。

 しかし、それも彼女は無視する。

 打球はライト前に落ちたが、その球は悠長に転がって美山先輩の後ろを通過していく。

 

「クソ!」

 

 美山先輩に期待するのはやめて右中間で止まって放置されてる球を中宮先輩が悪態をつきながら拾いに行く。

 その間に二塁ランナーはホームへ……!

 

『ホームイン!』

「よっしゃ!」

 

 二塁ランナー盛秋さん、ホームイン。

 小さくガッツポーズを作ってベンチへ帰り、向かい入れたチームメイトとハイタッチする。

 獅ノ宮は1失点。

 

 

 王皇百十(おうきみももと) 1 - 0 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 

「秋奈!三塁!」

「……!」

 

 球を拾った中宮先輩はようやく内野を見て、ソユン先輩が三塁を指さしてるのを確認する。

 彼女は腕を唸らせる。

 だが、原田林さんは二塁ベースを蹴らなかった。

 盛秋さんを刺したのを見てもう対応してきた……!!

 

「……っ!……!クソ……!」

 

 中宮先輩は腕を振るったものの空振りで終わった。

 ランナーは止まったから投げても意味はない。

 送球をキャンセルしてインプレーの終わりを確認。

 美山先輩を睨んだ。

 

「あは~!いつの間にか1点取られちゃった~!でも、逆転シチュエーションあった方が優希が目立てる機会多いし別にいっか~!」

「……最悪」

 

 美山先輩を説教しようとした中宮先輩だが、スコアボードを見上げて何も反省してない発言した彼女を前に、諦めた。

 中宮先輩は慣れていないから苛立っているが、美山先輩のやる気のなさで失点するのは今に始まったことではない。

 それより問題はやはり……アリアがまた打たれたということだ。

 

「バカな……たった2球で失点……この私がたった2球でだと!!」

 

 スコアボードを見上げてアリアは歯を食いしばる。

 目も険しい。

 凄まじい見幕だ。

 また内野陣がマウンドに集まる。

 

「ちょっと!本当にどうなってるのよ!?」

「マジで意味わかんねえ……さっきのも150km/h以上出てただろ。140km/hですらプロの上澄みなんだろ?有り得ねえだろ、こんなの」

「質問。ハラリンの従姉妹として、ハラスズは何か思い当たる節はなかろうか。豪速球も打てるほどバッティングが得意とか」

「い、いや……私の知ってる限りじゃそんなことは……。バッティングも上手いけど得意は流し方向だし。器用なタイプであんなにフルスイングする感じじゃなかったと思う」

 

 フルスイング。

 原田先輩のその言葉を聞いて、全員が廣目を見た。

 それは彼女がさっき口にしたキーワードだからだ。

 

「……ユイ。何かわかったか?」

 

 全員が無言で廣目に注目する中、アリアが尋ねる。

 廣目が何かに勘づき始めてるのはミットの構えを一度解いたのを目にした時から察していた。

 廣目は深刻な表情で俯いたままゆっくり口を開く。

 

「ま、まだ定かではないです。でも、またフルスイング……ハッキリとは言えませんが、皆さんも引っかかってると思います。あのフルスイングに何か意図がある……今はそれだけしか。それと、【カンニングリード】をしてわかったことがあります。向こうはストライクゾーンに来た球は全て振っていくつもりです」

『……!?』

 

 全員が瞠目する。

 廣目はその気づいたことから今の段階で考察を口にする。

 

「……ストライクゾーンに飛んできた球は、闇雲に振る。そう思ってるとしか思えない筋肉の凝縮でした。ここまで2人はとにかく力んでいます。そして、全力のフルスイング。それらが何を意味するのか正直まだハッキリとはわかりませんが……ここまで簡単に打たれるカラクリはそこにあるかもしれません」

 

 廣目がポツリポツリと珍しく自信がなさそうに漏らすのを黙って聞いていた一行は、言葉に詰まってしまった。

 この中で1番賢い廣目が分からないと言ってることを他の誰かが辿り着けるはずがない。

 そして、廣目の断片的な情報を聞かされただけじゃ何を喋っていいのか迷う。

 そうこうしてるうちに審判が近寄ってきてしまった。

 

「クソ。時間か」

「今回も打開策なしか。まあ仕方ねえけど……」

 

 アリアが審判を一瞥して、霧島先輩が悪態をつく。

 一度深く息をついて、アリアは開き直るしかないから腹をくくった。

 

「とにかく全力で腕を振るう。今できんのはそれだけだ。打たれるってんなら打たれた球より速く投げてやる。それも打たれるならもっと速く。私の球速に限界はねえ。上げてきゃどっかで反応できない速さが絶対にあるはずだ。いつもよりさらに凄いストレートをぶち込んでやればいいだろ……っ!」

「アリア……」

「アリア先輩……っ」

 

 廣目が行き詰まった時、アリアが気持ちを強く持つ。

 気合いを入れて険しい表情に力を入れるアリア。

 ロジンを落として、グッ……!と握り拳を作った。

 内野陣はそんなアリアを見て頷きあって散っていく。

 そうして迎えるのは―――3番セカンド "浅呉(あさくれ) (ほまれ)"さん。

 

『プレイ!』

 

 再びコールが叫ばれる。

 廣目は【カンニングリード】で浅呉さんを見て、また目を見開いた。

 おそらく原田林さんを視た時と結果は同様だったんだろう。

 だから。

 

『ボールツー!』

「……!」

 

 右打席に入った浅呉さんに対してボール先行。

 アリアは要求通り投げてるが、廣目が逃げてしまっている。

 怖いんだ。

 恐怖が付きまとっている。

 

 ―――"ストライクゾーンに投げれば、またとにかく振ってくる"という恐怖が。

 

 そんな廣目に怒号を浴びせる者あり。

 

「チキンんなユイ!!どこでもいいゾーンに構えろ……!何キロでも、打てねえくらいのヤツぶち込んでやる……っ!!」

「……っ!」

 

 マウンドから叫ぶアリア。

 その一声を浴びて、廣目もようやく覚悟を決めた。

 構えるのはド真ん中!!

 アリアが口角を上げる。

 

「いくぜ!!打てるもんなら打ってみやがれ……!」

「……っ!」

 

 全力で投じた1球。

 球速は……159km/h!!

 

「……っぁ!」

『ストライク!』

「やった!入った!」

 

 俺はベンチで飛び上がる。

 嬉しい。

 空振りでやっとストライクを取れた!

 凄いぞ、アリア!

 "あの状態"に入らない通常の彼女が放てる最速だ!

 王皇の強打者だらけの高校最強打線でも、さすがにアリアの最速は打てないようで安心した。

 完全に振り遅れていた。

 でも。

 

「……っ!」

 

 空振りは取れたけど、廣目は苦い表情で打者を見上げた。

 それは、また"フルスイング"だったからだ。

 廣目の違和感が的中した。

 打者3人、その全てがストライクゾーンに入った時にとにかく全力で振ってくる。

 この違和感は確かに……気味が悪い。

 

「ハッ。馬鹿の一つ覚えみてぇにブンブン振り回しやがって……!舐めんじゃねえ。私のストレートがそう簡単に打たれまくってたまるかッッ!!」

 

 アリアがまた腕を振るう。

 今度は157km/hをインコース。

 

「……っ!」

『ストライクツー!』

 

 よし!これでツーツー!

 追い込んだ!

 アリアはさらに気合を入れて今までで1番その腕を唸らせた。

 

「こいつで終わりだッッ!!くたばりやがれッッッ!!!!!!」

「~~~~~~っ!?」

 

 トドメの1球。

 アリアにしては珍しく制球が乱れ、廣目の構えていた内角低めではなくド真ん中に球が向かった。

 しかし、ここまでで1番空気を裂く。

 凄まじい球威。

 恐ろしい気迫。

 マウンドからミットまで、内野席から見て横切ったその速さは球速が表示される前から球場をどよめかせた。

 それ程に、ひと目でわかる異常な速さ。

 規格外も規格外にして、男子世界の上澄みに、アリアはまたしても踏み込んだ。

 

 

 ────【才能開花(ギフトパージ)】────

 

 

 ―――超越 "161km/h"。

 

 

『ストライクスリー!!バッターアウト!!』

 

「は!?エグっ……!?」

「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 マウンドで拳を振り下ろして雄叫びを上げるアリア。

 去年地区大会打者タイトル総ナメの強打者、浅呉さんも思わずミットを二度見する1球。

 最速を更新した彼女は、相手の作戦を力技でねじ伏せた。

 

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