貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第11話:いつだって本気の証明

 

『うおおおおお!!優希ちゃーーーーーーんっ!!MI・YA・MA!MI・YA・MA!!』

 

 ライトスタンドから割れんばかりの歓声が響く。

 中龍野球部が盛り上げたボルテージはたったワンプレーで逆転。

 球場は『美山(Miyama)』という名が支配した。

 

「あはっ。だから、もうダメだってば。優希言わなかったっけ?」

 

 グラウンドを駆ける美山(みやま)優希(ゆうき)

 成城先輩が助っ人Dさんへする声掛けを挟んで、続く4番バッター福宝(ふくほう) 歩未(あゆみ)さんが助っ人Dさんと対戦。

 

 しかし、彼女のホームラン級の打球も美山先輩によって難なくキャッチされてしまった。

 その結果、向こうのベンチから打者へ出される言葉がこれだ。

 

「外野に飛ばすな!内野を超えるな!当然、外野も超えるな!」

「んな無茶な……」

「監督!内野は超えていいんじゃ……?」

「馬鹿か!?美山の守備範囲がどこまで広いかわからんだろう!レフト前だって捕りに来るかもしれないんだぞ……!」

 

 向こうのベンチは騒然としている。

 全て、美山という外野手の影響だ。彼女一人にひとつのチームが動揺している。

 指示が飛んだ5番バッター成川(なりかわ) 紗綾(さや)さんは思わず苦笑いした。

 それはこちらのメンバーも同じだ。

 

「いや、さすがにレフト前は私が取りに行くんだけど……」

「ハハッ。なんか久しぶりだな、この感じ。去年の春ぶりか?」

 

 呆れたような笑いを浮かべる原田先輩と霧島先輩の三遊間。

 レフト前をサードの原田先輩が追っていくのはおかしいというか、普通ならショートが追うが、ショートの霧島先輩とレフトの長門先輩は守備指標がめちゃくちゃ低かったし、まあ指標が高い原田先輩が取りに行くという合理的なマニュアルがチーム内にあるんだろうな。

 

「……っ!」

「ったく。うちの守備はあんなやる気魔人頼りだけじゃないってのっ!!」

 

 成川さんの打球は三塁線に飛んでいく。

 ギリギリのフェアゾーン。地を這う低い弾道にして、速い打球。ファウルとの見極めも難しく、これはサードには捕れない。三塁を超えてからファウルゾーンに転がっていくのをレフト拾わせるしかない……が。

 

「抜けさせるかよ!」

 

 原田先輩は後ろに倒れ込み、三塁を過ぎた辺りでボールをせき止めた。

 そして、すぐさま起き上がる。

 

「いけオラッ!!」

 

 少しヤケクソ気味の送球。それが一塁へ到達直前ワンバンでファーストのミットへ収まる。

 走者は足があまり速くないのか、捕球とほぼ同時。

 だが、ワンバウンドした後のボールがファーストの胸に綺麗に飛び込んできたあのコントロールの良さを考えると……審判の判断は。

 

「アウト!アウト!!」

「~~~っぁ!」

「しゃおらぁ!!」

 

 審判が数秒、記憶を想起していたのか一塁ベースと睨めっこした後に下したコール。

 それを受けて成川さんはスライディングから起こしていた上体を再び寝かせて悔しがり、同時に原田先輩は雄叫びを上げてガッツポーズを作った。

 このファインプレーにベンチに戻る最中、獅ノ宮メンバーも盛り上がる。

 

「うおおおお!今のよくアウトにしたな!!」

「流石ね。涼香」

「いや、私もいけたらイケ!ぐらいだったんだけど……自分でもびっくりしたわ」

「ナ、ナイスプレー……!」

 

 原田先輩の肩を皆が叩いて戻ってくる。

 だが、最後に戻ってきた美山先輩だけが頬をぷくーっと膨らませていた。

 

「優希の方がナイスだったもん……!!」

「はいはい。いつもナイスでいてくれたら素直に褒められるんだけど?」

 

 責められる謂れがないので困惑気味の原田先輩が座りながら返すと、美山先輩はさらに頬を膨らませた。

 

「原田ちゃんだって打席はずっとナイスじゃないじゃん!」

「……あれ一応本気でやってるつもりなんだけど、もしかして下手くそって言ってる?」

 

 顔を顰める原田先輩。

 だが、美山先輩の言うことには一理ある。

 確かに彼女はこの回、異次元の……常識では考えられないようなプレーをした。対する原田先輩は、彼女のも凄まじいファインプレーではあるが、常識の範疇ではある。

 

 それに、どんなに守備が凄まじくとも勝てはしない。

 打線が貧打では意味が無い。しかもこっちは2失点している。美山先輩が最初からあのプレーをしていたならばまだ違ったが。

 そういえば美山先輩は最初の谷さんのホームランを追う気が全くなかった。最初は普通の反応だなと思ってはいたけど。

 

「美山先輩だって原田先輩を責められないんじゃ……?レフトのホームラン打球を捕れるんだったら、谷さんのライトへ飛んだスタンドギリギリのホームランだって捕れますよね?」

『……っ!』

 

 俺の発言に原田先輩と美山先輩は同時に注目を向けてきた。

 一方は確かに!という視線、もう一方は余計なこと言いやがってという……怖い怖い怖い。

 

 美山先輩がむー……っと可愛らしさも忘れない苛立ちを俺に抱いている一方、原田先輩は暫く目を見開いて俺を凝視していた。

 え?いや、何?なんでこの人こんな俺の事見てんの?なんかまた逆鱗に触れるようなこと言ったか?

 

「……私、男子の味方得たけど。男子目で見ても私の方が正しいってことは私に軍配が上がるんじゃない?」

「それを言ったら優希だってライトスタンドにいっぱい男の子の味方いるもん!しかも優希が間違ってても合ってるって言ってくれるもーん!」

「いや、それはズルでしょ……。あと数の問題じゃないし」

 

 あー、なるほど。原田先輩が俺を見ていたのは俺が彼女を擁護する発言をダシに美山先輩を攻めれると思ったのか。

 この世界じゃ男子の意見というだけで少し尊重される。前の世界で女子がそうだったように。

 

 原田先輩に見つめられた時はどうしたらいいものかと思ったが、どうやら利用価値を見出されただけみたいだな。

 ……いや、別にドキッとなんてしてませんけど?女子に見つめられることなんて初めてで狼狽えた、なんてことありませんでしたけど?

 

「いつまで喧嘩しているのよ。守備につくわよ」

「えっ!?攻撃は!?もしかして終わっちゃった~!?あはっ~!早~っ!!」

「貧打すぎるでしょ……。まあ助っ人に文句言えないし、仕方ないけど」

 

 原田先輩と美山先輩の喧嘩は自軍が貧打だったことで強制終了。

 彼女達はついさっき脱いだグラブやキャップを再び装着してグラウンドに走って戻っていく。

 彼女たちを送り出したこの2回表。そこから試合は淡々と進んだ。

 

 中龍攻撃の表側は、必ず回の始めに成城先輩がマウンドへ声を掛ける。

 そして、ピッチャーの助っ人Dさんは2回から急に立ち直った。基本内野ゴロばかりになり、強い打球は必ず守備が上手い成城先輩か原田先輩の元に飛んでたちまちアウトを量産する。

 

 中龍は1回表で美山先輩にビビったのか、彼女の出番はあまりなかった。ていうか美山先輩本人にやる気がなかった。

 ライトフライも失点に繋がらなければ無視。センターの助っ人Bさんが慌てて拾いに行っていて正直可哀想だった。

 

 だが、得点に繋がる打球が飛ぶと美山先輩の守備範囲は0から外野全体になる。

 まさにやる気魔人。必要のない時は動かない。

 そして、何故か『2点差』というのに拘っているようだ。

 成城先輩の言葉を思い出す。

 

『逆転シチュエーションが欲しいんじゃないかしら』

 

 つまり、逆転勝ちをしたいからその為に試合をコントロールしている……?

 美山先輩のやる気一つでそこまで変わるというのか、と試合前なら疑問に思うが。

 彼女のプレーを見た今、違和感は完全に消えた。

 

「あ~あ、早く原田ちゃん打たないかなぁ?」

「……マジか」

 

 ボヤきながら息をするようにファインプレー。打った中龍のバッターは毎度唖然としている。

 だが、美山先輩にとって当たり前のプレーだ。俺は初めて見たけどそれだけはわかる。

 彼女は特別なことをしている素振りはまるでない。

 全て、『できる』からやってるだけだ。

 

 続いて、2回からの獅ノ宮の攻撃。つまりは裏側の話。

 正直こっちは語るところがない。

 何故かって、言うまでもなく三者凡退の応酬だからだ。

 

 7回に長門先輩が、橋本さんの今日最速141km/hをスタンドに放り込んだこと以外は何も見所がなかった。

 長門先輩が放ったのはソロホームランだからそれでも負けていたし、尚更。

 

 ちなみにこの世界でいう『140km/h』が前の世界でいう『150km/h』だ。

 俺の世界で女子野球は130km/hが出れば上々くらいだったが、さすがに歴史を積み上げれば、平均速が135km/hになるらしい。

 

 それでも元の世界の男子野球に比べれば物足りないが、まあそれは置いておいて。

 この世界の最高速を考慮すると、高校時点で141km/hを投げる橋本さんはえぐい。前の世界の高校生が150km/h投げてるレベルだ。

 そりゃ中龍の宝になるわな……と思う。

 

 それをホームランにする長門先輩も長門先輩だが。

 彼女はOPSも優秀だし、ホームランの数も凄まじいから俺は明日の試合をやる上で結構注目している。

 まあ今日のところは三振が多めだが、橋本さんが相手だと思うと仕方ないかもしれない。

 

 と、まあポジ要素もあったなと贔屓が情けない試合をした時の感想みたいななのしかもう言葉は出てこない。

 それくらい打線も、打席の内容も酷かった。

 橋本さんが凄いにしてももう少し善戦してくれると思ったが、本当に何度も言わせるな。口ほどにもないって。

 

 原田先輩は凡打ばかりだし、成城先輩は2回以降初球ファーストゴロの繰り返し。美山先輩は変わらずニコニコしながら見逃し三振(ミノサン)見逃し三振(ミノサン)

 守備は凄いが、打席は酷い。というか多分やる気のない時の守備と同じものを感じる。バットを振る気すらないといった感じだ。

 

 助っ人ズと霧島先輩?あぁ、語ることないよあの人たちは。

 橋本さんに手も足も出ないの一言に限る。

 霧島先輩なんて助っ人ズより酷い。

 当たる気配のないバットぶんぶん丸だ。橋本さんの球、見えてすらいないんじゃないか……?まだ原田先輩の方が希望を感じたぞ。

 

 ―――そして。

 長々と話してきたが、8回まではそんな感じの内容で終わりだ。

 試合は獅ノ宮1-2中龍の1点差で9回表、最終回。

 

「涼香」

「……?」

 

 この回で打たなきゃ負け、という場面に入る前に成城先輩に声をかけられた原田先輩がネクストバッターズサークルに向かう足を止めて振り返る。

 成城先輩はスコアボードを見上げて彼女に告げた。

 

「もういいわよ。あとは任せなさい」

「……!あぁ、そっか。ほんとじゃん」

 

 成城先輩の視線の先を後追いして原田先輩が納得したように同意した。

 二人の会話の内容はイマイチよく理解できないが、とりあえず指示が渡った原田先輩は。

 

「……」

 

 暫くスコアボードを眺めながら何か考えていた。

 そして、結論を出すとまた成城先輩と向き合う。

 

「私、打つわ。あぁいや、打てるかはわかんないけどさ」

「……!」

 

 原田先輩から出たセリフに成城先輩が意表を突かれたように目を見開く。

 しかし、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

 

「……そう。だったら私は貴女を信じるだけね。頼んだわよ」

「ストライク!バッターアウト!」

 

 成城先輩が優しく原田先輩に告げたと同時に審判がコールを叫ぶ。

 二人が会話している裏で、この最終回の先頭バッターである9番の助っ人Dさんが空振り三振してしまった。

 

 中龍のピッチャーは最後まで橋本真広さん。向こうは彼女に経験値を積ませるために試合をしているのだから、当然だ。

 練習試合でイニングを食わないでどうするっと言わんばかりに向こうは誰も肩を作っていない。

 

 橋本さんもそこは自覚しているのか、最終回でも気迫のこもったピッチングだ。

 原田先輩は打つと言ってみせたが、あれを相手に原田先輩が打つのは今の彼女相手でもかなり厳しいかもしれない。

 それでも。

 

「……!おう!!」

 

 成城先輩に掛けられた言葉を胸に、強く、強く秘めて。原田先輩は気合いと共にバッターボックスへ向かった。

 さぁ、最終回(クライマックス)だ。

 

「いくぞ!真広!!」

「……っ!……うん」

 

 原田(はらだ) 涼香(すずか) VS 橋本(はしもと) 真広(まひろ)の火蓋が切られる。

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