貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第111話:選手を壊す スナイプショット

 

『3番 ファースト ソユン サン』

 

 "多田徐(おもむろ) 真三寧(まみね) VS ユ・ソユン"。

 

「……ふん。何がUZRを体感させる能力よ。バカバカしいわね」

 

『プレイ!』

 

 右打席に入るソユン先輩。

 相変わらず悪態をついて、鼻を鳴らしている。

 そんな彼女に投じられる3球。

 1球目がストライク、2球目がボール、3球目をカットして彼女は気づいた。

 

「……っ!こいつら……!」

「……」

 

 自身の足元にいる捕手の進川さんを睨むソユン先輩。

 当然の反応だ。

 マジで舐め腐ったリードをされてる。

 ここまで全部内角攻め。

 つまり、詰まって三遊間に飛ばせという安直なリード。

 ソユン先輩はキッ……!と目付きを鋭くする。

 

「器用貧乏舐めんじゃないわよ。確かに規格外の打撃能力はないけど、こんな同じところ適当に攻めた球くらいなら、狙ったとこに打てるっつーの!!」

「なっ……!?」

 

 内角のフォークをソユン先輩は捌いた。

 打球は逆方向に飛んで、一二塁間を超えてライト前に落ちた。

 やった、ソユン先輩のヒット……!

 

「よっしゃ!クレアが宿した灯火、途絶えさせないわよ!長い年月かけてネチネチいじり倒した妹相手にしかイキれない奴に、負けないわ。相手は私達全員よ!」

「……別に。長い年月かけてないし。妹じゃないし。相手は選ばない」

 

 一塁ベース上で拳を突き出すソユン先輩に絡まれて、ショートの原田林はため息をついてそっぽを向く。

 これでワンアウト一塁。

 そして、次の打者は……美山 優希先輩。

 

「あは~。点差ヤバ~!さすがにこれだけ開いたら優希1人じゃどうしようもないよね~!」

 

 そう笑いながらニコニコで打席に入る美山先輩。

 去年の獅ノ宮なら劣勢になった時、美山先輩がやる気を出して試合をひっくり返し、彼女が一躍ヒーローに……というのがお約束だった。

 だが、今日の試合は点差が開きすぎていて美山先輩だけの力では覆らない。

 それでも彼女は何か企みがありそうな含みのある笑みを浮かべる。

 

「……ホームラン打っても意味なさそうだしぃ。ちょっと変わったの、打っちゃおっかな」

『……っ!』

 

 王皇ナインがここまでにはなかった警戒体勢を顔を顰めて示す。

 やはり美山優希は危うさがあり、試合展開に限らず注意されている。

 彼女の発言に王皇バッテリーは表情を険しくした。

 

「……打てるのは前提かよ」

「ほんまやで。侮りよってからに。どっちが舐め腐っとんねんマジで」

 

 悪態をつく王皇バッテリー。

 悪い笑みと、さっきの原田林とは比べ物にならない存在感。

 得体の知れなさからくる不気味さと威圧感がグランドを支配する。

 王皇ナイン全員が美山先輩ただ1人に身構える。

 なんのチャンスでもないこの打席で、だ。

 全国トップレベルの野手8人とそのチームのエース。

 それらの本気の敵意と対峙する美山先輩。

 だが、そうは感じさせない余裕が彼女にはあった。

 彼女は口角をさらに上げて、バッティングフォームを構えて視線を動かす。

 

「あはっ。確かにぃ~?原田ちゃんのお姉ちゃんが中でも飛び抜けてるって感じあるけどぉ。このチームの要って……正直"そこ"だよ―――ねっ!!」

『……っ!!』

 

 美山先輩のスイング!

 初球から行った!

 内角を攻めたフォーク、それに完璧に反応して一瞬で軸を固定し、ジャストミート。

 打球は逆方向へ……ファーストライナーコース!!

 でも、めっちゃキレよくて回転かかってて速くて鋭い打球だ!

 

「……っ!まず……っ。(あさひ)、捕るな!!」

「は!?えっ!?捕る"な"……!?」

 

 打球が飛んだ瞬間にその質を見て、原田林さんが叫ぶ。

 彼女の指示が聞こえてファーストの穂石(ほぜき)さんは耳を疑って二度見した。

 それでも、原田林の信頼度は高いから、彼女は従って顔面付近に飛んできた球をギリギリで避ける。

 マジで間一髪のエグい直撃コースだった。

 本来ならそこにグラブを出してたからそれ程の危険ではないライナーだったと思うけど、原田林の判断はなんだったんだ……?

 

「……っ。あいつ……!」

「あはっ。あれ~?上手くいったと思ったんだけどなぁ。さすが原田ちゃんのお姉ちゃん……だね!」

 

 打球はライト前に落ちて、一塁ベースに余裕で到達した美山先輩が原田林に笑みを向ける。

 原田林は凄まじい剣幕で美山先輩を睨んでいた。

 な、なんだなんだ。

 なんでこんな嫌な雰囲気なんだ?

 

「ちょ、審判!あいつ……!わざと旭の肩を狙った。ドライブがかかったあの打球、鋭くて速いあんなのは捕りにいったらグラブが弾かれて捕れない。んでその捕球体勢を取れば肩に直撃コースになる。ライナーでドライブ、見た目以上にダメージを与える打球……!当たってたらお釈迦でしょ!それが故意なら危険行為だ!退場させてよ!!」

「お、落ち着きなさい!もしそうなってたとしても、故意でできるはずがない。事故だ!それに実際には起こらなかった!なのに退場なんて、事実確認も取れないのに無理よ……!」

「……っ!故意でしょ!理由?んなもんあいつが美山だからだ!あいつなら出来る!常識にどれだけ当てはまらないか、もう周知でしょ。去年の高校野球観てねえのか……!?」

 

 マズイマズイ!

 塁上の美山さんを指さして怒号を響かせる原田 林さん。

 審判に抗議し、その結果口論に発展した。

 2人の叫びは響きに響き渡って、球場の歓声がなければ全員に聞こえるくらい激化してる。

 そこに江山さんが割って入る。

 

「落ち着け、(りん)!彼女達に理屈は通じない!分かってるだろう……!」

「……っ!栗深(くみ)……!」

 

 駆け寄ってきた江山さんに指摘されて原田林さんはようやく少し我に返る。

 唇をかみ締めて俯いたあと、塁上で余裕な態度の美山さんが目に映って、眉間のシワを寄せた。

 

(りん)。この抗議に意味はない。彼女達は計れない。だから、騒ぎ立てても証拠は出てこない。やるだけ無駄だ!」

「……クソ。ふざけんな。あんな危険行為、許すなんて野球に対する冒涜だ。何が要だ。要だと思ってんなら、そこを潰そうとするな。あいつ、勝つ為なら相手を再起不能にしてもいいと思ってやがる……!」

「……そうだね。許せない。でも、我々は正々堂々やれることをやって、実力で勝つしかない。同じ土俵でやりあうなんて愚か者のすることだ。あっちの誘いに乗ったら終わる。あの規格外の9人とは、マトモにやり合うべきじゃない」

「……!」

 

 江山さんに諭されて、原田林さんは歯を食いじばる。

 でも、一度深く深呼吸して何度か自分を納得させるように頷いた。

 それで落ち着きを取り戻す。

 江山さんの言ってることが正しいと思ったからだ。

 

「ごめん。もう大丈夫。ありがとう、栗深(くみ)

「礼には及ばない。勝つためだ。そうだろう?」

「……!うん……!」

 

 江山さんの言葉に原田林さんは強く頷いた。

 そして、試合は元の流れに戻る。

 審判もこれ以上続けるなら原田林さんに何かしらの処置を施すつもりだったようだが、彼女が自ら身を引いたので事なきを得た。

 再び守備位置につく原田林さんは美山先輩を始めとして獅ノ宮野球部を睨みつける。

 

「野球に敬意を持てねえクソ共が……勝つのは王皇(わたしたち)だ。絶対負けない」

「……!」

 

 次に打席に入る中宮先輩が、ショートポジションからの凄まじい威圧感にビクッとして目を丸くする。

 少し狼狽えたが、そっちを見ないようにして中宮先輩はメットを深く被り、集中状態でバットを構えた。

 

 "多田徐(おもむろ) 真三寧(まみね) VS 中宮(ちゅうぐう) 秋奈(あきな)"。

 

「……っ!!」

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

 結果は空振り三振。

 苦手の変化球、フォークボールに泳がされてしまった。

 

「……ごめん」

「どんまいです!仕方ないです!」

 

 ベンチに戻ってきた中宮先輩がメットで目元を隠して謝るので、励ましと一緒に用具を回収して手伝った。

 これでツーアウト一塁二塁。

 続くバッターは、ユ・ソヨン先輩。

 

「困惑。オーマイ。ランナーを返せるか、正直不安だベイベー」

 

 相変わらず面白くない変なノリで右打席に入るソヨン先輩。

 自信がなさそうだ。

 彼女は守備特化の器用貧乏だから仕方ない。

 でも、ラッキーが起きた。

 

「うっ……!」

「よっしゃ。ポップフライ!」

 

 進川さんがマスクを捨てて見上げる。

 打球は内野に打ち上がり、マウンドの後ろに落下されると思われる。

 それを内野陣全員が落下地点に入ろうとして……あれ?これ……マズくね?

 

「おっ?」

 

『さぁ!打球打ち上がった!これは捕れるぞ!セカンド落下地点に入る。いや、ショートか?おぉっと!?誰が入るんだ!?誰が捕るんだ!?誰が捕るんだーーーーー!?』

 

「なっ……!」

「ヤバ!」

「しまっ……!」

「あっ……」

 

 なんと!内野陣の全員が捕りに行こうとして譲り合った結果、簡単な内野フライが落ちた!

 まさかのポテンヒット。

 もちろん打ち上がってる間にソヨン先輩は一塁を既に駆け抜けてる。

 走りながら彼女ももしや……と見上げた程の余裕さだ。

 なんともラッキー!

 これでツーアウト満塁!

 

「はぁ……?」

「あ、あはは……ウチの守備やなぁ……」

 

 マウンドの多田徐(おもむろ)さんは困惑。

 進川さんは呆れたようにもはや笑うしかないといった感じ。

 王皇の野手は原田林さん以外は打撃特化。

 守備はそんなに能力が高くない。

 故に起きた事故だ。

 

「どんまいどんまい!次前進守備!スクイズ警戒!」

「……っ」

 

 進川(しんかわ)さんの掛け声で向こうの内野陣は切り替えて守備位置に戻る。

 次の打者は霧島先輩だから、というのもある。

 今回獅ノ宮は守備重視のスタメン。

 完全にそれが裏目に出てる。

 ソヨン先輩は運良く出塁できたが、そう何度もラッキーは起こらない。

 霧島先輩もソヨン先輩同様打撃は苦手。

 さぁ、どうするか。

 

「……」

 

 打席に入る前にバットを見つめた霧島先輩。

 そして、その目を閉じて、想起する。

 

『立ち上がれ……!』

 

紗永(さえ)!一緒に部活行こ!』

 

 切り込み隊長の闘魂。

 親友の声。

 そんな親友を……苦しめ続けた元凶。

 

「……いくぜ」

 

 霧島先輩は、静かに闘志を燃やしていた。

 鋭い剣幕でバッターボックスに足を踏み入れる。

 

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