貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
『7番 サード
"
霧島先輩は、構える前に、すぅと息を吸う。
そして。
「
『……!!』
突如、打席で名指しで叫んだ霧島先輩に王皇ナインは瞠目する。
そんな反応を置き去りに、霧島先輩は原田 林ただ1人に鋭い目を向けてバットは下ろした。
身体ごと正面で彼女と向き合い、霧島先輩は原田 林と睨み合う。
「……あたしは
突然名乗りを上げた霧島先輩に原田 林さんは顔をしかめる。
「は?何?」
「てめぇの従姉妹、現ショートストップ
「……」
霧島先輩は因縁をつけた。
対する原田 林さんは「またか」といった感じで怠そうにため息をついて目を逸らす。
「紗永……」
ベンチの原田先輩は俺の隣でそんな霧島先輩を見ていた。
友達の温かい気持ちに唇をキュッと結んでる。
そんな本人を霧島先輩は見ない。
背中だけを見せて、目を逸らした原田 林さんに向き合い続ける。
「……涼香は優しくて、良い奴だ。てめぇを許さねえが、あいつは仕返しなんざ求めちゃいねえ」
「……はいはい」
ささっとインプレーに入らないかなって感じで腕を組む原田 林さん。
霧島先輩は審判に注意される前にバッティングフォームに入った。
「だから、野球でてめぇに打ち勝つ!!いくぜッッ!!」
バットを構えた霧島先輩。
気合十分で勝負が始まる!
ショートストップ代理、霧島 紗永の挑戦状だ!!
『ストライク……!』
「ぐっ……!」
3球。
カウントはツーストライク、ワンボール。
霧島先輩は追い込まれて顔を顰めた。
だが、まだまだ諦めてない。
普段バッティングは苦手だからと少し億劫そうだった彼女からは考えられない程の気合いが宿っている。
食らいつく気だ。
「野球で勝つ?王皇を舐めるな……!」
「……!」
多田徐さんが決めに行く球を投げる。
間違いない、追い込んでからの落ち球。
フォークだ!
そして、それを……!
「待ってたぜ!!」
「なっ……」
霧島先輩の待ち球だった!
ストライクゾーンから外れに行くフォークを霧島先輩は器用にすくいあげる。
おそらく最初からフォーク狙いだったんだろう。
安直なリードで決めに行く時は必ず来るし、どこに来るかもわかりやすいし。
それに彼女のパワーならストレートは力負けする。
だから、フォークを選んだんだ。
そして、打球は二遊間へ!
「……バカが!本気で私に挑みきたか。手先は器用だから、逆方向も狙えただろうに……!これだからヤンキーは……!」
「あっ!ごめ……っ!」
「……っ!?」
霧島先輩はわざと原田 林も捕りにいける二遊間にふわっと打ち上げた。
ポテンヒットになりそうな弧を描いてセンター前に落ちそうな球を原田 林さんとセカンドの浅呉さんが捕りに行き、2人は交錯しそうになる。
二遊間の打球は基本浅呉さんが原田林さんに譲るようにいつも決めてあるが、今回はセカンドよりの打球。
だから、それには該当せず浅呉さんが捕りにいった。
だが、原田 林さんは煽られたことで霧島先輩に意識が行って、飛んだ瞬間の打球だけ見て、あとは見ずに行動していた。
霧島先輩に意識がいっていたんだ。
そのせいで浅呉さんの接近に気づかなかった。
しかし、それでも原田 林は守備の達人。
咄嗟のことでも対応を細かにかえた。
浅呉さんが交錯を恐れて引っ込んだのを見て、自分は臆せず突っ込んだ。
だが、間に合うかは微妙だ!
その一部始終をランナー全員がスタートを切る準備をして注目していた。
「落ちろ……落ちろ……!落ちろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!」
「……!」
塁前まで到達した霧島先輩が速度を弛めて走りながら願いを込めて叫ぶ。
そして、彼女の脳裏には親友の笑顔が浮かぶ。
だから願う。
勝ちたい。
点が欲しい。
これも、落ちろ。
落ちろ……!!
「……っ。クソ……!」
『……!』
原田林さんが眉間にシワをよせてグラブを伸ばす。
打球はもう落下する。
地点ももう誰でもわかる。
彼女のグラブが届くかどうかも……わかるし、瞬きの間に判明する。
結果は。
『落ちたーーーー!!ヒットになる!!』
「……っ!!よっしゃあぁぁぁぁぁーーーーーっっっ!!!!」
『うおおおおおおーーーー!!紗永ーーーーっっ!!』
落ちた!落ちた!!
ポテンヒット!
霧島先輩は一塁に到達して、ソヨン先輩は二塁。
ソユン先輩が帰ってきて……あとは美山先輩!
「……あはっ!」
『……!?』
センターの盛秋さんかカバーに入って、捕球し、3塁ベースを見て全員が衝撃を受けた。
美山先輩は3塁ベース上にいる。
走ってはいない。
彼女の足ならワンチャン帰れそうだが全くその気配はない。
だが、スタートを切る体勢は取ってる。
それが意味をすることはつまり……。
「あいつ……!待ってやがった!勝負する気か!?」
「舐めやがって……クソ。二塁ランナーの進塁妨害だろうが……!」
そう、美山先輩は盛秋さんが送球するのを待っていた。
わざと走らなかった。
バックホームとよーいドン!で競争するために。
原田 林が顔を顰めて悪態をついたように、完全に舐め腐っている。
「いっくよー!あはっ!!」
「ふざけんな!!」
美山先輩が飛び出したせいで、送球キャンセルでインプレーを終わらせるという強制終了は使えなくなった。
もう盛秋さんは勝負するしかない。
だが、彼女の方が有利だ。
捕球した場所はセンター前の浅いところだし、普通ならそこからの勝負でホームなんて余裕で間に合わない。
……普通なら。
『ホームイン!』
「はい、優希の勝っちぃ~~~!!いえーーーい!!」
盛秋さんの全力バックホームも虚しく、美山先輩はホームイン。
しかも余裕。
進川さんの捕球すら間に合ってなかった。
速い。
あまりに速すぎる。
ホームランキャッチしたり外野全部カバーしたりするほどの守備力に、ピンポン球のようにホイホイホームランを打つ打力。
それに加えてこの脚力。
―――
「あははっ!そうそう、その画角~!わかってるね~!ほら、優希盛れてるでしょ~?」
美山先輩はカメラを見つけて猛アピール中。
ポージングを決めて撮影会みたいになってる。
王皇ナインはそんなふざけた、けれど超越存在の美山先輩に唇を噛み締めるしかない。
これで点差は縮まった。
追い上げてるぞ、獅ノ宮……!