貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第113話:『絶対の原田』

 

「……っ」

 

 アリアがピッチャーゴロでスリーアウトとなった。

 初回の獅ノ宮の反撃はこれで終わり。

 3点を取って7点差まで縮めた。

 二者残塁でチェンジ。

 

「アリア!どんまい!」

「……あぁ」

 

 ベンチに戻ってきたアリアに声をかけたが、暗い顔で生返事しか返ってこなかった。

 彼女はバットやメットを片付けるとマウンドに上がる準備をしてすぐにトンボ帰りのようにベンチを出る。

 

「……アリア先輩。この回も左でリリポ調整スタイルでいきましょう」

「わかった」

 

 マウンドへ向かうアリアの隣に駆け寄ってなんとか廣目も声をかけたが、二つ返事でも弱々しさがある。

 彼女はそんな状態の中、また打者と相対した。

 

「……っ!」

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

 先頭打者の6番ライト関内(せきうち)さんが空振り三振。

 よし!廣目のリリポ調整作戦は上手くいってる!

 なぜかはわからないけど相手は急に打てなくなった。

 リリポ調整が刺さってるのは間違いない。

 それを提案したのは廣目。

 もしかして廣目は打たれてる理由にもう気づいてるんじゃないかって思えてきた。

 じゃないと対策は刺さらないし……。

 

「……なるほどね」

 

 次に打席に入る江山さんが何やら納得した様子だった。

 アリアと廣目さんを交互に一瞥して、彼女はバットを構える。

 

「この対応力、凄まじいね。よく気づいて、よく考えたものだ。それを実行できる投手も……凄まじい。だが」

 

 彼女は敵のバッテリーを称賛すると共に、そう甘くないと表情で語った。

 

「私は作戦を実行しているだけの皆とは違う。()()()()()をズラされたくらいなら、動じないさ」

「……っ!」

 

 江山さんの言葉に廣目が目を見開いて見上げる。

 タイミング。

 そのワードに反応した。

 そして、反応するであろうことを見抜いていた江山さんが廣目の視線を、口角を上げて迎える。

 廣目は彼女に慄いた。

 

「ふっ……!この辺りかな……っ?」

「……っ!」

 

 江山さんが打った!

 リリースポジションの調整で球の出処をわかりにくくしたのに、変えた投球のタイミングに合わせてきた。

 だが、完全には合っていない。

 さすがの江山さんも応急的な対応のようでセンスだけで合わせにいってる。

 打球は二遊間へ……!

 

「大丈夫!捕れる!」

 

 原田先輩が声を出して二塁ベース前でバウンドした打球の先へ入った。

 問題なく捕球できそうだ。

 ショートゴロにできる!

 

「……っ!しまっ……!」

 

『……!』

 

 原田先輩は捕球はできたものの、それを零してしまった!

 アリアが目を見開いて驚愕する。

 走る江山さんは全力疾走で、少し口角を上げていた。

 ボールは転々と二塁ベース前に転がっていく。

 

「ご、ごめん!」

「どけ!私が捕る!」

「……もう間に合わないわよ」

 

 アリアが慌てて自分で捕ろうとしたが、ソユン先輩が拾って「んっ」と親指で自身の後ろを指す。

 原田先輩とアリアの2人が一塁ベースを見ると、もう既に江山さんは塁上で腕を組んでいた。

 

「クソ……!」

「ごめん……アリア」

「……」

 

 原田先輩が謝るが、アリアは無言で廣目からの返球を受け取る。

 ……あまり空気が良くないな。

 

 そんな中。

 恐れていた事態が、起き始めていた。

 

『なんか向こうのショート下手じゃない?』

 

「……!」

 

 スタンドからそんな声が偶然よく通った。

 内野陣とベンチには完全に聞こえた。

 原田先輩は目を見開き、俺達は思わず声のした方を見た。

 

 ―――江山さんの口元が緩む。

 

「……っ。今……!」

「しっ。まだ続くわよ」

 

 俺が隣の成城先輩を一瞥すると、彼女は観客席を睨んだ。

 彼女の言う通り、さっきのポロッと出た囁きはさらに続いた。

 

『うーん、守備範囲は広いけど……それ以外イマイチ?』

『ねっ。初回は上手いと思ったけど、ちょっと微妙かも』

 

 そんな声がチラホラ聞こえ始める。

 ネットでも「獅ノ宮のショートが微妙かも」という声が実況で投稿され始めてる。

 これは……!

 

「……始まったわね。たった1回。守備機会は共に2回。それだけでもう既に比較され始めてる。これが原田 林の能力よ」

「で、でも……!確かに原田 林さんは上手いけど、だからって原田先輩が下手とはならなくないですか!?守備範囲以外は原田 林に劣ってるかもしれないですけど、原田先輩だって充分上手いじゃないですか……!」

 

 俺は反論する。

 成城先輩に言っても仕方ないが、彼女は俺の気持ちを理解して受け入れる。

 

「……その通りよ。涼香だって上手い。雑なところはあるけれど、あの()にしか取れないゾーンがあるのも確か。でも、そんなことは関係ない。総合的に、そして相対的に判断される。そうなったらもう……いくら涼香でもどうしようもないわ」

「……っ!」

 

 UZRを体感させる能力。

 その対象は相手選手だけでなく、観客も配信を観てる人も全員!

 なんて恐ろしい能力だ。

 上手いのに、下手に見える。

 最悪だ。

 

「たったワンミスでこんなに言われるなんて……悔しいです。それも原田先輩の売りじゃないところで……範囲で勝負なら誰にも負けないのに……!」

「……そうね」

 

 原田先輩か悪く言われるのは嫌だ。

 そう告げると、成城先輩は同意だけしてくれた。

 

 試合はワンアウト一塁。

 ネクストバッターは8番サード包剛(ほうごう) (あさひ)さん。

 

『先程の打席ではホームランを放っています!この打席も期待です!』

 

「……」

 

 実況がアリアにとって嫌な記憶を振り返る中、アリアはさっき打たれた相手を鋭く捉えた。

 そして。

 

「……っ!!」

 

『ファール!』

 

 2球目。

 初球は見られてその後、包剛さんのフルスイングはアリアのストレートを掠めて廣目の足元で跳ねた。

 それを見て、アリアも廣目も瞠目する。

 

(こいつ……!)

(もう対応してきたんですか!……っ。おそらくこの人だけじゃない。チーム全体で掴みつつある。江山さんのアジャストを見たその時から!)

 

 一塁ベース上の江山さんが不敵な表情を浮かべる。

 彼女が多少頑張ってでもアリアに対応しに行ったのは、自分の打席をチームメイトに見せる為だったんだ……!

 アリアがズラしたタイミングを大まかに把握した江山さんから、打席を見せただけで、そこからチーム内で共有した王皇打者達。

 なんて奴らだ。

 打者として全員レベルが高すぎる……!

 

「……悪いがまだまだ点は貰うよ。ウチのチームは特別でね。10点取ったくらいじゃ安心できないんだ」

「……っ!走ったわよ!」

 

『……!?』

 

 ファーストのソユン先輩の叫びにバッテリーが反応する。

 アリアは既に投球モーションに入ってる。

 これは江山さんの盗塁。

 いや―――。

 

「……っ!!」

「エンドラン……!」

 

 包剛さんが振った!

 彼女のフルスイングはアリアのストレートを引っ掛け、右中間に落ちる!

 

「クソ……!」

 

「ふっ。よくやったね、(あさひ)

栗深(くみ)がやった通りのタイミングでいったら打てた……!」

 

 一塁ベース上で喜ぶ包剛さん。

 やった通りに……って見様見真似でタイミングコピーとか普通の技じゃないだろ!

 しかもコピーどころかそこからさらに合わせてきた。

 匠の所業だ。

 なのに平然とやった。

 王皇にとっては数あるスキルのうちの1つなんだ!

 本当に打撃に関してだけは全員プロフェッショナルなチーム……!

 典型的なホームランバッターの包剛さんですらバッティングは器用さも有している。

 厄介な……!

 

『9番 ピッチャー 多田徐(おもむろ) サン』

 

 次の打者はピッチャー。

 ここはさすがに大丈夫な相手だ。

 結果は送りバントでツーアウト二塁三塁。

 まあ定石って感じになった。

 問題は次だ。

 

『1番 センター 盛秋(もりあき) サン』

 

 きた!

 また強打者だらけの上位打線の始まり。

 しかも今回もピンチで迎えてしまった。

 ここを抑えるのは肝だぞ、アリア……!

 

「……っ」

 

 マウンドのアリアは眉間にシワを寄せる。

 肩で息をした。

 左打席に盛秋さんを迎える。

 

「……迫られた分、また点取るか」

「させるかよ!!」

 

 ボソッと呟いて構えた盛秋さんに、アリアは全力で投じる。

 144km/hのストレート。

 それを。

 

「……っ!」

 

『また初球ーーーーーーっ!!』

 

「なんだと!?」

 

 もう完全に変えたタイミングも読まれてる!

 盛秋さんの打球は右中間へ!

 

「……っ!」

 

 中宮先輩が落下地点に向かうも目の前で落ちた。

 彼女は捕球のために腕を伸ばしていたが、それは叶わず空振って体勢を前のめりに崩す。

 右中間をスタンド方面へ転がっていく球を中宮先輩は横切る形になってしまい、Uターンしてまた拾いに走る。

 その間に二塁ランナーと三塁ランナーはホームイン!

 また失点してしまった……。

 

『盛秋さんタイムリーツーベース!王皇はまた2点追加!』

 

「……っ!」

 

 アリアがスコアボードに刻まれた数字に顔を顰める。

 

 

 王皇(おうきみ)百十(ももと) 12 - 3 獅ノ宮(しのみや)

 

 

「……っ。クソ……!」

「キッツイわねこれは……!」

「またしてもアリアを打つとは。どうなっている!」

「混乱。対策も有効だったはず。なぜにこれほど早く対応されるのか」

「たった2回で12点なんて、結構やるね~!」

「……なんでそんな呑気なの。さっきのも本来はあんたがカバー入るやつでしょ」

 

 獅ノ宮ナインが口々にこの展開に動揺し、中宮先輩が美山先輩を睨む。

 だが、美山先輩は何処吹く風。

 最後に残った原田先輩が俯く。

 

「これが本来の王皇……!去年と全然違う。これが……(りん)ちゃんのチーム……」

 

 王皇ベンチを見る原田先輩。

 そして、ネクストバッターは……。

 

『2番 ショート 原田(はらだ) サン』

 

「……!」

 

 原田 (りん)

 彼女が左打席に入り、原田先輩の視線もそっちに移った。

 まだ2回表、しかし3打席目が回ってきたもう1人の原田。

 彼女と対戦する前に廣目がタイムをかけてマウンドに駆け寄る。

 

「アリア先輩。またリリポを調整しましょう。とにかく振り出しに戻るのは避けたいです」

「あぁ……わかってる」

 

 汗を拭うアリア。

 体力以上に精神的に追い込まれている。

 それに……何か思うことがある顔だ。

 隠してる気持ちがあるように見える。

 そういう雑念を抱えて投げるのは、ピッチャーを担う者が1番よくない。

 

「……もう打たせる訳にはいかねえ。何がなんでも抑える!」

「ま、そらリリポ変えるよね。次は出処わかりやすくってのも予想通り。実測より遅く感じるけど……ここでしょ!」

「……っ!?」

 

 廣目がマスクを捨てて立ち上がる。

 原田 林のフルスイングにより放たれた打球はまた右中間……!

 さっきより手前に落ちそうだが、ライト・センター・セカンドのちょうど中間が落下予測地点。

 誰も間に合わない……!

 

「頼む、捕ってくれ皆……!打たれて悪い!でも、次の1点だけは死守したいんだ。この1点は……アリアが取った1点だ!!」

 

『……っ!!』

 

 アリアの悲痛な叫びに全員が反応する。

 

「アリア……!」

 

 クレアも瞠目する。

 野手全員が一丸となるが、どう考えても誰も間に合わない。

 

 ……1人の守備範囲規格外を除いて。

 

「私が捕る!クレアの1点……渡してたまるかっ!!」

 

『……っ!涼香!』

 

 閃光の如く現れた救世主。

 またしても駆け抜けてきたスプリントに、全員の期待が集まる。

 彼女が参入しただけで絶大な安心感と信頼感が発生し、打球を追いかけていたソヨン先輩も、落下地点へ向かっていた中宮先輩も足を緩める。

 それは、守備のエース、ショートストップに求められる【絶対】感。

 絶対の確信。

 彼女になら任せられる。

 1番高い守備能力を持っていることが事実であるという認識。

 そして、実際にそれが事実であることを証明すること。

 

 駆け抜けろ。

 ショートストップ。

 

「―――涼香」

「……!」

 

 原田先輩の姿を目に焼き付けていた人が1人だけいた。

 彼女は一塁ベースを蹴って二塁へ向かう中、原田先輩に目を奪われていた。

 それは、原田 林。

 原田先輩は打球の落下地点を目指して速度をさらに上げながら、彼女と一瞬、目を合わせた。

 そして、衝撃を受ける。

 その顔は幼少期以来見ていなかった表情。

 

 ―――(りん)ちゃんの後を追って野球していたあの頃、守備をする度にセンスがあるって褒めてくれた。

 

 ―――あの時の、私の守備に対して嬉しそうに柔らかく微笑んでいたお姉ちゃんの顔。

 

 原田先輩は、原田先輩も。

 目を奪われた。

 原田 林の表情に。

 でも、それはホントに一瞬。

 打球を捕らなきゃいけない。

 そっちに意識を向けなきゃならない。

 だから、目を離すしかなかった。

 原田先輩は、チームの為に打球を優先して落下地点に飛び込む。

 

「……っ!!」

 

「涼香!」

「……っ!捕球!なんという……我、感動!」

 

 彼女が滑り込んだと同時に一瞬差し出されたグローブの中に白いボールが消えた。

 だが、それが完全捕球なのか、彼女と共に転がり込んだので定かではない。

 駆け寄ったソヨン先輩は確信を持っていたし、俺も、誰もがもうわかっていた。

 それを共有するために、実況が叫ぶ。

 

『捕ったぁぁぁーーーーっ!!またしてもダイビング!センターとセカンドが明らかに追いつけないであろう打球を、ショートの原田がキャッチ!高校生とは思えないファインプレーが飛び出たぞーー!!』

 

「よっしゃぁぁ!!」

 

 うつ伏せでグラブを掲げて、ボールを捕ってることをアピールする原田先輩。

 それを見てアリアが腕を振り下ろして、渾身のガッツポーズと雄叫びをマウンドから降りながら魅せた。

 原田先輩のファインプレーで最後の1点は守りきった……!!

 

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