貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第115話:アリア&廣目の攻略法

 

『5番 センター 中宮(ちゅうぐう) サン』

 

「くっ……!」

 

 美山先輩のホームランの後、中宮先輩の打席。

 彼女はまたフォークに泳がされて空振り三振。

 獅ノ宮の打線の中で数少ない頼りの中宮先輩が、今日は不振だ。

 

「……ごめん」

「ドンマイです!次打ちましょ!」

「うん」

 

 戻ってきた中宮先輩を励まして、彼女は頷く。

 そのまま守備の用意をする。

 さて、3回表。

 王皇の攻撃。

 だが、誰よりも早入りするバッテリーがまだグランドにいない。

 俺は不思議に思ってベンチを振り返った。

 そしたら既にみんながアリアに注目していた。

 

「アリア……?どうした?」

「……」

 

 腰が重い、と傍から見ても感じるほどアリアは一切ベンチから立ち上がる気配がなかった。

 彼女は前のめりに俯いて、やがて、僅かに目線を上げてそのまま廣目を見る。

 

「……ユイ」

「……っ!」

 

 アリアに名前を呼ばれて息を詰まらせる廣目。

 彼女はそんな廣目を目にして、眉間に皺を寄せた。

 そして。

 

「……んで」

「えっ?」

 

 中々立ち上がらないアリアに皆が困惑した様子で彼女を見つめる中、アリアは消え入りそうな小さな声でボソッと呟いた。

 声が小さいことにアリア自身が気づいて、彼女は1回息を飲んでから、喉につっかかったものを絞り出すように口を開ける。

 

「……なんで……なんで、打たれる……?」

『~~~~~っ!!』

 

 まさに絶望と評するに相応しい程に、アリアの顔は暗い。

 彼女が口にした言葉に全員が思わず目を逸らした。

 だが、アリアは最初から野手に答えを求める訳じゃない。

 彼女は確信していた。

 野手の皆はアリアが打たれていることにアリアと同じ疑問を抱いている。

 そこにここまで触れなかったのは重箱をつつきたくなかっただけ、というのとクレアが打つしかないと声明したことが大きい。

 でも、1人だけ皆とは事情が違う人がいる。

 それは……捕手だ。

 

「……ユイ。お前、なんでこんなに打たれるのか本当はもう気づいてるんだろ?」

「……っ!!」

『えっ!?』

 

 アリアの指摘に廣目はこれでもかと目を見開いた。

 そして、皆を顔を見られないようそっぽを向いた。

 誰もアリアが打たれている原因はわからなかった。

 それを廣目がもう既に見抜いているというのも、誰も気づいていなかった。

 アリアだけが廣目の様子から読み取れていた。

 問われた廣目は……暫く無言でなにか言おうとしていたが言い淀んでいた。

 そんな彼女にアリアが痺れを切らす。

 

「ユイ。教えてくれ。なんで打たれる?なんでだ?お前は気づいてるんだろ?なのになんで隠してる?答えろ、ユイ……!」

「そ、それは……!」

 

 アリアに鋭い目を向けられて、廣目はマスクを手にしながら弁明しようと振り返る。

 だが、アリアの顔を見て彼女は気まづそうに目を逸らした。

 

「ま、待てよ!落ち着けって、アリア。廣目を責めたって仕方ないだろ?」

「別に責めてる訳じゃない。理由を知りたいだけだ。……だって、おかしいだろ。なんで打たれる?なんで隠す?なんで……なんで……」

「アリア……」

 

 俺がアリアを止めに入ったら、アリアは自分で言いながらどんどん落ち込んでしまった。

 ここまで平然としているように取り繕っていたが、やはり12失点の大炎上は相当堪えてるらしい。

 彼女は頭を抱えてまた俯いてしまった。

 ……マズイな。

 先発投手1人で12失点は確かに責任がとわれる。

 何より本人が自責に苛まれる。

 しかも打たれてる理由はわからない。

 そういった原因の不透明さは不安と苛立ちを募らせるだろう。

 特にアリアはプライドが高い。

 事実としてこれまで打たれてきた記憶はほぼないに等しい中で、これだけの大炎上は受け入れ難いだろう。

 感情的になるのも仕方ない。

 だが、どうにか宥めてマウンドに向かってもらわなくては……。

 もうメンタルやられてるし継投した方がいいと思うけど、それは成城先輩と廣目が決めることだしな……。

 

「アリア……と、とにかくもう守備は始まるからさ。マウンド行こうぜ?」

「……」

 

 声をかけたがアリアからの返事はない。

 立ち上がる様子もない。

 俺は困り果ててると、アリアは震えだして、唇をかみ締め、絞り出すように声を出し始めた。

 そして、叫ぶのは……自責でも、プライドでもない。

 

「なんで……なんで……っ!なんでユイがリードしてて打たれるんだ!!」

『……っ!?』

 

 アリアが我慢の限界が来て吐き捨てた言葉。

 それはなぜ自分が打たれるのか。

 なぜ自分ほどの大投手が通用しないのか。

 そんな煩わしさじゃなかった。

 彼女が気にしているのは、絶大に信頼している相棒がリードしてくれいるのに打たれてしまう自分の弱さだ。

 160km/h投げれても、毎日100球投げ込めるタフネスでも、両投げでも。

 彼女にとって一番の自信はそんな自分のわかりやすい能力(レッテル)じゃない。

 鴎坂(かもめざか)の時から何も変わってない。

 彼女の最大のプライドは、【仲間】。

 鴎坂の時だって彼女は言っていた。

 

 ―――『鴎坂は、弱くねえんだよ』

 

 仲間に対する絶対の信頼。

 それがアリアの根幹。

 そして、親友と別れてまで組んだキャッチャーは廣目 惟。

 都熾(とし)さんと代わる捕手はそんじょそこらの奴じゃアリアは受け入れなかった。

 でも、廣目は違った。

 アリアの球を捕れる。

 ブロッキングも優秀。

【カンニングリード】はまさにチート。

 そして、何より……アリアと都熾(とし)さんの夢を尊重した。

 

 そんな廣目がついていてくれてるのに、打たれている自分。

 アリアは打たれていたから嘆いていた訳でも、自分の才能が通用しないからもどかしかった訳でもない。

 廣目だ。

 相棒が導いていてくれているのに、結果がついてこないことが何より悔しいんだ!

 

「アリア……っ、先輩……!」

「……っ」

 

 アリアは俯きながら僅かに震えていた。

 泣いてるんだ。

 廣目と一緒なのに負けてることが、情けなくて仕方ないんだ。

 やがて、アリアの啜り声もベンチに虚しく響いた。

 

 アリアは……ノックアウトされた。

 

 もう完全に心が折れている。

 ここまでよく踏ん張ったが、3回表にアリア・オイゲンは"敗北"を受け入れてしまった。

 リリースポジションの変更も対応された。

 それがトドメだったんだ。

 これは……もう無理だ。

 アリアは―――投げられない。

 

「……っ。すまん、皆……ごめん……!」

「そんな……あ、謝んないでよ。アリア」

「そ、そうだよ!まだ試合終わってないよ!」

「……打たれたのは仕方ないわよ。150km/hポンポン打てる向こうが異常よ」

「右に同じ。アリアが攻略されたことは、我々も困惑」

 

 珍しく弱気なアリアに原田先輩と長門先輩、ソユン先輩、ソヨン先輩が声をかける。

 中宮先輩は自身の腕を触ってよそよそしく目を逸らす。

 

「……それを言うなら、私も今日戦犯。右中間めっちゃ抜けたし、打ててないし」

「おいおい。ネガにネガを重ねんなよ……。てかそれほぼ優希のせいじゃねえか」

「あは~!なんか流れ弾くらってウケる~!」

「お前な……」

 

 ネガティブが移ってしまった中宮先輩にフォローを入れた霧島先輩。

 そのツッコミの中で責任を問われた美山先輩は相変わらず反省の色はなし。

 中宮先輩は睨んでるけど、美山先輩は無視。

 気づいてるくせに……わざと目合わせないようにしてるな。

 そんなやり取りもあってちょっと不穏になったベンチ。

 クレアがアリアに歩み寄る。

 

「……アリア。大丈夫か。もう立ち上がれないか」

「……っ。クレア……」

 

 クレアは膝をついてアリアに寄り添い、彼女を見あげた。

 普段のクールで強い口調とは違い、穏やかに語りかけるように声をかけたクレア。

 その優しさに触れて、アリアがクレアを見る。

 クレアはピッチャーのアリアになんとか再起してもらいたい気持ちと、これ以上無理をさせるべきではないかという気遣いに苛まれていた。

 そんな内心が簡単に読み取れるくらい、クレアの表情は複雑な感情で顰められていた。

 アリアはその顔を見て……目を見開き、1度地面と睨めっこしてから覚悟を決める。

 

「……ユイ」

「……!」

 

 また名指しされて廣目がビクッと肩をならす。

 恐る恐るアリアを見ると、彼女は少しスッキリした顔で……いや悟った顔で告げる。

 

「ユイ。あいつらの作戦をもう見抜いてるなら、それを打ち砕く対策もお前ならもう練れてるハズだ。もし、それがあるなら……実行しろ」

「……っ!し、しかし……!」

 

 アリアに言われて、廣目が狼狽える。

 その様子を見てアリアは確信した。

 

「……ユイ。私を代える必要があるなら、遠慮なく代えろ。勝つ為だ」

「~~~~~~っ!」

 

 動揺する廣目。

 何よりそれをピッチャーに言わせてしまったことが、彼女の滝の如く冷や汗を生む。

 捕手として、あまりに不甲斐ないシチュエーションに至ってしまい、廣目は狼狽した。

 そんな彼女を見て、成城先輩がフォローに入る。

 

「わかったわ。廣目さんの頭の中にある作戦を私が代わりに実行するわ」

「……っ。成城先輩……っ!!」

 

 チームメイト全員がビックリしたくらい、あのいつも冷静な廣目が大声をあげた。

 乱れた廣目は14歳そのものだった。

 廣目に凄まじい剣幕で迫られた成城先輩は全く取り乱さず、彼女を一瞥して真剣に向き合った。

 

「……廣目さん。残酷だけれど、誰かがこの役を担う必要があるわ。気を遣ってアリアのメンタルをケアできたとしても……その先に勝利はないでしょう」

「……っ!そ、それは……!……そう、です……けど……」

 

 廣目は反論しようとしたけど彼女は理性と知性が強いから、理屈が通ってくることに噛みつけない。

 どうしても自分の中の優秀さが納得して許容してしまう。

 彼女がそういうタイプであることも成城先輩はわかってる。

 だから、ちゃんと対応できる。

 

「廣目さん。アリア自身が"勝つ為に"と言ってるのよ。それは"勝ちたい"と同義じゃないかしら?」

「……っ!」

 

 廣目が俯きながら目を見開く。

 

「打たれたピッチャーが勝ちたいと言ってる。それは勝利投手に拘ってる訳ではない。チームが勝ちたいの。チームを勝ち進めたいの。この意味……貴女ならわかるでしょう?」

「……」

「……フユカ」

 

 野手でもピッチャーでもある成城先輩だからこそ言えること。

 成城先輩の言葉にアリアも反応する。

 廣目はまだ下を向いたままだ。

 成城先輩は一度詰まってから、呼吸を挟んで、心を鬼にする。

 ここで必要なことを、被らなきゃいけない役目をキャプテンの責務として自らやることにする。

 

「廣目 惟。貴女は捕手ではないの?」

「……っ!」

「捕手ならば、ピッチャーが下向いている時にこそ顔を上げなさい。ピッチャーが上を向いていても、顔を上げなさい。下を向くことは許されない。そういう役職でしょう」

「……」

「自分で選んだのなら、嫌な面ともちゃんと向き合いなさい。無理なら私が代わるわ。私はなんでもできるし、どのポジションの嫌なところとも向き合う自信があるわ。貴女はないの?答えなさい!廣目 惟……!」

「~~~~~っ!」

 

 珍しい珍しい成城先輩の叱責。

 これは彼女達の仲だからだろう。

 中学時代バッテリーを組んでいた2人。

 飛び級したきた14歳。

 誰よりも幼い廣目 惟。

 でも、自分は幼くないと、能力を誇示することで廣目は証明(アピール)してきた。

 だから、成城先輩は廣目を甘やかさない。

 子供に戻ることを許さない。

 それは、廣目が自分の意思で達観してることを主張したからだ。

 つまり廣目自身の為に、ここだけは厳しく言わないといけない。

 ここで逃げるのを許したら、廣目の為にならない。

 そして、絶対に後悔する。

 故に成城先輩は嫌な役を買って出た。

 成城冬華は……廣目惟の夫婦(バッテリー)だから。

 

「……捕手としての責務を全うできないなら、もう引っ込みなさい。王皇の作戦を打ち砕く方法は私が皆に伝えるわ。打たれた張本人がやってくれ、勝ちたいって言ってるんだもの。それを叶えるのがチームでしょう」

「……っ」

 

 成城先輩の言葉が廣目に響く。

 廣目は、ようやく顔を上げた。

 ……酷い顔だ。

 でも、顔を上げた。

 それだけでも、成城先輩は微笑みを向けてくれた。

 廣目は瞠目して、決意を固める。

 唇を噛んで―――覚悟を決めた。

 

「対策は……私が言います。決断は、私が下します。私は……アリア・オイゲンのバッテリーなので。大事なことは自分の口で伝えます」

「そう。わかったわ。じゃあ、お願いね」

「はい!」

 

 廣目が吹き返した!

 強く返事をして、彼女は皆の前に出る。

 俺達は、一連の流れを見ながらもずっと気になってたことを黙って待つ。

 アリアは言って、廣目は暗に肯定し、成城先輩はハッキリ答えた。

 

 ―――アリアが打たれてる理由、相手の作戦の全容、そして対策。その全てはもう全部答えが出てると!

 

「……まず、向こうの作戦ですが」

『……!』

 

 廣目が話だして全員息を呑んだ。

 あのアリアがこれ程打たれて簡単に炎上した理由。

 誰もが気になってたことだ。

 その答えが今、明らかになる。

 聞き入るしかないだろう。

 廣目の小さな口が開くのを皆、注目した。

 

王皇百十(おうきみももと)は、【対廣目惟】の作戦を用意してきたんだと思います。アリア先輩対策ではなく、私が標的です」

『えっ!?』

 

 初手から衝撃情報だぞ!?

 俺達はずっとアリアが打たれる理由を求めていた。

 でも、そもそもその根本から間違ってたのか!?

 どういうことだ……!

 

「説明します。向こうは私の【カンニングリード】に気付いたんだと思います。カンニングリードを用いれば、相手が反応すらできないコースを盗み見ることができて、バットを1回も振らせずに完封……なんてことも理論上可能です」

 

 廣目の説明を皆で聞く。

 彼女は続ける。

 

「相手からすれば、私は反応できないところを突いてくる厄介な捕手です。では、ストライクゾーンに入ってきた球を闇雲にフルスイングすれば……どうでしょう?待ち球も待ってるコースもない。とにかく振ると決めれば、どうでしょう」

『……っ!』

 

 それは、王皇が実行してる作戦だ!

 闇雲なフルスイング。

 それだけは全員気づいてた。

 でも、それでなぜ廣目を攻略できるのかはわからない。

 廣目自身はわかってるんだ。

 

「フルスイングは、ストライクゾーンを広域にヒットゾーンとしてカバーできます。無論、大振りになるのでミート力は低下します。でも、向こうはジャストミートなんてものは最初から捨ててきてるんです。とにかく―――"当てればいい"。そして、当てた時に、"デカければいい"。あれはそういう作戦です」

『なっ……!』

 

 つまり、ストライクゾーンに入ってきたらとにかく闇雲にフルスイングすることにより、打てないゾーンはあっても反応できないゾーンはなくなる。

 だって、何がどこに来てもとにかく振るから。

 なんじゃそりゃ!デタラメだ!

 要するに運ゲーじゃねえか!!

 いくら反応できないゾーンはなくなっても、打てないゾーンは存在するのに、空振り覚悟で当たればラッキーってか!?

 脳筋すぎるだろ……!

 ミートを捨てて、当てることとパワーで解決。

 それが王皇の作戦。

 めちゃくちゃだ!

 

「てことはあれか、アリアは運ゲーで打たれてるってことかよ?」

「め、めちゃくちゃじゃん……」

「確かにその通りですが、少し違います。そもそも運ゲーにできるのがおかしいんです。例えば、同じ作戦を他のチームが実行しても上手くはいきません。打撃に長けた選手を8人以上集め、さらに鍛え、センスも全員持ち合わせている。これは、王皇百十(おうきみももと)だからできる芸当(さくせん)です」

「……っ!」

 

 なるほど。

 脳筋の作戦に見えて、高い技術力を平均的に有していることが前提条件なんだ。

 めちゃくちゃだけど、ちゃんと実力だ。

 これは向こうを褒めるしかない。

 

「ちょっと待ちなさいよ。いくらヒットゾーンを広くしたって、ストライクゾーン全部カバーできる訳じゃないでしょ。だったら打てないゾーンだってあるんじゃないの?あんたはそれが視えるって話だったじゃない」

「……っ!確かに!」

 

 ソユン先輩の指摘は的確だ。

 どうなんだ?

 

「……それは。……っ」

 

 なんだ?

 全員の注目が集まる中、答え合わせの廣目が言葉に詰まり始めた。

 答えが見つかってないっていう様子じゃなさそうだ。

 じゃあ、なんで言いづらそうなんだ……?

 

「……私のせいか」

『……!?』

 

 ベンチの奥でボソッと呟いたアリアに全員が驚いて振り返る。

 アリアのせいって……そういうことか!

 だから、廣目は言い淀んでたんだ!

 

「……はい。そうです。アリア先輩はストレートしか投げれません。そうなると、"打てないゾーン"の選択の幅が減ります。泳がせることとかはできないので。向こうの作戦は私への対策ですが、同時にアリア先輩にも刺さるんです。タイミングさえ合えば……闇雲なフルスイングで当てることくらいはできるから」

「マ、マジかよ……。じゃあなんだよ。向こうはアリアの豪速球にスイングのタイミングを合わせる練習だけして、あとは適当にマン振りってか?」

「はい……。おそらく自前の投手に至近距離から全力の速球を投げてもらって練習したんだと思います」

「めちゃくちゃじゃない。脳みそマジで筋肉なんじゃないの?あいつら」

 

 ソユン先輩が悪態をつくのもわかる。

 問題は向こうから見て、"ストレートしか来ない"と確信を持てる状況だ。

 球種がひとつなら、尚更大振りを思い切れる。

 だってスイングを避ける変化球はこないんだから。

 しかもストライクゾーンに入るか外れるかの判断もしやすい。

 向こうがストライクを的確に判断して、ストライクの時しか振ってこなかったのはそのせいだ!

 カラクリがどんどん解けていく……!

 ……廣目は、このことにいつから気付いてたんだ?

 

「……正直、6失点した段階で確信はありました。それでも言い出さず、動かなかったのは……有効打となる策が、アリア先輩のプライドを傷つけるのではないかと心配したからです……」

「廣目……」

 

 ずっと、苦しかったんだ。

 廣目は初回からもう全て見抜いていた。

 でも、言い出せなかった。

 抱えるしかなかった。

 チームが今以上に炎上するとわかっていても、アリアのことを考えると気づいてないフリをするしかなかった。

 それがどれだけ苦しかったか、想像するだけで廣目が可哀想で涙が出る。

 

「……有効打となる策が、私のプライドを傷つける……か」

「……っ!」

 

 アリアが反復し、廣目が目を見開く。

 ……あぁ、そうだよな。

 アリアのプライドを守るために言い出せなかった策。

 王皇の対廣目の作戦が刺さり過ぎてる要因の一つ。

 それがアリアがストレートしか投げないことだって言うなら。

 それはつまり……"策"の内容は、"そういうこと"だ。

 

「アリア……っ、先輩……!アリア、先輩……!……ごめんなさい。ごめんなさい……!―――マウンドを……降りてください」

『……!』

 

 廣目が号泣しながら震えた声でアリアに頭を下げて謝った。

 アリアはそんな廣目を穏やかな目で見つめて……頭を撫でる。

 

「……わかった。後は任せたぞ、相棒」

「~~~~~っ!アリアぜんばいっっっ~~~!!」

 

 廣目は14歳の泣きじゃくった姿を露わにしてアリアに抱きついた。

 アリアは抱き返して、背中を軽く叩いてあげる。

 

「お前なら、お前達なら勝てる。信じてるぞ」

「はい……っ!絶対、絶対勝ちます……!許しません!私達のエースを、私の相棒を打ちのめしたあいつらを……!絶対に倒しますッッ!!」

「あぁ。でも、忘れるな。あいつらを倒すことが私達の目標じゃない。その先の甲子園に行くことが私達の目指す場所だ。そして、全員の夢を叶えるんだ。……行けるな?」

「はい!!」

 

 廣目はアリアから離れて涙を拭い、力強く頷いた。

 そして、審判に告げる。

 

「ピッチャー……交代です!」

 

 審判が気圧されるほど、廣目の剣幕は凄かった。

 

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