貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第12話:童貞(処女)だってやるときゃやります

 

 まず、初球。

 

真広(まひろ)。胸元。ツーシームだ。いいな?)

(……!うん)

 

 キャッチャーの繁那(はんな)まで、18.44m。

 彼女が示すサインとコースに真広は応じて頷く。

 そして、構えて、投球フォームを経由して……放った。

 

「……っぁぁ!」

 

 速い球。でも、それはズレるよ。

 

(初球!ストレート……いや!?)

 

 原田(はらだ) 涼香(すずか)はここまでの打席で反省した。

 美山(みやま) 優希(ゆうき)が喜んで打つような場面を作るには、自分も出塁しなければならない。その思考が彼女の判断を鈍らせていた。

 

 ―――とにかく塁に出ないと。

 

 それは、バッターにおいて1番愚かな思考だ。結果得られるのは初球打ち凡退。バッテリーの思うつぼだろう。

 だから、この打席でも橋本と谷のバッテリーはストレートと思わせてのツーシームで、真っ直ぐからの少し動く球でバットの芯から少しズラしてゴロを打たせようとした。

 

 だが、今の涼香は冷静。なにせここまでとは状況が違う。

 絶対に塁に出なければいけないという邪念はもはや今の彼女にはない。

 故に、我慢できた。

 初球胸元ツーシーム!

 

「……っぁ!あーぶねえっ!!」

「ストライク!」

「っぁ!?チッ!くそぉ!!」

 

 ホームベース周辺の3人が同時に叫ぶ。

 手を出しそうになったが、急いで身を引っこめた原田。

 ストライクカウントは増えたが、これでいい。打ちに行くより100倍マシだ。

 そして、それを分かっているからこそ谷は盛大に舌打ちする。

 それを見て、中龍ベンチから飛ぶヤジ。

 

「下手くそー!」

「んだそのリード!バカの一つ覚えかぁ!?舐めてんのか、谷~!!」

「す、すみませーーーーーんっ!!」

 

 急いでペコペコと謝る谷。

 確かに彼女のリードは安直だった。事実として原田は最良の選択肢をしたのだから。

 状況を読んで配球を変えなかった。この打者は今日はこうだからこの配球というセオリーに思考を固定させすぎた。

 反省!!猛!!省!!

 

「……っ。あのさ。説教は外でやるか試合終わったあとにやってくんない?ビックリするから」

「サーセン!!」

「いや、だからそれやめてってば!この距離間で叫ばないでよ……」

 

 全然響いてる感じがしない、と溜息を着く涼香。

 彼女は思った。

 早く打って塁に出よ、と。バットを再度構える。

 

「……」

「……」

 

 ワンストライク。橋本対原田。まだ続く。

 二人は対峙し、橋本は谷にサインを求めた。

 

(次は高めストレート!この打席、こいつはここまでと違う。次の一球も凡打は無理だ。空振り取りに行こうぜ!)

(……了解)

 

 頷く橋本。

 ふぅ、と息を吐いてからルールに則って全力で放つ。

 

「……っぁ!!」

 

 手から離れ、風を切る速球。

 139km/h!!

 

「うっ……。こ、これは無理……」

「うし!」

 

 キャッチャーミット、ビタビタ。完璧に投げ込まれたストレートを受けて、谷は満足そうに頷いた。

 原田は空振りしてしまった。これでツーストライク。

 

(これで2球で追い込まれた……。次は外す?いや、谷はわかんないけど真広の性格なら……)

 

 涼香はタイムをかけ、打席から一度離れる。メットを脱いで汗を拭う。

 巡る思考。

 次は何が来る。相手は何を考えてる。自分は何が来たら打てない?考えろ。考えろ。

 

(ストライクゾーンで勝負してくるなら……球種は2つ。ストレートかスプリット……!)

 

 メットを装着して確信する涼香。

 それは、的を射ていた。

 

(よし。次は外……さねえよな!あぁ、はいはい。わかってますよ。お嬢様!)

 

 谷は首を横に振るう我儘な相棒に苦笑いする。

 対する橋本の思考はシンプルだった。

 

(空振り……!次で決める!次で……終わりだ!お前は)

 

 深い息を吐き捨てる。

 9回まで投げてきたが、ここが一番気迫が篭っているかもしれない。

 だって、獅ノ宮がこのまま終わるわけがない。

 強化合宿で見た彼女達は、私が聞いた獅ノ宮はこの程度で死んだりしない!!

 

(よし。もう一球ストレートだ。今度は胸元。当てることはできてもヒットにはならねえはずだぜ?さぁ、来い!)

(……!)

 

 谷の要求に橋本は目を見開いた。

 なぜなら、彼女の中では投げる球は一択だったからだ。

 それはストレートではない。

 

 橋本 真広。

 彼女の持ち球は主に三種。

 ストレート、ツーシーム、スプリット。

 縦のスライダーとカットボールもあるにはあるが、正直試合で使うにはまだまだと言ったところだ。

 

 だから、試合で投げるのは現時点では三球種。

 ここで投げるべきはスプリットだと考えていた。

 ツーシームはない。ストレートとツーシームの見分けはもうしてくるだろうし、そうなると変化の分だけ彼女の手元で球速が下がるだけ、というのは避けたい。

 

 でも、真広の中でストレートもないと思った。

 これは理屈がある訳じゃない。なんとなく、押し切れる自信がなかった。そのビジョンが見えなかった。

 それに、スプリットはまだこの打席では見せてないし、落ちる変化球だから空振りも取れるし、安心だ。

 

 だから、それが投げたいと―――思ってしまった。

 首を横に振るう橋本に谷は動揺する。

 

(……っ!バカ!どっちを投げるにしても、ここで首を振ったら……!)

「……!」

 

 真広が首を横に降ったのを見て、目を見開く涼香。

 その行為は彼女にとって塩だった。

 

(拒否った……?さっきのはボール要求を嫌がったとして……今ので球種が減った?2つから……ってじゃあ一択じゃん。マジ?)

 

 涼香はルーティンを長めにとって、セットする。

 タイムは取りたくない。サインを変更させたくない。打つなら今のサインだ。

 問題は、減ったのがどっちの球種か、だ。

 ……真広がここで首を振るとしたら。それは、ストライク要求か。スプリット要求か。

 

「……ハッ。決まってるでしょ。箱入り娘が。そんなに安牌が好きか……?」

 

 バットを構える。

 橋本と目が合う。

 さぁ、来いよ。ボンボンが……!

 

「……っぁ!!」

 

 真広が投げる。

 来るのはスプリット。あとはコース。

 谷が渋々スプリットにして、せめてここっと選ぶところはどこだ。

 ハッ。丸わかり。

 

「ストライクゾーンギリギリに沿って内側!ここだろっ!!……らぁっ!!」

 

 腹元を鋭く落ちていく変化球。

 そこに待ち構えて振り上げるバット。

 カキィン!と金属音が響き、打球はレフト前へ……落ちた!落ちたぞ!!よっしゃ!!よっしゃオラァ!!

 

「うおおおお!出たぞ、しゃおらぁ!これが私の初ヒットだ……!見たか!?しゃあっ!」

 

 一塁ベースに私。

 ようやく立ったぞ。

 次の打席に入る冬華がはしゃぐ私を見て微笑んでいる。小首を傾げてアイコンタクトをしてきた。私もウインクで返す。

 さぁ、逆襲だ!獅ノ宮!!

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