貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第120話:男子級との向き合い方

 

「ふっ……!」

 

 4回裏。

 クレアは引っ張り方向にヒットを放った。

 これでノーアウト一塁。

 塁上に立つクレアにマウンドの多田徐(おもむろ)さんは顔を顰める。

 

「……っ!あいつ、三遊間に打ったら(りん)に捕られるから自分の意思で引っ張りやがった。どんな投手相手にも打つ分には問題ない。どこに飛ばすかも自由ってか……!」

「あー……完全に成城とか美山の限定版って感じやな。あれもあれで理不尽やで、ほんま。ま、1人1人の規格外に振り回されへんことやな。林が言うてたやろ」

「……っ。わかってるよ……」

 

 進川さんに諭されて直接ボールを受け取る多田徐(おもむろ)さん。

 まあ彼女は投手だし、理屈抜きにして打たれたら面白くないのは仕方ない。

 特に獅ノ宮の打線は強いほうではないし、なのに5失点もしてるのは屈辱だろう。

 評価が高くない獅ノ宮打線にお前なら打てると暗に言われてるワケだ。

 王皇でなければエースじゃない。

 そんなのは彼女自身が1番わかっている。

 わかっているから、自分の実力に苛立ちを感じる。

 それでも。

 

「それでも、私はエースだ……っ!!」

 

「……っ!」

 

 多田徐さんが全力で投じる。

 高めのストレート126km/h。

 本日の最速だ。

 それを。

 

「貰った……!」

 

「なっ……」

 

 2番の原田先輩が打った!

 打球は三遊間へ!

 

「……ふん」

「……っ!(りん)ちゃん……!」

 

 完全に抜ける打球を回り込んで膝をつき、身体を流しながら捻って、左のグラブを右に伸ばす原田林。

 座り込んだその姿勢のおかげで低く鋭く外野へ抜ける打球をグラブに迎え入れることができた。

 そして、直ぐに身体を起こして、最短コースでスローイングまで一瞬で至って二塁へ送球。

 ノーバン。

 

「くっ……!」

 

『アウト!』

 

 二塁のクレアがコースアウト。

 その上。

 

『アウト!』

 

「……っ!」

 

 まさかのダブルプレー。

 原田林のファインプレーだ!

 

『うおおおぉぉ……!やったー!』

『さすが原田!』

『ナイスプレー!』

 

 ギャラリーが湧く。

 対応力で防いだという違いはあったが、三遊間でレフト線の外へ逃げていくであろう打球を、捕球してショートゴロにした、という点においては原田先輩がしたファインプレーと同じ。

 でも、アウトの数が違う。

 原田先輩は進塁を防いだが、アウトは取れなかった。

 原田林はアウトを2つ戻った。

 この違いはデカイ……!

 

『やっぱショートは原田だね』

『あーあ、獅ノ宮のショートももうちょいマシにならないかなぁ』

 

「……っ!」

 

 嫌味のように好き放題言われて、原田先輩は唇を噛み締めながらベンチへ向かう。

 クレアが駆け寄って無言と無表情で彼女の肩を抱き寄せ慰めながら2人でベンチに戻ってきた。

 その様子を横目で見ながらソユン先輩は打席に入る。

 

『3番 セカンド ユ・ソユン サン』

 

「……ふん。なるほど、そういうことね」

 

 ソユン先輩は何やら気づいたようで、鼻を鳴らして肩にバットを乗せて原田林に視線を送る。

 

「……何?」

 

「別っつにぃ~?ただあんたが考えてること、わかっただけよ」

 

「……っ!」

 

 バットの先を向けて原田林にハッキリ言い捨てるソユン先輩。

 彼女はバットを立てて腕を伸ばし、息をついた。

 そして。

 

「……私、多分あんた達のキャプテンと気が合うわ」

「は?急に何の話やねん」

 

 突然話を切り出したソユン先輩に、彼女を見上げる進川(しんかわ)さんが顔を顰める。

 それを一瞥してソユン先輩は冷めた目を進川さんから王皇ナインに向けた。

 

「自分で言うのもなんだけど私、性格悪いのよ。ま、直す気はないけどね。でもね。いくら性格が悪くたって、陰湿なことしていい道理は通らないのよ」

「……」

 

 江山さんが凄い剣幕でソユン先輩を見ている。

 あんな彼女は見たことないし、めちゃくちゃ怖い。

 普段王子様キャラの江山さんには鬼の形相なんてする印象はない。

 でも、ソユン先輩はおそらく地雷を踏んだ。

 図星なんだ。

 江山さんに凄まじく睨まれていても、ソユン先輩は鼻を鳴らしてバカバカしいとあしらうだけ。

 その証拠にまだ彼女たちに非難をぶつける。

 

「あんた達は真っ向に勝負しない。工夫といえば聞こえはいいけど刺されば何でもいい雑な作戦こねくり回して、相も変わらずイキがれる相手にだけいびり倒す……ダサすぎて反吐が出るわ」

 

『プレイ!』

 

 口がすぎるので審判が催促の意味も込めてコールする。

 ソユン先輩はバットを構えた。

 彼女は目を細める。

 多田徐さんが投じる。

 121km/hのストレート、低め!

 

「私にはあの()達みたいな規格外の才能はない。ていうか普通の才能もない。ただの凡。将来性のない役にも立たない無駄な器用貧乏。でもね。だからって、何してもいい理由にはなんないのよ」

 

 ソユン先輩は足を上げて溜める。

 ボールをしっかり見て、待つ。

 目の前に来て、彼女はバットを振るった。

 

「実力とか才能とか以前に……真っ向から戦う度胸もない奴が、活躍する道理なんてないでしょうが……っ!!」

 

「なっ……!は!?」

 

 カキィン!と金属バットの音が響く。

 ソユン先輩の当たりに、多田徐(おもむろ)さんは驚愕して思わず振り返った。

 打球は高く、鋭く、左中間に飛ぶ。

 実況も叫ぶ。

 

『初球ーーーーーっ!!これは!?打球は左中間へ……!いい当たりだぞ……!?』

 

「……ふん。うるさいわね。入るわよ、だって()()()もの」

 

 左中間のスタンドにガンつけながら、バットを後ろに放り捨てて、ハッと口角をひくつかせる小さな嘲笑を残す。

 彼女は怠そうに一塁内野席を一瞥してから歩き出す。

 

 "確信歩き"。

 

 一塁内野席を見たのは、きっと原田先輩を悪く言ったやつを睨んだんだ。

 そして、打球は……。

 

『スタンドへーーーーーー!!!!入ったぁぁぁーーー!!ユ・ソユンがソロホームラン!!12-7!!』

 

 

 王皇百十(おうきみももと) 12 - 7 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 スコアが刻まれる中、ソユン先輩はダイヤモンドをゆっくりと一周しながら王皇野手の鋭い視線に晒され続ける。

 だが、そんな7人相手に誰にも譲らず、そもそも相手にせず、飄々と全無視でベースを蹴っていく。

 三塁も蹴った。

 

『ホームイン!』

 

「……はぁ。だる。疲れるのよね、ホームランって。私のパワーじゃ引っ張らないと入らないし、なんか謎に1周させられるし」

「さ、最後のはルールでは……。ルールに文句つけるんですね……」

 

 ベンチに戻ってきたソユン先輩の言葉に苦笑いして俺は彼女を迎える。

 すると、ソユン先輩は、「打ってあげたんだから、ご褒美寄越しなさいよ」と言って俺にハグを求めてきた。

 困惑はしたが、周りを見ても仕方ないといった反応だったので俺は受け入れた。

 成城先輩も「貴方がいいなら」と言った。

 まあ俺としてはこの世界の常識とは逆だが、女子と抱き合えるのは嬉しいには嬉しいし特に断る理由はない。

 抱きしめたらソユン先輩は汗の匂いもしたけど、それと一緒にいい匂いもしたし、汗の匂いも不快どころか若干良さを感じた。

 これは……これからは控えた方がいいかもしれない。

 危険な魅力を感じた。

 俺と数秒抱き合ったソユン先輩は、満足して離れて、ふぅっと息を吐いてから再びグランドに目を向ける。

 その視線を待っていた王皇ナインは全員が眉間にシワを寄せた。

 

「才能なくたって、僻まず自分のできることすりゃいいのよ。真っ向から勝負して負けたっていいじゃない。揉まれてれば自分なりに強くなれるわよ。それを避け続けるなら……私達はあんた達に負けないわよ」

 

『……!』

 

 王皇ナインが目を逸らした。

 ソユン先輩の言葉が効いた……?

 なんで響いてるのかわからないが、ソユン先輩はどうも向こうの精神性を的確に把握しているようだ。

 何をいえば効くのかわかってる。

 彼女に聞いても「私の性格が悪いから」「規格外共に圧倒されてるのはあいつらと同じだから」と向こうの気持ちがわかる理由だけしか教えてくれなかった。

 あとは自分で考えなさい、とのことだ。

 でも、後から「……やっぱ私はあいつらとは違う。この()達の中で揉まれることを、自分で選んだから」と付け加えてベンチの奥に下がった。

 休み始めたのでそれ以上は回復に務めてもらいたいから何も聞かなかった。

 今わかることは……とにかくソユン先輩はカッコいいということだけだ。

 

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