貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第128話:この打線、どこで切ればいいの!?

 

『ファールボール!』

 

「ぬぁ~~!絶好球だったのに!狙いすぎたぁ~!!」

 

 打席で屈み、大きなリアクションで悔しがる穂石(ほぜき)さん。

 明るい性格で負の感情に対しても全力だ。

 ただ、リアクションも大きいけど、打球も大きい。

 結果的にファールになったけど大ファール。

 レフトスタンドの最上段まで飛んでいった。

 しかもボールが着弾した席に、人がいたら大怪我をしているレベルで最後まで強い打球だった。

 穂石(ほぜき)さんがあんまりにも絶好球で打ちにいきすぎてしまったからよかったものの、タイミングを合わせられてたらとんでもない特大ホームランになってたに違いない。

 想像しただけで恐ろしい。

 ほ、本当に間一髪だった……。

 ヒヤッとしたし汗も凄いでて、めっちゃ焦ったわ……。

 

「……っ、……ふぅ」

 

 マウンドの吉田さんも上半身だけ捻って振り返り、打球の行方を見てから身体の向きを戻して、安堵のため息をついた。

 なんとか最悪の結果は回避できた。

 とはいえ、さっきの失投はいただけない。

 さすがに無視できないので、またマウンドに皆が集まる。

 

「おいおい、マジで背筋凍ったぜ……」

「ホントよ。完全に終わったかと思ったわ」

「ご、ごめん……つい力んじゃって……」

 

 霧島先輩とソユン先輩に指摘されて、吉田さんは苦笑いしながらもう大丈夫と身振り手振りで主張した。

 だが、それで2人は肩を竦めて流しても、このやらかしを野放しにはしない人がいる。

 廣目だ。

 

「……いただけませんね。ただの失投で処理するには、違和感があります。本当にすっぽ抜けただけですか?吉田先輩」

「……っ!」

 

 指摘されて、吉田さんは目を見開く。

 廣目を見ることはできない。

 自然に見せているが、必死に目を合わせないようにしているのは廣目なら見抜ける。

 しかし、霧島先輩とソユン先輩には廣目の追求の意味がわからない。

 

「あ?どういうことだ?ただの失投じゃねえの?」

「なんか気付いたってワケ?だったら遠回しに言ってないで、早く説明しなさいよ。時間制限あるんだから」

「はい。すみません。じゃあオブラートに包むのはやめて、ストレートに聞きますが……吉田先輩、もうカーブを投げるのは限界ですよね?」

『……!?』

 

 廣目の質問に内野陣は驚愕する。

 当の吉田さんは黙って俯いた。

 言いたくないんだ。

 でも、時間もないし、野放しにしていい問題でもない。

 廣目は審判を一瞥してから最短で距離を詰めてやぶ蛇をつつき続ける。

 

「吉田先輩。正直に言ってください。気持ちはわかりますが、失投カーブがこれからも増えるようであれば、それは吉田先輩が危惧してることと結果は何ら変わりありませんので」

「……っ!」

 

 吉田先輩はようやく廣目を見た。

 だがその目つきは険しく、眉間にシワを寄せて……要するに睨んでいた。

 仲間にあんな態度をとる吉田さんは初めて目の当たりにした。

 彼女は今、廣目に憤っている。

 

「なんでそんな言い方できるの!?そうだよ!!カーブ投げれないよ!もう手が痛くて痛くて仕方ないの!」

「……!輝子(しょうこ)、お前ほんとに……!」

「そうだよ。カーブの投げすぎで、カーブの握りがもう辛いよ。でも、だからってじゃあカーブ投げるの辞めますただ投げるのも痛いからマウンド降りますってそんなワケにいかないじゃん!!」

 

 叫び散らす吉田さん。

 確かに本人の言う通り、彼女の利き手は遠目で見てもわかるくらい腫れている。

 同じ握り、それも変化球の握りをし続けた代償だ。

 ストレートと違って握りの負担が大きいから多投による影響も大きい。

 特に今日は使用している球種は1回だけチェンジアップがあったけど、それ以外はカーブのみ。

 他の変化球も一切用いてないせいで握りを細かに変える機会もなく、指の負担を分散できなかった。

 多投は多投でもカーブオンリーによる弊害の発生。

 それでも、彼女はこれから展開されるであろう説得を、告げられる前から拒否している。

 

「……あいつらには変化量の大きい球しか通用しない。そして、獅ノ宮のブルペンでそれは私のカーブだけ。だったら……弱音なんて吐いてられない。投げない訳にいかないし、降りる訳にもいかない。そうでしょ!?」

『……っ』

 

 吉田さんの訴えに誰も返事はできない。

 肯定も否定も、無理だ。

 前者はしたくないし、かといって後者は理屈が通ってない。

 故に皆黙るしかない。

 ……捕手(ひろめ)を除いて。

 

「……すみません。私の失態です。間に程よく大きく外したボール球のストレートを要求するべきでした。それを頻繁に挟むだけで指への負担はかなり減ったと思います。今日はロングリリーフをして貰わないといけなかったので、球数ばかり意識してしまいました。……ごめんなさい」

「……っ」

「廣目……」

 

 ぺこりと腰を追って頭を下げる廣目を、誰も責められはしない。

 吉田さんも気まづそうに目を逸らした。

 確かに彼女の判断ミスだが、彼女だって最適解だと思ってやったことだ。

 実際、理にはかなってるし頷ける思考回路ではある。

 問題は起きてるじゃないかと責められても、そんなのは結果論だ。

 彼女達は最善を尽くしている。

 そもそも前提として相手がおかしいだけだ。

 

「んで、結局どうするよ?ピッチャー交代か?」

「バカ。誰に代えんのよ。代案もないのに適当なこと言うんじゃないわよ」

「確かに我々の抱える投手陣の傾向では輝子以外の適任はおらん。続投はさせるとして、だがカーブだけを投げ続けるのは賛同しかねるな」

「はい。なので、ここからはストレートも織りまぜます。特に穂石(よばん)はカーブに強いので……」

「だったら最初からあの4番にはストレートでも……ってまあ球速が原因よね」

「はい。一般的には吉田先輩の直球は遅くないですが、向こうのフルスイング作戦がある以上、当てられたら間違いなくスタンドに持っていかれる危険性があります」

「まあアリアの豪速球でも持ってかれたしな……」

「じゃあとりあえずはあの4番にはストレートで。で、いいんだよね?」

「はい。それでOKです。できれば抑えたいですね。あとワンアウトなので」

『……!』

 

 色々話し合って、廣目の最後の言葉に全員が目を見開いてから、強く、それでいて深く1回頷いた。

 全員の認識が共通になる。

 彼女達は打者に目を向ける。

 

「ふっ……!ふっ……!よぉし、打つぞ!」

 

 待ち時間で素振りをする穂石(ほぜき)さん。

 やる気満々な様子だ。

 獅ノ宮内野陣とバッテリーが彼女1人に標的を絞っているとは知らずに、バットを振り続けている。

 そうだ、彼女さえ抑えればいい。

 マウンドに集まった6人の内、5人がアイコンタクトを交わしてまた頷いてから散った。

 背を向けあったけど頭の中にあるのは一緒。

 試合再開の予感がして素振りをやめた穂石さんが明るい顔を作る。

 

「お、待ってました!」

『……』

 

 ―――穂石(こいつ)で終わらせる。

 

 そう、獅ノ宮内野陣&バッテリーに睨まれてるが穂石さんは何処吹く風。

 お気楽な状態で打席に戻る。

 

『プレイ!』

 

「……っ!!」

 

 審判のコールが響き、吉田さんが投じる。

 124km/hのストレート。

 対するは穂石さんのフルスイング。

 

「んっ?あれ?ストレート……?」

 

 カキン!と金属バットの音が鳴った。

 穂石さんは打ちながら首を傾げていた。

 廣目が瞠目する。

 カーブからストレート。

 完全にタイミングが異なり、対極にあるのに。

 ここまでカーブが集中してたのに。

 当たり前のように対応してきた。

 穂石(こいつ)は反射で振ってる。

 カーブが得意だけど待ってる訳じゃない。

 てっきり待ち球にして、考えて合わせてるのかと思っていた。

 だが、実際は、得意球なのに待ち球にしてない。

 違うのが来たらタイミング自体は合わせてくる。

 それに気づいた瞬間だった。

 

『穂石打った!センター前ヒット!』

 

「~~~~~っ!?」

 

 こいつにだけは打たれるわけにはいかない、とグラブを伸ばして跳躍し、捕球しようとしたが打球は吉田さんの頭上を超えた。

 そして、非情なことにセンター前に落ちて安打。

 一丸となって穂石さんで終わらせると息巻いていた獅ノ宮にとって、中々に精神的ダメージの大きい一打だ。

 

『そして、穂石のヒットで三塁ランナー帰ってくる!王皇さらに追加点!16-9!』

 

 

 王皇(おうきみ)百十(ももと) 16 - 9 獅ノ宮(しのみや)

 

 

「……っ!」

 

 またしても離される点差。

 吉田さんはホームに背を向けながら、膝に手をついて中腰で項垂れる。

 やはりキツイ、ここで抑えることを狙っていた彼女達にとってかなり堪える展開。

 心を折るには充分な一打だった。

 吉田さんは暫く引きずり、次の打者が打席に入るまで立ち直れずにいたけど、やがて決心してしまった。

 

「……やっぱりカーブしかない!」

 

『5番 キャッチャー 進川(しんかわ) サン』

 

 コールされたのは進川さん。

 左打席にミス・フルスイングが立ち、吉田さんはそこにカーブを投じる。

 だが。

 

「おっ……!?」

「……っ!」

 

 進川さん自身も闇雲にフルスイングしてるからか、自分で打っておいて走り出し始めながら目を丸くしていた。

 さっきのすっぽ抜けと違って、カーブ自体は投げれている。

 しかし、精度が明らかに落ちた。

 変化が少ないし、キレもない。

 だから、進川さんのフルスイングに引っかかって拾われた。

 打球はライト前へ落ちる。

 美山先輩ならアウトにできたが、定位置のまま跳ねてきたボールをグラブだけ構えて1歩も動かず迎え入れた。

 まあ捕球してくれただけマシだ。

 多分大差負けしてるから無視して後逸とかするほどやる気がない訳ではないんだろう。

 ある感じもないが……。

 

進川(しんかわ)ヒット!ツーアウト一塁二塁!!』

 

「……っ。クソ……!」

 

 マウンド上の吉田さんが顔を顰める。

 廣目もサインを無視されて同じ表情を浮かべた。

 ……この調子だと次の打者相手にも2人のコミュニケーションは上手くいかなさそうだ。

 

『6番 ライト 関内(せきうち) サン』

 

「今度こそ……!」

 

「おっ?さっきと全然違う!」

 

 金属バットの音が響く。

 打球はセンター前。

 

『関内もヒット!王皇(おうきみ)、満塁……!!』

 

「クソ!!」

 

「吉田さん……」

 

 マウンド上で荒れる吉田さんを、俺はベンチで心配する。

 彼女は歯を食いしばり、ワナワナと震えた。

 思い通りにいかなくてイライラしている……のもあるけど、多分今それよりデカイ感情がある。

 ……だって、彼女は泣きそうな顔をしているから。

 

「……っ!……っ!~~~~~っ」

 

 マウンドに戻る吉田さんが天井を見上げたと思ったら、膝を抱え込んでしゃがみこみ、顔を腕の中に埋めてしまった。

 あぁ……!あの様子じゃ、マズイ!

 

「……!タイムで―――」

「……っ!まだまだぁ……!!」

 

 廣目がタイムを取ろうとしたのと、吉田さんが無理やり自分を奮い立たせて立ち上がり天に叫んだのが、偶然重なった。

 その勢いに廣目の要請はかき消されて、廣目自身も引っ込めてしまう。

 そんな獅ノ宮バッテリーを見て、ネクストバッターの江山(えやま)さんはほくそ笑む。

 

『7番 レフト 江山(えやま) サン』

 

『王皇は打者一巡!江山まで戻ってきた……!江山は前の打席、ホームランを放っています!』

 

 ゴールと実況を受けて。

 江山さんは打席で精度の落ちたカーブを出迎える。

 

「おやおや。ダメじゃないか。根拠のない気持ちだけで乗り越えようしちゃ……ね!」

 

「―――っ!」

 

 江山さんも打球音を響かせる。

 それは右中間へ。

 

『江山も続く!長打コース!三塁ランナーホームイン!二塁ランナー三塁蹴ってホームへ……!一塁ランナーは二塁ベースを蹴る!もう1人帰ってきた!関内は三塁ストップ、バッターランナー江山は二塁!2点タイムリーツーベース……っ!!』

 

 

 王皇(おうきみ)百十(ももと) 18 - 9 獅ノ宮(しのみや)

 

 

『8番 サード 包剛(ほうごう) サン』

 

「フォアボール!」

 

『9番 バッター マイテ サン』

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 打たれすぎておかしくなった吉田さんが叫びながら投じるカーブ。

 勿論球威は落ちたまま。

 気迫がこもっていようと同様だが、彼女の今の状態は気合いじゃなくて動転だ。

 故に余計球の質は悪くなる。

 ツーアウト二塁三塁で……遂にやってしまった。

 

『デッドボール!』

 

「イタァッ!?イタイネ……!!」

 

「あっ……、……っ!……ぁ」

 

 吉田さんは硬直してしまって謝ることもできない。

 マイテさんはそんな彼女を睨んで一塁へ歩く。

 一塁に到達したのを見てからやっと我に返り、吉田さんは帽子を脱いで頭を下げた。

 それを見てマイテさんも塁上で片手を軽く挙げる。

 顔を上げた吉田さんは帽子を深く被り直し、その表情は……死んでいた。

 

 王皇(おうきみ)打線。

 そのあまりの凄まじさに、獅ノ宮(ウチ)吉田(よしだ)輝子(しょうこ)は完全にノックアウトされてしまった。

 暗雲が立ちこめる獅ノ宮。

 マウンドの吉田さんはスコアボードを見てしまい、点差と満塁とこの回の失点数を実感して動悸が激しくなる。

 

「はぁ……!はぁ……!ど、どうしよう……!つ、次また1番から……!また原田(はらだ)さんにも、穂石(ほぜき)さんにも、進川(しんかわ)さんにも、江山(えやま)さんにも回ってくる。ど、どこで切れば……っ!どこで切ればいいの……!?」

 

 マズイ!

 動揺してる!

 廣目がタイムをかけて向かった。

 もう吉田さんはこれ以上は無理かもしれない。

 と、なると……次に投げるピッチャーはどうするか。

 もう新人しかいない。

 この状況の中、あの打線を相手に一体誰が投げられるというのか。

 

 本当に恐ろしい打線だ。

 吉田さんの言う通り、どこで切ればいいのかわからない。

 どこでも切れない打線。

 どこでも繋がる打線。

 休みどころのない、全員を全力で抑えないといけない打線。

 あぁ、プロ野球にも確かこんな打線のチームがあった。

 そうそう、確かそのチームもこの所沢のドームが……本拠地、で……この球場でよく同じような打線をよく見、て―――。

 

「……あっ」

 

 俺は目を見開いた。

 序盤に進川さんを見て抱いた違和感、いや既視感。

 そして、この打線に……よく見れば打順やポジションも全く同じ。

 選手の名前も酷似している。

 俺は、俺は……気づいた。

 ようやく既視感の正体がわかった。

 

 そのプロ野球チームの打順は以下。

 

 1番センター2番ショート3番セカンド4番ファースト5番キャッチャー6番ライト7番レフト8番サード9番DH。

 

 王皇も同じ。

 そうだ、5番キャッチャーなんて結構珍しい。

 それにあの進川さんの誰よりも凄まじいフルスイング。

 どこかで見たことあると思っていた。

 間違いない。

 そのプロ野球チームの5番キャッチャーと全く同じスイング、同じスタイルだ。

 それだけじゃない。

 言われてみれば他の人たちも見た目も能力のタイプも全く一緒。

 だから、間違いない!

 こいつら……!このチーム、【王皇百十(おうきみももと)】は……!

 

「"山賊打線"だ……!!」

 

 俺は1人、ベンチで俺しかわからない呟きを思わず口にした。

 隣で成城先輩が首を傾げている。

 だからというわけではなく、あまりの驚愕の発見に俺は口元を抑えた。

 

 "王皇百十(おうきみももと)学院高校野球部"。

 

 =

 

 "ライオンズ"。

 

 王皇は、逆転世界の山賊、山賊の逆転バージョンなんだ……!!

 

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