貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第131話:バッテリー舐めてんじゃねえぞ

 

「ちょっと待ってよ!おかしいでしょ!なんで交代なの!?」

「……落ち着きなさい」

「別にこっちは普通でしょ!真っ当なこと言って……私変なこと言ってる!?ねえ!!」

「……っ。い、いえ……」

 

 審判の周りで口論になる吉田さんと成城先輩。

 他でもない、尊敬する成城先輩に交代の判断をされたことが更なる燃料を投下している。

 間に挟まれた廣目は不幸な役目を担っていた。

 激昂する吉田さんを前に、成城先輩は毅然と意見を曲げずに制し続ける。

 

「とにかく交代よ。貴女がなんと言おうと監督は佐藤先生で、実際の指揮権限は私にある。私が言えば、佐藤先生は進言するし、先生が告げたら貴女はもう下がるしかないのよ」

「はぁ!?そんなの強引じゃん!こっちの意思は無視!?チームでしょ!なんで話し合わないの!?いや、ていうか意味がわかんない。私のカーブしか通用しないのに誰に代えるっていうの……?」

 

 吉田さんは鬼の形相だ。

 怒りでいっぱいだが、理屈で考えてもおかしいと訴えてもくる。

 でも、成城先輩にだって自論はある。

 意地悪で代えようとしてるワケじゃない。

 吉田さんは理屈を持ってきたが、成城先輩がこの行動に出たのは、その理屈が成立しなくなったからだ。

 しかし、それを今の冷静じゃない彼女に話しても受け入れてくれる可能性は低い。

 

「一度冷静になりなさい。ベンチで見てればわかるわ。今言えることはそれだけよ。説明しても、貴女は納得しないし、頭ごなしに否定するでしょう」

「……っ!バカじゃないの?もう知らない……!」

 

 吉田さんは愛想を尽かして下がってしまった。

 プンプン怒ってベンチに戻ってくる。

 ただ「頭おかしいんじゃないの!?ねえ!!」と俺に同意を求めくるのは困るのでやめて欲しい。

 ソヨン先輩が意味不明なことを言って彼女を困惑させることで事なきを得た。

 まああまりに意味不明で萎えた吉田さんが人に共有するのを諦めただけだけど。

 今は1人でドカッと席についてブツブツと不満を口にし続けるだけのモードに入った。

 たまにイライラが噴火したのか席を蹴りつけるので……怖い。

 アリアの近くでよくやるわ……。

 まあアリアもなんか普段の吉田さんと違うからビビってるけど。

 すぐに真顔になって、何も言わずにそっとしておいてあげて、少し時間を空けてからドリンクを渡してあげてた。

 そしたらアリアの顔を見た吉田さんが託してもらったのを思い出して「ごめんね……ごめんね……私、いっぱい点取られちゃった……」と泣き出し初めて、アリアは隣に座り、抱き寄せる。

 そこでようやく冷静になったのか、自分が大量失点の下げられて当然のピッチャーだと気付いて彼女はさらにアリアの胸の中で泣き喚いてしまった。

 俺は、そんな2人を見ないようにした。

 

獅ノ宮(しのみや)ピッチャー 吉田(よしだ) サン に 代わり まして ――― ピッチャー 山田(やまだ) サン』

 

 呼ばれたのはサウスポーの山田さん。

 彼女はブルペンから出てくると「よし……!」と気合いを入れてマウンドへ向かった。

 結論から言うと、この継投は正解だった。

 

『スリーアウト!チェンジ!』

 

『この回からマウンドに上がった山田!原田に長打を許し、穂石のヒットでノーアウト一塁三塁のピンチを作るも、3番浅呉は走者釘付けのセカンドゴロに、5番キャッチャー進川をダブルプレーに抑え、この回無失点で終えました……!』

 

「よっしゃあ!!」

「うおおおお!スゲェぞ、花子(はなこ)……!」

「やるじゃない!」

「ナイスピッチだ」

「いえ、先輩達の守備のおかげです!」

 

 カットボールで打ち取った当たりでダブルプレーを掴み取り、スリーアウトを迎えた。

 この回無失点で抑えた山田さんを内野陣がマウンドから降りたところを襲撃して褒め回す。

 山田さんは完全に犬になってた。

 山田さんには大きな変化量の球はないが、どうもカットボールは向こうのフルスイング作戦に有効だったらしく、ゴロを量産した。

 途中ゲッツーの時に霧島先輩がもたついてヤジが飛び、「あたしもかよ!?」と驚きつつもなんとか処理できたし、原田先輩もセカンドならいつも通りの守備を披露してくれたし。

 色々あったけど全部が噛み合って上手くいった。

 成城先輩の作戦勝ちだ!!

 

「これなら前のイニングから代えた方が良かったんじゃないですか?」

「……カットは通用するとは思っていたけど無失点は想定外の結果論よ。ゴロはリスクもあるし、三振が取れるならそれに超したことはないでしょう。優先度は後者の方が上だし尚更。この回良かったからといって判断が遅かったとは思わないわね」

「な、なるほど」

 

 秒で論破された。

 まあでも確かに言われてみれば結果論だ。

 実際、そこそこ長打も出てたし、今日の山田さんはゴロPだから仕方ないけど失点のリスクだけなら吉田さんよりあったのも頷ける。

 成城先輩の判断は正しかった。

 

「さて、ここから肝心よ。貴女達、ここで点を取らなければ……今度こそ正真正銘、終わるわ」

『……!』

 

 成城先輩が告げる。

 そうだ、そうだった。

 抑えても喜んでる場合じゃない。

 この回の攻撃で6点差まで縮めないと、俺達はコールド負けだ。

 今は9点差。

 つまり、最低でも3点は取らなければいけない。

 

「……っ。ごめん、皆……私のせいで……」

「いや、私のせいだ。気にするな、ショウコ」

 

「……!!」

 

 山田さんの登板を見て、成城先輩の正しさを目の当たりにした吉田さんは完全自責モードに入った。

 さらに成城先輩の号令を聞いて、顔を覆って項垂れる。

 その背中を擦るアリアも暗い態度だ。

 そんな投手陣を見て、廣目が目を見開き、成城先輩は手を叩いて切り替えさせる。

 

「誰の責任か、そんな話は不毛よ。勝ちにも直結しない。意味のない追求は要らないわ。必要なのは、勝つ為に何をすべきか。それだけよ」

 

 成城先輩は真剣な眼差しでそう口にする。

 彼女の言う通りだ。

 反省会は試合の後でいい。

 ここで誰が悪いかの犯人探しなんてしてる余裕はないし、いらない。

 今はあと3点どうやって取るか、それだけを考えるべきだ。

 さぁ、どうする。

 

「とりあえず私は代打……ですよね?」

「よっしゃ!私の出番だね!」

 

 この回の先頭打者はピッチャーの山田さん。

 けど、実質最終回になるかもしれないこの回でピッチャーをそのまま打席に立たせるわけはない。

 そして、あと残ってる野手は中龍助っ人2年生の田島さんだけ。

 

「そうね。代打は出すわ。それと廣目さん……貴女にも出塁してもらうわよ」

「……もちろんです」

 

 廣目は既にメットを被っていた。

 気合いは充分だ。

 やはり作戦などはない。

 そんな小細工でどうにかなる劣勢はとっくに逃している。

 あとはもう……打つだけだ。

 

『獅ノ宮 8番 ピッチャー 山田 サン に 代わり まして ――― PH(ピンチヒッター) 田島(たじま) サン』

 

「よし……!」

 

 田島さんが左打席に入ってバットを構える。

 対するは回跨ぎの第2エース、張菊(はりぎく)さん。

 

 "張菊(はりぎく) 清星(きょうか) VS 田島(たじま) 麻里子(まりこ)"

 

「……っ!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

 気合十分の田島さん。

 とにかく豪快に振りに行った!

 3球目は内角に差し込まれたフォーク。

 それを田島さんは打ちつけてしまった。

 ボールは高いバウンドを描いてファーストへ―――バウンド高い!!

 

『あーー!田島のこの当たりが、高くバウンドしてファーストの頭上!超える!ライト前に転がってヒット!』

 

「やったー!」

 

 走りながらガッツポーズする田島さんは一塁に到達した。

 全力で振ったおかげで起きたラッキーだ!

 

『9番 キャッチャー 廣目(ひろめ) サン』

 

「……」

 

 廣目が打席に入る。

 王皇の守備は前進、ゲッツー狙いだ。

 特に廣目は打力がないし……あれ?そういえばこういう時は木製バットを使うってこの前言ってたのに彼女が手に持ってるのは金属バットだ。

 なんでだ?

 

「ハッ。よぉ粘ってるけど……この回で終わりにしたるわ!」

「……」

 

 王皇の勝ちが近づいてきて、息巻く進川さん。

 廣目はずっと無言のまま。

 なんだかいつもと雰囲気が違う。

 メットを深く被り、目元が見えない。

 静かに……そして、相手も一部しか気付いてないが、殺気(オーラ)が立ち上っている。

 あれ……本当に廣目か?

 

「……なあ、お前。なんかリードで意識してることあるか?」

「あ?なんやねん急に。別に普通やで。定石通りやっとるやろ?キャッチャーなら見ててわからんか?」

「……はぁ」

 

 突然、打席でバットを肩に乗せ、足元の進川さんに質問を投げかけた廣目。

 困惑した進川さんは表情を歪めてダル絡みに吐き捨てた。

 その返答に満足いかなかったのか、廣目は溜息をつく。

 そして。

 

 彼女は、"バッテリー"と対峙する。

 

 "張菊(はりぎく) 清星(きょうか)進川(しんかわ) (むらさき) VS 廣目(ひろめ) (ゆい)"

 

 それは、4球目だった。

 

「……!……さっきからよぉ……てめぇら、てめぇら……カスみてぇな球に……カスみてぇなリード……てめぇら……っ!」

 

 緩急でツーツーまで追い込んだら、1球外して、その後に決め球で空振りを取りに行く。

 定石といえば聞こえはいいがワンパターンな配球。

 この試合、ずっとそんなリードだった。

 定石通りになるまでツーストライクワンボールまで見逃しで待ち、4球目を待ち構えた。

 すると、低めに投じられた。

 間違いなく決め球のフォーク。

 それを見て、迫り来る球の軌道と回転をその瞳に焼き付けて、廣目はワナワナを震え、ベンチでソユン先輩も鼻を鳴らす。

 

「……バカね。適当にリードしてんじゃないわよ。この試合ずっとそうじゃない。だから、私なんかでも狙ってホームラン打てたのよ」

 

「てめぇら!!バッテリー舐めてんじゃねえぞっ!!!!」

 

 カキィン!!と金属バットが音を響かせた。

 滅多に見れない廣目のフルスイング……!!

 ベース真上に落ちた球を完璧に拾って、打球は芯で捉えられた。

 コースと球種がわかればタイミングもわかる。

 それらが全部わかれば、廣目は金属バットを持った自分の遅いスイングスピードを逆算して、ミートを合わせられる。

 そして、彼女の【眼】は、普段非力でスイングが遅いから意味を成してないだけで、打席でも強みがある。

 それは球をしっかり"視"れること。

 だから、身体能力さえあれば彼女は本来クレア並のバットコントロールとミート力がある。

 今回は、身体能力がなくとも相手の手抜き能無しリードが彼女に餌を与えた。

 さらに2人のピッチャーを、相棒を炎上させられて、舐めたリードで負けてて、廣目 惟の怒りは頂点到達。

 全てが噛み合って、完璧なミートを披露した廣目は怒りでバットを振り抜いた。

 その結果―――

 

『廣目の打球ーーーーーー!!!左中間!フェンス直撃!!田島二塁回って三塁へ、さらに三塁も蹴る!バッターランナー廣目は一塁蹴って二塁へ!!』

 

「くっ……!」

 

 レフトの江山さんがボールを拾ってホームは諦めて二塁に投げた。

 正直、田島さんは足が特別速い訳じゃないから間に合ったと思う。

 それでも江山さんが二塁に投げたのは、フェン直の当たりでも二塁は絶望的な間に合わないであろう脚力を、廣目が目の前で披露していたからだ。

 確かに廣目は足が遅い。

 だが、さすがにフェン直で二塁に間に合わない程ではない。

 つまり、廣目が間に合わなさそうなのはわざと。

 これは……廣目の罠だ!!

 

「~~~~~っ!あいつ……!」

 

「……!」

 

 江山さんが投げてから顔を顰める。

 ボールが放たれたのを一瞥してから、廣目が加速したからだ。

 江山さんも気づいた。

 これは廣目の作戦だと。

 田島さんの走塁判断はただの暴走。

 3点を取らなければという焦燥からだ。

 その心理を予測して取った廣目の作戦。

 どこまでも先が見えてる最高の頭脳。

 江山さんは身震いした。

 このチビ……なんだ!?何者だ!?

 

「……っ!!」

「……っ、クソ……!」

 

『セーフ!セーフ……!』

 

 タッチした張本人である原田林が顔を顰めたのが何よりも証拠。

 廣目はヘッドスライディングでギリギリセーフを掴み取った。

 彼女はうつ伏せのまま拳を掲げる。

 そして、ゆっくりと、土汚れにまみれながら立ち上がった。

 二塁ベース上に君臨した廣目 惟はギリ……!と険しい顔を作る。

 そして。

 

「攻撃だけが野球じゃねえぞ!!王皇(おうきみ)ぃ……!!」

 

 ピッチャーをやられ続けた旦那役の反撃。

 怒りのツーベースタイムリーを放ったのは、バッテリーの精神を何よりも大切にしている俺達の正捕手……廣目 惟!

 

 

 王皇百十(おうきみももと) 18 - 10 獅ノ宮(しのみや)

 

 

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