貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第134話:ジョーカーは『最強』キラー

 

 9回。

 遂に最終イニング。

 王皇(おうきみ)ナインはベンチの前で円陣を組んだ。

 その中心にいるキャプテン江山(えやま)さんはナインに問う。

 

「点差は3点。我々は勝っている。だが、3点差で安心できるか?」

『……!』

 

 全員が目を見開き、首を横に振るう。

 それを確認して江山さんは小さく何度か頷く。

 全員の認識に油断がない、それはよかった。

 もし油断していたら叱責していた。

 彼女は、さらに問う。

 

「我々の敗北は、許されるか?」

『……』

「我々の凡退は、許されるか?」

『……』

「我々野手の情けない姿を見せて、このチームは勝てるか……!?」

『……!』

 

 真剣な顔だったナインが目をカッ……!と見開く。

 自身の言葉に呼応し、響いてることを確信した江山さんは1人だけ顔を上げて拳を掲げる。

 

「我々は打のチーム!我々は王皇百十(おうきみももと)……!歴史ある強豪校!埼玉地区王者常連!それが去年はどうだ!?我々は去年の夏、ここで負けた!!末代まで語られる恥晒しだ!」

『……!』

「私を含め、去年離脱した者は、この回死んでも打て!!さっき凡退した私を許すな!!その怒りを打席にぶつけろ!!守りが貧弱なのは、我々が1番わかっているはずだ!裏の自分達を一切信用するな……!」

『……!』

「点差があってもこの回も打て!打て!打ちまくれ!!そして、必ず勝利し、去年の雪辱を……!去年我々を下した獅ノ宮(しのみや)を打ち破ぶるんだ!!王座を奪還するぞ!王者は我々だ……っ!!王皇百十(おうきみももと)ォーーーーーーっ!!ファイ!」

『オーーーーーーーーッ!!!!』

 

 王皇ナインが先に頭上で待っていた江山さんの拳に自分達の拳も合わせる。

 例え勝っていても、江山さんの凄まじいゲキが響いた。

 彼女が叫ぶと、王皇もまた応える。

 ただでさえ手強いのに油断なんて絶対にしない。

 落ち着くどころかここに来てさらに闘志を燃やした。

 そんな王皇ナインと対峙するのは―――。

 

獅ノ宮(しのみや)ピッチャー 田中(たなか) サン に 代わり まして ――― ピッチャー 面平良(めたいら) サン』

 

「ひょ、ひょえぇぇ……」

 

 マウンドに上がるのは、獅ノ宮のクローザー面平良(めたいら)さん。

 最終回はジョーカーの出番だ。

 抑えはブルペンの切り札。

 ……だけど彼女はなんかもう投げる前から顔が瀕死だ。

 完全に王皇の円陣にビビり散らして泡を噴いてる。

 だ、大丈夫か?あれ……。

 

『9番 P H(ピンチヒッター) 佐藤(さとう) サン』

 

 王皇はピッチャーが打席に立つところで代打。

 内野の強打者である佐藤さん。

 だが、さすがの王皇も層が尽きてきたのか、彼女はルーキーだ。

 もちろん王皇は強豪校だから1年生がベンチ入りしてるということは、相当実力のある逸材ではあるが。

 でも、手札が尽きてきたのは明確だろう。

 向こうも絶対に消耗してる!

 ここは抑えるしかない!

 

「うぅ……クローザー辞めたい……口車に乗せられて引き受けるんじゃなかったぁ……じゅ、18点も取るようなチーム怖い……抑えられる気しない……」

 

 マウンド上の面平良(めたいら)さんは相変わらずのネガティブ。

 いや、スコアを見て血の気が引いてるのでさらに磨きがかかってる。

 そんな面平良(めたいら)さんとスーパールーキーの対決。

 

『フォアボール!』

 

「う、うひぃ……」

 

 面平良さんは全然要求通りに投げられず、先頭打者四球。

 あぁ……始まったな。

 

王皇(おうきみ)ランナー 佐藤(さとう) サン に 代わり まして ――― 代走 滝澤(たきざわ) サン』

 

 王皇は代走を送ってノーアウト一塁。

 次の打者は。

 

『1番 センター 盛秋(もりあき) サン』

 

「ひぃ……!この人が打ってから悪夢は始まったんだぁ……」

 

 面平良さんはマウンドで縮こまって頭を抱える。

 対する盛秋さんは困惑しながらも打席に入る。

 

「あぁ……絶対抑えられるワケない。ワンチャンあるかもって展開にせっかく持っていったのに、ここで打たれて私が皆の夏を終わらせるんだぁ……。それで一生皆の記憶に残って、恨まれて……ひぃぃ……!そんな場面で私に任せるのが悪いのにぃ……!」

 

 憂鬱な気分から中々抜け出せない面平良さん。

 彼女は死んだ目で投球に入った。

 

「も、もうどうにでもなれぇ……」

 

「……!」

 

 面平良さんが諦めて適当に投げた真っスラ。

 ストライクゾーンに入ってきたそれを盛秋さんはフルスイングで当てに行く。

 打球は―――ライト方向!

 

「……っ!!」

 

『アウト!!』

 

「~~~~~っ!?」

 

 ライトへの強い当たりは、原田先輩が阻んだ。

 盛秋さんが天を仰いで走るのを止める。

 たまたま打球の直線上に彼女がいて強いライナー性の当たりをキャッチした。

 いい反応だ!助かった!さすが原田先輩、ナイスプレー!

 

「……っ。私……」

 

「……」

 

 グラブに収まったボールを見つめる原田先輩。

 そんな彼女の様子をネクストバッターの原田林が目を細めて見ている。

 でも、すぐに打席に意識を戻した。

 

『2番 ショート 原田(はらだ) サン』

 

「……っ!」

 

「ひっ……!」

 

 原田林はキッ……!と面平良さんを睨む。

 バットの先を彼女へ向けた。

 

「弱気な態度で軟弱そうに見えて……球はキレのいい真っスラ。演技だとしたらこざしいし、野球を冒涜してるクソ女だと思ったが。どうやら無自覚らしいね。……まさかまだ獅ノ宮にこんなジョーカーがいたとはね。あんた、獅ノ宮のダークホースだな。ここで私が打ち砕いてやる」

「えっ……えっ、えっ……?」

 

 面平良には原田林にマークされる理由がわからなくて、ひたすら困惑している。

 だが、さすがは高校BIG5の代表正ショート、もう面平良さんの特性に気付いた。

 彼女がクローザーを任されてる理由も、見かけによらず曲者なのも一発で見抜く。

 歴代最高ショートは伊達じゃない。

 

「【最強】と呼ばれるプレイヤーの実力惜しみなく見せてやるよ、ジョーカー」

「……っ!」

 

 バットを構える原田林の気迫に、面平良さんはいつもの情緒不安定さを引っ込めるくらい息を呑んで身構える。

 多くの規格外を抱える獅ノ宮。

 しかし、獅ノ宮にはいない【高校最強】プレイヤー。

 そのショート枠。

 原田林。

 初めての強者との対戦に、面平良さんは逆に緊張が抜けた。

 ここに来て初めて、正気で全力の面平良さんと強者がぶつかり合う。

 

 "原田(はらだ) (りん) VS 面平良(めたいら) 絵夢(えむ)"

 

「……っ!」

 

「……っ、こいつが真っスラか……!」

 

 カキン!と金属バットが鳴る。

 でも、完全に芯を外してる。

 高めに来た真っスラはライトスタンドへのファール。

 続いて2球目。

 

「……っ!」

 

「くっ……!」

 

 フルスイング。

 外からゾーンに入ってくる低めの真っスラ。

 原田林はなんとかバットの先を当てて三塁線のファールゾーンに転がした。

 またファール。

 これでカウントはツーストライク。

 

「こいつの真っスラまじで打ちにくい!こんなに厄介なのか……!」

 

「いっけぇーーーー!!」

 

 全力で投じる3球目。

 真っスラが打ちにくい上に、廣目のカンニングリードもある。

 廣目対策でフルスイングをしなければいけないがフルスイングでは真っスラは引っ張りすぎてファールになる。

 だから、真っスラを前にしたら反射でフルスイングをキャンセルして、コンパクトに打ちにいってしまう。

 コンパクトに打たなければ真っスラは前に飛ばない。

 しかし、フルスイングしなければ廣目のカンニングリードには対抗できない。

 おい……待て、待てよ!?

 面平良さんの真っスラ×廣目のカンニングリード×フルスイング作戦……もしかして化学反応起きてるんじゃないか!?

 

『ストライク!!バッターアウト……!』

 

「……っ……ぁ……馬鹿な……っ!!」

 

 原田林がコンパクトに打ちにいって空振り三振した!!

 しかもこれが面平良さんの人生初の奪三振だ!!

 ヤバい、面平良さんの初奪三振は高校最強プレイヤーの一角……これはとんだビックマウスだぞ……っ!

 

「さ、三振……空振りの……これが……う、うへっ。き、気持ちいい……」

 

「~~~~~~っ!!」

 

 原田林が膝をついて悔しそうに険しい顔で俯いている。

 ここまで苦しめられ続けた最強プレイヤーから奪った三振、これはデカイぞ!

 チームに流れを持ってくるプレイだ!

 

「うおおぉぉ!やるじゃねえか、絵夢(えむ)!」

「やれば出来るじゃない!スカッとしたわ」

「素晴らしい。良い球だったぞ」

「う、うええぇ……?う、うへへ……そ、それほどでも……あるかも。うひっ」

 

 面平良さんは内野陣に褒められて顔が蕩けた。

 上機嫌のまま、彼女は次の打者とも対戦する。

 すると。

 

「……っ!」

 

 3番浅呉さんの金属バットが凄まじい音を響かせた。

 面平良さんは口を大きく開けたマヌケ面を披露して、頭上を一瞬で通過した打球を見上げた。

 最終的に彼女は天井と見つめ合って何が起きたのか認識しないまま、疑問符を浮かべる。

 

「ひょえ……?」

 

『打ったぁぁぁぁーーーーー!!これは大きい!!浅呉の打球は左中間へ!打球、伸びて……伸びて……入ったぁぁぁぁ!!浅呉、ツーランホームラン!!これは獅ノ宮にとっては痛い!!痛い追加点だ!浅呉、今ゆっくりとベースを回る。面平良は放心……っ!』

 

 

 王皇(おうきみ)百十(ももと) 20 - 15 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 はい。

 打たれました。

 面平良さんっていいパフォーマンスした後に必ず調子に乗って甘い球投げるんだよな……。

 それをしっかりスタンドにぶち込まれた。

 完全にやらかしだ。

 

「面平良ぁ!おま、またかよ……!」

「……こんなことだろうと思ったわ」

「褒めるべきではなかったな」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 もはや全員呆れた苦笑いを浮かべていた。

 ほんと、良い意味でも悪い意味でも相変わらずだな。

 この失点はいらなかった……。

 まあでも取られたものは仕方ない。

 全員なんとなく覚悟してただろうし、原田林から三振奪って舞い上がってしまったのは面平良さんだけじゃないから責任は皆にある。

 だから、まあ今回は面平良さんだけのせいじゃないかな。

 責めずに皆で後で反省会だな。

 

 9回表は、ここから更に失点を重ねた。

 面平良さんは穂石(ほぜき)さんと進川(しんかわ)さんと関内(せきうち)江山(えやま)さんに連続ホームランを浴びて、冷や汗タラタラになった。

 そして、なんとかこれ以上の失態は重ねまいと奮闘し、最後は完璧な三振で回を終えた。

 

 

 王皇百十(おうきみももと) 24 - 15 獅ノ宮(しのみや)

 

 

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