貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第142話:逆転サンゾク最低の結成秘話

 

 中学1年の時。

 私は"彼女"と野球がやりたくて、"彼女"と同じ中学を選んだ。

 

 "彼女"とは、原田(はらだ) (りん)だ。

 

 少女野球で神童と呼ばれた少女。

 歴代最高の逸材。

 野球をやっている者なら、彼女とプレイしてみたいもしくは対決したいと思うのは何も異端な感覚ではないはず。

 しかし、中学に入って野球部に入部したら……そこに彼女はいなかった。

 彼女は、野球を辞めていた。

 

「……驚いたな。まさか野球部に入部してないなんて」

 

 私、江山(えやま) 栗深(くみ)は原田さんがいる1組にきた。

 教室に入室すると、彼女は隅っこでつまらなさそうに外を眺めていた。

 本当につまらなさそうだ。

 野球がなければ、何もない。

 顔にそう書いてある。

 そんな彼女に近付く。

 

「こんにちは。原田さん……だよね?」

「……何。誰。話しかけないで」

「おっとぉ……」

 

 性格までは知らなかった。

 これは手強そうだ。

 面食らったが、もう慣れた。

 ここからは少し素っ気なくされても問題ない。

 

「……私は2組の江山。君と野球がしたくてこの学校を選んだんだ」

「……っ!」

 

 おっと、ようやく動きがあった。

 初めてこっちを見た。

 しかし、目を細めて、すぐにまた外に視線を戻す。

 

「……バカじゃないの。進路舐めすぎ」

「責任は持つさ。当然。どんな結果が待っていたとしても、自分の選択は自分の意思で、そこに後悔はないよ」

「あっそ。じゃあ現状受け入れて1人で野球やってなよ」

「おやおや。私以外にも野球部員はいるよ?」

「……マジでもう入部してんの。ウザ。野球バカ」

 

 悪態をつかれた。

 彼女は、私に去って欲しくてスマホを触る。

 でも、それは墓穴だったね。

 彼女自身も気づいた。

 彼女は自然と、慣れ親しんだ動きで、癖で野球の動画を検索した。

 それを私はガッツリ見てる。

 そして、彼女もまたもう手遅れなことに気づいてる。

 

「……」

「おやおや」

 

 私が彼女の椅子の背もたれに手をかけて、彼女のスマホを覗き込むと、近づいてきた私の顔を彼女は睨みつける。

 

「……ウザ」

「今のは私のせいじゃないだろう?」

「……」

 

 目をそらす。

 また外を見た。

 なるほど、かわいいじゃないか。

 

「……なんで野球部に入らないんだい?」

「関係ないでしょ」

 

 確かにそうだ。

 彼女はバッサリ切った。

 でも、もう彼女の性格は理解した。

 私は彼女の席の前の席に座り、足を組み、笑みを浮かべて彼女を見つめる。

 その視線を浴びて、彼女はため息をついた。

 やっぱりそういうタイプか。

 

「……妹が、従姉妹だけど、私のせいで野球を辞めそうになった。結局辞めなかったけど、あの()は私よりショートストップの才能があって、でももうショートは守らない。私のせいで」

「へぇ。なるほど。そんなことが―――待った。"私よりショートストップの才能があって"……?」

 

 耳を疑った。

 一度余裕ぶって天井を仰いだのに、固まって、慌てて彼女に目線を戻した。

 彼女はやっぱりそういう反応するかと完全に読んでいて、冷めた顔で私の視線を待ち受けていた。

 いや、でも仕方ないだろう。

 だって、そんなことあるはずがない。

 原田(はらだ) (りん)は、このまま伸び代を考えれば歴史上最強のショートストップになる。

 そんな彼女より上のショートストップがいる?

 バカな。

 ありえない。

 原田林は私が焦がれた最高のプレイヤーなのに。

 そんなプレイヤーがいるなんて認められない。

 ありえない……、なんて。

 認められない?悪いね、嘘だ。

 ありえない?まあそう思うけど、ホントにいるなら面白いと感じる。

 私は無意識に頬を緩めた。

 

「……!……あんた、名前は?」

「ん?だから、江山って……」

「じゃなくて、下の名前。フルネーム」

「……!」

 

 原田 林は、私を認めた。

 同時に気づいた。

 彼女は自己を賞賛する声にまるで興味が無い。

 だから、彼女を崇拝する私にも興味が無い。

 なのに、ここにきて彼女は私に名前を聞いた。

 興味の対象になったんだ。

 キッカケは、私が彼女の妹分を認めたからだ。

 つまり、"そういうこと"だ。

 彼女の価値観、判断基準、大事なこと、その全てはただ一つだけ。

 原田林は、原田林に興味がない。

 評価していない。

 彼女が評価しているのは、沈ませてはいけないと思っているのは。

 

江山(えやま) 栗深(くみ)だ」

「……栗深(くみ)。そっか」

「私からもいいかな?君の妹のことを聞きたい」

「……!」

 

 目の色が変わった。

 反応が変わった。

 面白い。

 "当たり"だ。

 もっと突きたい。

 そして、知りたい。

 最強のショートストップが認める、まだ見ぬ【規格外のショートストップ】について。

 

「名前は?」

涼香(すずか)原田(はらだ) 涼香(すずか)

「……?聞いたことがないな」

「そらそうでしょ。精々ウチの地区くらいでしか名通ってないし」

「ん?だが、君より凄いんだろう?ならもっと騒がれててもおかしくないと思うが」

「……私のせいでショート辞めたって言ったでしょ。その()はショートの才能しかないのに、私のせいでショートをやってた期間はたった1年。だから、実績は殆どない」

「……なるほど」

「知ってるのは同じ地区の少女野球チームだけ。……そうだ、取本(とりもと)とかは知ってるかも」

取本(とりもと) アリスかい?彼女は関西出身だったはずだが」

「少女野球の時は九州にいた」

「へぇ。初耳だ」

 

 面白い小話も聞けた。

 それにしても……原田涼香か。

 興味深い。

 だが、もうショートは辞めていてつくつもりもないとなると、その才を見れることはないか。

 惜しいね。

 せめて、今どこにいるかくらいは知っておきたい。

 姉の彼女なら知ってるだろう。

 

「ねえ。その涼香って()はどこの中学に―――っ!」

「……」

 

 言いかけてやめた。

 睨まれたからだ。

 ……難しいね。

 どこが地雷かわからない。

 

「……場所は教えない。教えても意味ないし。私のせいで今のあの()は凡になった。きっとこれから先もそう。……私が野球してなければ、私を怖がってるあの()も安心するかと思ったけど……それもダメっぽい。才能は復活しなかった」

「……なるほど。だから、野球部に入ってない。野球を辞めたワケだ。でも、効果がないならまた再開したらどうだい?」

「効果がないわけじゃない。私が野球やってたらあの()は野球自体をやめた。私が辞めたら再開した」

「……なるほど」

 

 これは中々複雑な家庭事情だ。

 他人が首を突っ込むべきではなかったな。

 もうここまで追求したのだから、進もうが止まろうがもう変わらないが。

 

「辞めたのはいつだい?」

「小5」

「……ふむ。向こうが再開したのは?」

「小6。……何?」

「いや、時間が解決することもある。相違があるなら、野球自体をやるか辞めるかはあまり深く考えなくていいんじゃないかな?今なら大丈夫ってこともある」

「……っ!」

 

 その発想はなかった、という顔をする。

 妹のことになると分かりやすくなるねぇ。

 

「野球、再開しないかい?自然治癒には限界があるよ。具体的なことは知らないが、君のことが怖くてショートを辞めたなら、君は()()を使ったんだろう?」

「……っ!あんた……引かないの?」

「んっ。何が?」

「いや……は?だって、私は従姉妹に……親族に……能力を使ったんだよ?」

「あぁ……ははっ。なるほど、そういうことか」

「……っ。何笑って―――っ!」

 

 彼女は私を見て恐れた。

 あぁ、よく見る顔だ。

 皆、私をそういう顔で見る。

 私は性格が悪い。

 だから、一般の倫理観に当てはめてもらっては困るな。

 

「親族の才能に恐れ、逆に恐怖を植え付けて【わからせ】た。ごく自然な欲求じゃないか。人間なんてそんなものだよ。理性や倫理なんて、余裕がない時には働かない」

「……っ」

 

 彼女は私を恐れる。

 原田林、思っていたよりマトモな価値観をしている。

 普通の家庭で育った、普通の女の子だ。

 まあ私も別に特殊な環境で育ったわけじゃないけどね。

 ただの遺伝だよ。

 

「……ふむ」

 

 私は考えた。

 予定したキャリアプランでは、原田林とチームメイトになり、私の実力にもさらに磨きをかけ、強豪校のスカウトを得る。

 二人一緒の高校に行って甲子園で優勝して、プロ入り。

 そこまでが筋書きだった。

 だが、無理だな。

 肝心の原田林がこの状態ではプランは崩壊だ。

 なので、予定を変更しよう。

 私の選択ミスだ。

 仕方ない。

 私の、いや私達のキャリア構築は()()()

 無理な計画を実行しても意味はない。

 ならば、意味のあることに中学野球高校野球を費やしたい。

 決めた。

 新たな計画では、きっと私はさほど成長しない。

 プロ入りは無理だろう。

 それは(りん)も同じ。

 だが、とある少女の障害となり、成長イベントの為の中ボスになれば、"意味"は生まれる。

 

【規格外のショートストップ】の息を吹き返す。

 

 私と、(りん)で。

 そうすれば就職に繋げられなくとも6年間の野球は無意識ではなくなる。

 だって、原田林以上のショートストップを復活させるんだ。

 そんな存在、国内に収まらず、世界に、歴史に名を刻むに違いない。

 素晴らしい。

 人類単位の発展に、貢献出来る。

 それが例え、後世に残らず、誰にも気づかれず、賞賛されなくとも構わない。

 承認欲求などくだらない。

 せっかく生まれたのだから、無意味には生きたくないだろう。

 意味が、意味が欲しいんだ。

 死ぬ間際に人生を振り返って、必死に生きた甲斐はあったと言いたい。

 今の状況に至った中で、うってつけの存在だ。

 

 ―――原田(はらだ) 涼香(すずか)

 

「協力するよ。あぁ、安心して欲しい。私にも得はある。だから、一緒に原田涼香を復活させよう。我々2人が彼女の障害となり、レベルアップイベントを用意してあげるんだ」

「……っ。あんた、何言って……」

「考えてもみたまえ。このまま指をくわているだけで、都合よく原田涼香が復活するとでも?ないね。他人に期待するだけ無駄だ。自分で動かさないと。……君の後悔を取り除くには、それしかない」

「……!」

 

 原田林が目を見開く。

 ……これは、乗るね。

 

「……具体的にはどうするつもり?」

 

 ほらね。

 

「簡単さ。私は()()性格が悪いと言われていてね。マトモな感性の君には思いつかないような酷い事をいくらでも考えつく。君に悪役は向いてないが、悪役になってもらう。大丈夫、私の"性悪"を借りればいいさ」

「……!」

 

 私は、求められた通り具体的に説明する。

 

「まず、中学野球は捨てよう。相手は【規格外】。それを動かすには、私達2人では力不足だ。(りん)、君は高校BIG5になれ。私と同じ高校に進学しろ。私は私達くらい優秀な選手を7人以上スカウトする。そうしてナイン、同じ高校に進学し、初年度で強豪のレギュラーを()()奪う。なぜか?チームを育てる為だ。3年間丸々欲しい。だから、上級生の指示を聞くだけの期間は排除したいんだ」

 

 ―――それが、69代目。王皇(おうきみ)百十(ももと)学院高校野球部。

 

「そうして作った強豪中の強豪チームを君の妹が入学した高校の同じ地区の強豪校で作る。そうすれば私達を倒さない限り、甲子園へは行けない」

「……性格、悪」

「ははっ。よく言われるよ。でも、逆に言えば、私達を倒せば精神的にも回復する可能性が高い。恐怖の対象を結果で上回る訳だからね」

「……っ!……なるほど」

 

 彼女は目を丸くする。

 もう少しだね。

 

「もうわかったかな?さすがだ。私達を乗り越えて甲子園へたどり着いた彼女が、果たしてまだ不能のままか。いや、"規格外"の才能を取り戻しているだろう。そうなれば甲子園ですら敵無しだ」

「……っ、あんた……何者?」

「何。ただの性悪女さ」

 

 私が口角を上げると、彼女は一度視線を落とした後、覚悟を決めた顔で私と向き合った。

 

「……乗った。あんたの計画」

「いいね。私の言う通りにすれば、立派な悪役にしてあげるよ」

 

 こうして、2人の"計画"は始まった。

 全ては、原田(はらだ) 涼香(すずか)というたった1人の少女を再起させる為に、たったそれだけの為に。

 

 多くを巻き込み、神童と呼ばれた少女も再び姿を見せるようになった。

 計画は6年間。

 4年は準備に費やし、2年を勝負の年とした。

 

 高校2年目、失敗。

 離脱者が出過ぎた為、計画の遂行を見送った。

 大会参加に意味を見いだせなかった為、江山と(りん)は仮病。

 浅呉だけが参加した。

 

 そして、高校3年目。

 現在。

 

「……なあ、(りん)の従姉妹の為にウチら集めたって、どういうことやねん?」

「……っ。そ、それは……」

 

 ドームのグランドで。

 正捕手に問われた江山は、言葉を詰まらせるばかりだった。

 

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