貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第143話:69代目王皇百十(おうきみももと)学院高校野球部

 

「要するに自分らの為にウチらに声をかけた訳や。全国から強い選手集めて、んで最後は獅ノ宮に……いや原田涼香に負ける。それが計画やろ?」

「……っ」

 

 進川に問われて、言葉に詰まる江山。

 その様子を見て進川はあぁそうかと納得した。

 

「あーごめんごめん。責めとるワケとちゃうねん」

「えっ?責めないのかい?私達は君たちの進路を操って……君たちを利用したんだよ?」

「利用って、自分で言うんかい。それに操って……ねぇ。ウチは操られたとは思わんけどなぁ」

「えっ……」

 

 唖然とする江山に、進川は視線をナイン全体に向ける。

 この仲間ちは自分と同じ価値観だと確信を持っているからだ。

 そして、それは正解だった。

 盛秋が口を開く。

 

「私も紫と同意見。確かに栗深の口車には乗せられたけど、最後に王皇を選んだのは自分の意思だし。選択の責任を他人に押し付ける気はない」

「ま、そういうことやな。それに栗深と林が企まんかったら王皇は150km/h打てたり、20点も取れるくらい、こんな強なかったワケやし。春の甲子園は優勝しとるし。ウチらもまあまあ美味しい思いしとるんちゃう?やからさ―――」

「……!」

 

 進川の言葉に、彼女がナインを一瞥すると、皆うんうんと頷く。

 そんな一同を見て江山は目を見開いた。

 信じられない。

 受け入れられるとは。

 自分で集め、自分で作り、自分で教育したとはいえ。

 彼女は自分の作ったチームを理解していなかった。

 

 これが、69代目王皇百十学院高校野球部。

 

『気にしなくていいよ、キャプテン』

 

「……っ。き、君たち……」

 

 誰も怒らなかった。

 誰も暴れなかった。

 ボイコットは起こらなかった。

 これが王皇。

 異常価値観だ。

 だが、それがあるからこその実力と実績。

 これは……これが強さの証だ。

 江山は震えた。

 自分で作ったのに、まるで知らないチームだ。

 これほど魅力的なチームになっていたのか。

 なんてことだ。

 今更ながらに感じる。

 ―――最高のチームだと。

 

「んで?最終的には原田涼香に負けるつもりなんやろ?じゃあさっきのエラーもわざとかいな?」

「……いや」

 

 進川が尋ねると、皆が林を見た。

 だが、カノジョは俯いてから首を横に振る。

 

「確かに最後にあの()の打球が来たら、エラーするつもりだった。王皇が勝っても、それならあの()は私には勝ったことになるから。でも……」

「咄嗟にええのが来て、身構えて本気でやったけど普通にエラーしたってわけか。さっきのは。ま、結果論やけどええわ」

 

 進川がナインを一瞥する。

 彼女たちは頷いた。

 もうこのチームに隠し事はない。

 真実が明らかになった今、各々の目的はハッキリさせておくべきだ。

 故に、敢えて口にする。

 

「栗深、林。悪いけど、ウチらは勝ちに行くで」

『……っ』

 

 江山と林が同じ反応する。

 目を見開いて、顔を上げた。

 だが、進川の表情は真剣だ。

 彼女だけじゃない。

 ナイン全員が同じ表情だ。

 

「うん!2人には悪いけど、そんな個人的な事情知らんし!勝つために野球やってんだから本気でやる!獅ノ宮は倒す!」

「……去年の借りは返す。獅ノ宮……そして、"成城"。絶対に倒す」

海秀(みほ)……(ほまれ)……」

 

 進川と仲のいい一塁手、穂石(ほぜき)は完全同意。

 セカンドの浅呉(あさくれ) (ほまれ)は個人的な対決と因縁に静かに燃えていた。

 彼女は獅ノ宮のベンチに目を向ける。

 すると、成城と目が合った。

 

「……2人が個人的な動機で戦うなら、私もいいよね?」

「誉、あんた……」

「獅ノ宮と成城にご執心か……まさか去年1人で戦わせたことが君をそうさせていたなんて、知らなかったよ。だから、春の甲子園は不調だったんだね」

「……っ。そういうこと?獅ノ宮がいなかったから?」

「あぁ。私達2人は今年が勝負の年で、夏に原田涼香を復活させるためのチームの稼働具体が見たかった。だから、春には参加したし本気も出した。けど、成城のいない春に、やる気は出なかったんだね?」

「……ごめん。でも、別にモチベで左右するワケじゃない。そんなのは強者には許されない。私達は王皇、常に全力。不調だったのは……ただの実力不足」

「そうか。わかった」

 

 仲間の真実がまたひとつ明らかになった。

 進川がため息をついて肩をすくめる。

 どうやら、3年間もチームを組んでいても、お互いに知らないことだらけのようだ。

 審判が近づく中、王皇はミーティングを続ける。

 

「外野勢も異論なし。私はさっき言った通り。2人には悪いけど、全力で勝ちに行く。……(あさひ)(さき)は?」

『えっ』

「えっ」

 

 2人の反応はなんだか他と違った。

 尋ねた盛秋さんもそんな2人を二度見する。

 そのやり取りを見て、全員が「まさか」と思った。

 そして、そのまさかだった。

 

「待て待て待てぇい!その反応……自分ら、知ってたんか!?栗深と林の計画!」

「うっ。ま、まあ……林とは仲良いし」

「右に同じ。栗深とはズッ友だし。いえーい」

「ピースピース……とちゃうわ!あー、もうええわ!アホらしい!」

「紫……」

 

 頭がパンクした進川は自分の頬を叩いて、目を覚ました。

 そして。

 

「もうええわ!なしなし!聞かんかったことでええ!ウチらはいつも通りやる。それだけやろ!」

「そうだね。その通り」

「……獅ノ宮倒す。成城倒す」

「1人だけ成城倒すbotから戻らなくなったんだけど……?」

「成城、出てへんがな!」

 

 進川のツッコミに小さくだけど、笑いが出る。

 ……やがて、ナインは真剣な目に変わった。

 

「ウチらは勝つ。ウチらは勝ちに行く。ウチらは負けへん。なんでかって?ウチらは王皇(おうきみ)や。負けへん理由なんてそれだけで充分やろ……!!」

『オーーーーーー!!』

 

 ピッチャーの武松も含めて円陣を組み、気合いを入れた。

 武松も3年生。

 ここにいる者、全員が江山の世代。

 そんな彼女たちを見て、江山はレフトポジションに後悔を口にする。

 

「……良いチームだ。私は、彼女達の野心につけ込んで……何がしたかったんだろうね。(りん)

 

「……」

 

 虚しい目を視界の中にいるショートストップの背中へ向ける。

 声は届いていない。

 けれど、2人とも感じていた。

 ここまで走り続けてきた計画は。

 間違いだったと。

 2人とも、認めることが出来た。

 林も、今の彼女なら、一瞬で原田涼香を救った津川和哉を恨むことはないだろう。

 

「……勝ちたいな。皆と」

 

 江山はボソッと、呟いた。

 

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