貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第146話: 打席内容自由自在 脚本成城の創作打撃 『造現』の成城

 

『今、情報が入りました!どうやら獅ノ宮の成城はドクターから条件付きの許可を得て打席に入った模様です!その"条件"とは……!【この一打席のみ】。そして!【"スイングは1回だけ"】、とのことです!なんと……!スイングは1回しか許されていません!そんな縛りの中、いくらあの成城といえど、ワンアウトも許されないこの場面で!打てるのでしょうか……!?』

 

(ハッ!1スイングしか出来へんやと!?んなんいくら成城いうても、並の打者出した方がまだマシやったやろ!何考えとんねんほんま!)

 

(1スイングのみ……!ならば、ツーストライクまでは"待つ"はず……!必ず見る!簡単に振れはしない!こちらにも勝機はあ……待て。私は、勝とうとしている……?)

 

 情報が視聴者と敵チームに出回る。

 後者は、成城先輩が出場するに当たってドクターの説明が高野連に必要だったのと、彼女の許可があったということを主に審判に周知する必要があったから、そのやり取りから向こうのベンチにも伝わった。

 知らないのは球場で生で観戦してる観客だけだ。

 王皇正捕手の進川(しんかわ)さんとキャプテンの江山(えやま)さんを筆頭に成城先輩の制約を知って彼女の正気を疑う。

 そんな中、当の本人はバットを横に膝上に抱えてから、屈伸して立ち上がりそのまま打席に入る。

 

 "バッター 成城(なりしろ) 冬華(ふゆか)"……!

 

 今、ここに再臨―――。

 

『バッター成城!バッター成城です……!』

 

『プレイ!』

 

「……」

 

「……っ!成城……!」

 

 興奮する実況。

 コールする審判。

 冷静に、そして凄まじい威圧感(オーラ)を放つ成城冬華(なりしろふゆか)

 彼女はバットを肩を軸に一旦背中まで傾け、その後肩とも背中とも離してバットを構える。

 眼光は鋭く、目は細められている。

 対する王皇クローザーの武松(たけまつ)さんはキャッチャーからの返球を受け取って、打席に目を向け、息を詰まらせる。

 

 "成城"。

 その名前だけで畏怖を覚える。

 その成城が打席にいて、向かい合っている。

 それだけで身が引き締まり、肩に力が入る。

 

 さぁ、9回裏。

 サヨナラシチュエーション。

 最後の勝負。

 

 "王皇百十(おうきみももと)学院高校野球部 VS 成城(なりしろ) 冬華(ふゆか)"

 

 

「……ふぅ」

「あれ?廣目?」

「ちょ、何帰ってきてんの??次、あんただよ!」

「むっ」

 

 何故かネクストバッターズサークルにいた廣目がベンチに戻ってきた。

 しかも、木製バットを片付け、メットも脱ぎ始める。

 完全にオフモードな廣目に獅ノ宮ベンチ一同が困惑する。

 だが、当の本人は一瞬不服そうな顔をしてから、目線を上に向けて考え事をし、俺達に視線を戻したと思ったら不敵な笑みを見せる。

 

「おや。皆さん、古参組も去年は1年間も一緒にいたというのに。まだまだ成城冬華のことをわかっていませんね」

「えっ?」

「……?何言ってんのよ、あんた」

 

 廣目の言い分に皆首を傾げる。

 そんな俺達の様子を見て、廣目は不敵な笑みから懐かしむような穏やかな笑みに変わって、グランドに目を向ける。

 

「……大丈夫ですよ。あの人が"決める"と言ったら必ずそれは実行されます。スイング1回のみであろうと関係ありません。それがバッター成城冬華です」

『……っ!』

 

 俺達全員が目を見開く。

 廣目は【()()の成城冬華】について、こう口にした。

 

 

 曰く、相手投手が誰であろうと関係なく、打席内容は成城冬華が決める。

 彼女に"打てない"はない。

 アウトになってもいい場面、もしくはなるべき場面ではわざと"打たない"ことはあるが、それだけだと。

 

 

 曰く、彼女は状況を見て、打席内容を予め決める。

 例えば、球数を稼ぐ必要があれば何十球でも"必ず"自由に稼げる。

 自分が打っても仕方ない場面では"必ず"初球で凡退する。

 ホームランが必要ならホームランを打つし、バントが必要なら必ずバントを決める。

 単打でもいいなら単打を放ち、長打が必要なら長打を放つ。

 相手投手は関係ない。

 彼女が確信ホームランを放つ時は、ベンチでホームランを打ってくると告げることが彼女にとっての"確信"である。

 

 

 曰く、彼女は打撃においてできないことはない。

 バントからホームランまでできるし、ミスは一度もなく、ホームランを打つと決めて打席に入れば"必ず"ホームランを打つ。

 ホームランはギリギリのスタンドインが多いが、それはどんなホームランを放とうが点数に変動はない為、わざと負担の少ないアーチを描いているだけ。

 長門未来のような特大アーチも放とうと思えば放てる。

 

 

 曰く、打球をどこへ飛ばすか、どのような打球を飛ばすか自由に選択できる。

 これはクレア・バローナと同様の能力である。

 相手投手が誰であれ、彼女が打席に入る時、例えば『右中間を抜ける打球を放とう』と考えれば"必ず"その通りになる。

 

 

 それが、打者の成城冬華。

 

 打席内容は自由自在。

 彼女が望むままに。

 彼女が立つ全ての打席が、脚本成城の創作打撃 。

 

 中学時代から彼女とバッテリー組み、付き合いが最も長い廣目 惟は打者成城をこう称する。

 

 "【造現(ぞうげん)】の成城"、と。

 

 

『さぁ、成城が打席に立ち、バットを構えて1年ぶりに公式戦で投手と対戦します!許されたスイングは1回のみ!その制約の中でどのようなバッティングを見せるか。そして、()()()振ってくるのか……っ!!』

 

「……っ!!」

 

『注目の初球……武松(たけまつ)投げた!スライダー―――』

 

 武松さんが腕を振り、油断せず初手から全力のスライダーをストライクゾーン低めに投げ込んだ。

 成城先輩に許されたスイングは1回のみ。

 初球のストライク。

 ストライクだが、簡単には触れない。

 だから向こうも最初からストライクを入れに来た。

 しかし、相手はあの成城。

 だからこその初球から決め球。

 これは見逃すしかない。

 見逃すだろう。

 敵も味方も観客も運営もスタッフも実況も視聴者もそう思う中。

 

 ―――"それ"は、起きた。

 

 

「……っ!」

 

 

『初球打ちぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!打球は右中間を抜ける!三塁ランナー中宮帰ってきた!!二塁ランナーの長門もホーーームイン!!サヨナラァァァーーーーーーーーーーーーーっっ!!!』

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――っっっ!!!!!!」

 

 観客と獅ノ宮ベンチの声にならない声が、球場を震撼させた。

 二塁ベースに到達し、塁上で少しだけ頬を緩ませ、拳をベンチに向ける成城 冬華。

 その彼女の周辺で崩れ落ちる王皇ナイン。

 狂乱する獅ノ宮のベンチ。

 項垂れる王皇のベンチ。

 4時間半に及ぶ激闘の幕は一瞬で、たった1球で決した。

 

 サヨナラ。

 代打成城、【代打初球打ちサヨナラタイムリーツーベース】……っ!!

 獅ノ宮に2点が入り、逆転!!

 

 埼玉地区大会決勝戦、勝者……"獅ノ宮(しのみや)学院高校野球部"。

 

 スコアは。

 

 

 王皇(おうきみ)百十(ももと) 24 - 25 獅ノ宮(しのみや)

 

 

 で、獅ノ宮の勝利!!

 勝った!!

 やったぁぁぁーーーーーっっ!!!!

 

 

『なんという劇的な幕切れッッ!!!!4時間半に及ぶ激闘!!23-24!!9回裏に9点差を覆したのは、獅ノ宮(しのみや)学院高校野球部ッッ!!!!打ったのは、代打でキャプテン・"成城(なりしろ) 冬華(ふゆか)"!!』

 

『埼玉の王者が今、決まりました!!埼玉地区大会優勝、獅ノ宮(しのみや)学院高校!!敗れたのは、歴戦の覇者・王皇百十(おうきみももと)ッッ!!獅ノ宮は夏の甲子園出場決定!!』

 

『甲子園に出場する埼玉の代表は獅ノ宮(しのみや)に決まりましたぁ!!ここまで実況はワタクシ、オオヤマが努めさせて頂きました!!ありがとうございました!!!!押忍!!』

 

 

 最高のボルテージの中、獅ノ宮のベンチから部員全員が飛び出して二塁ベースへ走り向かい、ブルペンからもるきあが号泣しながら駆け寄ってくる。

 そんな皆を穏やかな笑みで待つ成城先輩。

 実況が締めくくり、試合は終了。

 

 埼玉地区大会決勝戦 対王皇百十(おうきみももと)学院高校篇

 

 完結。

 

 

 しかし、これはまだ"新生"獅ノ宮のゴールではない。

 去年の雪辱を果たすために再起され、結成されたのが今の獅ノ宮。

 そして、去年の雪辱とは、甲子園にしかない。

 夏の甲子園大会。

 高校野球本戦。

 獅ノ宮のリベンジは、まだこの先にある……!!

 

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