貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第148話:原田涼香の為にだけ作られた王皇が終わる日

 

「俺、みんなのドリンクおかわりとってきます。何欲しいですか?」

 

 俺が聞くと皆が口々に「コーラ!」とか「ウーロン茶!」とか言ってくる。

 それを全部聞き入れてコップを回収、おぼんにはめて手に取る。

 

「1人じゃ無理でしょ。私も行くよ、津川」

「私も行くわ。おぼんは3つだし、これで1人ひとつでしょう」

「ありがとうございます!」

 

 名乗り出てくれた原田先輩と成城先輩の厚意を受け入れて3人で持ち運び、部屋を出た。

 そんでドリリングバーまで来たんだけど……なんだか見覚えのある人達が俺達と同じものを持って屯していた。

 こっちも向こうに気づいたし、向こうもこっちに気づく。

 まず目敏く俺たちを見つけたのは王子様系女子。

 

「……!おや。これはこれは」

「貴女たち……!」

「……涼香」

「……っ。り、(りん)ちゃん……」

「おっ。獅ノ宮(しのみや)や~ん。もしかして打ち上げ会場同じかいな?マジか。ウケる」

王皇百十(おうきみももと)……!?」

 

 3人と3人で言葉を交わした俺たち。

 出くわしたのは王皇百十野球部。

 その中でもキャプテンと主力の3人。

 江山(えやま)さん、原田林(はらだりん)進川(しんかわ)さんだ。

 

「王皇百十もここに来てたんですね……」

「そういうことだね。おっと、お先にどうぞ?男の子だからね。当然優先(ファースト)さ」

「ど、どうも……」

 

 江山さんが相変わらずの紳士ぶりで俺にドリンクバーの先頭を譲ってくれた。

 その背後で原田先輩と原田林が面と向かう。

 

「……(りん)ちゃん。どこかでゆっくり話そうと思ってたけど、連絡取れなくてごめん」

「仕方ないでしょ、そっちは優勝校なんだし」

「……っ。う、うん……そうなんだけど。えっと、その……」

「……」

「……」

 

 2人は無言で目を逸らしてしまった。

 それを俺たち全員が見て、顔を見合せて苦笑いする。

 

「……積もる話もある。ここで少しだべっていこうか。何、我々は全員雑用を押し付けられた立場だ。少しくらいサボっていたって、誰にも責められる筋合いはないだろう?」

『……っ』

 

 江山さんの粋な計らい。

 彼女は完全におぼんを置いて壁に背を預けてしまった。

 ここでダラダラしていこうという姿勢を真っ先に示した訳だ。

 先に行動してくれるとこちらとしても乗りやすい。

 

「そうね。どうせこれだけの人数分いれるなら時間もかかるし、そうしましょう」

「だね」

 

 成城先輩も承諾しておぼんを置いた。

 さて、場は整ったが……。

 

『……』

「……っ。いや……その、そんな注目されると余計話しづらいというか……」

「それ。栗深(くみ)、余計なことした」

「おっと。気を遣ったつもりなんだけどね」

 

 肩をすくめる江山さん。

 これはあんまり見ないようにしてドリンク入れることに集中したほうがよさそうだ……。

 そう思ってコーラのボタンを押した時。

 

「ほな、ウチからええか?」

『……!』

 

 まさかの口火を切ったのはここまでダンマリだった進川さん。

 挙手して発言許可を要請した。

 

「まあ、別に大した話ちゃうねんけど……場を和まずにはええか思ってな。去年から成城と話す機会あったら言おう思ってたことやねんけど」

「……?私に?何かしら」

 

 進川さんに名指しされると思っていなかった成城先輩が目を丸くして彼女を見る。

 確かに2人の接点ってあんま無さそうだし話ってなんだろう……。

 

「あー、いやほんま大した話ちゃうねんけど……成城って大阪出身やろ?」

「えぇ……まあ、そうね」

「ほほっ!ほれほれ、キタキタ!関東(こっち)で関西人それも大阪人に会えるなんて滅多にないやん?やからずっと関西弁……いや、大阪弁で話したかったんよな!成城、話せるやろ?」

「あぁ……なるほど。まあ、話せるけれど……」

 

 成城先輩が渋い顔をする。

 嫌っていうより、何も無いところを見て眉間にシワを寄せているから多分思い出してるんだ。

 中学は廣目と同じ大阪の学校だったらしいからそう遠くない過去だと思うが……まあでも成城先輩の方言とか訛りって確かに聞いたことないしなぁ。

 いつも誰よりも標準語だし短期間でかなりこっちに染まったんだな。

 そんな成城先輩がコホンと咳払いして、注目を集める。

 

「じゃあやるわよ」

「おっ。待ってました大将!」

「やかましいねん。勝手に盛り上げんなや。ノリはもっと丁寧にせんかい。シバキ倒すで」

「思ってたんとちゃう……」

 

 ボロ雑巾の如くメッタメタにされた進川さんが愕然として、皆がちょっと笑いを堪える。

 後で聞いたら成城先輩、結構コテコテの南大阪出身らしい。

 進川さんとは格が違ったようだ……。

 

「じゃあ、次は私からいいかしら?江山さんに言いたいことがあるのだけれど」

「君、この流れでよく次自分からって言えるな。まあいいけれど……」

 

 成城先輩の変わり身がすごい。

 さっきの罵詈雑言大阪弁は夢幻だったのか……?って思うほどもう既にいつもの成城先輩だ。

 しかも真顔で挙手してる。

 そりゃ江山さんも困惑するわ。

 

「江山さん。貴女、王皇打線で唯一カーブを打ったわね」

『……!』

 

 試合の内容を突いてきた!

 全員が目を見開く。

 勝ち負けがある以上、安易には誰も触れなかったが……成城先輩はキャプテンだから敢えて触れた。

 多分原田姉妹が話せるように、その一貫だ。

 原田先輩が原田林と面と向かって口を聞けるようになったのも、先日の試合があったから。

 でも、原田林は負けて、王皇百十は敗退した。

 倒したのは原田先輩も含む獅ノ宮。

 そこの確執が新たに生まれたから、原田先輩がいかにトラウマを乗り越えてても気まづいのは仕方ない。

 そこをまた新たに払拭するために試合について気兼ねなく話せるというハードルの低さは必要だ。

 だから、成城先輩は江山さんを巻き込んで話を振った。

 そして目で訴える。

 キャプテンとして、仲間のために責務を果たせと。

 負けて辛いのはキャプテンも同じ。

 でも、話せと。

 それが仲間のためにかぶるキャプテンの泥。

 自分を殺せ。

 

「貴女がカーブを打てたのは、他の皆と違って対応力があるから。貴女はそう言った。でも、それは本当かしら?」

「……!なぜ疑われているのかな。わからないな」

「別に。確認してるだけよ。こっちとしてはまだ戦いがある。作戦が通用しなかった原因はちゃんと追求しておくべきでしょう?」

「なるほど。一理あるね」

 

 江山さんは納得した。

 そして、一瞬視線を落としてから成城先輩と向き合う。

 

「確かに……対応力だけで君達の作戦を打ち砕いたというのは無理がある。とはいえ、私も完全に自覚している訳では無いから、自分で試合を振り返っての自己分析になるが……」

 

 腕を組んで考え込んだ江山さんは、暫くして答えを出す。

 それを俺たちに教えてくれた。

 

「……おそらく、試合に勝つことが目的じゃなかったから私は本気でフルスイング作戦を実行できていなかった。スイングに迷いがある分、余裕があったのだと……思う」

『……』

「そう。教えてくれてありがとう。それじゃあ―――」

「ただ」

「……!」

 

 成城先輩が深掘りすべきではないと判断して、話を切り上げようと原田姉妹に目をやったが江山さんはまだ終わらなかった。

 全員が彼女に耳を傾ける。

 

「……私が放ったホームランがあるだろう。あれは、私と(りん)の思惑には反する。気持ちが先走ったんだろう」

「それは……つまり、貴女にも勝ちたいという気持ちが最初からあったのね」

「あぁ。原田涼香を復活させる為に王皇と仲間達を利用した。だというのに私は私の作った王皇を好きになってしまい、仲間を愛して想ってしまった。その中途半端さは私が君達に負けた敗因だ」

「栗深……」

 

 江山さんは遠くを見てるような目で馳せる。

 どっちかに振り切っていれば、勝利か原田林に原田先輩を救わせることかどちらかは得れていたかもしれない。

 そう思っているんだ。

 だが、どちらも逃したのが現実だ。

 彼女は自嘲気味な小さな笑みを浮かべて俯いた。

 

「ほんま、ダメダメなキャプテンやな」

「紫……」

 

 苦言を呈したのは進川さん。

 冷めた目を江山さんに向けている。

 でも、責めてるわけじゃない。

 

「それでも勝てんかったんはウチらが弱かったからや。勝手に1人の責任にすな。王皇(うち)は個人軍とちゃうやろ?」

「確かに。栗深1人の力で勝敗が左右されると思ってるなら……かなり思い上がってるかも?」

「ははっ。手厳しいね……」

 

 進川さんの指摘に原田林も少し笑って悪ノリする。

 江山さんは肩を竦めて苦笑いする。

 そして、原田先輩が前に出た。

 

「じゃ、じゃあ次私……いいかな。(りん)ちゃんに話があるんだけど」

『……!』

 

 全員が目を見開いて原田先輩に注目する。

 続けて原田林にも目を向けた。

 原田林はまっすぐ自分を見る原田先輩に、間を合わせられないでいる。

 そんな彼女に原田先輩は発言権を放棄せずに、告げる。

 

「……(りん)ちゃん。私、(りん)ちゃんにお願いがあるの。2つ」

「お願い……?」

 

 思っていた展開と違って困惑した原田林が思わず目を合わせた。

 それを待っていた原田先輩の表情に原田林が目を丸くする。

 そして。

 

(りん)ちゃん。また……昔みたいに私に野球を教えてください。それとまた昔みたいに仲良く接しちゃ……ダメ、かな?」

「……っ。涼香……」

 

 モジモジと恥ずかしそうに告げた原田先輩に原田林は驚いたあとに、不安げな顔で目を泳がせ、俯く。

 再び顔を上げた時には原田先輩の発言を思い返して疑問を抱いていた。

 

「……待って。野球を教える?私が?涼香に?」

「うん。ダメかな」

「い、いやダメっていうか……え?まだ気づいてないの?あんたは私よりも遊撃の才能があって……"規格外"の涼香に教えられることなんて……」

「あっ!あー、えっと、そうなんだけど……そうなんだけど?って私が言うのもおかしいか。まあ、えっと……確かに私には規格外の才能があるんだけど……」

「……?」

 

 原田先輩の煮え切らない言葉選びに原田林がひたすら首を傾げる。

 転生者の俺にはこの状況は理解出来る。

 確かに【男子級】の原田先輩が女子の原田林に教えを乞うのは矛盾してる。

 だって原田先輩の方が身体能力は上回っているから。

 でも、原田先輩の言いたいこともわかる。

 多分……彼女は原田林が自分より上だから教わりたいんじゃない。

 原田先輩が教わりたいのは―――"小手先の技術"だ。

 そこに身体能力は関係ない。

 

「私の守備範囲は異次元……でも、今の私はそれ以外は凡の遊撃手、でしょ?だ、だから……」

「……あぁ。なるほどね。確かに経験値も知識も私の方が上か。それを身につけたいわけね。理解した」

 

 原田林は納得したように頷く。

 そう、コーチが選手より優秀なプレイヤーである必要はないのと同じだ。

 さらに上手くなる方法を知ってる、それを伝授できる。

 コーチングはそこが大事。

 だとするならば、守備範囲以外は男子級じゃない原田先輩が他の能力を伸ばす為に指名するコーチは、間違いなく原田林を置いて他に居ない。

 最適な人材だ。

 ただ、原田林に習ったからといって他の能力も男子級になる……ということは無いだろう。

 高校BIG5のようにこの世界の天才基準に到達することもない。

 あくまで目的は"苦手を無くすこと"。

 得意を増やすのではなく、弱点を減らす。

 平均値を上げることで得意の男子級守備範囲ももっと活きるようになる……!

 

「私は獅ノ宮の正遊撃手になる」

「……っ!」

「だから、今のままじゃダメなの。特に私は打てないし……だったら守備をもっと上達させたい。減点項目を無くしたい!」

 

 無意識だが、原田先輩は今、これからは遊撃手として生きていくと告げた。

 もうショート以外にはつかないという決意表明。

 それは、原田林がずっと求めていた言葉。

 彼女は視線を落として……悩んだ後に顔を上げる。

 

「……わかった。ただ、守備だけ伸ばすのは反対。他のマイナスを減らしたいなら打撃も"マシ"くらいにしなさい。じゃないと規格外の守備範囲もプラスとは言えない。それと……私、厳しいけどついて来れる?」

「……っ!!そ、それって……!」

 

 原田先輩の顔がパァっと明るくなる。

 原田林はようやく少し頬を弛めて頷いた。

 

「うん。引き受けた。まだ私にも利用価値があるなら最後まで搾り取ろう。私は……私の人生を全て原田涼香の才能開花に捧げると、9年前から誓ってるから」

「……!(りん)ちゃん……」

「うん。涼香」

 

 原田林の言葉に、原田先輩が感銘を受けて涙を浮かべる。

 その表情を見て原田林は柔らかい微笑みを見せて、腕を広げた。

 そこに、その胸に飛び込むのは……彼女の妹。

 

(りん)ちゃん……!(りん)ちゃん!ありがとう……大好き。大好き!!」

「うん。私も大好き。涼香……愛してる」

 

 2人は抱き合った。

 ただ……原田先輩は、ハッと気づいて離れて彼女に尋ねた。

 えっ?待って。(りん)ちゃん……自分のことは?自分の野球人生は?野球を辞めるの?と。

 それに彼女は清々しい顔でうんとだけ返した。

 あまりにアッサリしすぎて原田先輩は困惑し、やだよ!林ちゃんならプロに入れるしこれからは一緒に野球やろうよ!と訴える。

 当然の反応だ。

 それでも、彼女は首を振った。

 

 原田林。

 貞操観念逆転世界において、常識の範疇だが間違いなく才能に恵まれた野球プレイヤー。

 この世界においては天才。

 プロ入りも間違いなしでその先のキャリアも保障されている程に既に実力者。

 しかし、彼女は野球を辞める。

 

 だって……9年前、9歳の少女の後悔から始まった旅路はやっと終わったから。

 

 

 

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