貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第17話:理想のシフト

 

 2日目。

 試合が始まるのは午後なので、俺は朝のうちに告げておくべきことを皆の前で言った。

 

「えー、まず打順とポジションを発表します」

「……」

 

 食堂に集まった一同が俺の言葉を待ってる。

 そんな中、俺はスターティングラインナップを読み上げた。

 

 

 〇獅ノ宮学院高校

 

 1.LF 長門(ながと) 未来(みく)

 2.P 成城(なりしろ) 冬華(ふゆか)

 3.CF 美山(みやま) 優希(ゆうき)

 4.2B 原田(はらだ) 涼香(すずか)

 5.C 助っ人A

 6.1B 助っ人B

 7.SS 助っ人C

 8.RF 助っ人D

 9.3B 霧島(きりしま) 紗永(さえ)

 

 以上。

 俺のシフトを聞いて、獅ノ宮野球部は困惑した。

 

「私9番かよ……まあ妥当ではあるけどよ。てかそれよりサード……?」

「あー。まあ紗永にサード適性見出す気持ちはわかるわ。捕球は弱いけど肩強くてスローイングに長けてるし。でも、未来が1番ってのが意味わかんないんだけど」

「あっ。それはですね!」

 

 原田先輩の疑問に俺は意気揚々に答える。

 昨日も言ったが、俺は長門先輩の打撃を結構評価してる。

 守備指標は酷いけどOPSが異次元に優秀だ。守備のマイナスを打撃でカバーしてるからWARの数値もそんなに悪くない。

 俺は長門先輩がこのチームの要だと思っている。

 

「わ、私が要……?」

「本人が1番ピンときてねえのすげぇな……」

 

 困惑した様子で首を傾げる長門先輩。

 どうやら自覚がないようだ。

 彼女は長打率が凄まじい。シーズン換算でも6割を超えてるのは異常だ。

 なぜか出塁率はそんなに高くないけど、四球はそれなりにあったし、選球眼も悪くなさそう。

 

 長門先輩は理想の1番バッターにピッタリだ。寧ろ彼女を1番にしなかったこれまでの経緯が理解不能。

 長打で出塁してもらって、それを打率のいい成城先輩か得点圏でやる気を出す美山先輩に返してもらう。

 これが獅ノ宮野球部の理想の打線だと思う!

 だが、先輩達は何か不満のようだ。

 

「あのね……この()のOPSが優秀なのは―――って待って。未来に気を取られて気付かなかったんだけ……ど、さ……」

「ん?」

 

 どうやら気づいたようだ。

 俺が組んだシフトは1番バッター長門先輩も重要だが、もう1つ大事な箇所がある。

 それは。

 

『冬華が先発投手!?』

「……」

 

 驚愕に包まれる皆が成城先輩に視線を集めて思わず大声を出す。

 だが、当の本人である成城先輩は真顔で黙りこくったままだ。

 俺は皆の抗議を受ける。

 

「あんた、馬鹿じゃないの!?冬華のこと殺す気!?」

「はい?なんですか、それ。先発転向したくらいでそんな大袈裟な……」

「い、いや。おい。悪いこと言わねえからさ。やめとけよ。他はともかくさすがに無理があるぜ」

「ふ、冬華が死んじゃう……」

「あは~!おもしろ~!」

 

 俺のシフトを容認したのは美山先輩だけ。相変わらずヘラヘラ笑っている。

 原田先輩は声を荒げ、霧島先輩と長門先輩は顔面蒼白だ。

 ……何をそんなに過剰に反応するか理解できないんだが。

 ひょっとしてこのシフトの意味がわからないのか?昨日の試合を見て彼女達のことを見直したつもりだが、今失望に近い感情を抱いた。

 いちいち口で説明しないといけないのか……。

 

「えっとですね。成城先輩は野手より投手として用いるのが一番です。守備で失点を防ぐより成城先輩が抑えてしまった方が手っ取り早いじゃないですか。それに、いつも球数少ないですし、先発適性はめちゃくちゃありますよ!イニングも沢山食えると思います!」

『……っ』

 

 ん?俺の熱弁を聞いても尚、というか聞いて尚更彼女達の表情が険しくなった。

 霧島先輩が頭を抱える。

 

「球数が少ない。あぁ、そうか。そうだよな。数字だけ見てりゃそう感じるのも確かに無理はねえ……クソ」

「いや。悪いけどそれを踏まえてもこれには賛同できないわ。あのさ、冬華の球数がいつも少ないのは―――」

 

 こめかみを抑えてから、顔を顰めつつ何やら説明しようとした原田先輩。

 そんな彼女を遮ったのは、彼女達が庇おうとしていた当の本人だった。

 

「もういいわ、皆」

『えっ……』

 

 一番奥に座っていた成城先輩の発言に全員呆気にとられたような顔で振り返る。

 口論を止めた彼女の表情は、未だに冷静沈着だ。

 

「津川くん。昨日も言ったけど今日は貴方の好きにしなさい。貴方がやれというなら私は何でもやるわ」

『なっ……!』

 

 まさかの成城先輩の助け舟!他の皆が戦慄する中、俺はヨシ!と内心ガッツポーズした。

 彼女が俺の指示を受け入れてくれるのはデカイ。

 キャプテンであるのもそうだが、獅ノ宮の精神的支柱が彼女なのは昨日の試合を見てわかった。

 つまり、成城先輩を頷かせてしまえば、他の部員も従うしかない。

 

「……っ。クソ……!」

「本人が言うなら……仕方ねえな」

 

 盛り上がって立ち上がっていた原田先輩も舌打ちしながら席についた。

 霧島先輩は物分りのいい方ではあるが、彼女も彼女でまだ納得がいってないようで言葉では理解を示していても、信じられないような目で成城先輩を横目で見ていた。

 俺も、成城先輩に面と向かう。彼女に言っておかなければならないことがあるからだ。

 

「成城先輩。有言実行頼みますよ。ちゃんと俺の指示に従って、先発調整もキチンとしてくださいね」

「えぇ。そのつもりで午前中からアップしておくわ」

 

 よし。成城先輩は従順だ。

 気に食わないからって準備とか怠われちゃ困るからな。それで負けたり内容が酷くても、俺のせいだって言われるのはお門違いだ。

 きちんと真面目に本気でやってもらわなくちゃな。

 そこは結構心配だ。なにせ俺はこの人たちに邪険に扱われてるからな。

 ……念の為釘を刺しとくか。

 

「それと皆さん。手は抜かないでくださいよ。ちゃんと本気でやってくだ……さい、ね……―――っ!!」

『―――』

 

 俺は言いながら皆の顔を見た。

 すると、彼女達の俺を見るその表情に俺は……気圧された。

 一瞬、空気がヒリついた。間違いなく感覚が刺激された。

 睨んだりはしてない。でも、大きく目を見開いて俺をその瞳で捉える彼女達の雰囲気は、女子高生のそれではなかった。

 

「……野球で手を抜くくらいなら、死んだ方がマシ」

「あは~!優希もいつも通りやるから安心していいよ~」

 

 強く握り拳を作る原田先輩がそう吐き捨て、美山先輩がにこやかに宣言した。彼女達の言葉が本当なら明日、どちらが正しいか決まるだろう。

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