貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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獅ノ宮ベストナイン編
第26話:集めろ!獅ノ宮ベストナイン


 

「……集まったわね」

 

 野球部員5人と俺がグラウンドに集合したのを確認して、成城先輩が全員と目を合わせた後、口を開いた。

 俺たちは、部長である成城先輩を中心に彼女を囲っている。

 

「ところで涼香と紗永はなぜウェアに着替えてるの?」

「この後練習……じゃなかった。トレーニングするからだけど」

「トレーニング?」

 

 尋ねられた原田先輩が真顔で返すと成城先輩は訝しむ表情で霧島先輩に視線を移した。

 わかりやすく説明しろとの御用達だ。

 霧島先輩は苦笑いしながら自分の役目を理解する。

 

「あー……まあ野球部が活動休止なら学校の美品は使えねえし練習用具も使えねえけどさ。ジム行くとか走り込みするとか自前のグローブでどっかグラウンド借りてやるとかなら色々やれるだろ?」

「そっ。別に野球部がどうなろうと私達野球辞めるつもりないし。これまで部活動してた時間をただただ過ごす気もないから。外部でトレーニングする、それだけ」

「その為に着替える時間と場所がいつもの部活前の更衣室しかなかったってだけだ。まあ、あれだ。あんま気にすんな。紛らわしくて悪ぃな」

「……そう、わかったわ」

 

 事情を理解した成城先輩。

 静かに喋って、目線を落とした。

 そんな彼女の様子が原田先輩には気に掛った。

 

「ねえ、なんであんたが招集かけたのかはなんとなく察しがつくんだけど。どうせ報告でしょ?冬華の作戦が上手くいって部は終わりましたっていう」

『……!』

 

 誰もが口にせず、言い出せず、重い空気があったことをまるで無視して原田先輩がズバズバと言及して話を進めようとする。誰しもが目を見開いた。

 彼女も決して悪意がある訳ではなく、皆の心情を察しつつも誰かが汚れ役を買わなければここで皆揃って俯いてるだけだと理解したのだろう。

 

 証拠に、指摘しながらも原田先輩の表情は苦虫を噛み潰したようだ。

 これ以上部の皆の、大切な仲間をこんな空間に縛る訳にはいかない。それぞれの時間に戻すために原田先輩は口火を切った。

 故に、さらに畳み掛ける。

 

「部長としての最後の仕事って訳だ。……でも、それよりあんたは先にやらなきゃいけないことがあるんじゃないの?冬華」

「……」

 

 成城先輩に問いかける原田先輩。

 彼女の指摘に心当たりのある成城先輩は落とした視線をそのままに瞼を閉じた。

 そして、再度開けた時には顔も上げ、彼女は無表情で原田先輩に答える。

 

「えぇ。わかっているわ」

「……!」

 

 そうとだけ口にした成城先輩が一瞬、俺を一瞥する。

 俺もそれに気づいて息を呑んだ。

 原田先輩はその視線の交錯を一瞥しつつ少し皆より前に出て、告げる。

 

「津川は打算で私達に近づいたこと、謝ったよ。私も殴ったこと謝った。あっ。津川、怒鳴ったのもごめんね」

「……!い、いえ!それも全然。……俺が悪かったので」

 

 申し訳なさそうに上目遣いになる原田先輩に俺は慌てて気にしないでくれという意思を身振り手振りで表現した。

 それでも、原田先輩は後悔が絶えないといった感じで一瞬俯いたが、今はそれより成城先輩の案件を優先すべきと考え再度彼女と向き合った。成城先輩を捉える時の表情も、彼女はどこか哀愁を滲ませてるように感じる。

 

「まあ、私も含めて謝ればいいって訳じゃないけどこれであとは冬華だけだよ。ちゃんと謝り「ごめんなさい、津川くん」いや、すぐ謝るんかい」

 

 嫌な役目を引き受けるのは自分だと自覚して追求していた原田先輩も思わずガクッとずっこけそうになった。

 思いの外素直にサラッと謝罪を口にした成城先輩とそれに対する原田先輩の反応に、一同が「ははっ……」と苦笑いする。

 だが、成城先輩が口を開こうとしてるのを確認して全員切り替えて黙り彼女に注目した。

 

「……本当に、悪かったと思っているわ。私も自分の都合で貴方を利用していた。充分悪意はあったもの」

「……っ!そ、それなら俺も……!」

「はいはい。喧嘩両成敗~~~~!!これでみーんな和解で解決だね~!」

 

 成城先輩と俺が互いに自分の行いを反省する最中、割って入るように大声で仲裁したのが制服姿の美山先輩。

 俺達の自責は彼女によって遮られ、強制的に円満で終わらされようとしていた。

 が、よりによって彼女が何も悪びれる様子もなくその役を買って出たのは俺以外の野球部全員が不満に思ったようだ。

 

「いや、元はといえばお前が発端じゃねえの……?」

「た、確かに……。優希がす、好き勝手しなかったら冬華もあんなことになる前にこ、この人止められたのに……」

「津川だって負い目感じる事態にならなかったって訳だ。……まあ、あんたを止められる力がなかった私達にも責任あるけどね。私にも、冬華くらい力があれば……」

「あは~っ!優希、めっちゃ責められてる~!でも、反省しないもーん!」

「……誰か一人を責めるのはやめにしましょう。発端は優希でも、罪を全て優希の責任にするのは無理があるわ」

 

 全員に総ツッコミされる美山先輩。それでも変わらない自己中クイーンの彼女に全員が諦めと呆れが混じった疲れた表情を見せた。

 でも、そんなのはいつものこと。

 

 美山先輩がどうしようもないのはここまで散々やってきた話だ。俺でさえももう理解してる。

 それに、どうやら成城先輩が今日したかったのは反省会でも報告会でもないようだ。

 

 彼女は美山先輩を庇いつつ、これは部全体の問題であるという認識を共有した。

 そして、彼女は本題に入るために口を開く。ここまでと雰囲気が違うのは皆察して彼女に注目した。

 

「今日は誰が悪いかを決めたくて皆を集めた訳じゃないの。……これからの話をしたいわ」

 

 ようやく下ばかり見ていた成城先輩が目線を上げて、前向きな姿勢を見せた。

 彼女には何かまだこの部に展望がある、そうとも言ってるように捉えられる。

 

 でも、そんなことはありえない。なぜなら、彼女本人がこの部を追い詰めたのだから。

 今から気が変わってこの部をどうにかしたいと考えていたとしても、一体ここからどう挽回できるというのか。

 

 そんな考えは全員の共通認識だ。

 俺と同じように受け取った原田先輩が腰に手をついて小首を傾げながら成城先輩に尋ねる。

 

「これからの話って……もう野球部は廃部なんじゃないの?」

「そういえばもう確定的って話だったな。あ?でも、もう2週間も経ったのにその手の勧告まだ受けてねえな」

 

 原田先輩の指摘を受けて、霧島先輩が気づく。

 そして、彼女が口にして初めて美山先輩以外がハッとした。

 

 確かに生徒間の揉め事から怪我をしたという問題が発生してから廃部または停部に追い込まれるとしても学校側の対応が遅い。

 これはおかしい。

 

 この2週間部活動がなかったのはあくまで彼女達の自己判断だ。

 疑問に思う皆の顔を見渡してから、成城先輩が準備してたかのように答えを提示する。

 

「……私が佐藤先生と中龍学園にお願いして、部員間のトラブルではなく自己の管理不足で怪我をしたという形で報告して貰ったのよ。だから、廃部は免れたわ」

 

 淡々と衝撃的なニュースを報告する成城先輩に、突然一同はポカンと面食らった表情で一瞬固まる。

 2週間もあったのにここに来て初耳だったことと、アッサリと懸念してた問題が既に片付いていると言われたことが何より衝撃だった。

 美山先輩以外みんな呆気にとられている。

 

「……マ、マジで?」

「あは~!確かに怪我した本人が証言して、他に誰もがトラブルがありましたって報告しなかったら有耶無耶になるね~!」

 

 唖然とする霧島先輩とは対称的に納得したように笑顔を浮かべる美山先輩。

 だが、俺たちは美山先輩ほど物分りがよくない。まだ理解が追いついていなかった。

 

「いやいやいや!冬華と先生が報告したからってハイそうですかってそんな簡単な話だったのかよ」

「普通、部員とかその場に居合わせた中龍の人達とかに事情聴取取らない?」

「どっちもしてるわ」

「あっ……わ、私は校長室に呼び出されて聞かれた……」

『は!?』

 

 指摘が飛び交う中、まさかの長門先輩がおずおずと挙手して事情聴取を受けていたと言うので彼女に注目が集中する。

 原田先輩と霧島先輩は自分達に話が行き届いていなかったことに困惑する。

 

「なんでそれ早く言わねえんだよ!」

「2週間もあったのに誰も報連相しないじゃん……」

「ご、ごめん。皆聞かれてるんだと思って、つい……?」

「私はずっとバタバタしてたから今日になったのよ」

 

 長門先輩は皆もてっきり自分と同じ呼び出しを受けているものだと思っていたらしい。彼女は1人学年が違うし、部の皆とは部活がない2週間の間接する機会があまりなくて確認が取れなかったんだろう。

 

 ……まあ今どき連絡手段なんていくらでもあるが、多分長門先輩の気の弱さが出たんだろうな。確認するという発想がなかったのかもしれない。

 学校側が長門先輩にだけ話を聞いたのは多分彼女が唯一の上級生だからだ。

 

 1人だけ1つ学年が上というのは学校側からしたら何にも影響されず正直に報告してくれる存在だと認識したようだ。

 まあ長門先輩の性格はその真逆なんだけど……なんという。なんかもう全部上手く噛み合ってないな。

 

 まあ何にせよ、この2週間で知らないうちに事態は収集していて、誰も伝達していなかったというのが全貌ということだ。

 原田先輩の言う通り、報連相なんでこんな終わってるんだこの部……。

 

 美山先輩も、頭が良くて理解が早いだけで俺や原田先輩、霧島先輩と渡っていた情報量は変わらない。

 故に彼女も呆れ……いや、めっちゃ笑ってるわ俺の隣にいるこの人。

 美山先輩は報連相崩壊している状況を見て他人事のように面白がっていた。

 

「あは~!もうめちゃくちゃ~!」

「それで済ませていいんですか……?これ」

「いいんじゃな~い?優希、部活が続くならラッキ~くらいしか思うことないしぃ?どうでもいい~!」

「あぁ……聞く人間違えた……」

 

 俺が酷い連絡網に絶句しているというのに、美山先輩はお気楽だ。

 ホントに聞く人間違えた。この人、こういうの面白いと思うタイプなんだな。覚えとこう。

 美山優希は悪魔、と。

 

「なんだ、そんな簡単に解決できたんだ……」

「な、なんか拍子抜け」

「万が一のために逃げ道は用意してたのよ。ただ……」

 

 皆が安堵したようなもうよく分からない情緒に落ち着いた中で、成城先輩はちょっと申し訳なさそうに目を逸らしながら付け加えた。

 彼女の表情が暗い。それも当然だ。俺達は目先のことを回避出来ただけなのだから。

 

「中龍側も事情を理解してくれて協力してくれたわ。これで部はこれまで通りに戻った。……そう、戻ったわ。部員5人の人数不足で試合にも出れない野球部に」

『……!』

 

 成城先輩の計画で廃部で追い込まれそうだった問題は解決したが、そもそも元から野球部は厳しい状況にあると告げる成城先輩。

 別に全員それを忘れていた訳ではないが、彼女が再認識させたことで皆同時に目を逸らす。

 そんな彼女達と俺を前にして、成城先輩は意を決して告げる。

 

「私は、これからこの部を再建しようと考えているわ。もう一度、チームを作る。そして、甲子園の優勝を目指すのよ」

『なっ……!?』

 

 成城先輩の発言を受けて、全員が驚愕する。

 だが、そんな視線に晒されても彼女は真剣な表情を崩さない。

 成城先輩は本気だ。

 彼女は俺を見る。

 

「津川くん。貴方にも協力して欲しいの。獅ノ宮野球部に監督以外のポジションで入部してくれないかしら?」

「えっ!?」

 

 まさかの指名と提案に俺は思わず大きな声で驚く。

 俺は困惑した。

 いや、だって、二度と顔を見せるなと言われることはあってもまさか勧誘されるとは思ってなかったからだ。

 

 正直、成城先輩の考えていることがわからない。

 俺は皆に失礼な態度ばかりを取って、取り返しのつかない酷い事もしてきた。

 その上で入部するなんてことは考えてなかった。

 

 少なくとも俺から言うことはない。もう野球部は諦めていたし、どこの野球部だろうと彼女達女子球児を尊重できない俺にそんな資格はないと思っている。

 

 だが、まさか向こうから誘ってくるなんてことは想定もしてなかった。

 戸惑い、返事を出せない俺に成城先輩は表情を変えずに尋ねる。

 

「やはり、監督でないと嫌かしら?」

「そんな訳……!もう監督なんておこがましいこと、俺の身分で求めません!そ、そうじゃなくて……俺、皆に沢山迷惑かけて沢山傷つけたのに……な、なんで……っ」

「だから、謝ったじゃん。それはお互いに」

「えっ?」

 

 動揺する俺に、答えたのは意外にも隣にいた原田先輩だった。

 俺が彼女の方を向くと、柔らかい表情で彼女は俺と目が合うのを待っていた。

 原田先輩は眉をひそめながら困ったように微笑む。

 

「……まあ、さっきも言ったけどさ。私が言った事もやった事も謝って済むって訳じゃないけど……でも、反省してるならそれでいいって当人同士でそう思ったならそれでいいじゃん?あー……だ、だから……」

 

 原田先輩が言い淀む。

 言葉が纏まらないのか、目線だけ上に向けながら考えを巡らせていた。

 戸惑いながら彼女を待つ俺に、成城先輩が彼女の言いたいことを代わりに口にする。

 

「涼香も私も、皆も。貴方が反省してると言うならば、もう貴方を許しているわ、津川くん。だから、もう負い目ばから感じないでちょうだい」

「成城先輩……」

 

 部活見学から岐阜遠征。何を思い出しても俺は最低だったのに、成城先輩も悪意があったとはいえ彼女にも原田先輩にもこんな言葉を貰えることが凄く嬉しいし、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 霧島先輩はフッと笑い、長門先輩は優しく微笑む。

 皆、俺を許してくれるようだ。

 なんて優しいんだろう。泣きそうだ。

 

 成城先輩も原田先輩も俺も反省した。全員が互いを許した。

 当事者同士でそう落ち着いたのならそれ以上追求する必要は無いとそういう空気を皆で作ってくれている。

 

 俺にはその優しさがしみた。

 涙ぐんだ俺を見て少し呆れたように笑う原田先輩が冗談を飛ばす。

 

「ま、潰れかけの部だけどね。それでもあんたが良いって言うなら私達は歓迎するよ?津川」

「……っ!ありがとうございます!全然良いっていうか……皆さんが良ければ俺、入部したいです!」

「だから、いいって言ってんじゃん。津川のばーか」

「あっ。ははっ……そ、そうでした……すみません」

 

 謝りながらも俺は笑った。

 俺の笑顔を見て、全員が表情を柔らかくする。

 あぁ……この人達は俺が自責の念に駆られて気負ってるのも気にかけていてくれたんだ。こんなにいい人たちを俺は利用しようとして、失敗したんだ。

 過去に戻れるなら自分をぶん殴ってやりたいな。

 

「なぁ。津川の件は別にいいけどよ。それより部を立て直すって具体的にはどうすんだよ。そんなの前から思ってたこったろ」

「い、未だに解決してないってだけだもんね……」

「あは~!新入生も全然集まんなかったもんね~!」

「……だから、それもあんたの悪名が高すぎるからでしょうが」

 

 誰も誰かを責めようとしていない。故に、問題視する優先度はこれからの部の存続についてがトップだ。

 霧島先輩が話を戻して、皆が同意する。

 

 1人だけ反省する気ゼロの自由人がツッコミを受けているが。

 皆に指摘されて、成城先輩はようやく話を進める。

 

「……とにかく部員を集めるわ。でも、ただの部員ではなくて、私達のように優れた人を集めたいと思っているの」

『……!』

 

 彼女が口にした考えに全員が目を見開いた。

 現実的ではないと思ったからだ。

 

「……いや、無理でしょ。さすがに高望みしすぎっていうか、もう少し分を弁えるべきなんじゃない?贅沢言ってる余裕ないじゃん」

「あたしも涼香と同意見だな。特に今は5月だろ?んな選り好みしてる場合かよ」

「貴女達の言うことは最もよ。でも、ただ数合わせをするだけじゃ去年の二の舞だと思わないかしら?皆、優希の力に呑まれて狂ってしまう。そして、部は崩壊する。同じことを繰り返すだけよ」

「いや、そうかもしれないけど……」

 

 成城先輩が言い返すもなんとも納得しきれない一同。

 俺も成城先輩の言ってることは無茶だと思う。

 道理は通っていてもやはり現実的ではない。

 それは成城先輩なら自分で理解しているはずだ。それでも、彼女は考えを変えない。

 

「この獅ノ宮野球部でまずチームとして形を保つ為には、メンバーも優希に負けないくらいのメンツを集めるべきだと私は思うわ。去年のように優希頼りのチームじゃない……優希を悪魔じゃなくて仲間にできるくらい強いナインが必要なのよ」

「……あはっ。優希は優希のやり方を曲げないからね。成城ちゃんの言う通りなんじゃないかな?」

「お前なぁ……」

「ちょっとは反省しなよって……言っても無駄か。できたらこんな話してないし」

 

 美山先輩に対して、霧島先輩と原田先輩が溜息をつく。

 美山先輩が絶対に変わらないと確定している以上、確かに成城先輩の言う通り、必要なのは美山先輩に呑まれず負けないチーム作りだ。

 

 美山先輩を力強い仲間と思えるくらい彼女に負けないメンバーを集める。これができれば間違いないというのはわかる。問題は、難易度が鬼だということ。

 故に、重要なのはそれを実現するための目星があるのかという点だ。皆、当然そこを気にしている。

 

「で?具体的にはどうすんの?そんな凄い選手……校内にいるの?まさか外部から引き抜く気?」

「そうね。そうなるわね」

「マ、マジかよ。ははっ……揉めそ~。どうなっても知らねっ」

「あは~!面白いことになってきたね~!」

 

 簡単に頷いてしまった成城先輩。だが、彼女の言うようなことをすればややこしい事になるのは必須だ。

 これから起こる面倒事を想定して面倒くさそうに顔を顰めて諦めに近い笑いを浮かべる霧島先輩とそれを寧ろ楽しいと捉えて笑う美山先輩。同じ笑顔を浮かべていても対照的だ。

 そんな彼女達を置いて、成城先輩の矛先はまさかの俺に向く。

 

「津川くん。貴方は私を手伝ってくれないかしら?とにかく有望な人に獅ノ宮に来てくれないか頼み込むの」

「ほ、本気で引き抜きするんですか?来年の新入生を勧誘するとかじゃなくて……?」

「む、無茶苦茶だよ……」

「そんな都合のいい奴いるわけねえだろ!」

「来年の新入生じゃダメってのは……未来が卒業するからか。未来がいるうちにってのはわかるけどさすがに引き抜きは無理じゃない?優秀な奴なんて皆よその主力でしょ。干されてる奴探すって訳?」

「そこは目をつけた選手の状況によるけれど……大体はそういうことね」

 

 成城先輩の言ってることはやはり無茶だ。

 だが、無茶も承知と彼女は言う。

 俺達は初耳だから衝撃を受けているが、彼女はずっと前から決めていたのかもしれない。だから、覚悟が俺達の想像以上にできている。

 

「貴方達が耳を疑うのも無理はないわ。でも、それくらいしないとこの部の再起は不可能ということよ。……それを自覚するしかないの」

『……!』

 

 成城先輩の言葉に目を見開く。

 彼女の提案に対する認識が変わった。成城先輩は獅ノ宮野球部をここにいる誰よりも崖っぷちと捉えている。

 

 彼女の認識を知って、自分達が思っているよりも部に未来はないと皆が理解した。この部が再建するには、それこそ成城先輩が示す一筋の光だけなのかもしれない、と。

 そう認識を改めてようやく全員が食ってかかるのをやめた。

 

「あー……まあそれくらい追い込まれてるって言われると認めざる負えねえな」

「……確かに。私達が思ってる以上に獅ノ宮はヤバい立場って訳か」

「じゃあ、成城ちゃんの激ヤバ綱渡り計画に優希達は乗る以外の選択肢はないね~!」

「これからどうなっちゃうんだろう、私達……」

 

 皆が覚悟を決める中、長門先輩が不安を抱く。

 放課後。誰も練習しなくなった土色のグラウンドで。

 5人に囲まれた成城先輩は険しい表情を浮べる。

 

「―――二択ね。強いチームができるか、このまま朽ちていくか。でも、後者はお断りでしょう。だから、必ず私が作ってみせるわ。新生獅ノ宮野球部を」

 

 獅ノ宮野球部を救う為に、一度は諦めた成城先輩が部長としての責任と自分の行いに対する責任を担って、一人再建を目指す。故に、彼女は宣言した。

 新生獅ノ宮を作る、と。

 そして、集めるは彼女達に匹敵する天才たち。そうして作るは9人の天才だけで構成された―――『獅ノ宮ベストナイン』だ。





次から新章です。
野球部のメンバー集めが終わったら地区大会編、その後が甲子園大会編です。
廣目というキャラが出てきたら話が完全にいい方向に進む予定。
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