貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第27話:放課後カフェ作戦タイム

 

「とりあえず、まず第一目標として私を含めて9人揃えるわよ。それもただの9人じゃない。全員が私達と同等の才能や能力を持った選手達よ」

 

 成城先輩がミーティングと称した決起表明をした翌日。放課後に俺と成城先輩はカフェで向かい合って座って今後について話し合っていた。

 彼女はノートパソコンに有力候補の情報を映しながら最初の展望を告げる。

 

 傍から見れば制服姿の男女による放課後デート。実際の空気はまるで重役の会議だ。

 成城先輩の纏う雰囲気が部長という社長なんだよな。凄腕JK社長。うん、完璧の成城ならやりかねない。

 

「……貴方、今変なこと考えてるでしょう?」

「えっ!?いや、そんなことは……!ははっ。そうだ!そういえば手術の予定決まったんですよね!?母から聞きました」

「……えぇ。まあ。6月に入る頃にはリハビリに移れているだろうと貴方のお母さんが言っていたわ」

「そ、そうですか。とにかくよかった……です。手術、成功を願っています!」

「そうね。ありがとう」

 

 ジト目で指摘してきた彼女をなんとかはぐらかして、最後は少し微笑んでくれた。

 成城先輩が自分で仕組んだこととはいえ、俺が先発転向を提案しなければ彼女が怪我をしなかったのも事実だ。

 

 成城先輩は直接言葉にしないが、俺がどれほど愚かな判断を下すかは彼女の計画の中で最も不安定な賭けだったはず。

 つまり、成城先輩が美山先輩を止めるための最終手段である自身の故障は俺が決め手になってるのはゆるぎも無い事実。

 

 だから、彼女の肘にはずっと思うところがある。

 彼女の手術に目処が立ってもそれを喜ぶ権利が俺にあるのだろうか。彼女の回復を祈る資格が俺にあるのだろうか。ずっと、そんな自責が頭の中にある。どうしてもそこに触れると言葉が詰まるのはそのせいだ。

 

 とはいえ、成城先輩なら、彼女の性格ならきっと俺に気負うなと言う。彼女も俺と同じく自責の念に駆られているからだ。

 だからこそ思う。俺達はこれから……これから変わっていくしかない。

 

 取り返しがつかないからこそ、今後が大事なんだ。投げやりになってはいけない。

 俺と成城先輩がこれからすべきこと、それはこの部を立て直すことその1つのみ。部を終わらせようとした2人だ。もう一度再起させる責任はそんな俺達だからこそある。

 

 そう考えると、成城先輩が俺にだけ協力しろと言ってくれたのはちょっと嬉しいな。……いや、この人の事だから全部分かってて俺を誘ったんだろうか。

 俺は目の前でワードに何やら打ち込んでいる成城先輩の真剣な顔を見て、そう思う。

 

「……?何かしら?」

「あっ!いえ……!べ、べつに」

 

 俺の視線を感じて目線を上げた成城先輩。

 俺はまたしどろもどろして誤魔化しモードに入る。彼女に話題を振った。

 

「あの、質問いいですか?まず、大前提の話になるんですけど」

「いいわよ。何かしら」

「えっと……メンバーを集めるとは言ってましたけど具体的にはどんな選手を集めるんですか?」

「……そうね。集めるのは言わば『獅ノ宮ベストナイン』。今の獅ノ宮に普通の選手を取り入れても去年の二の舞になるわ。だから、私達5人のように所謂天才と呼ばれる選手だけを集める。あくまでスタメンの9人だけだけれど」

「去年って……確か美山先輩だけじゃなくて残った5人のメンバー全員が天才だから誰もついてこれなくなったって話ですよね?」

「えぇ」

 

 成城先輩が頷く。

 獅ノ宮野球部に残った5人のメンバー。

 

 何でも神レベルにできるけどやる気魔人の美山先輩。

 同じく何でも高水準でできるが体力はない成城先輩。

 高校生の時点でどこでも高水準で複数ポジションを守れる原田先輩。

 バットに当たればほぼ確実にスタンドにぶち込む長門先輩。

 ストライク送球しか投げない上に球速も早いスローイングが売りの霧島先輩。

 

 恐ろしいのは5人中3人が野球を始めてまだ1年という点。

 最初に俺が彼女達を馬鹿にしていたのはそんな背景を知らなかったからというのもある。

 特に霧島先輩はその情報があるかないかで見方が完全に変わる。スローイング以外は平均以下の能力でも野球を始めてすぐあのスローイングができるというのはまさしく天性のものだ。

 

 彼女達が天才と呼ばれたのは現状の能力どうこうよりもきっとそういう生まれ持ったものの違いを指してるんだろう。

 成城先輩も野球を始めた時から何でもこなすことができたと言っていたし、こうして放課後に話し合う前に色々と獅ノ宮について道中成城先輩に教えて貰ったが、確かに天才というに相応しい5人だ。

 

 そんな5人と一緒に野球をして心が折れないでいられるメンバー……聞く人が聞けば偉そうだと思われるかもしれないが、彼女達は去年の夏からずっと悩んでいることだ。真剣で深刻な問題。

 それを解決しなければ部は終わる。ならば、誰に何と言われようとも偉そうに選ぶしかない。

 

 獅ノ宮の天才達と同じ領域の才能を持つ逸材を。

 そして、作るんだ。

『獅ノ宮ベストナイン』を。

 

「ま、まずバッテリーが不在なのが……やっぱり問題ですよね」

「そうね」

 

 尋ねながら俺はチラッと成城先輩の顔を見たが、彼女はパソコンから目線を外さなかった。

 本当ならピッチャーは成城先輩がいた。それを俺が潰した。俺がいなければバッテリーを両方探す必要なんてなかったのに……。

 

 俺にはやっぱりその負い目が強い。だから、その後悔からバッテリー問題には責任を感じて問題視している。

 だが、成城先輩はどうやら違う観点でバッテリー問題と向き合ってるようだ。彼女はタイピングを止めずに口を開く。

 

「私はできれば内野で使いたいし、ピッチャーをするにしても短いイニングが限界だからイニングを食える先発型のピッチャーは貴方の言う通りどうしても必要になるわね」

「……っ。はい!あとはキャッチャーですよね……。最悪成城先輩か原田先輩を回してって感じで見つからないようなら他のポジションを探しますか?」

「……確かに私も涼香も、あと優希ね。優希もキャッチャーできるけれど優希はやりたがらないし涼香も私もできれば内野がいいわね。ここ3人をバッテリーに回すのは勿体ない極まりないわ」

「で、ですよね。守備上手い人は内野守って欲しいですもんね。すみません……」

 

 また的はずれなことを言ってしまって、俺は反省する。苦笑いをして縮こまった。

 成城先輩の言う通り、バッテリーとは専門職でありサブポジで担うといいうのは勿体ないと評するのが妥当だ。

 

 それに何より獅ノ宮が望む天才をナインに入れるという話なのにメインポジではなくサブポジにつかせていては意味がない。

 それでは天才達が能力の最大値を活かしきれていない。それはつまり、美山先輩に呑まれる可能性が高くなるということだ。

 

 故に本末転倒。

 俺の指摘はただの弱音だ。今空いてるポジションにたまたま当てはまる天才がその辺に転がっていて、集められるという状況がないと解決しないこの問題の絶望感から逃避しただけ。

 そんな俺を責めず、一瞥だけした成城先輩が俺をフォローする。

 

「別に謝らなくてもいいわよ。貴方の言った通り狙ったポジションの人材を集められるとは限らないのは事実よ。でも……」

「……?」

 

 成城先輩が言葉を切っただけでもなく、ここまで止めてこなかった手が止まったのを見て俺は違和感を覚えて彼女を見る。

 成城先輩は目線を落として何か思うことがあるような陰りを表情で見せた。だが、それは一瞬だけで、彼女はすぐに顔を上げて発言の続きを紡ぐ。

 

「キャッチャーのことだけど、心配は要らないわ。目星はもう付いてるの。そのうち獅ノ宮に来るわ」

「えっ!?もうそんなに話進んでるんですか!?凄いですね、成城先輩」

「……」

 

 俺の賞賛を受けた成城先輩だが、なぜか黙りこくって視線を落としてしまった。

 ……俺みたいな戦犯の賞賛なんてウザかったかな。それこそ彼女なら持て囃されて生きてきただろうし。

 

 完璧の成城だもんな。当然の報いだけどこうも嬉しそうじゃないとちょっと響くものがある。

 まあそんなこと言う資格ないのは分かってるけどさ……。

 

「津川くん」

「は、はい!」

 

 落ち込んでいたところに名前を呼ばれてビクッと反応する。

 成城先輩は俺にパソコンの画面を向けた。映っているのはリストアップされた選手のラインナップ。

 

「とりあえず残り3人。今週から関東圏の選手に当たってみましょう。貴方のメールアドレスを教えてちょうだい。リストを送るわ。あと他校に訪問する時は相手の顧問ともちゃんと話し合わなきゃいけないからこちらも佐藤先生に必ず同伴を頼むことになるわ。忘れてはダメよ」

「は、はい!わかりました!」

 

 俺は成城先輩に連絡先を渡して、俺達は最後に残ったポジションのピッチャー、ファースト、外野手1人を探すことを再確認して解散した。

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