貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第3話:逆転世界なのに男性恐怖症女子

 

「……私、練習は中断してグラウンドに来てと言ったわよね?」

 

 俺達はグラウンドの外でティーバッティングをしていた長門先輩の元へ集結した。

 成城先輩の静かな叱責を受ける長門先輩。

 対する彼女はキョトンとした顔をしていた。

 

 長門(ながと) 未来(みく)

 獅ノ宮学院高校野球部、4番打者。唯一の3年生。ポジションはレフトらしい。

 特筆すべきは長身。おそらく185cmはあるだろう。

 容姿には無頓着そうで、表情も乏しい。所謂前の世界でいう塩顔系男子にあたるだろう。

 

 そして、あのパワー。随分な恵体をお持ちのようだ。

 明らかにみんなより一回りも二回りも身体が大きい。……ついでに出るところも出てしまっているようだが。主に胸部が。

 逆転世界で女子より野球を求める俺でも思わず、うおっでかっと口に出そうになった。

 

「……あっ。忘れてた」

 

 女が男の筋肉に発情することはあっても、その逆はないこの世界の女子らしく、長門先輩は俺の視線など全く気づかず呆けた面でしまった……といった態度を表した。どうやら成城先輩に呼び出されていたことを忘れていたようだ。

 そんな長門先輩にクール系の原田先輩とヤンキー系の霧島先輩が詰めよる。

 

「あのさ。前にも言ったよね?物壊すなって。何、あんた。鉄の扉吹き飛ばすとかマジないわ。どうやったらそんなことになんの。怪獣なの?だったら早く駆除されてくんない?」

「頭沸いてんだろ、オマエ。呼ばれたのつい数分前だってのに忘れただぁ……?テメェの脳みそホコリでも詰まってんのか?あぁ?」

「ご、ごめん」

 

 声を荒らげられて責められた長門先輩は、詰めてきた2人を見下ろしてるとは思えないほどオロオロと目線を泳がせて肩を縮こませた。

 事情を知らない人が見たら完全にヤンキーに絡まれてるひ弱女子の絵面だ。

 ていうか長門先輩は3年生で他は2年生なんだよな?……誰も敬語使ってねえな。誰も敬ってねえ。

 

 野球部のグラウンドと隣接しているサッカーグラウンドで、サッカー部の男子達が「やだー」「何?喧嘩?」「ほんと女子って野蛮」「また野球部?」と遠巻きに非難する。

 ……前世で女子がやってたムーヴを男がやる世界。前の世界の価値観を持ってる俺が見るとキツイものがある。

 

 まあそれは置いといて。気になるのは「また野球部?」の部分だ。

 ていうことは野球部が揉め事を起こすのはこれが初めてじゃない。それも評判が悪くなるくらいには定期的にやってるっぽいな……。

 そんな周囲の様子を察したのか、成城先輩がキャプテンとして3人の間に割って入る。

 

「もうやめなさい。私達が責めても仕方ないでしょう」

「あはっ~。どうせ後で先生に怒られるもんね~」

「……」

 

 美山先輩の言葉に成城先輩がゲンナリする。あぁ……この人いつも責任取ってるんだろうな。さすがに同情する。

 成城先輩の苦労にバツが悪くなったのか、長門先輩は俯いた。

 そんな長門先輩と俺の目が合う。

 

「えっ。誰?だ、男子……?」

 

 俺を見つけるやいなや長門先輩は後退りした。なんだ?俺まだ何もしてないし、何も喋ってないが……それなのに長門先輩は俺を恐れるように震え始めた。

 俺が戸惑っていると、美山先輩が俺の隣にひょこっと出てきて説明してくれる。

 

「あは~っ。ごめんね~?長門ちゃん男の子苦手なんだよね~」

「えっ、そうなんですか?」

「……っ」

「あ?」

 

 珍しいなと思って長門先輩を見る。少なくともこの世界に来てから男嫌いの女子は初めて見た。女子はどこかほんのり男子は男子というだけで好きだ。前の世界だと男が女に抱いていたものだが。

 だが、目の前の長門先輩は俺の視線にビクッと肩をならして霧島先輩の背中に隠れてしまった。

 

 いや、その人さっきも今も貴女にメンチ切ってますけど。後ろ盾にしてるのに、その盾にほんのりキレられてる絵面もうどこからツッコめばいいのか分からないんですけど。

 そんな人よりも男と言うだけで俺の方がアウト判定らしい……。

 

 なんというか前の世界だったらショックだけど今の世界だと寧ろ安心すら覚えるな。やっとマトモな感覚というか、価値観の合う人に出会えた気がする。

 

 15年間、逆転現象には中々慣れなかったしなぁ。

 なんだか今になったら逆に好感を持てるな。

 そんな長門先輩は俺に見られれば見られるほど縮こまってしまう。

 

 と、言っても隠れ蓑にしてる霧島先輩は身長150cmないくらいだし、185cmはある長門先輩は全然身を隠せてないが。

 グイグイと身体を押し付けてくる長門先輩に霧島先輩は顔を顰めた。

 

「オイオイ。女の癖に男なんかにビビんなよ。女なのに情けねえ奴だな」

「だ、だって……」

「あは~っ。長門ちゃんは昔男の子に迫られて怖くなっちゃったんだよね~」

「羨ましい限りね」

「成城ちゃん今そんな話してないよ。あとトラウマになってる人の前でそういうの言わないの」

 

 なるほど。この世界では、小学生から中学生くらいまでの間、足が速いか優しいか身長の高い女子が男子にモテる。前の世界ならそれは男子小学生と男子中学生が持っていた特性。要するにモテ条件も逆転してるんだ。

 故に、長身の長門先輩は高校に入るまではモテまくったんだろう。そして、男に迫られまくって怖くなったと。

 

 前の世界でも女性恐怖症の男はいたし、そういう男も大体同じような経緯でそこに至ってることが多いと聞く。

 例えモテやすい方の性別であっても肉食でグイグイ来る人は来るし、そういう人との経験がトラウマになる人もいる。

 長門先輩はまさにそれな訳だ。

 

「長門ちゃん。この男の子は入部希望の津川くんだよ~。良い子だから怖がんなくて大丈夫だよ~」

「えっ……し、新入部員……?一緒に野球するの?」

「いや、する訳ねえだろ。男だぞ。男は野球しねえよ」

「マネでしょ。マネ」

「……!」

 

 一緒にプレーするなら俺のことが怖くて自分が萎縮する様を想像してしまった長門先輩。それに対して一蹴する霧島先輩と原田先輩。

 俺は、原田先輩の言葉を聞いて、ハッとした。

 

 今ここに獅ノ宮野球部は勢揃いしている。もう先輩達とは全員顔合わせを済ませた。

 これでようやく、本題に入れるという訳だ。

 状況は整った。

 

 原田先輩が口にしたように彼女たちはまだ俺のことをマネージャー志望の入部希望者だと思っている。

 だが、俺の望むポジションはマネージャーではない。

 そうだ。当初の目的は野球部の監督になることだ。

 

 そして、彼女達を率いて彼女達を前の世界の男子野球選手に匹敵とまでは言わなくとも少しでも近いしい能力を持った選手に育て上げる。

 それが成功し、そんな高いレベルのプレイヤーになった彼女達をプロの世界に送り込めば、きっとこの世界の女子野球はレベルアップするに違いない。

 その為の第1歩。まずは彼女達に俺の志望を伝えなくてはいけない。

 

「先輩!俺、あの……実は!」

『……?』

 

 俺が声を上げると、先輩達はみんな何事だとばかりに俺に注目して疑問符を浮かべた。

 そして、俺はそんな彼女達の視線が集まる中、ようやく口にする。

 

「俺、マネージャーじゃなくて野球部の監督がやりたいです!監督いないんですよね!?俺にやらせてくれませんか……!?」

 

 俺のその言葉に空気が凍った。

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