貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第30話:童貞と処女(童貞)、何も起きるはずもなく……

 

 ピッチャーが不在なのは俺に責任がある。

 だから、俺は1人で岩手に行ってアリア・オイゲンを勧誘しようと考えた。俺のせいで抜けた穴は俺一人で解決すべきだ。

 成城先輩もそんな俺の主張を承諾して―――くれた訳がない。

 

「当たり前でしょう。高校生が1人で部の為に遠征なんて出来るわけないじゃない。しかも自費なんて言語道断よ。部費は出すわ」

「で、ですよね……」

 

 新幹線の二人席二組を四人席にして、俺と向かい合う席に成城先輩が座っている。彼女は俺に対してバッサリと言い伏せた。

 俺は、それに縮こまりながら苦笑いで肯定するしかない。

 

 やはり、俺が部活見学に行ったあの時に、成城先輩を言い伏せることができたのは彼女がわざと退いたからというのが今回の事で証明された。

 隣に座る原田先輩は肘をつき手のひらに顎をのせながら顔を傾けてこっちに向け目を細める。

 

「あんだけお互いに許すって言い合ったのに、まだあんたがそんなに責任感じてたとはね。とんだ責任魔人だね、あんた。なのに私達を下手に利用しようとあんな軽はずみな行動に出たって訳……?」

「言い返す言葉もありません……」

 

 原田先輩にジト目で指摘されて俺はさらに縮こまる。

 そんな俺を見て、彼女の表情は一転、フッと口元を柔らかく緩めた。

 

「あんたは責任感じすぎで、私は気にしすぎ……お互いしつこいタイプみたいだね」

「えっ?……っ!」

 

 何の話だ?と思って原田先輩を見たら、同時に彼女は俺の頬にそっと触れた。

 原田先輩の、女子の手が俺と接触して、俺はドギマギして動けなくなる。さらに彼女は俺の目をじっと見つめた。

 俺達は、顔を向かい合わせ、見つめあっていた。

 

「あ、あの原田先輩……っ」

「んっ。痣とか残ってなさそうだね」

「えっ」

 

 俺が動揺のままに空回りしそうになったが、俺の頬を確認し終えた原田先輩がサッと離れたので俺は呆気に取られるだけで終わった。

 俺から離れた原田先輩は目を泳がせた後、俯く。

 

 そんな彼女のしおらしい態度を前に、俺はようやくハッと気付いた。彼女が見つめていたのは俺の目じゃない。頬だ。

 つまり、彼女はまだ……。

 

「俺を殴ったこと、まだ気にしてたんですか!?」

「……っ!」

 

 俺が驚きのあまり彼女に迫ると、原田先輩は耳まで真っ赤にしてサッとそっぽを向いた。

「だ、だって……」と口ごもる彼女は自身の右手を触ったと思ったら、咳払いをして俺に穏やかな表情で向き直ってくれる。

 

「と、とにかくあんたは申し訳ないって思いすぎで、私は気にしすぎ。お互い様だね。だから、今この瞬間からお互い普通に接するってことで……どう?」

「……っ!」

 

 隣の席。距離が近い。

 原田先輩は俺に対して上目遣いで首を傾げる。

 俺はすぐに目を逸らしてしまった彼女の不安げな表情に選択肢は奪われた。

 

「わ、わかりました。もう……罪悪感から自分でなんとかしようとか、思いません……」

「ん。よし。独断も禁止ね。わかった?津川」

「……っ!はい!」

 

 近い距離で微笑みかけられて俺は必死に頷く。

 原田先輩は「よろしい」と無邪気に笑うと、次に成城先輩と長門先輩が座る向かい側も巻き込んで宣言する。

 

「津川に限らず、部全体としてももうちょっと独断行動は禁止にしない?あと報連相!全員伝達がなさすぎ。部を立て直すって言うけど、そういうところから直していくべきだと思うよ、私は」

「……そうね。気をつけるわ。人集めの前に今の部の統制ね」

「そういうこと。ま、あんたが1番怪しいけどね」

「……」

 

 原田先輩に指摘されて成城先輩が気まづそうに目をそらす。

 その様子を見て原田先輩はニシシと意地悪な笑みを浮かべて俺とアイコンタクトを取った。俺は苦笑いを返す。

 ……ところで、1人だけずっと会話に入らない人がいる。

 

「あの、長門先輩も……聞いてます?」

「……えっ」

 

 俺に声をかけられてこれまで微動だにしなかった長門先輩がようやく反応する。

 背が高すぎて座席から頭がはみ出してる彼女はここまで来て初めて会話の輪の中に入る。

 これまで呆けていたことがバレて、原田先輩が長門先輩に迫って少し睨みつける。

 

「未来、あんた私の話聞いてなかったの?」

「えっ。あっ。ご、ごめん。何か話してた……?私、ずっと気を張ってて……少しでも気を抜いたら……は、吐きそう……」

「吐き……って、えっ!?」

 

 長門先輩がウッと口元を抑えたと同時に原田先輩が勢いよく俺の隣に戻ってきた。

 苦しそうな長門先輩の様子を見て、成城先輩は彼女の背中をさすってあげながら思い出したように言う。

 

「そういえば貴女は乗り物弱かったわね。大丈夫?」

「う、うん。ありがとう、冬華……。岐阜遠征の時のバスも正直辛かったけど私、バスとか車より電車が苦手で……ううっ……」

 

 成城先輩に寄り添ってもらってから何とか持ち直したが長門先輩は顔面蒼白だ。

 すごく苦しそう。乗り物酔いが酷いのは見たらわかった。

 そういえば、今回は4人での遠征だ。

 

 メンバーを絞った理由もそうだが、このメンツが選出された理由も謎。

 岩手までの長距離遠征だと事前に理解した上で、乗り物が苦手な長門先輩を連れてきたのはなぜなんだろう。

 メンバーを決めた張本人に尋ねてみよう。

 

「あの、成城先輩。なんで今回はこの4人なんですか?美山先輩や霧島先輩……それに佐藤先生は?特に先生は絶対に連れて行くって言ってましたよね?」

 

 俺が聞くと、成城先輩は長門先輩の背中をさすりながら目線だけこっちに向けた。

 

「優希は対外試合でもしない限り部活に顔を出さないわ。それと佐藤先生は最近腰を悪くしてらっしゃるようだから無理に連れてくるのは諦めたのよ。鴎坂(かもめざか)にも連絡したけれど、私を信用して学生だけで来てくれたら向こうの大人が対応すると言ってくれたわ」

「な、なるほど……」

 

 霧島先輩を連れてこなかった理由だけなかったが、大体は納得の理由だった。やむ無しといった感じだ。

 他の先生も基本的にいつも手が空いてない。というよりそもそも前提として年配の佐藤先生が顧問を押し付けられているのだから、人事がカツカツなのは明白だろう。

 

 鴎坂(かもめざか)サイドも保護観察者は欲しかったが、成城先輩の対応力などを鑑みて獅ノ宮とも話し合い、学生だけの了承に至ったようだ。

 大人からの信用という面において礼儀作法が社会人並みにしっかりしてる成城先輩は、確かに部長になるべくしてなっている人のように今、感じた。

 

「ふ、冬華……ちょっと……」

「わかった、ついていくわ。ごめんなさい、未来についていくから暫く荷物とか見ててもらっていいかしら?」

「ん。了解」

「わかりました!長門先輩、到着までもう1時間もないらしいので、何とか耐えてください!」

「う、うん。ありがとう……」

 

 ゲキを飛ばしたら長門先輩が去り際にやつれた顔で少し笑った。

 折角の長身が目立たなくなるくらい背中を丸くする長門先輩。

 

 そんな彼女を支えるように連れて、成城先輩は二人で座席を離れた。

 残った俺と原田先輩は、向かい合う形になるように席を移る。

 

「……」

「……」

 

 2人、残った俺と原田先輩。

 困った。は、話すことがない……。

 原田先輩も景色を見たり、スマホを見たりで落ち着かない様子だ。

 

 ここまでいざこざも含めて色々あったし、それなりに会話もしてきた。

 野球部で1番話したのは成城先輩だが、次点は原田先輩だ。

 でも、何気ない日常会話とかはしたことがない。

 故に……き、気まづい。

 

「……な、長門先輩大丈夫ですかね?」

「さぁ。まあ酔っただけだし何とかなるんじゃない。別に試合しに行くわけじゃないからね。問題もないでしょ」

「そ、そうですよね。ははっ……」

「……」

「……」

 

 はい。会話終了。

 驚く程に話題がない。

 原田先輩もそう思ってるようでもうスマホに集中し始めた。

 

 俺は何故かなんだか申し訳なくなって、外を見る。

 すると、原田先輩が何やらビクッと動いてさっきまで素早くスクロールしていた指の動きが止まる。

 そして、視線はスマホ画面のまま口だけ開いた。

 

「ねっ。あんたさ。指標が好きなら野球観るのも好きでしょ?」

「えっ?ま、まあそうですけど……」

「おっ、だよねやっぱ。だったら仲間じゃーん。色々あって思想の違いでぶつかっちゃったけど、結局は同じ野球ファンだった訳だ。ねっ?」

「……!」

 

 言葉を躱すうちに目線だけ上げる原田先輩。

 俺は彼女の上目遣いと小首を傾げた様子に目を見開く。

 

 彼女のあざとさに目を奪われたのもそうだが、何より彼女が何を言いたいのか、察して欲しいその内容を察し、しかもそれが俺にとっても興奮を覚えることだったので身が震えた。

 そうだ、この世界に来てからなかったものは何も俺の趣向に合う野球そのものだけじゃない。

 

 野球を語り合える多くの野球民達。

 ネットで、球場で、交友の中で、多くの仲間がいたあの日々。俺はこの世界に来て初めて目の前に同じ野球ファンを見た。

 俺は目を見開いて、興奮を覚えて少し身を乗り出す。

 

「はい!同じ野球ファンです!」

「おっしゃ。じゃあさ、野球トークしようよ。野球トーク。好きな選手とかいないの?プロでもメジャーでもいいよ」

「えっ!?あ、あぁ……えっと……」

 

 仲間を得た!と目を輝かせるのは何も俺だけじゃない。期待の眼差しを俺に向ける原田先輩。

 これは、彼女にその気は無いだろうか、確実に試されている状況だ。

 ここで無知を晒せば彼女を落胆させてしまう。

 

 しかし、困ったな。

 正直この世界の野球は全然観てこなかった。もう何度も言ったが、転生してすぐは観てたけど、合わなくてすぐに観るの辞めてしまったんだ。

 マズイ。この世界の野球界隈に関してはまさに無知そのものだ。

 

 だからといって男子野球の話をしても存在していないものの話をしているようなものだし……この世界の野球の話をしないと……。

 あっ。でも、メジャーなら小学生くらいまで観てたな。

 

 女子野球でも向こうの本場の野球ならまだ多少はレベルの高いものを観れるかと思って暫くメジャーの中継で我慢してた時期があった……って今思えば何様なんだって感じだな。

 まあそれは置いといて、メジャー観てた時、注目してた選手いたかなぁ。

 

 いや、何人かいた気もするな。特にあの人。そう、彼女。

 えーと。

 ヤバ。名前忘れたな。なんて名前だっけ。

 う、うーん……。

 

「私はね~!昔から推しはメジャーリーガーなんだよね!今の推しは―――」

 

 俺がうんうんと唸ってる間に待ち切れずソワソワしていた原田先輩が自語りを始めてしまった。オタクとは、一方的に話したがるもんだからな。

 俺は、にわかがバレると彼女にガッカリさせてしまうと思って、何とか絞り出して思い出した選手の名を口にする。

 それが偶然、彼女と発言するタイミングが重なった。

 

「「オリヴィア・クルーガー!」」

 

 俺が唸りから顔を上げたのと、原田先輩が笑顔でその名を口にしたのと。

 全くの同時。

 お互いに人差し指を前に指して、動きまで一緒だった。

 

「えっ!?被った!?」

「マジ……!?あんた、オリヴィア好きなの!?見る目あんじゃーん!!」

「痛てっ!?」

 

 咄嗟に出した名前がまさか原田先輩の推しと同じとは思わなくて、驚く俺。

 そんな俺をバシバシと叩いて喜ぶ原田先輩。

 

 と、とにかくなんか嬉しそうだから良かった……?うん、まあ原田先輩がご満悦ならそれに越したことはない。

 俺がぎこちない笑みを作るのを傍に、原田先輩は推しについて語るモードに移行して腕を組む。

 

「オリヴィア良いよねぇ……特にあの……!」

 

 しみじみと何度も深い頷きを披露した後、彼女はさらに最強メジャープレイヤー、オリヴィア・クルーガーの良いところを力説しようとした。

 その話し出しについては俺も完璧に予想出来た。

 

 あのオリヴィア・クルーガーというメジャーリーガーの良さは鮮明に覚えている。だから、原田先輩が彼女のことを良いと思った理由も容易に想像できる。

 だから、俺は原田先輩が口を開くのに今度はわざとタイミングを合わせた。

 

「「エグい守備範囲と超柔らかいハンドリング!……っ!!」」

 

 完璧に発言内容が被って目を見開く原田先輩とは対象的に、俺はしてやったりと思ってイタズラが成功したような気持ちでにひひっと笑う。

 原田先輩はそんな俺の表情を見て少し顔を赤くして口元を塞ぎ、数秒目線を外に逸らしたと思ったら、恥ずかしそうにしつつも嬉しさも混じったような満面の笑みを俺に向ける。

 

「なんだ。あんた、全然指標だけに囚われなくてもいいじゃん。全然プレー正しく分析できてるじゃん!そっちの方がいいよ!」

「えっ」

 

 原田先輩の見たことないくらい全力の笑顔に俺は目を奪われる。

 逆に言えば、俺は彼女に心の底から笑いかけてもらったのは今が初めてで、それまでこんなに明るくて屈託なく笑う人を怒らせていたんだと思い知らされた。

 原田先輩は、俺を完全に野球について語れる仲間と認識してくれた。証拠に、にひっと飛び切りの笑みを俺にだけ見せてくれる。

 

「数字で語るのもいいけどさ。私とあのプレー熱いよね~!とか推しの守備はあのワンポイントだけで金取れるわ~!とか、そういう話もしようよ……!これからは。ねっ!その方が絶対楽しいよ。ていうか私が隣で盛り上げて楽しくする!どう!?」

「……っ!」

 

 俺は息が詰まる。

 それは確かに魅力的な話だった。

 

 これまで、前の世界も含めて計算ばかりしたり数字ばかり見たり、誰かと議論といえば聞こえのいいレスバをしたり、どこかいがみ合って選手の批評を偉そうにしていた。

 あれは、真に野球ファンの仲間だったのだろうか。

 

 今、眩しすぎる彼女を前にして、俺はどこか忘れていた感覚を取り戻す。

 チビの頃、親に連れられて今より大きく感じる球場。そこで手を叩いて応援していた俺は、打率や防御率なんて簡単な数字さえも意識してなかった。

 

 でも、それって愚かだったのか。いや、極端な思考はやめよう。

 原田先輩も言っていた。別に指標が悪だとは言わない。必要だからある。それが全てではないだけ。

 そうだ、それを言ってくれたのも原田先輩だ。

 

 彼女は、別に否定してる訳じゃない。どっちもいい塩梅で楽しもうと言ってるだけ。

 一緒に、隣で野球を楽しんでくれる人。それを本当に求めていたのは原田先輩じゃなくて、俺かもしれない。

 

 呆気に取られている俺に「ん?」と柔らかい微笑みを向けながら首を傾げる彼女に、俺は呑まれてしまった。

 でも、全然嫌な感じはない。寧ろ、温かくて……良い気持ちだ。

 だから、俺は彼女の言葉に頷いた。

 

「……そ、そうですね。……うん。俺もそう思います。原田先輩の言う通りです」

「でしょ?じゃ、今日から私達は野球ファン仲間だ。よっしゃ。野球ファンの友達ゲッチュ!冬華も皆も野球はやる専だから今まで野球語れる人いなかったんだよね~……」

 

 腕を組みながら「ほんとあの()達は……いい()なんだけどね!皆」と口にしながらそれでも野球ファンの仲間を手に入れてご満悦のようだ。

 

「だから、津川が野球ファンで嬉しい!話が合うっていいね。なんかありがとっ!」

「い、いえ。こちらこそ!俺も原田先輩と話すの……た、楽しいです!」

 

 終始無邪気な笑顔を俺に向ける原田先輩。俺もそんな彼女に笑顔を返す。今度はぎこちなくない、本当に楽しくて出したものだ。

 それから俺達は成城先輩と長門先輩が中々戻ってこない中、沢山野球の話をした。

 それは、すごく充実した時間で……故に、思った。

 

 あれ?なんかいい感じじゃね?俺たちって。

 いや、俺前世も今世も童貞だしモテたことねえし恋愛経験もそんなにないから本当にこれがいい雰囲気なのか判断できないけど!

 

 でも、なんかそんな気がする!いや、待てよ。童貞はちょっとのことで恋愛に繋げるけど、一般人からしたらなんて事ない普通のやり取りだったりするって聞いたこともあるぞ!?

 こ、これはどっち!?どっちですか!?

 

「あっ……えっと、その……あのさ……えっ、と……」

「……っ!」

 

 一通り盛り上がった後、原田先輩が目を泳がせた。

 それは、やっぱり野球観るのは球場で観るのが一番だと言う話になったタイミングで、だ。

 

 これは、チャンスだ。球場で一緒に観戦しないかと誘う、チャンス。

 俺もそれを察した瞬間に衝動が走って、一瞬でめちゃくちゃ意識した。誘うなら今。誘いたい。誘いたい……!

 

 でも、そんな勇気があったら、簡単に「じゃあ、近いうちに一緒に観に行きませんか?」なんて言えたらこんな長い間童貞なんてやってない……!

 それは、明らかに原田先輩が同じことを思ってウズウズしていたとしても変わらない。

 

 寧ろ、悪化する。

 可能性が見えると、童貞というものは余計に尻込みするものだ。

 相手も意識してると思うと、尚更失敗が怖い。絶対に相手もその気だと分かっていても間違いだったらどうしよう……そんなの死んじゃう。

 それが過ぎるのが童貞だ。

 

 なので、俺は童貞特有の最低ムーヴ、『誤魔化す』を発動した!

 

「す、すみません!俺もトイレ行ってきます……!」

「えっ!?ちょ……っ。ちょっと!もう着くけど!?」

 

 逃げるように席を立ち上がる俺。

 通路を足早に進む俺が車両から出ようとしたところで、ちょうど戻ってきた成城先輩と長門先輩と鉢合わせた。

 

 成城先輩にどこに行くか尋ねられて俺は「すみません!トイレです!」と告げて消える。成城先輩からは「もう着くわよ……?」と原田先輩と同じツッコミを背中に受けた。

 残された原田は、成城達が席に戻るまでに顔を真っ赤にして窓に肘をつき、口元を隠すように顔を手のひらに乗せて景色を眺める。

 

「……っ。なんで……誘えなかったんだろ。野球一緒に観に行こうって言うだけじゃん。……男子だから?いや、津川だし。初印象最悪だし?散々いざこざあったし。今更……意識、した……?」

 

 そこまで自分で口にして原田はブンブンと首を大袈裟に横に振るう。

 

「ない。ないないない。有り得ない。うん、ない。別に今更男子って感じしないし。そうじゃん。津川はもはや男子じゃないでしょ。だって、私、これまでちゃんと会話出来たし……」

 

 それは逆に言えば異性とは上手く話せないと自覚してることになる。

 あまりの情けなさに原田はガクッとする。

 

「……そ、それは今関係ない。関係ないから。は?別に男子相手でも普通に喋れますけど?しょ、処女だけど……陰キャじゃないし。……多分」

 

 気を取り直して咳払いを挟む。

 成城と長門が視界の端に映る。

 原田は自分を落ち着かせるために自分に言い聞かせる。特に成城は察しがいいから早急に。

 窓にもっと顔を寄せて彼女達に窺わせないようにしながら、呟く。

 

「……友達を、誘うだけ。そう、津川は友達……友達……あれ?友達だよね?そういう流れじゃなかったけ、さっき。あれ……?」

 

 やばい。もう記憶が混濁している。

 本当にそういう話の流れになったか?

 

「……どうしよ。津川と友達になりたい。だって、野球のこと話せるの津川だけだもん。……津川と友達になりたい……でも、男子と友達ってどうやってなるんだっけ……!?」

 

 じたばたする原田。

 席に戻ってきた成城に「何してるの、貴女……」と訝しんだ目を向けられた。

 それに対して「な、何でもない……!」と慌てて返す原田。

 内心焦る。

 

 どうしよう、変な展開になっちゃった……って。

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