貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
「大丈夫よ。この
「うん。そう……って、え!?私!?」
そして、名指しされた原田先輩は思わず成城先輩を2度見する。
「高校生の時点でどこでも高レベルに守れる凄いユーティリティ、『名手の原田』だよね?でも、私の記憶が正しければ内外野がメインじゃなかった……?」
「捕手もできるしたまに試合でもやるわ。だから、
「……!」
成城先輩の言葉に俺と都熾さんが目を見開く。
彼女が言ってるのはつまりは屁理屈だ。そして、俺は成城先輩の発言を受けてようやく原田先輩を連れてきた理由に気づけた。
そうだ、この屁理屈を成立させ、しかも問いただされた時に実証もできるように、ただその為だけに選んだんだ。
……待てよ?ということは、成城先輩は
「……『名手の原田』を捕手にコンバートして固定するってこと?アリアの為に優秀な内野を回してくれるの?」
「そうね。まあ、優秀な正捕手が入ってくるまでということになるけれど」
「……」
その間、話をずっと聞いていたアリアが前のめりになって原田先輩を凝視し始める。
「ハッ。この女が私の球を捕れるってか?本当か?にわかに信じ難いけどな。おら。どうなんだ?ん??」
「は!?いや……なんで私ガンつけられる事になってんのよ。ったく……えっと、左で140km/hだっけ?ま、まあ捕れるには捕れると思うけど……ほんと、捕れるってだけだからね?」
「……!捕れるの?」
原田先輩が自分の口から言ったので
その視線に晒された原田先輩は気まずそうに目を逸らした。
「た、多分ね!多分。冬の代表合宿で冬華と真広の140km/h捕れたから……3回に1回くらいだけど。あ、でもほんと捕れるってだけだから!リードとかも基本的なとこしか押えてないし肩力とかもマジ普通だから……!」
「サブポジでそこまで出来たら充分なんじゃ……」
原田先輩は身振り手振りを加えて必死に弁明するけど、凄いことしか言ってないから謙遜してるようにしか見えない。
彼女自身の説明を聞いて、
「わかった。じゃあキャッチャーの件はクリアってことにしておく」
「……!そう、よかったわ」
「でも」
「……!」
俺達は彼女の視線に息を飲む。
これから来る指摘に思い当たる節があるからだ。
「ねえ。部員集まる目処あるの?また去年みたいに大会に出れるくらいの状態に戻れる?もう大会まで数週間しか……あ、関東は1ヶ月ちょっとか。とにかくそんだけしかないけど、大丈夫?」
『……っ!』
俺たちは目を見開く。
同時に、やはりそこを突いてきた……!と誰もが思った。
獅ノ宮が抱える今1番痛いところだが、成城先輩が冷静に対応する。
「……えぇ。大丈夫よ。その為に今こうして彼女を……アリア・オイゲンを勧誘しに来てるのよ」
「アリアは単なる数合わせ……じゃないことはわかってる。じゃなきゃわざわざこんな遠くまで来ないだろうし。でも、疑問がある。先に部員をある程度集めてからじゃダメだったの?そんなボロボロの状態で良い選手から取りに行く余裕、本当にあるの?」
ようは選り好みしている場合か?と問うている。
まずは頭数を揃えるのが先だろうというのは、まあ常人ならば普通はそう考える。
そして、それは成城先輩も理解した上で今ベストナインから集めようとしている。
「余裕はないわ」
「……!」
言い切る成城先輩に
だが、成城先輩にはまだ続きがある。
「……でも、この順番でないとダメなのよ。優希と……貴女も知ってるあの『美山』と一緒に野球をしても心が折れない存在をまず集めたいの。そうでないときっとまた同じことが起きる。優希に匹敵する能力を持つ選手が必要なのよ、今!すぐに……!」
成城先輩は俯きながら力強く述べた。
彼女が理由もなく今の行動に移ってる訳では無いことはこの態度を見れば分かる。
彼女の中の熱さは
「……そっか。だったら、アリアはうってつけだね。断言するし、自負するよ。ウチのアリアは……『悪魔』にも決して負けない」
「……!」
そして、思っているんだ。アリア・オイゲンこそが最強だと、本気で。
だから、美山優希を知っていても彼女には、アリアが美山先輩に負けてるビジョンなど一切見えていない。アリアを見てきた目であることを、断言した時の瞳の力強さで証明している。
そして、
「『悪魔の美山』と一緒でも屈しない、これ、いい宣伝効果がありそうだね。あの美山と一緒にいても霞まなければアリアの夢はきっと叶う。ううん、ぐんと夢に近づける気がする」
「夢……?」
気になって、首を傾げる。
「そうだ、私には。いや、私たちには夢がある。必ず二人ともワールドスターになる。メジャーに行く……!その為に高校野球なんざでつまづいてられないんだよ」
「メジャーって……マジ?」
「えっ?うえっ!?いや、俺は知らなかったです……!」
「……」
原田先輩に見られて、俺はそんな事前情報は手にしてないと首を横に振るう。
身振り手振りでも主張しながら俺は、傍目で
アリアが熱く語る最中、彼女はなぜか表情を暗くして、それが気になったからだ。
「メジャーリーグに行くために野球をしているのね。……二人とも」
「……っ!い、いや……私は……」
成城先輩も俺と同じことに気づいたようで、敢えて語尾を強調して
だが、アリアに対しては顔を上げて自信を持って彼女は言うことが出来る。
アリアを一瞥した後、
「アリアはきっとワールドスターになれる。私はそう思ってる。それだけの能力をアリアは絶対持ってる。……アリアは
「……!才能……」
ここ最近ずっと聞いてきた言葉。
才能。天才。規格外。……欠陥。
アリア・オイゲンが俺の直感通りの獅ノ宮タイプなのかまだ判明していない。
でも、成城先輩はアリアの勧誘に乗り気だ。
「
「……部員5人で、大会にも出られないのに?」
「そうね。でも、貴女に声をかけてきたどの高校よりも力があるわ。私はそう信じてる」
「知ってるよ。獅ノ宮野球部に残った5人は全員天才。アリアも貴女達くらいの天才だと思ったから来たんでしょ?それは正解。でも、天才が6人いても試合できなきゃ意味がない……!」
強く、それでいて揺れる瞳で彼女は成城先輩を見下ろした。
ここに来て初めて穏やかだった彼女がキッ……!目線を鋭くする。
それでも口調は落ちていているのが、彼女だ。
「貴女達との面会を受け入れたのは……部員不足を解決する目処が立ってるか聞きたかったから。でも、ダメそうだね。『完璧の成城』もさすがにどうしようもない訳だ。無策なんでしょ?本当は」
「……!あんた、言い過ぎ……!」
「やめなさい。涼香」
成城先輩はここでの口論に意味を感じていない。冷静に
「無策ではないわ、
「……」
もう一押しだ。
「
「……っ!」
成城先輩の言葉が
そう、彼女達の置かれてる立場は似ている。
「涼香は、プロ志望なの。私はこの
「……っ!ふ、冬華……あんた……」
成城先輩はこれまで黙ってきた原田先輩への想いを口にした。
だが、それだけでは
同じ立場だから、友達の才能を信じる者だから、だからこそ思う。
「……だったら、原田さんもアリアみたいに転校させた方がよかったんじゃないの?獅ノ宮である必要あるの?獅ノ宮を復活させるのにその
「あるわ」
「……!」
まさかの即答に
成城先輩にはちゃんと理屈があって、今の行動を起こしている。彼女に、意味の無い、理由のない行動などない。
「今の状況で涼香を転校させても後腐れが残る。それに、紗永や未来だって、私だって……このまま不完全燃焼で終わる訳にはいかない。私には彼女達の人生にこの獅ノ宮野球部が汚点として残るだけにしておけない責任があるのよ……!だから!」
成城先輩も立ち上がり、
熱い。成城先輩がこれ程強く言葉を発してるのを俺は初めて見た。彼女は、友達の為に、仲間の為にいつものクールさを捨てられる。
大切な者を想える熱さがあった。
そして、それは
あの『完璧の成城』が、自分とは全く別世界の生き物だと思っていた女が、自分と同じようにただ隣にいる友達を救おうと必死になれるのを知ったから。
成城先輩と
だから、成城先輩は熱く、強く、言える。
「私達には……いえ、私には!アリアが必要なの。私の仲間を救う為にアリアが必要なのよ、
俺が勝手に見つけて勝手に夢中になってたアリアに対して、成城先輩もこれだけ欲してくれている。
成城先輩も感じたんだ。俺と同じように、アリアに『可能性』を……!
そして、彼女の熱さの原因、獅ノ宮野球部の再起に必要だと思ってくれた。
俺が彼女を見上げ、成城先輩は
やがて、
「……わかった」
そう言うと、彼女は目元に陰りを入れた後、顔を上げて成城先輩とようやく対峙してくれた。
そんな彼女が、告げる。
「じゃあ、証明してよ。死にかけの野球部でも、他の高校より価値があるって。私に見せてよ。『悪魔の美山』と『完璧の成城』だけのチームじゃないって。少なくともあと一人くらい凄い人がいるってわかったら、他の強豪校より凄いって認めて、アリアを預けてあげるから」
『……っ!』
彼女は俺達全員を見渡してフッと不敵に笑った。
これまでの彼女からは想像できない、らしくない態度だ。ここに来て初めて
そして、彼女が持っている自信の正体は、もう誰もがわかってる。それは、ただ一つ。世界にたった1人だけ。
「どう?できるでしょ?ていうかするでしょ?アリアがどうしても欲しいならこのチャンス……逃せないよね?」
「……そうね」
「いいね。そうこなくっちゃ。じゃあ勝負しよう。こっちが用意するピッチャーを、そっちの打者が打てたら勝ちっていうシンプルなルールで。そっちが勝ったら他の高校を蹴って、貴女達にアリアをあげる」
「いいでしょう。乗るわ」
それが
「いいの?本当に?正直私は獅ノ宮に弱点があるなら打力だと思ってるんだけど」
「えっ?打力……?」
「そう」
俺が疑問に思い聞き返すと、
正直俺はそんな分析をしていなかった。だって、獅ノ宮は天才の巣窟で、規格外の打者が2人もいる。
でも、
「去年甲子園を観てても思ったけど、『悪魔の美山』は良いところでしか打たないし、『完璧の成城』は後半になるとバテて打力が落ちる。あとは三振王の
「……っ!」
彼女の説明に俺は息を詰まらせる。
確かに
思い返せば
そもそも今、獅ノ宮が抱えてる問題は美山先輩頼りだということ。そして、最も美山先輩によって左右されている要素が打撃だ。
成城先輩を除けば、唯一彼女の打撃能力に対抗できるのは長門先輩のパワーくらいだろう。だが、いかにパワーがあっても長門先輩のミート力では今のところ三振マシーンだ。
結局、美山先輩が打ってくれるのを待つしかない、という試合展開になる。
つまり、
ならば打撃勝負をするのは愚策だが……。
成城先輩が
「構わないわ、
「……決まってるでしょ」
俺とは違い、成城先輩は乗り気のようだ。
成城先輩の返答を受けて、
つまり、俺達が打たなければならないピッチャーは。
「私達が選ぶピッチャーはアリア・オイゲン。貴女達がアリアから打てたら……転校先は美山優希がいる貴女達獅ノ宮を選んであげる」
「……っ!やっぱり……!オイゲンさんが相手……マズくないですか?」
「冬華と優希抜きで左の140km/h打てる奴って……ウチにいないじゃん。どうすんの?冬華」
「……いいえ、いるわ。1人だけ」
原田先輩の問いに成城先輩は否定を入れる。
そして、彼女はここまでずっとダンマリで空気と化していた巨身の仲間に声をかける。
「未来。私達の代表打者は貴女よ。貴女がアリアを打ち砕きなさい」
「……………………えっ?」
蚊帳の外だったのに、突然指名され、全員の注目も集まる長門先輩。
パイプ椅子に腰掛けていても尚、立っている
再確認して、実感して、で……驚愕する。
「えっ?ええっ?えええええっ!?わ、私……?」