貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
長門未来は、三振王である。
奪ではなくやられてる側の三振。彼女は野手なので。
これは事実だ。印象とかではなく、記録として残っている。
地区大会においても、甲子園大会においても三振率でランキング1位を取っている。
さらに、2大会含めてヒットは0、凡退も0。そもそも打球を前に飛ばしてない。否、そもそも打球を生んでいない。なぜならバットに当たっていないのだから。
そんな彼女も獅ノ宮の天才組。ちゃんと誇れる能力はある。
それは、長打力―――否、『本塁打力』である。
パワーだけは素晴らしく、バットに当たりさえすれば全てホームランという結果を事実として生んでいる。
曰く、当たれば本塁打、それ以外は三振。
究極の極端打者。
それでいて、決まって打てる時は対戦相手が名高いピッチャーの時。
故に、彼女は『大物打ち』の意味も込めて、こう呼ばれている。
小回りきかず、大型武装しか持たない、まるで―――『戦艦の長門』と。
「いやいやいや!
「……」
話は戻り、
で、原田先輩が成城先輩の正気を疑って長門先輩を指さしながら抗議している。
対する成城先輩はダンマリで揺らされて何も響いて無さそうだが。
「……別に大真面目よ」
「はぁ?あんたも知ってるでしょ?未来は三振王だよ?そら当たればデカイけど……今回は1本でもヒット打ちゃ勝ちなんだから未来と私だったら私でしょ!」
原田先輩の主張を聞いて、ようやく成城先輩が彼女を一瞥する。
「それはどうかしら。相手は速球タイプ。涼香では打てないわ。きっと空振りするわよ。そして、同じ空振りなら未来の方が当たったら飛ぶんだから可能性があるでしょう」
「なっ……!?」
成城先輩の説明に原田先輩が顔を顰める。
どうも納得できないようだ。
だが、俺はどちらかというと成城先輩の肩を持ちたい。
原田先輩の言い分もわかるが、彼女は守備の才能持ち。対する長門先輩はあのパワーは生まれつき、つまりは打撃の才能持ちだ。
そして、相手はアリア・オイゲン。
彼女が本当に獅ノ宮タイプの天才なら、相手はピッチャー『美山優希』と同義ということになる。
ならば、パワーだけでも美山先輩に匹敵する長門先輩に賭けるのは悪くない。
こればかりは理屈ではない。『美山』には、『美山』だ。
才能には、才能をぶつけるしか……少なくとも今の俺達にはそれ以上の術はない。
「原田先輩、落ち着いてください。もうこうなったら長門先輩を信じましょう」
「津川……!」
俺に制止されると、原田先輩は成城先輩に食いついていた時より哀しそうな顔で俺を見た。
「あんたはいいの?せっかく津川が見つけてきてくれたピッチャーなのに……三振拝んで帰るだけになるんだよ?私はやだよ。だって、津川が私達のために……!」
「……っ!原田先輩……」
泣きそうになってる原田先輩。
原田先輩が必死になってるのは俺の為だった。
これまで、散々酷いことをしてきた俺に、彼女はこんなに想ってくれている。
その気持ちが染みて俺もちょっと涙腺に触れた。
だが、ここは成城先輩の判断を信じたい。
だから、俺は原田先輩に笑って見せた。
「ありがとうございます、原田先輩。でも、もしダメならまた見つければいいですよ。だから……顔を上げてください。一緒に長門先輩を応援しましょう!」
「津川……」
俺の前向きな態度を見て、瞳を揺らす原田先輩。
一度俯いて唇をかみ締めてから、彼女は覚悟を決めたように顔を上げる。
「わかった。あんたがそう言うなら私も
「……っ。はい!ありがとうございます。でも、きっと長門先輩は勝ちます」
「うん。そうだね」
原田先輩は俺の言葉に何度も頷いて俺と一緒にグラウンドに目を向けた。
もうすぐ勝負開始だ。
長門先輩もバットを手にし、
着々と準備が進む様子を見つめていた俺たち。
そこに、俺の背後からヌルッと人が現れる。
「―――神は言いました。アリアを打てた者など見たことがない、と」
「うえっ!?えっ?何!?」
「ちょ……!津川、大丈夫!?」
俺の耳元で突如ボソッと呟かれる透き通った声。
びっくりした俺は思わずその場から飛び退いて原田先輩にぶつかってしまった。
「あっ!すみません……!」と謝る俺に「いいよ、全然。怪我しなくてよかった」と支えてくれる原田先輩。
そして、改めて俺達は突如現れた長袖長ズボンのジャージ姿に身を包む、この時期にはもう暑そうな格好の女性を見た。
恐ろしく長いポニーテール。おそらくは普段は下ろしているその金髪に、特徴的なのは十字架のネックレスを下げていること。
それでいて目が細すぎてまるで閉じているように見える。
彼女は。
「……失礼しました。
「い、いえ。結構です……」
本を手にグイッと俺に迫る175cm。
もう夏に差し掛かってきていても一切肌を出さず、聖書に十字架。まるでシスターだ。というかこの宗教徒っぷりのガチさは多分本当にシスターだな。
「あれ?あんた……
「……えぇ。親の都合で岩手に越してきました。そして、神は言ったのです。
「あぁ……なんとなくこんな
演技くさい大袈裟な立ち振る舞いでカルト宗凄い
中々癖のある人だが、原田先輩が知っているということはそこそこ有名な選手なんだろう。
アリアに
「そこの貴方」
「えっ?あっ、俺!?」
急に
俺が彼女の声をかけられて彼女の方を見た時、彼女はここに来て初めて真剣な顔だった。
「……
「……!」
ハッキリと言い切る
俺の内心を読み取ったのか、彼女は自分が今通う高校、そして今所属する野球部に自信を持っていた。
横浜にいた頃の方がチームとしては強かったかもしれない。原田先輩に認知されているということはそういうことだ。そして、転校してたことは知られていなかったということは……そういうことだ。
でも、
それは、神のお告げがあったからか?
「今のも……神様が言ったんですか?」
「いいえ。私の言葉です」
「……!
彼女の言葉は原田先輩には響いた。
沈みかけの獅ノ宮を見捨てない、成城先輩に重なって見えたんだろう。俺にもそう見えたから、原田先輩もきっと同じだと感じた。
そして、グラウンドを見る。
「さぁ。始まります。とくとご覧あれ。我ら、
『……っ!』
そして、長門先輩の後ろで腰を下ろし構える
今、その火蓋が切られる。