貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第34話:右は160/左は150 右投手と左投手の二投流 『両投のアリア』

 

「よぉ、木偶の坊。本当にお前が私の相手をするみたいだな」

「……っ!」

 

 マウンドの上から悪役のように口角を上げて、鋭い目で捉えてくるアリア。

 そんな相手に長門先輩は自信のなさから目を逸らした。

 

「ふん。なんだ。本人に自信がねえじゃん。私を前にビビっちまったか?デカブツ」

「……」

 

 言われたい放題だな。

 そして、長門先輩も言い返さない。

 そんな姿を見て原田先輩が代わりに叫ぶ。

 

「ちょっと……!未来(みく)をなじる必要がどこにある訳?」

「あ?」

「……!」

 

 原田先輩に指摘されて、アリアの……様子が変わる。

 笑みは消え、冷たい瞳でキャッチャーミットに視線は釘付け、集中し始めた。

 初めて、ピッチャーのアリアと()()して、長門先輩が急いでバットを構え、息を呑む。

 そんな長門先輩をアリアは睨んだ。

 

「いいか?よく聞け。哉宵(やよい)は随分お前達のことを気に入ったようだが、私は全然気に入ってねえ。ていうか気に食わないんだよ。何が天才だ。何が悪魔だ。お前らと野球をしても心が折れずにいられるか……?自惚れてんじゃねえぞ。最強は私だ」

『……!』

 

 アリアの言葉に成城先輩が反応し、都熾(とし)さんがマスクの下でフッと口角を上げる。

 アリアは都熾(とし)さんに告げる。

 

哉宵(やよい)!今日はセーブせずに投げる。いいな!?」

「もちろん」

 

 アリアの叫びに頷く都熾(とし)さん。

 ていうか、セーブってまさか……!

 

鴎外(うがい)!あの()もしかして14回連続完全試合の時、出力抑えてた!?」

「……はい。抑えていました」

「なっ……!?」

鴎外(うがい)さん。アリアの最速は141km/hではないわね?実際は何キロなの?」

 

 皆が違和感を覚えて鴎外(うがい)さんに尋ねる。

 彼女は、悪い笑みを浮かべた。

 

「―――左は149km/hです」

『……!』

 

 俺たちは目を見開く。

 149km/hって……男子野球で言う『159km/h』、ほぼ160km/hじゃん……!!嘘だろ!?

 しかも左で!?

 

「天才だのなんだのイキリやがって……ゴミ共が。私を知って、絶望しやがれ……っ!!」

『……っ!』

 

 アリアが投球する。

 速い!練習試合の動画で見たよりも明らかに……!

 こんなの誰も打てな―――

 

 

 

 

 

「撤回して」

 

 

 

 

 

 グァキィン!!

 と、音が響いた。

 確実に芯で捉えた時の音。そして、この破裂に近しい打球音を俺は聞いたことがある。

 あれは、部活見学の時、俺が初めて野球部に来た時だ。

 思えば、この打球音が彼女との出会いだった。

 

「なっ……!?150だぞ!?オイ!!」

「は……?」

 

 アリアが勢いよく振り返り、都熾(とし)さんがマスクを脱いで思わず立ち上がる。

 そして、彼女たちが見上げる先、凄まじく速く、凄まじく遠く。白いボールはグラウンドの外へとその落下の軌道を描いていく。

 皆が打球を目で追う中、俺はバッターボックスを見ていた。

 フォロースルーのまま、顔を少しあげている長門未来。

 この勝負……彼女は初球で決めた。

 でも、今の彼女に勝ち負けは眼中に無い。

 

「撤回して」

「は……?」

 

 打った時に言った言葉を彼女は繰り返す。

 アリアは何が起きたのか、そして何を言ってるのか、両方の意味が分からず恐る恐る強打者を見る。

 そして、息を飲んだ。

 

「……!」

 

 そこに居たのはさっきまでの頼りなさそうな木偶の坊ではない。

 間違いなく強打者。

 本塁打の神だ。

 

「撤回して……私の仲間をイキってるとか、ゴミとか……言わないで!!」

「……っ!?」

 

 凄まじい気迫にアリアが後ずさる。

 しかし、彼女は負けず嫌い。簡単には引き下がらない。

 

「ふざけるな!!」

 

 打たれたことが信じられなくて、絶対の自信を持つアリアはミットをマウンドに叩きつける。

 そして、ワナワナと震えたかと思えば再び顔を上げた。

 

「……オイ、誰か()()()のミット持ってこい」

「えっ?」

 

 アリアが口にした言葉に長門先輩が目を見開く。

 俺達も動揺した。

 だって、は?待てよ?そういえばずっと忘れていた。アリアを調べた時に、確か彼女は二刀流だと記されていた。

 だから、打撃もいいんだと思っていたが、そのことがどこかのタイミングで頭から抜け落ちた。

 そうだ、そうだ!都熾(とし)さんのSNSアカウントを漁ってた時、打撃の動画は1本もなかった。

 あのアカウントからアリアのことを漁っている間に、無意識に抜け落ちてたんだ。

 アリアは二刀流だということを……!

 そして、今、アリアはミットを付け替えている。

 あのアカウントで打撃の動画が上がってなかった理由。

 ミットを付け替えた!

 打撃の動画がなかった理由。

 彼女は右投げに変わった……!つまりそれは……!!

 

「おい!!お前!!」

「……っ!」

 

 アリアは()の人差し指を長門先輩に向ける。

 

長門(ながと) 未来(みく)とかいったな?勝負はもうお前の勝ちでいい。お前達のチームに入ってやる。だが、負けたままってのは納得いかねえ……!この私が、負けるはずがないからなぁ!」

 

 アリアは再びマウンドに立つ。

 今度は、右投げのピッチャーとして。

 

「私は……右投げのピッチャーと左投げのピッチャーの二()流 『両投(りょうとう)』のアリア様だ!この『両投』のアリア様のストレートが打たれるわけがねえ……!もう1球、勝負だ!」

「……っ!」

 

 一方的に告げ、アリアは投球フォームに入る。

 都熾(とし)さんが慌てて構え、長門先輩も身構えた。

 そして。

 

「右の私は……最速159km/hだ!!くたばりやがれ、長門(ながと)未来(みく)!!」

 

 女子野球における159km/h。それすなわち、男子野球でいう……『169km/h』!!

 

 鴎坂(かもめざか)高校野球部、ピッチャー。

 アリア・オイゲン。16歳。

 両投右打。

 彼女は、美山優希に匹敵する『規格外』。

 

 右は160/左は150 右投手と左投手の二()流。

 

 人呼んで―――『両投』のアリア。

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