貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた   作:伊つき

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第35話:PRIDE

 

 世界記録最速159km/h。

 

 記録を持つ私が打たれるなんてありえない。

 絶対にあっちゃいけない。

 誰も私の球を捕れない。誰も私の被打球を捕れない。

 ランナーを出したら捕逸で終わり。1人の走者も許せない。

 チームを勝たせるために、私にできることは……ただ一つ。

 

 完全試合だ。

 パーフェクトに抑えさえすれば、誰1人として走者を許さなければ、チームに貢献できる。

 だから、抑えて、抑えて、抑えるんだ。

 そんで勝つんだ。

 

 

 ―――『確かに凄い才能やけど、こんな弱いチームじゃアカンやん、絶対』

 

 

 藤神(ふじかみ)とかいう名前の京都の対戦相手に言われた。

 黙れ。

 

 

 ―――『弱いね。悪いけど、君のいるチームは弱いとしか言いようがない。君は天才だけど。それに……君の球を捕れる人なんていないだろうけど、彼女は論外じゃないかな。もっと良いキャッチャーとバッテリーを組んだ方がいい』

 

 

 岐阜の高校最強ピッチャーとやらに言われた。

 黙れ!

 

 

 ―――鴎坂(かもめざか)は弱くない!!

 

 

 ―――私のバッテリーは都熾(とし) 哉宵(やよい)だけだ!

 

 

 ……なのに。

 

 

『アリア。鴎坂(かもめざか)は弱いよ。アリアがいるべきチームじゃない。私なんかと……バッテリーを組むべきじゃない』

『……は?哉宵(やよい)、おま……っ!何言って……』

 

 去年の夏。

 私達、鴎坂(かもめざか)高校は地区大会準決勝で敗退した。全試合私が投げた。でも、最後の最後に疲労で球威と球速が落ちて、打たれた。

 私達は、甲子園に行くことすらできなかった。

 負けた日の翌日、私の幼なじみの哉宵(やよい)は。ずっと一緒に野球をやってきて、一緒にメジャーに行こうと約束した親友は……鴎坂(かもめざか)を弱いと言った。そして、自分を卑下した。

 誰に言われたって、私は否定できる。鴎坂(かもめざか)哉宵(やよい)も、私の心強い仲間なんだ。

 でも、よりによって、本人の口から……なんで……っ。……なんでだ。なんでだよ。

 私は、哉宵(やよい)の肩に掴みかかった。哉宵(やよい)は私から目を逸らした。

 

『なんで……っ!哉宵(やよい)……っ!』

『……来年に入ったら春にかけて練習試合を沢山組む。アリア、貴女はその試合で出来るだけ完全試合をして。出来るだけ連続記録を作って。そうすれば……きっと誰かが見つけてくれるから』

『はぁ!?何の話だよ……!試合だと!?そんなの、なんの為にやるんだ……!それに、それじゃまるで……っ』

 

 それじゃまるで、その物言いは……!

 他の学校にアピールしろって言ってるみたいじゃねえか。

 私の喉から出そうだった言葉を、哉宵(やよい)はわかってたみたいだった。

 目を逸らして私とは話す気がないと暗に告げてくる。だから、わかった。

 

『アリア、貴女はもっと強い高校に行くの。そして、いつかきっと……ワールドスターになる。夢を叶えるんだよ、アリア』

『ふざけるな!!それならお前もだ、哉宵(やよい)!約束しただろ。ワールドスターになるのは私だけじゃない。私と、お前の2人だ……!』

『……!』

 

 私は掴みかかって訴えた。

 哉宵(やよい)は私の言葉を聞いて、目を見開き、息を詰まらせる。

 

『……っ。そんな約束、まだ覚えて……』

 

 そう言って暫く俯く哉宵(やよい)

 やがて、何か決心したように顔を上げて、私を掴み返す。

 

『わかった。アリア、私もワールドスターを目指す。でも、ずっと思ってた。私達はきっと相性が悪い。別々で野球をした方が夢に近付ける』

『……っ!』

 

 さっきまで下向いてた奴が、至近距離で強い眼力で私と目を合わせる。

 哉宵(やよい)は、言った。

 

『アリア。新しい約束をしよう。私は鴎坂(かもめざか)で、アリアは転校先で。きっともっと成長して、それで……次に会う時は……っ』

哉宵(やよい)……?』

 

 掴みかかるくらいの威勢を取り戻したのに、哉宵(やよい)の態度は矛盾が起こってる。

 強気なことを言ってるのに、言葉を詰まらせて、俯く。哉宵(やよい)の顔が見えなくなって、私は覗こうとした。でも、鼻をすするのが聞こえてやめる。

 

『……次に会う時は、メジャーだよ。そこでまた組もう。きっとそこまで行けるようになれば、私達は組んでも大丈夫になってる。私達が最強のバッテリーだって、世界に証明しよう……?』

『……っ!』

 

 再び顔を上げた哉宵(やよい)はなぜか涙ぐんでいた。

 そして、新しい約束を提示した。

 私達が結ぶ約束は、いつも重い。

 哉宵(やよい)は、私に笑みを向ける。

 

『二人別々の道でメジャーを目指して、向こうで会おう。絶対に約束する。だから、私の言うこと聞いて。転校して。転校先を見つけるために……その腕を、振るって。―――アリア』

『……』

 

 もう、何も言えなかった。

 哉宵(やよい)は私に掴みかかったまま、私の胸に項垂れて顔を埋めた。

 私の服が濡れた。

 哉宵(やよい)は泣いている。

 きっと……いや、多分私と別々の道を行くのが辛いんだ。でも、それが最良だと思ったから決断した。多分、そうだ。

 やめろ。私は何も気づいてない。

 

『……わかった。あぁ、わかったよ。お前の言う通りにするよ、哉宵(やよい)。だから……約束は守れよ』

 

 私は哉宵(やよい)の頭に触れて、哉宵(やよい)の提案を受け入れた。

 哉宵(やよい)は、約束を守れという私の言葉に、何も返さなかった。

 ……あぁ、嘘だろうな。嘘だから……だから、そういうことだ。

 神様は酷い奴だ。神なんざ信じちゃいなかったが、こんな残酷なことが起きるならきっといるんだろう。

 真央(まお)だってよく言ってる。神は言いましたってな。お告げだとよ。まあ、胡散臭いけどな、あの押し売りシスターは。

 でも、あいつも仲間だから。あいつが神の言葉を授かってるって言うんなら、私は信じる。

 

 だから。

 だからさ。

 教えてくれよ。

 神様はなんて言ってんだよ。

 私にだけ才能を与えて、哉宵(やよい)と一緒にいられなくして、哉宵(やよい)を傷つけて。

 私の親友を泣かせるクソが、どんなクソみてぇなこと告げてんのか。

 

 教えてくれよ。

 

 

 

 

 

 私が、鴎坂(かもめざか)に入学してから2年。つまり学年も2年になった年。

 哉宵(やよい)は、野球部は私の為だけに毎週練習試合を組んだ。

 超過密スケジュール。私は当然毎試合登板するから肩を消費するし、そんだけ試合ばっかやってたら野手も消耗する。

 おかげでウチの4番バッター、鴎外(うがい) 真央(まお)は故障しちまった。クソが。

 

『アリア……っ!もう無理だよ!タイブレークが実施されてから、延長の制限はない。だから、これ以上アリアが完全(パーフェクト)に抑え続けても……っ!』

 

 8回目の完全試合。

 真央が7回目の試合で欠けて、鴎坂(ウチ)の打線が繋がらなくなった。

 延長15回。球数155球。中6日。

 肩で息をして、腕が痺れて投げられなくなった私の元に、マウンドに哉宵(やよい)も野手の皆も、集まってきた。

 ベンチからは真央も来た。んで言った。

 

『神は言いました。こちらが点を入れなければ一生続きます。アリア、貴女はもう150球投げています。記録は諦めて、継投に入るべきです』

『……』

 

 継投って言葉が聞こえて、ピクっと痙攣しちまった。

 当然の発想だ。真央は悪くない。怒るな。私の事を想って言ってるだけだ。哉宵(やよい)との約束を果たす為に、哉宵(やよい)の言いつけを守って他校にアピールする為に、邪魔する奴全員にキレちまう。

 でも、それは今余裕が無いから思っちまうだけだ。

 仲間にキレるな。どんなに追い込まれてもマウンドではクールだ。それが一流のピッチャーだろ。

 そう自分に言い聞かせて深呼吸した。

 だが、このままじゃ強引に代えられる。それはダメだと思った。

 少し威圧的に言うしかない。

 だから、私はあいつらを睨んだ。

 

『……うるさい。黙れ。散れ。いいか?私が0に抑えさせすれば……鴎坂(かもめざか)は負けねえんだよ。私を信じろ。私も……何でもない。もう何があっても寄ってくんな。鬱陶しいんだよ』

 

 そう告げて。気迫で押し切った。全員、私に気圧されて散った。

 悪いなってずっと思ってる。皆の親切を押し返す度に、嫌な気分になるぜ。

 でも、自分で咄嗟に言った内容は、妙に納得した。

 

 鴎坂(かもめざか)は、負けない。

 

 そうだ。

 

 鴎坂(かもめざか)は、弱くない。

 

 私が完全(パーフェクト)に抑えさえすれば、いつも勝たせてくれるんだ。

 

 私を信じろと言ったらあいつらは私を信じる。当たり前だ。最初から信じてるからだ。

 私も、信じてる。

 だから、腕を振るえるんだ。私の将来の為に、他人の為に、毎週試合を組んで、怪我までして。

 馬鹿なヤツらだ。

 

『……はぁ、……はぁ』

 

 何度も深呼吸をして、マウンド上で空を見上げる。

 こうして、集中してると……思い出すんだ。

 鴎坂(かもめざか)は弱小で、無名だと言われてる。

 でも、野球部の部員6割は応援団で、大会になると吹奏楽部の奴らまで来てくれる。

 迫力のある応援は結構話題らしい。わかるぜ。私も好きだからな、みんなの応援。

 それが、マウントで見上げてると、聴こえてくる。

 

『私達の……私の誇り、鴎坂(かもめざか)~……。ふっ。くく、ははっ』

 

 啖呵切っといて、幻聴まで聴こえてくるくらい限界な自分に乾いた笑いが出た。いつも聞こえる応援を、歌詞を口ずさんで……やっと試合に戻ってこれる。

 

『……いくぜ』

 

 目の前の相手と、キャッチャーミットを構える哉宵(やよい)と再び向き合って、口角を上げる。

 

 何も恐れる必要はねえ。共に戦ってるんだ。

 私が完全すれば、アイツらは必ず勝たせてくれる。

 

 私が抑えさえすれば負けない。

 私が打たれさえしなければ勝てる。

 

 だから、私は打たれる訳にはいかねえんだ。

 

 

 私が―――打たれる訳には―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っぁ……っ。また、打たれ……っ!?」

 

 私はマウンドで膝を着いた。

 人生で初めてだ。マウンドに座り込んだのは。

 もう、振り返りもしない。打った瞬間、確信。さっきの左で投げた一球目と同じだ。

 また、長門(ながと) 未来(みく)に打たれた……!

 今度は右なのに。155km/h出てただろ……!なんでだ!!

 

「……アリアが、打たれた。き、規定より広いウチのグラウンドで2本連続場外……しかも芯で捉えてない。本当なら浜辺まで行ってる……」

 

 打球を追うのに釘付けになった哉宵(やよい)が、マスクを脱いで立ち上がり、よろよろと守備位置からマウンドに近づいてきた。

 

「あ、 あぁ……っ」

哉宵(やよい)……!」

 

 哉宵(やよい)は、私の元まで辿り着かなかった。

 途中で打球の行方に絶望して膝から崩れ落ちた。

 

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