貞操観念逆転世界で低レベルな女子野球部を指導してやろうとしたら逆に分からされた 作:伊つき
長門先輩に関しては面白いデータがある。
それは、彼女の球種別打率が、速球だけ異常に高い事だ。例えば、ストレート、カット、ツーシームなど。変化球も速ければフォークやスプリットだって打つ。
逆に、緩い変化球や直球でも球速が落ちると途端に打てなくなる。
彼女の三振率の高さはそれが理由だ。
彼女は名高い投手を打ち崩してきたことによって、『大物打ち』の意味から『戦艦』と呼ばれていたが、それは『大物』が決まって『速球持ち』だった、というだけだ。
俺は、中龍との練習試合前のデータ収集でそのことを知った。
そして、あの練習試合の2日目の相手先発投手、
だから、俺はOpsの高さを理由にするのと同時に、長門先輩を1番バッターに指名した。
しかし、誤算があった。
それは、彼女が得意とする速球は140km/h以上だったことだ。
140km/h超えなんて、この世界ではプロでも上澄みだ。だから、高校生じゃそうそういない。
いたとしても高校生の時点でそれだけの速球を投げられればプロのスカウトにもてはやされるレベルの希少種。故に、中龍の次期エース、
彼女は、140km/h前後を常にウロウロしている怪物だからだ。
話が脱線したが、とにかく長門先輩は140km/h以上の速球を得意とするバッターだ。
しかも、当たれば必ず本塁打になる。パワー特化の
だから、例え三振率が高くとも、成城先輩がアリア・オイゲンと勝負する指名打者に長門先輩を選んだことを、俺は止めなかった。
原田先輩に言った、天才には天才を、という理屈も本音だが、主な理由は今言ったことだ。
しかし、長門先輩に任せることは同意見でも、不安はあった。
それは、長門先輩がいかに速球を得意としていても、その『上限』が判明していなかったことだ。
140km/h以上、という下限は判明しているが、上限の方は150km/hまで得意としているのか、はたまた160km/hまで打てるのか、まるで分からなかった。
当然だ。そんな球速帯を投げる投手が女子野球ではプロでもいないからだ。存在しないものとの対戦データは得ることが出来ない。
160km/hまで得意としていれば男子野球に混じっても遜色しない。しかし、長門先輩の才能がそこまで可能性があるのか、惜しいことにこの世界では実証のしようがない。
とはいえ、今回は関係ない悩みだと思った。
だって、アリア・オイゲンの最高速は141km/h。左投げでその球速は凄まじいが、残念ながら寧ろ長門先輩の餌食になってしまう球速だ。速い球を投げれることが仇となる、それが長門 未来というバッターの能力。
成城先輩の判断は正しいと思ったし、正直やる前から勝ちを確信してた。
だが、また誤算があった。
それはアリアが『
この世界では実証不可能と思ってたことが、可能になった。異常な速度帯の対戦相手が存在したのだ。
アリアは、俺が思っていたより天才だった。
そして、長門先輩も俺が思ってたより天才だった。
彼女は、アリアを簡単に打ち砕いた。
左の147km/hも、右の156km/hも、初球で打ち砕いた。
これで実証された。
彼女は天才打者である。
パワーはもちろん、ミート力も本来ならば問題ない数値。
―――ただ、彼女には、女子野球の球が遅すぎた。
長門先輩にとって、女子野球の金属バットは軽く、球は遅すぎる。
だから、スイングのタイミングが合わないんだ。彼女は感覚派だから特に。
『完璧の成城』は、当然そのことを去年の夏から気づいて指導していた。
だが、感覚派の彼女に理論的な説明は理解できなかったんだ。だから、未だに改善されていない。
そして、去年の夏から何も変わらずに今までやってきた長門先輩は、自ら証明した。
彼女は、140km/h~160km/hなら打てる。逆に、女子野球の遅い球は打てない。
つまり、彼女のスペックは男子野球向きである。
そのことが判明してようやくわかった。
何が分かったかって、成城先輩が言ってた『獅ノ宮の天才』の定義だ。
成城先輩は、貞操逆転世界の住人だから、自分たちのことを上手く理解できておらず、言語化できなかったんだ。
だから、『規格外』だの『可能性』だの言葉選びが曖昧だった。
だが、もうハッキリした。
獅ノ宮に集まった天才達は、要するに男子に匹敵する能力を持ってるんだ。
そして、成城先輩が言っていた『天才は必ず何か欠落を抱えている』の正体は、そのスペックに彼女達の身体がついてこれてないという意味だ。
そりゃそうだ。完全に女子の身体にはオーバースペックだ。
多分、成城先輩の弱点が『体力』なのは、本当に体力がないわけじゃない。
女子としてはきっと彼女の体力は平均値だ。だが、『全ての分野を男子レベルでできる』能力を持つ上に、彼女は美山先輩と違っていつもその能力をふんだんに使っている。
だから、彼女の肉体はすぐに悲鳴を上げるんだ。
逆に、美山先輩はいつもは手を抜いているから疲れない。
これが、『天才』達の正体だ。